第九十一話:粗暴な英雄
「なんだありゃあ…ボロボロじゃねぇか…」
ガルムス大陸を目指し、外海に出ようとした連絡船の進路上を濃い霧が覆っていた。やむ無く霧の中へ侵入すると、突如、大破して流された船が現れ、船長のラルゴがそれを見て言葉を失っていた。
「ちょっと待ってください。あの船…あの時の…!あれから更に傷付いて分かりにくいですけどあの根元から折れたマスト、一年前にクリスの大魔術で折られたマストの痕ですよ!」
俺はボロボロの船の折れたマストを指差してラルゴに以前襲撃を仕掛けてきた船である事を教える。
傍目にはあの時から更に派手な傷痕が増え、とても同じ船には見えないが、マストが根元から折られる様な事はそうは起こらないだろうとして、俺は同じ船だと判断した。
「人の気配もありゃしねぇし…てぇこたぁありゃあ幽霊船か…?」
ラルゴは突如として現れた幽霊船に膝をつき震えていた。屈強な海の男も幽霊船は怖い様だ。
「フーッハッハッハッハッ…!見つけたぞぉ…!」
突然、幽霊船から何者かの笑い声が聞こえてくる。それを聞いたラルゴや他の船乗り達も怯えて竦み上がり、とてもじゃないが動ける様な状態では無くなっていた。
「くっそ…別に海王種の魔物なら怖かねぇんだけどよ…、情けねぇ話だが、不死種のそれも得体の知れねぇ幽霊系だけはホントにダメなんだ…!」
腰を抜かしたラルゴが情け無い声で口を震わせる。どうやら幽霊船が通り過ぎるのを待つしかないが、再び幽霊船から声が響いてくる。
「ガキが二人乗ってるはずだ!俺様はこの海賊船の船長、ヒースクリフ!二人のガキと話がしてえ!」
霧のせいでよく見えなかったが、幽霊船と思っていた海賊船に近づいた事で漸く声の主が船首に立っているのが見えてくる。
その風貌は筋骨隆々で、額には一対の角、口からは巨大な牙を覗かせており、赤らんだ肌と巨躯から魔族であることが伺える。
ヒースクリフと名乗った魔族の男は船首からまっすぐ俺とクリスを睨んでいる様だ。
「クリス、どうやら俺達二人に用があるらしい」
「行くんですか? あの時、兄様は気を失って知らないと思いますが、もしあの男が本当にあの海賊の船長であるなら、兄様を刺した二人を差し向けた男ですよ?」
クリスは当時の事を心配し、考え直す様に促す。しかし俺はそれでも行くと首を振る。
「セオ様、罠かも知れません。行くのならばどうかお気をつけくださいまし」
「得体が知れない相手だ。注意するんだよ?」
「セオドア様、クリスティン様、もし妙な動きがあればこちらも乗り込みますので」
アンリ達は止めても行くのだと察したのだろう。無理に止めには入らず、注意を促すだけに留まった。
「ああ、わかってる。ラルゴさん、俺達は魔術で直接乗り込みます。何かあった時、三人がすぐに乗り込めるように船を止めてロープの準備だけお願いします」
「わ、わかった…。だが気ィつけろよ…?」
ラルゴが了解したのを確かめて、俺はクリスに頷くと、飛翔の魔術で海賊船に乗り込む。
ーーー
「へへ…来たな。あの時はやっぱり仕留められ無かったみてぇだな」
ヒースクリフは腰の蛮刀を抜く事も無く、ただ不気味な笑いを見せながらそう切り出した。
「やっぱりっていうのはどういう事だ? 何を知ってる? それにこの船はバルドルって海賊の船だった筈だ」
俺はそう切り返すとヒースクリフは顔を大きな手で覆い、小さく笑いだす。
「ヒッヒッヒ…、俺にはわかんだ。お前らの魂、本人とは別のヤツの魂が入ってやがるな? ヒヒ…、と、坊主の方にゃ更にもう一人分…まぁ、そっちはどうでもいいか…。バルドルってのは仮の名前だ、ヒースクリフをあんまりおおっぴらに名乗ると色々問題があってな」
ヒースクリフはそう指摘するが、クリスは自分自身、まだ気付いていないのだろう。いまいちピンと来ていない様で首を傾げている。
「なぁ、聞いてるんだろォ? 出てきやがれ、シャルディン、それにメルティナよぉ!?」
ヒースクリフが告げた名前、それはこのセオドアの身体に宿る聖龍神の名、それともう一つ、メルティナと言うのはクリスの方に宿る黒龍神の名だろう。
「ふん…誰かと思えば、悪童ヒースクリフか」
勝手に口が開く。どうやらシャルディンが勝手に俺の身体で話している様だ。
「メルティナ…? それにこの魔族の男、兄様のお知り合いですか…? …でも何だか様子が…?」
クリスは全く身に覚えの無い名前と普段と違う俺の口調、そしてシャルディンの言葉に違和感を感じ、混乱しているらしい。俺はそれに答えようとするが、それより先にシャルディンが話し始める。
「メルティナよ、まだ話しておらなんだか。そろそろ娘に説明してやってはどうだ?」
シャルディンがクリスの方に向いて話しかけるとクリスはついに混乱を極めた様で、目を回してキョロキョロと首を振っている。
「もーシャル!せっかく今までこの子の自由にさせてたのにぃ!てかヒースじゃん、うっわ何百年も見ない間にずいっぶん老けてんじゃん!?」
声はクリスのものだが、とてもクリスとは思えぬ口調でさらにかなり甲高い声色だ。恐らくクリスの身体に同居している、黒龍神メルティナの言葉だろう。想像していたものとは全く異なり、俺は呆気に取られていた。
当然ながらクリスも自分の意思に反して出た声に驚き戸惑っている。
「相っ変わらず出てきた途端からうるっせぇ女だなぁオイ、ったく…イラッイラするぜぇ…」
「あら、こっちこそ何百年も見ない内にきたなくなった顔見せられてこっちだって不快だわ!」
クリスの身体で困惑の表情のままヒースクリフといがみ合うメルティナ、そして俺の意に反して出る溜息。どうやらシャルディンは二人の様子に呆れている様で、三人は旧知の仲の様だ。
「二人共、いがみ合うのは構わんが状況を理解出来ておらん者がいる。三人共、手を重ねろ」
「チッ、命令すんじゃねェよシャルディン。…まぁそっちのが話が早ェか」
クリスは未だに困惑し続けたままだが、シャルディンの言う通りに手を差し出したヒースクリフの手に自身の手を重ねる。クリスも状況の把握が出来ていない為、理解に努めようとしているらしい。
最後に俺が二人の手の上に手を重ねると目の前が白み、魂の世界へと誘われる。
ーーー
「ここは…? 兄様と、ヒースクリフ…そして知らない人が…三人…?」
クリスは周りを見渡し、見知らぬ場所に見知らぬ人物と共にいる事に再び困惑の表情を表すが、現状の把握に努めている様で、左手を顎にかざして小さく呟いていた。ちなみに兄様と呼んでいたのはここでは俺では無く、セオドアの事だろう。
「よし、全員いるな。まずはセオドア…いや、カムイとクリスに全員を紹介するとしよう。クリスティン以外は知っていようが私はシャルディン、聖龍神と呼ばれている者でセオドアの身体に魂として同居している」
シャルディンは場を仕切りながら簡潔に自身の紹介を済ませると、メルティナと思しき少女を顎で促す。
「はいはーい、あたしはメルティナ!黒龍神って呼ばれてて破壊を司る神さまなの!カムイくんとセオくんは初めましてかな? 普段はクリスちゃんの身体の中にいるんだよ。で、クリスちゃんの規格外の魔術の力はあたしの加護の力で増幅させてるからなの!」
黒龍神メルティナはふわふわと浮いたまま元気よく自己紹介をする。その容姿はセオドアやクリスよりも小さく、見た目だけ言えば黒髪ツインテールのロリ巨乳の少女で後頭部には髪飾りの様な一対の細長い角が伸びている。
以前、シャルディンから破壊神と聞いていたが、その名から想像していた邪悪なイメージと異なり、どう見ても小学生程度の無垢な女の子にしか見えなかった俺は肩透かしを受けた様な感覚を覚える。メルティナは次にヒースクリフの紹介に移る。
「こっちのおっかない顔の魔族がヒースクリフ!大鬼種で、一つ前の輪廻の時に仲間だった男で今は敵…かな?」
「ケッ、仲間と思ってただけだ。最初に裏切ったのはお前らだろうが…!」
メルティナの紹介を受けてヒースクリフは顔を背けたまま唾を吐く。その表情はやはり険しいままだ。
「ヒースクリフ、今はやめろ、次は…セオドアだ」
今にもメルティナに飛びかからんとするヒースクリフをシャルディンが制して、セオドアに自己紹介を促す。
「えーと…なんて言えばいいかな…。クリス、まずは初めまして、かな。少しややこしいから詳しい説明はカムイ君に任せるとして、僕はセオドアの身体の中にいる本当の身体の持ち主だ。当たり前だけど、君の本当の兄にあたる…あぁダメだ、カムイ君、あとの説明は君に任せたよ?」
セオドアの自己紹介でクリスは首を傾げていた。それもその筈、当然、兄であるセオドアがわざわざ自分の兄だの、セオドアの身体の持ち主だのと分かりきった自己紹介をしているからだ。
そして最後に俺はクリスに自己紹介をする。
「クリス、この姿では初めて会うけど、俺は神威、火継坂神威。普段セオの身体を動かしてるのは俺で、この世界に魂を召喚されてシャルディンの魂と一緒にセオの中に入れられた。その経緯は前に話したと思うけど、セオの身体の中には俺とシャルディンの魂が、クリスの身体にはメルティナの魂が宿っている事になる。ここまではいいか?」
クリスに確認すると、まだ情報の整理がついていないのか、俺達を指さしながら理解に努めようとしているのが伺える。
「…なんとなく、理解はしましたけど、カムイさんと兄様…今後どう接していったらいいのか…」
「気にする事はないよ、普段はカムイくんが僕の身体を操ってくれてるし、そうそう僕が出る事はないから今まで通りさ。そうだろうカムイくん?」
セオは初めて妹と顔を合わせる事になるが、やはりいつも通り飄々とした調子だ。と言ってもセオからはいつも俺を通してクリスを見ている筈なので当たり前と言えば当たり前なのだが。
「ああ、この世界に生まれたのはほとんど一緒だし、俺もクリスの事はこの世界での妹だと思ってる。だからクリスも急な話で受け入れられるかはわからないけど今まで通り、お前の兄として接して欲しい」
普通ならばこんな話を聞いてすぐには受け入れ難いだろう。だがクリスは「わかりました、カムイ兄様」と一言、すぐに受け入れてくれていた。
「で、お前らチビの話はどうでもいいんだよ。シャルディン、メルティナァ!俺の姉貴の魂をどこにやったのか、納得のいく説明をしてもらおうか? あぁ?」
自分を蔑ろにされている状況に痺れを切らしたヒースクリフが話に割り込み、シャルディンとメルティナに迫る。するとシャルディンは大きな溜息と共に静かに話を切り出した。
「ヒースクリフよ、貴様の姉、ミネルヴァの魂についてだが、あの時、元の世界へと還した。そしてもう一点、ミネルヴァの身体は元々用意されていた魂無き殻だという事を聞いていなかったか?」
シャルディンがそう告げるとヒースクリフは激昂し、シャルディンの胸ぐらへ摑みかかる。
「ンだとォ!? じゃあ何か? 俺の姉貴は元々別の誰かで、そいつの事を俺はずっと姉貴と思ってたってのかァ!?」
ヒースクリフが更に詰め寄りシャルディンの首絞める。しかしシャルディンは無表情のまま、がなり立てるヒースクリフに「そうだ」と短く答えた。
「野郎ォ!」
ヒースクリフは更に怒りを露わにシャルディンを締め上げるが、シャルディンは全く堪える様子もなく涼しい顔をしており、メルティナは無駄だとばかりに呆れて溜息をついている。
「シャルディン、聞きたい事がある。ヒースクリフの姉、ミネルヴァの魂を元の世界に還した、そう言ったな?」
「如何にも」
俺がシャルディンに問いかけると彼はやはり短く答える。
「じゃあ俺は、セオはどうなるんだ? もし俺が元の世界に還されるとして、セオが巻き込まれる事は無いのか?」
俺がシャルディンに更に問いかけるとメルティナが目を細めて困った顔でシャルディンに取って代わって俺の問いに答えだす。
「それについてはあたし達にもわからないのよね…。普通なら一人の抜け殻として生まれた身体にあたし達の魂と喚び出された魂を一緒に入れるんだけど、今回あたし達は別々にされちゃったし、シャルの方はカムイくんと一緒にセオドアくんの身体に入れられちゃったからあたし達にもどうなるか全く見当がつかないの」
「ただ、幸いだが我とカムイの魂はセオドアの魂と結びつきが浅い。全てが終わった時にカムイの魂をセオドアの身体から引き剥がす事が出来れば、あるいはカムイの魂だけを還す事は出来よう」
シャルディンはヒースクリフの手を払い、そう答える。ヒースクリフはまだ興奮したままだが俺の問いで何かに気付いたらしく、荒げた鼻息を落ち着かせながら再びシャルディンに問い質す。
「だとすりゃあミネルヴァだった魂はどこのどいつの魂なんだ? このカムイとかいうガキと同じ世界から召喚された奴の魂って事か?」
「そうだ。ヒースクリフ、説明が遅れた事は謝ろう。自の姉を演じていた者の名はフィオナ、彼女もこの世界に召喚された時、同様に取り乱しておったがフィオナは立派に役割を全うした。そして最期にお前の事をこの世界で最愛の弟だと告げ、その上で彼女は先にこの世界から去る事を謝っていた」
シャルディンがそう告げるとヒースクリフの頰を涙が伝う。
「フィオナ…姉貴…。そうだったのか…俺ァてっきりお前らの生贄に殺されたのかと…。姉貴は…フィオナはその後どうなったかはわかるのか?」
「それはわからないわ。彼女は元々向こうの世界では人間だから…少なくとも元の世界での生を終えてる筈。ただ彼女は強く気高く、そして何よりも優しい女性だった、それだけは言えるわ」
メルティナはフィオナの事を思い返す様な様子でそう話すとヒースクリフは「そうか」と一言、そう言って座り込んでしまう。
少しの間、何もない純白の世界を静寂が包む。そこで俺は再びシャルディンに質問を切り出した。
「シャルディン、俺はこの世界に喚び出された時に『竜人』を名乗る影に『この世界を救え』と、そう言われた。少なくとも俺はこの世界で為すべき事がある筈だ。具体的に何をすればいい?」
「具体的にはまだ言えん、魂の器を鍛えろとしかな。カムイよ、自の魂が英雄に相応しいものになった時、初めて自に動いてもらう事になろう。それまではクリスと共に我とメルティナが真の力を発揮できるように魂の器を鍛えて欲しい」
シャルディンはヒースクリフに摑みかかられて乱れた服を直しながら静かに俺の問いに答える。
「このエーテルスクエアは自らで言うところの魔素で充満しておる。それがあと百年とせぬ内に枯渇しようとしておるのだ。その時、世界の均衡は崩れ、衰退し崩壊する。我とメルが真の力を発揮し、輪廻の神として蘇る時、自の魂の器を使って再びこの世界を魔素で満たす事ができるのだ」
「厳密に言えばカムイくんとクリスちゃんが生み出した魂の器、それを私達が預かってる感じかな。それが魔素の素になってカムイくんを元の世界に還すときに生まれる余剰の魔素が再び世界を満たすの。だからカムイくんとクリスちゃんには何としても生きて強くなって貰わなきゃいけないのよ」
創造神、輪廻の神の片割れである二人は更に続ける。
「だからこそ我等は自らに力を貸すことを惜しまぬ」
「そ、生きてもらう為にね。次の機会はもう無いから…是が非でも、ね?」
シャルディン達が少しだけ険しい表情でそう告げると同時に魂の世界は暗転し、目を開くと再びヒースクリフの船の上へ戻ってくる。
ーーー
「…どうやら俺は盛大な勘違いをしてたみてェだな。俺はアイツらを探す為に海賊になって奴らの魂を持った人間がこの島を訪れるのを待ってた。そして漸くお前らを見つけた。心が踊ったよ、漸く姉貴の仇が討てるってな…だが、事実は違った。手下を差し向けたが結局返り討ち、しかも勘違いだった。姉貴はそんな事望んじゃいなかったのにな…。俺はただの道化師か…」
ヒースクリフは自らを嘲り、冷たく嗤う。自らの過ちを悔やみながら。
そんなヒースクリフにクリスが声をかける。
「ヒースクリフさん、ミネルヴァさんだったソフィアさんはそうやって過ちを悔やみ続ける事を望むでしょうか? 聖龍神様も、黒龍神様もそうやってここに留まる事を望むでしょうか?」
「なに?」
ヒースクリフはクリスの言葉に目を丸くする。そして俺もクリスの言葉に続いた。
「俺は貴方の手下に重傷を負わされました。しかし先程のシャルディンとメルティナ、そして貴方の話を聞けば確かに最愛の姉を奪った悪神と勘違いしてもおかしくない。俺を狙った理由もわかります。俺も今までは顔も知らぬ貴方を憎んでいましたが、話を聞けば最早憎む事も無くなった。事実を知った今、何百年も止まったままの貴方の時間は動き出した筈です。もうヒースクリフさんも前に進み始めてもいいんじゃないですか?」
ヒースクリフは大粒の涙を流し、それを太い腕で拭うと背中を向け、そして言葉を絞り出す。
「ああ…そうだな。ここから…やり直さねぇと…世界を救って帰って行った姉貴に…顔向けできねぇよな…。いつも姉貴は粗暴で間違いばかり起こす俺を優しく諭してくれた…。カムイとセオドア…それにクリスか…すまねェ…」
ヒースクリフは額を甲板に付けてこうべを垂れる。悪鬼の様な風貌の大男は自らの過ちを心から悔やんでいた。
俺たちはヒースクリフと和解すると、彼はいつか俺達の力になると告げ、ドルマニアン諸島へと引き返し、ヒースクリフの乗る船は霧の奥へと消えていった。
連絡船に戻り、ヒースクリフが引き返すのを見届けるとラルゴが恐る恐る声をかけてくる。
「だ、大丈夫かおめぇら。呪われたりしてねぇよな?」
完全に恐怖した大男を前に俺とクリスは顔を見合わせると笑いが込み上げる。
「大丈夫です。戦闘もありませんでしたし、魔物もいませんでした」
「乗っていたのは少し不器用な魔族が一人、きっと今後はこの辺りに海賊も出なくなる筈です」
そう話すとラルゴは少し安堵した様に大きく息を吐く。
「そ、そうか、そりゃよかった…」
ラルゴは胸を撫で下ろすと、未だに怯えている船乗り達に力無く出航を告げる。
いつしか周囲の霧も晴れ、辺りを見回したがヒースクリフの乗る船は既に無い。
俺とクリスを除き、忽然と消えた朽ちた海賊船を幽霊船と全員がそう考えていた。
かつて数百年前に世界を救った仲間の一人ヒースクリフ、彼の名誉の為にも彼の存在は敢えて誰にも伝えず、俺とクリスの胸の内に留めておこうと俺達はそう決めていた。




