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-転生奇譚- リンカネーションストーリー  作者: 彼岸花
第八章:咆哮響くガルムス大陸
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第九十五話:ブルダーの村

 俺達はエリウッドの自宅に招かれ、約六日間の旅の疲れを癒していた。


 『ふむ、ドルマニアンで赤龍を、か。他の冒険者を交えてとはいえ、その歳で龍を討てる者などはそうはいないが、お前達ならば十分に信ずるに値しよう。何より皆の身に付ける装備こそ赤龍を討った証拠だろうからな』


 エリウッドとドルマニアンで別れてからの一年程の間の話になり、赤龍討伐の話をするとエリウッドは自身の角を撫でながら感心するように聞いていた。


 『ところで、話に出てきたシェリーと言う猫人種の女、シェリス・キャトリニアだろう?』


 赤龍討伐においてエリウッドの関心を引いたのはシェリーの件だ。


 『はい、向こうでは何かと世話を焼いてもらったと言いますか…エリウッドさんもご存知で?』

 『ああ、三回前、もう十二年も前になるか。彼女は帝都ガルマリアで四年に一度開かれる闘技大会に弱冠十五歳で出場し、初出場にして最年少で準決勝まで勝ち上がると言う華々しい活躍を見せたのだ。それ以降出場することは無かったがガルムスを離れていたとはな…』


 ドルマニアンではベテランの冒険者で、俺達も世話になったシェリーだが、本国ではちょっとした有名人らしい。


 『そう言えばドルマニアンを離れる前に少し話していたような…。彼女もすぐにガルムスに向かうと言っていましたし、もしかしたら彼女も闘技大会に出るつもりですかね』

 『十年余も音沙汰なく、この時期に戻ると言うのであればほぼ間違いなかろう。今年は間違い無く優勝を狙いにくるだろうが…』


 エリウッドが口を濁す。どうやら他に本命と言える優勝候補がいるのだろう。


 『今年はガルマリア帝国の皇子、グリオネール・ルス・ガルマリア十二世が出ると聞く。皇室最大の爪術士と名高く、二年前、十六歳の若さで近衛隊の爪術士達全員を相手に勝利したらしい。それが本当であれば間違い無く今大会の優勝候補の筆頭だろう』


 四年に一度の国を挙げての闘技大会は彼ら獣人族にとって最大の祭事らしく、ドルマニアンへの連絡船で話していた時は寡黙だったエリウッドも幾分饒舌に語っていた。


 『アンタ、食事の準備が出来たから闘技大会の話は一旦止めて手伝っとくれよ!』


 奥の台所から女性が現れる。長身で筋肉質、それでいてグラマラスな身体の女性だ。

 エリウッドと比べてやや短い二本の角と両腕や首から生えている濃淡ある茶色の斑模様の体毛から彼女も獣人族であることが伺える。


 『おお、話し込んでしまったようだ。紹介が遅れたが、妻のヴァイダだ』

 『船じゃ旦那が世話になったそうだね、感謝するよ!この村にゃ大したモンは無いけどゆっくりしてきなよ!』


 男勝りなやや粗野な口調だがヴァイダは屈託のない笑顔で俺達を歓迎してくれた。


 『アンタ!早く運んどくれよ、せっかくのメシが冷めちまう』


 エリウッドも妻には勝てないらしく、素直に妻ヴァイダの手伝いに台所へと向かう。


 『あ、私も手伝います!』

 「クリスが手伝いに行くみたいだから、俺も行ってくる」


 クリスと共に俺は仲間達に手伝いに行くと告げて台所へと急ぐ。

 何しろ台所からはこの村の名産品であるチーズの良い香りが漂ってきていた。

 腹を空かせていた俺は一刻も早くその香りの元を拝みたくなり、クリスに付いていく。


 『ほお、今日はご馳走だな』

 『ああ、今日はアンタが世話になったって言う客人がいるんだ、腕によりをかけて作ったからね!』

 『わぁ…美味しそうですね兄様!』

 『すいませんヴァイダさん、突然押しかけたのにこんなご馳走まで用意して頂いて…』


 ヴァイダが用意した料理はまさにチーズ尽くしとでも言うべきだろうか。

 名産品であるチーズをふんだんに使ったピザやサラダにスープ、それにケーキと言ったデザートまでが用意されている。

 元が牛に近い種族と言うだけあり、肉類の食材は一切使われていないが、菜食主義者にとってはこの上ないご馳走と言える様な料理の数々が並べられていた。


 『なぁに遠慮することはないよ、ドンドン食ってきな!ただし残すんじゃないよ?』

 『『はい!』』


 用意された料理を四人で居間へと運ぶと、芳しいチーズの香りに空腹感を刺激されたのか皆が息を呑む。


 「これは…美味しそうですわね!」

 「シンプルではありますが、上質なチーズをここまでふんだんに使うとなると…」

 「へぇ…肉類は無いのが残念だけどこれはこれで美味しそうだね!」

 「野牛種の人達って肉類を食べないから仕方ないわ。それでも十分ご馳走だわ!」

 『あのチーズがタダでこんなに…弟達にも食わせたかったよ…』


 狩猟を生業とする半長耳種(ハーフエルフ)のフォルクだけは肉類が無いことを惜しんでいたが、全員が概ねご馳走だと絶賛している。


 『さ、皆残さず食べとくれ!』


 配膳が済み、ヴァイダがそう言って手を鳴らすと、皆が一斉に食事に手をつける。

 全員が最初に手を出したのはやはりこの村の名産品であるチーズだった。


 『「「うまーい!!」」』


 全員が同時に口へと運び、口を揃えてチーズの旨みに声を上げる。


 「こんな美味しいチーズ、初めて食べましたわ…!」

 「うん…香りもそうだけど口に入れた瞬間、口の中だけじゃなくて鼻にまで旨みが広がる感じだね…!」

 「これは葡萄酒が欲しくなりますね…!」

 「ええ、普段は飲まないけれどこれは私も飲みたくなるわね!」


 皆が口々にブルダーのチーズを絶賛する中、クリスが自分の荷物を探る。


 「アリーシャ、クローディアさん、これを!」

 「あっ、クリス!そんなもの隠してたのか!」


 クリスは葡萄酒を自身の荷物から取り出した。俺に禁酒を告げられておきながらも隠し持っていたらしい。ただ、少なくとも未開封の様で、確かに俺は飲酒を禁じていただけで所持までは禁じてはいない。そう言われれば俺は何も口出しはできなかった。


 『おや、上物の葡萄酒みたいだね、アトラシアのかい?』

 『お、おいヴァイダ…』

 『いいじゃないかアンタ。今夜は宴さ、お互い遠慮なんていらないだろう?』

 

 ヴァイダが人数分のジョッキと酒を樽で持ってくる。

 クリスがエリウッドとヴァイダ、タップのジョッキに自前の葡萄酒を、ヴァイダが俺達のジョッキに樽の酒を注ぐ。

 ヴァイダの注いだ酒はやや澄んだ黄味がかったシャンパンのような酒でヨーグルトの様な爽やか香りを放っている。


 「一応断っておきますが、兄様が許してくれるまでは一滴も口に入れませんからね?」


 クリスはそんな事を言いながら口元を歪ませる。まるでこんな状況になるのを待っていたかの様に。


 「…最初からこれを狙ってたのか。嵌められた…」


 クリスに禁酒を告げてからは俺自身も酒を飲んではいない。酒場などで食事をする際には予め俺とクリスには酒を出さない様に頼んでいた為だ。

 俺もクリスはよく我慢をしていると思っていたが、それは全てこの為の布石だったと言う事の様だ。


 「…注がれた酒を捨てるわけにもいかないだろうし…。…わかった。けど、飲み過ぎるなよ?」


 なし崩し的に始まった酒宴、この状況を無理に止める術を俺は知らない。

 注がれた酒を引っ込めるのは握手の為に差し出された手を払うも同義、故に無駄な諍いを起こさない為にも俺はクリスに飲酒を許可する他無かった。


 「皆さん!漸く兄様から許可が出ました!折角のガルムス大陸、それも獣人族の村での宴ですし、獣人の言葉で始めましょう!『乾杯』で!」


 俺の許可を得たクリスは水を得た魚のように、場を取り仕切り、しっかり音頭を取り始める。

 こうなった以上は俺も乗らざるを得ないだろう。


 「じゃあ皆さん行きますよー?『乾っ…杯っ!』」

 『『『乾杯っ!』』』


 クリスがジョッキを高々と掲げ、乾杯の音頭を取ると同時に全員が手に持つジョッキをぶつけ合う。

 言葉や文化は違えど、酒宴の始まりは万国共通という事で、俺も漏れなくその輪の中に入っていた。


 『さすがアトラシアの葡萄酒だ、こっちじゃ滅多に飲めないシロモンだよ、香りもいい。アンタだってそう思うだろう、なぁエリウッド?』

 『ああ…確かにアトラシアの葡萄酒は美味い、が…』

 『オイラはやっぱり酒よりチーズだな…やっぱりブルダーのチーズは最高だ!』


 エリウッドとヴァイダが葡萄酒を愉しむ中、タップは既にジョッキを手放し、両手にチーズを持って幸せそうな表情を浮かべている。


 「エールとは…違いますわね」

 「ほのかな甘味と酸味が効いていてドンドン飲めてしまいますね」

 「お酒は苦手だけどこれなら僕も飲めるよ」

 「ホントだ…酒ではあるんだけど口当たりの良い

ヨーグルトみたいな味だな…」

 「強いお酒も嫌いじゃないけど私もこっちの方が好きね」

 「んっ…んっ…ぷはっ!このシュワシュワがたまりません、どんどん飲めてしまいます!」


 ヴァイダに注いで貰った酒の味を全員で味わう。特にクリスは勢いよく酒を飲んでおり、既に頰がうっすらと紅潮し始めていた。

 酒から溢れる芳醇かつ、爽やかな香りに違わず、その味もまた濃厚な甘味と酸味がありながらも炭酸によって爽やかな後口を残し、ついついもう一口、もう一口と喉に通してしまう。


 『戦士長様、戦士長様はおられますか!』


 酒宴で賑わっている中、野牛種の青年が屋敷に飛び込んでくる。様子を見るに穏やかな雰囲気では無さそうだ。

 エリウッドがジョッキを置いて立ち上がると青年がエリウッドに耳打ちする。


 『ふむ…そうか。わかった、下がって持ち場に戻れ』

 『はい、では人数を増やして警戒にあたります』


 そう言って足早に青年は屋敷を後にして持ち場へと戻っていく。


 「何かあったんですか?」

 「南東の森が焼けてしまっているらしい。村には特段影響はないのだが…」


 俺が気になって尋ねるとエリウッドはそう言ってタップを一瞥する。


 「タップがプラットンに帰るのに遠回りする必要がある。セオドア達はガルマリアに行くのだろう?」

 「そうですね、折角なので闘技大会も見て行きたいって言うのもありますから」


 一応タップと相互協力の約束はブルダーの村到着までの往路のみであり、復路についてはそういった約束はない。

 既にプラットンの街へは飛翔(フライハイ)での移動が出来るが、往復でまたこのブルダーの村まで戻るにしても三〜四日はかかってしまうだろう。


 「闘技大会が開かれるまであと何日程あるんですか?」

 「…六日だ。プラットンとここの往復の間に開催されてしまうな」


 闘技大会の開催はまっすぐガルマリアを目指してギリギリだ。

 タップをプラットンまで送っている暇は無い。


 「とりあえず森の様子だけでも見に行きましょうか」

 「む? ここから数刻はかかるぞ?」

 「その点についてはご心配なく。クリス、エリウッドさんとちょっと席を外す。あまり飲み過ぎるなよ?」


 クリスに釘を刺しながら屋敷を後にするも、クリスはジョッキを口に当てたまま手を振るのみだった。


 「こりゃ戻ってきたらまた潰れてそうだな…。じゃあエリウッドさん、手を俺の前に出してください」

 「手を?…こうか?」


 エリウッドが差し出した大きな手に手を重ね、魔力を練る。


 「飛びますから手を離さないでくださいね。飛翔!」


 魔力を伝えた俺とエリウッドの巨体が浮き上がるとエリウッドは体が浮き上がる感覚に驚き、つい言葉が獣人語に戻っていた。


 『おお、己れの体が浮くとは…。剣だけでなく魔術の技術も上がっているのだな』

 「この一年、ひたすら鍛えましたから。さぁ行きますよ!」


 浮上しきると同時に焼けてしまったと報告のあった森へと移動を始める。


 「これは便利な魔術だな。しかも速い」

 「行ったことのある場所しか行けませんし、魔素の消費も多いんで長距離は移動できませんけどね」


 一刻足らずで目的地となる焼けてしまったという森に到着する。

 日が落ちてしまっていた為、近くの小さな草むらに火矢(ファイアボルト)を放ち光源を確保して辺りを見回すが、昨日まで森があったその場所には木の一本も見当たらず、そこはとても森と呼べる場所ではなかった。


 「これは…森が只の荒野になってる…?」

 「間違いなく森のあった場所の筈だが…あるのは焼け焦げた地面と霜に覆われた土、…ん?」


 エリウッドが焼け果てた森の中に何かを見つけ、それを手に取る。少なくともこの森にはなかったであろう物体である。


 「これは毛の束だな…それが二つ、百獣王(キング・ビースト)の物に似ているが…」


 エリウッドが手に取った二つの毛束は微かな黄金の輝きと白銀の輝きをそれぞれ放っており、また僅かに熱さと冷たさとを孕んでいる。昨日出会った傲慢の獅子のものであるのは間違いないとして、この森を焼け野原へと変えてしまったのもまた傲慢の獅子である事は疑うまでもない。

 焼き払われた森には僅かに炭クズとなった木々が残っているが視界が開け、また隣接した草原を彷徨いていた魔物もそれまで森であった場所にまで縄張りを広げているのがわかる。これではタップは正規の経路でしかプラットンへは戻れないだろう。


 「一旦村に戻りましょう。タップにもこの事を伝えないと」

 「うむ、長居は無用だ」


 ほんの数分にも満たない調査だったが既に魔物達が俺たち二人の存在に気付いており、威嚇行動と思しき低い唸り声をあげ始めている。

 数を数えようにも暗がりから見られている為正確な数はわからないが、火矢で起こした炎の光を反射する無数の瞳が闇の中で揺れており、かなりの数に囲まれているようだ。

 すぐに飛翔の魔術で空へ逃れると、真下では俺達を取り囲んでいた魔物達が足下に群がり、こちらを睨んで吠え続けているが、ブルダーへ引き返し始めると少しの間だけ魔物達は俺達を追いかけて来るものの、空では手が出せないのかすぐに追跡を諦めていた。


 ーーー


 エリウッドの屋敷に戻ると予想通り、クリスは飲み過ぎたのか、既に壁にもたれかかってすやすやと寝息を立てており、幸い今までのように脱いだりはしておらず、今回は大人しく眠っているだけだった。

 他の仲間たちも充分酒宴を楽しんだのか、まだ酒を飲んでいるのはヴァイダとアリーシャだけでその二人も静かに酒を飲んでいる。


 『早かったねアンタ。で、どうだったんだい?』


 ヴァイダはエリウッドが戻ってきたのに気付くとジョッキの酒を一気に喉に流し込み、空いたジョッキを床に置きながら調査の結果を尋ねてくる。


 『セオドアのお陰で早く森に着けた。森については…無くなっていた、と言うべきだろうな。正確には焼かれていたようだが』

 『なんだって!?』


 エリウッドの報告を横で聞いていたタップが驚く。

 七日程で帰れる道が無くなってしまっている以上、当然の反応だろう。


 『これが森に残っていた。恐らく森を焼いた魔物のものだろう』


 エリウッドの取り出した二種類の毛束をヴァイダが手に取ってまじまじと見つめる。


 『上等な毛だ。今まで見てきた他の魔物ものじゃない…不思議と引き込まれそうな艶のある毛だね』

 『獅子の王と獅子の后、その体毛だと思います。実は先日、俺達はその二頭に出会いました。他の魔物に森を消すような真似は出来ないでしょうし間違いないでしょう』


 伝説の魔物に出会った旨をヴァイダに話すと彼女は 目を丸くする。

 目撃例がなく、言い伝えや噂話程度でしか存在を知らない魔物を今日出会ったばかりの旅の人間が遭遇したと言うのだから、いくら肝の座った女性であるヴァイダと言えど驚きの表情を隠せずにいる。


 『にわかに信じられない話だけど、この毛を見たら流石に信じざるを得ないね。他の獣人族や四肢獣種でもあり得ない色艶だ。しかし本当に遭遇したとしてよく生きれたモンだねぇ…』

 『手を出さなかったのが幸いですかね、まるで俺達を驚かせにきただけに見えました。もし手を出してたらあの森みたいに跡形もなく消されていたかも知れません』


 俺の話を隣で聞いていたタップがうんうん、と頷いている。彼も俺達と同様に傲慢の獅子を見た人間だ、その恐ろしさを直に見ている為、顔を強張らせて反応している。


 『そうかい…まぁ何にせよ無事ならいいさ。さて、今夜はもう遅い。アンタら、今日はウチに泊まってきな。アンタ、構わないね?』


 ヴァイダは話を聞いて、俺達が無事だった事に優しく微笑を返すと、胡座をかいている太腿を両手で叩き、俺達に泊まるように言い、エリウッドに確認をする。


 『ああ、勿論だ。明日はここからガルマリアを目指すのだろう? 今日はゆっくりと休むがいい』

 『心遣い感謝します。じゃあ今夜はお言葉に甘えさせてもらう事にします』


 宿泊を許可してくれたエリウッドとヴァイダに謝意を表し、俺達は直ぐに眠る準備を始める。

 船旅から直ぐにこの村を目指していた俺達は疲れていたのか、全員が直ぐに眠りに就いていた。

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