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-転生奇譚- リンカネーションストーリー  作者: 彼岸花
第八章:咆哮響くガルムス大陸
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第九十二話:獣人達の住まう地

 ドルマニアン諸島を発って約半月、俺達の乗る連絡船はガルムス大陸の沿岸を進んでいた。

 途中、小型の海王種の魔物の襲撃はあったものの、特に大事なく船旅は間もなく終わりを迎えようとしている。また、その間にフォルクにミネルヴァについて話を聞いていた。


 彼の話に依ると、ミネルヴァはこの世界で約六百年程前に大魔大陸全体で起こっていた戦乱を終息に導き、『竜戦姫』と呼ばれ、人々に英雄と称えられた竜人らしい。

 また、その弟であるヒースクリフも『悪童』と言う、とても英雄とは縁遠い二つ名で呼ばれていたものの、あくまでそれは見た目だけの話であり、実際はやや粗野な所もあるが、現在のルミネシア魔導連邦と大魔帝国デモンガルドの国境で勃発した戦役では単騎ながら両軍の間で数多の傷を負いながらも彼の活躍によって停戦まで持ち込んだという逸話まで残っている英雄との事だ。

 二人は竜人族と魔族の間に生まれ、種族の異なる姉弟だったがその仲は家族よりも深い仲だったとの事で、二人は輪廻の神の復活と共に歴史の表舞台から去ったという。

 また、魔族を忌避するハルモネシス皇国においてはヒースクリフは存在しないものとされているらしい。


 フォルクの話では現在の大魔大陸において最も英雄と名高い二人であり、二人が行方をくらましてから六百年を超え、今尚語り継がれているのは長命種の多い魔族が多く住まう地であるからとも話していた。


 ーーー


 程無くして、船はガルムス大陸の最東端に位置する港街に到着する。

 俺達が到着した港街はプラットンと言う街で、この街はサルディアの港とは異なり、下船時の荷物の確認などは無く、すぐに街中へと出る事が出来た。

 再びラルゴ達に別れを告げ、街中へ向かうとサルディアやヘイミルの街と比べるとかなり質素な街並みであり、人族との文明の差を感じていた。


 「まずは情報収集だね。とりあえずはエリウッドを頼りに、ブルダーの村を目指すべきかな」

 「他に宛てもないなら私もそれに賛成ね、…と言ってもまずはその村がどこにあるのかもわからないなら情報か、出来れば案内人が必要かしら」

 「だったら酒場か、もしくはギルドを当たるのが良さそうですね」


 フォルクはまずサルディアで別れたエリウッドを頼るべきだと指針を定める。特に宛ても無い為、俺達も全員がその指針に異を唱える事は無かった。


 「そういえば、皆さんは獣人語は話せるんですか? 私と兄様は以前に勉強もしましたし、それなりには話せますが…」

 「僕は少し、かな。船でエリウッドに多少は教えてもらってるけどあまり自信はないね」

 「獣人語の言葉は話せませんが、読みは象形文字に近いので、ある程度予測はつきますね」

 「私も少しは触れはしましたが、恥ずかしながらとても扱える程ではありませんわね」

 「うーん…シェリーとはよく話してたけど、シェリーは人語が話せたから…私も自信はないわ。読み書きは教えてもらったから私もアリーシャと似たようなものね」


 どうやら獣人語をある程度扱えるのは俺とクリスだけで、簡単なやり取りくらいならばフォルクも、と言った所らしい。

 そんな折、後ろから小さな影が俺の背後からぶつかってくる。


 『おっとごめんよにいちゃん!ただそんなところで突っ立ってるとカモにしか見えないぜ!』


 背後からぶつかってきたのは獣人族の少年で、彼は獣人語でそう言って風の様に走って行く。不安を感じた俺は懐が嫌に軽い事を感じると財布を盗まれた事に気付く。そして道行く獣人達がニヤニヤと俺達を見ていた。大方、この土地にやってきた他所者がスリに遭う、なんて事はこの街では日常茶飯事なのだろう。


 「クソッ、やられた!クリス、みんなと一緒に先に酒場に行っててくれ。俺はあのスリの獣人を捕まえてくる!」


 クリスは「わかりました、気をつけて」と一言、三人を連れて酒場を目指す。俺は空歩法(エアステップ)の魔術を発動させ、低空を飛びながら財布を掠め取った獣人の少年を追い始めた。


 ーーー


 半刻程、路地を逃げ回る少年を追い回し、途中からわざと見失うフリをしながら追っていると、少年は漸く撒いたと思い込んだらしく、スラムの様な場所にある洞穴になった寝ぐらへと逃げ込んでいた

 逃げ回っていた少年は小汚い出で立ちで丸みのある耳と細長く尖った尻尾を持ち、大きな黒目の鼠の様な獣人だった。


 『まさか空から追い回してくるなんてね。でもさすがに見失ったみたいだし、やっと中身が見れるぜ…。さぁて、どんだけ入ってるのかなっと…』


 財布の中身を検め始めた少年はその中身を見て興奮していた。それもその筈で、財布の中にはこの世界でも貴重で有力な冒険者や貴族、王族ぐらいしか手にする事のできない白金貨や聖銀貨が入っていたからだ。


 『ひゃっほう!大当たり!オイラと変わらないぐらいの子供がこんなに持ってるなんて…』

 『夢にも思わなかった、って所か?』


 目の前にある大金を前に警戒を完全に解いてしまった少年に近づくのは容易だった。

 少年は俺が声をかけるまで此方には全く気付かず声をかけた瞬間に驚き逃げようとするが、入口を塞いでいた為、逃げ場は無く、まさに袋の鼠だった。


 『わわっ!嘘だろ!? 撒いたと思ったのに!』

 『上から見ればすぐに見つかったさ。辺りを見回す時に隠れてたからそっちは見つけられなかったみたいだけどね。さぁその財布を返して貰うぞ』


 そうして盗まれた財布を取り返した瞬間だった。奥に続く薄暗い穴から沢山の小石が飛んでくる。


 『にいちゃんをいじめるなー!』

 『そじんしゅだからってなめるなー!』

 『にいちゃんをたすけろー!』


 可愛らしい声と共に次々と小石が飛んでくる。恐らく少年の家族だろう。しかし少年は俺の背中の騎士剣を見ると、家族に投石をやめる様に叫んだ。


 『やめろお前たち!こいつ、剣を持ってる!なぁアンタ、頼む!オイラはどうなってもいいから弟達には手を出さないでくれ!』


 少年は自分の家族を守るべく、穴の奥を隠す様に両手を広げている。少年は武器を持つ俺に恐れ、震えながらも勇気を振り絞り、家族だけは助けて欲しいと懇願する。


 『勘違いしないでくれ。俺は別に財布さえ戻ればいいんだ。別に君らを襲いにきたわけじゃない』


 俺のその言葉を聞き、少年は目を丸くする。少年はまさかのお咎めなしに驚いていた。


 『嘘だろ、盗みを働いた奴を捕まえて何もしないなんて虫が良すぎる!悪知恵の働く人族だ、何か企んでるに違いない!』


 何か裏があると疑ってやまない少年に俺は困惑する。じゃあ何かをさせればいいと俺は閃いた。


 『参ったな…。じゃあ、そうだな…この街を案内して欲しい。なに分、俺達はガルムス大陸に来たばかりで獣人族達の事については分からない事だらけなんだ。お金も払うし、よかったら頼まれてくれないか?』


 獣人の少年は俺の申し出に少し懐疑的だったが、意を決したらしく、穴の奥にいる家族に話して漸く了承した。


 『…わかった、アンタらこの国については何も知らないらしいし、オイラが案内してやるよ。アンタ、名前は?』

 『俺はセオドア、アトラシアから来た冒険者だ。そっちも名前を聞かせてもらってもいいか?』

 『オイラはタップ、鼠人種(そじんしゅ)の獣人だ』


 タップはそう言って胸を叩くと、穴の奥に隠れていた彼の弟達がわらわらと姿を現わす。その数なんと十六人。彼の弟達全員が心配そうにタップに見つめていた。


 『心配するなって。兄ちゃん、逃げたり隠れたりすんのは得意なんだからさ。…まぁコイツには追いつかれて見つかっちまったけど』


 タップがそう零すと弟達が一斉に俺を睨みつけている。


 『随分嫌われたな…。…大丈夫。君らのお兄ちゃんには道案内を頼むだけだから、何もしやしないよ』

 『え? そうなの?』

 『ほんと?』

 『なぁんだ』


 困った顔をしながらも、出来る限り優しくタップの弟達にそう告げると疑う事もなく睨むのをやめる。まだ年端もいかない子供達だ、心から素直なのだろう。


 『じゃ、じゃあ兄ちゃん行ってくっから、お前達、大人しくしてるんだぞ!』

 『『『いってらっしゃぁい!』』』


 元気な弟達に見送られ、タップは寝ぐらを出る。俺も彼らに小さく手を振り、タップの後を追いかけた。


 ーーー


 先に酒場に行かせていたクリス達と合流する為に、俺達も酒場を目指す。

 その途中で世間話感覚でタップと会話をしていた。


 『しっかしアンタ、獣人語がうまいね』

 『そりゃどうも。おかげで財布をスられたのにもすぐ気付けたからな、本当に勉強しといてよかったと思ってるよ』

 

 俺がそう言いながら鼻を鳴らすとタップは顔をしかめて舌を打つ。


 『ちぇっ、いいカモだと思ったんだけどな。…それはいいとして…アンタ、腕っぷしには自信はあるのかい? 酒場だとかギルドだとか、この街でも特にガラの悪い連中ばっかり集まってる所だから、オイラじゃ助けてやれないぞ?』

 『ああ、その点に関しては心配する必要はない。俺自身も、先に行かせてある妹達も全員S級以上の冒険者だ。本気になれば酒場やギルドごと吹っ飛んでるさ』


 俺がそう言うとタップは冗談だと思ったのか、声に出してカラカラと笑う。


 『ハハハッ、言うねぇ』

 『言っとくけど冗談じゃないからな?』


 そう話している内にタップが足を止める。話していた目的地の酒場に到着したのだろうか。その場所には人集りが出来ていた。


 『あれ、おっかしいな…酒場つったらここの筈なんだけど…って言うかなんだこの人集り…』

 『ここじゃないのか?』


 俺とタップは人集りの中を掻き分けて、その内側を覗くと先程の冗談が現実に起こっており、酒場であった建物は瓦礫の山となっていた。

 そこには瓦礫の山の上で腰に手を当てて膨れっ面になったクリスと困った顔で頭を掻くフォルク、やや怒った様子で服に付いた砂埃を払う残りの女性陣がおり、瓦礫の中からは所々から完全に伸びた獣人達が頭を出している。


 『…!…!…!?』

 『…な、言ったろ? …ってそれどころじゃないなこりゃ』


 タップは冗談だと思っていた光景を前に絶句しており、声にならない声を発していた。

 それに対してタップに声をかけていると人混みの中から顔を出した俺に気付いたフォルクが慌てて駆け寄ってくる。


 「ああっ、セオ!ごめん、僕が付いていながらこんな事になっちゃって…」

 「詳しい話は後にしよう。とりあえず一旦ここを離れるぞ」

 『なぁ、どうすんだ? 何話してんだ? 早く離れないと出られなくなるぞ』


 事態が事態なだけに無関係であるタップも少なくともこの場所に留まる事が得策ではない事は飲み込んでいるらしい。


 『ああ、わかってる。タップ、飛ぶ(・・)からじっとしてろよ?』

 『へ?』

 「飛翔(フライハイ)!」


 俺が魔術を発動させると、タップを含めた全員の体が一気に上空へと浮き上がる。


 『うわわわわわわっ、高い!高い!落ちる!落ちるっ!』

 『っとぉ…タップ、暴れたら本当に落ちるからしっかりくっついてろ』


 タップは初めての飛行に慌てて手足をばたつかせており、危険と感じた俺は彼の首根っこを捕まえ、半ば無理矢理な形で暴れるタップを抑え込む。

 持ち上げられたタップもそれを聞いて今度は一転して凍りついたかの様に完全に静止していた。


 「とりあえずは振り出し、だな」


 俺達が着地したのはプラットンの港。結局、下船した場所からの再スタートとなった。


 「さて、と…で、何があったんだクリス…」

 「正当防衛ですっ!」


 目を細めて恐らく酒場を吹き飛ばした張本人であろうクリスに理由を尋ねると、クリスは腕を組み、正当防衛だと言い張っている。


 「クリスさん、それでは説明不足ですわ。私達はセオ様の指示通り、酒場に到着したのですが…」

 「客の男達が私達を見るなり絡んできてね、クリスが触ろうとしてきた男の手を叩いたのよ」

 「で、叩かれた事に逆上した男達が怒り出して、一斉に襲いかかってきたもんだから…」

 「クリスティン様が風魔術で酒場ごと吹き飛ばした、という次第です」

 

 四人は代わる代わるに説明する。その表情から察するに俺が言わんとしている事は分かっているようだ。


 「…なるほど。…事情はわかるけど、な?」


 俺が五人に対してそう言うと五人共に返す言葉もなさそうに少し俯いていた。


 「うーん…やってしまったものはしょうがないとして、どうやってブルダーの村を目指すか…」

 『うん? 今、ブルダーって言ったのか?』


 ブルダーを目指す為の算段について思案していると、その時に呟いた声がタップに聴こえていたらしい。そしてクリスもタップ


 「兄様、この子は?」

 「ああ、このプラットンの下町に住む鼠人種のタップだ。スリの犯人だけど捕まえたついでに案内を頼んだんだ」

 「なるほど」

 『タップ、妹のクリスだ。クリスも獣人語が話せる』

 『おう、オイラはタップ!よろしくな、白金髪の姉ちゃん!」

 『はいタップさん、こちらこそよろしくお願いします』


 全員にタップを紹介し終えると、タップの方から話を戻された。


 『で、話が逸れちまったけど、ブルダーの村になんか用でもあんのか?』

 『 ああ、知り合いがいて、ガルムス大陸に来たら頼れって言われてるんだけど、そこまでの道のりがわからないから案内できる人がいないか探そうとしてたんだ』


 タップにブルダーの村を目指す理由とそこに行く手がかりがない事を伝えると、彼は鼻の下から横に真っ直ぐ伸びた長い一本の髭を摩っていた。


 『うーん…まぁブルダーの村だったらオイラも案内できるけど…今の時期はオイラ自身に用でもない限り行きたくはないんだよなぁ…ん?』

 『おぉタップ!こんなトコにいたか。…なんだお前、人族に捕まっちまったのか…にしちゃ穏やかだな』

 

 タップが目を細めて渋っていると、彼と同じ鼠人種の男がやってくる。


 『違…くはないけど、どうしたんだい父ちゃん?』

 『いや、ラトランジェの婆さんがお前に用があんだと。捕まって詰められてるんじゃなきゃさっさと行きな、後からうるさいぞ』


 タップの父はそうとだけタップに話すと、すぐに走り出していた。その時に財布を投げながら走っていたが恐らく彼もスリで生計を立てているのだろうか。


 『行っちまった…仕方ねえ、婆さんトコ行ってくるか…。まぁとりあえずはそう言うこったから案内は他を当たってくれよ、じゃあな!』


 タップはそう言って案内するのを断るとスラム街へと向かって走って行った。

 そして、彼の背中を目で追った後、全員顔を向け合って全員で頷く。


 「尾行てみるか」

 「そうね、せっかく道案内できるって言うんだし簡単に手放すのも、ね」


 ーーー


 タップにバレない様、俺達は再び飛翔で上空から彼を尾行ていた。

 スラム街に彼が入り、先程彼を発見した穴とは別の異なる洞穴に入ったのを見届けて静かに着地する。

 洞穴の入り口で聞き耳を立てていると、中からラトランジェと呼ばれていた人物と思しき声とタップの話し声が聞こえて来ていた。


 『…で、なんだいオイラに用って』

 『全く、その辺ほっつき歩いていると思ったら港まで行ってたって言うじゃないか、こっちは老い先短いんだから早く来とくれよ、ったく…』


 タップはラトランジェに小言をぶつけられていた。成る程、彼の父の言っていた事も頷ける。

 タップはくどくどと続けられるラトランジェの小言に苛立ったのか、彼女の言葉を遮った。


 『…これだから最近の若いのは…』

 『婆ちゃん、小言言うために呼んだんならオイラ帰るからな?』

 『お待ち!…ったく最近の若いのは気が短いね。ええと、用件だけど…』


 タップは長々と続く説教を遮ると、そう言って踵を返す。ラトランジェは彼を引き留め、漸く用件を話し始める。


 『ブルダーの村のチーズを手に入れて来て欲しいんだよ。タップも好きだろう?』

 『そりゃあ確かに鼠人種ならみんなあのチーズは大好物だけど…、今の時期に行かせるんだったらタダで行くのは嫌だぞ?』

 『わかってるよ、アタシも頼まれてね、ついでだからアタシのも買ってきとくれよ。タップのところの分も買ってきていいし、お駄賃も弾むから行ってきてくれないかい?』

 『…うーん、気は乗らねーけど…わかったよ』

 『そうそう、若いのは素直が一番だよ、じゃあ宜しく頼むよ』


 タップはラトランジェから用件を聞き出すと、嫌そうな顔で洞穴から出てくる。洞穴から出てきて少し離れた場所で俺達は再びタップの前に姿を現した。


 『げっ、…もしかしてアンタらまた空から付いてきてたんじゃねーだろーな?』


 俺達の姿を認めたタップは顔を痙攣らせ、明らかに嫌そうな顔をしていた。間違いなく俺に捕まった時の状況が脳裏をよぎったのだろう。


 『悪いけど全部聞いてた、ブルダーの村に行くんだろ?』

 『よかったら私達も付いて行かせては貰えませんか?』


 獣人語を扱える俺とクリスはタップにブルダーへの同行を申し出るがタップは首を横に振った。


 『ダメだダメだ!オイラ達が通る秘密の道はあるけどアンタらが付いてきたら目立ってオイラまで見つかっちまう!アイツら賢いからオイラを見つけたらアンタらを無視してオイラが狙われちまう!…ん、待てよ? セオドア、アンタら全員S級以上の冒険者って言ってたよな?』

 『ああ、こっちのクローディアとアリーシャだけS級、他はみんなS+級だ』

 『護衛なら任せてください』


 首を横に振っていたタップは俺達の冒険者のランクを聞くと考え始め、何かを閃いた様で手を叩く。


 『よし、じゃあ案内してやるよ。ただし二つだけ条件、というか要求させてもらうけどな!』


 タップはそう言いながら二本の指を立てて俺達に突きつける。


 『ああ、聞かせてくれ』

 『まず一つ、ブルダーの村への途中、絶対に魔物に襲われる事になるから何においてもまずオイラを最優先で守ること。ただしオイラがケガしたり、アンタらの誰か一人でも大ケガしようもんならオイラはアンタらを置いてすぐに逃げるからな?』

 

 タップはそう言いながら二本の立てた指の一本を折って更に二つ目の条件を告げ始める。


 『二つ目、正直アンタらを連れて行くのはオイラに取っちゃリスクでしかない。案内して欲しけりゃ…そうだな、あんだけ持ってるんだ、白金貨の二枚や三枚ぐらい払えるだろ? まぁつまり案内料で白金貨三枚くれって事だ』


 タップの言う二つ目の要求を聞く限り、余程俺達に着いて来て欲しくない様だ。

 普通ならば道案内など、金貨一〜二枚、遠方までの案内でも金貨五枚程度でしかないが、タップは完全に足元を見た上で相場の数倍の額を吹っかけてきていた。


 「…兄様、流石に高過ぎではありませんか?」

 「あんな騒ぎを起こしといてこの街に長居なんてできないだろ。俺達に獣人族はいないしあの人集りだ、間違い無く顔を見られてる』

 「…っ」


 クリスはタップの吹っかけに不満を漏らすが、クリスは騒ぎを起こした張本人である為、その事を口にすると不満を漏らす口を噤んでしまう。他の四人も同様に痛い所を突かれた様に顔を顰めていた。


 『わかった、それで構わないから頼む』

 『マジかよ!? あ、だったら前金だ!オイラは容赦なく逃げるからな!逃げても文句言うんじゃないぞ?』

 『ああ、わかった。これでいいか?』

 『即金即決かよ!…わかった、わかったよ!案内すりゃいいんだろ!しっかり守れよこんちくしょう!』


 タップは俺が躊躇いなく難条件と大金の支払いを決定した事に半ばヤケクソ気味だ。しかし俺達も騒ぎを起こした手前、この街で悠長に案内人を探していても面倒に巻き込まれるのが目に見えている。

 それに俺達はドルマニアン諸島で稼いだ金で未だに充分な貯金を残していた為、白金貨数枚程度ならば別に痛む事もない。

 聖銀貨まで要求されなかったのは恐らくタップの金銭感覚が俺達よりずっと低いからだろう。寧ろ、この状況ならば白金貨数枚で済むなら安いと俺は踏んでいた。


 かくして、俺達のガルムス大陸での旅は、騒がしい鼠人種の少年タップの案内の下、やや慌ただしく幕を開けた。

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