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-転生奇譚- リンカネーションストーリー  作者: 彼岸花
第七章:灼熱の火山、業火の赤龍
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第七章断章B:ここから、自分達の足で

 アリーシャは死神蛇(デスコブラ)の毒の治療を終え、一旦セオドア達の許へ合流していたが、毒の影響からか、今の自分が万全ではないと感じていた。そこで彼女は自らセオドアに相談した結果、シェリーが半ば強制的にミハイルとソフィーを預けたバリオンとサントスと行動を共にする事となった。


 ーーー


 「…で、またワイらのとこにってことかいな…」


 バリオンとサントスの二人は元々ペアで行動していたのだが、赤龍の一件のどさくさにシェリーにミハイルとソフィーの二人を任されて以降は、二人が面倒を見ながら四人で行動をとっている。そしてそれも終わらぬ内に新たに追加で一人を任される事になった為、サントスは眉間に皺を寄せて頭を抱えていた。


 「はい、セオドア様とクリスティン様に仕えております、アリーシャと申します。死神蛇の毒を受けていた為、赤龍討伐には参加出来ず、暫く戦闘から離れていましたのでご迷惑をおかけするかもしれませんが、可能な限りお二人のお手伝いをする様に託けられておりますので、よしなにお願い致します」


 アリーシャもセオドアからシェリーを介して二人の許に託される事となり、自らのリハビリを兼ねて、元々預けられている二人の教育を行う様にセオドアから託かっていた。


 「初めてセオ坊会うた時に一緒におった別嬪さんかいな」

 「はい、バリオン様にサントス様、暫くの間お世話になります」

 「そういう事なら安心やな!また新米預けられるんか思うてたけどS級冒険者やったらワシらもそないに心配する必要もないな!」


 バリオンとサントスはアリーシャの事を漸く思い出し、安堵する。

 彼等に預けられたとはいえ、アリーシャはミハイルやソフィーとは違ってベテランの冒険者だ。故に行動を共にするとは言え、常に気を配り続ける必要も無く、寧ろ手伝って貰える事も期待できる。


 「バリオンさん、サントスさん、買い出し終わりました…。あれ、アリーシャさん?」

 「どうしたんですか?」


 バリオンとサントスがアリーシャが合流する事に安堵していると、二人に買い出しを頼まれていたミハイルとソフィーが帰ってくる。


 「私も今日から暫くこちらでお世話になります。お二人も宜しくお願いしますね」

 「えっ、ああ、はい、宜しくお願いします」

 「嘘…でしょ…」

 「ああっ、ソフィー、葡萄酒の瓶が!」


 アリーシャは戻ってきた二人にも挨拶をするが、ミハイルは突然の事にただただ呆気に取られ、ソフィーはと言うと、この世の終わりでも迎えたかの様な顔になり、買い出しの荷物の葡萄酒の瓶を落として割ってしまっていた。

 ソフィーはドルマニアン諸島への船上でアリーシャに稽古を付けてもらっていたが、今まではせいぜい逃げてきた実家の教育で齧った程度の剣の稽古から突然実戦的な剣技の稽古となった。セオドアは幾分手心を加えた指導だったが、アリーシャがつけた稽古はスパルタそのものであり、彼女にとって軽くトラウマを植え付けられるレベルだったのだ。


 ーーー


 アリーシャはバリオンとサントスと共に戦闘の指導に加わり、二人を相手取って稽古をつけていた。


 「ハァ…ハァ…これがS級冒険者…全く魔術が当たる気がしない…」

 「ゼェ…ゼェ…もうやだ…アトラシア帰りたい…でも実家には帰りたくない…ケホッ…」

 「どうしました、それで終わりですか? それでは肩慣らしにもなりませんよ!」


 ミハイルもソフィーもアリーシャに対して全く手も足も出ず、二人は地面に転がったまま息を切らしていた。対するアリーシャはと言うと、汗一つ流す事はなく、涼しい顔だ。


 「うわぁー…えげつな、ほんまスパルタやな…」

 「病み上がりであれか…ご愁傷さんやな…」


 アリーシャの容赦の無い訓練内容を離れて見ていたバリオンとサントスにはアリーシャが駆け出し二人を蹂躙している様にしか見えず、打ち据えられた二人に対して最早憐れみの感情すら湧いていた。


 それから暫くはミハイルとソフィーの戦闘訓練とギルドの任務を繰り返す事になる。

 ミハイルとソフィーは毎日アリーシャを相手とした過酷な戦闘訓練を課され、生傷が絶える事は無かった。


 ーーー


 アリーシャが合流して半年、遂にミハイルとソフィーに成長の兆しが見られる。


 「やあっ!」

 「遅いっ!」


 いつもの様にソフィーの剣はアリーシャの剣に簡単に受け流される。一ヶ月経った今、最早見慣れた光景だ。


 「ふぁ…いつも通りやな。少しはマシゆうてもまぁS級冒険者相手じゃまだなんもさせて貰えんわな」

 「いや、そうでもなさそうや」


 バリオンはいつもと同じ様に見える展開にあくび混じりに目を細めているが、サントスはいつもとは違う二人の様子に気付く。


 いつもの流れでいけばこのままソフィーが蹴り飛ばされて、直後にミハイルも押し倒されて終了と言う流れだが、今回はそうはならなかった。


 「そうはさせない!水柱(スプラッシュピラー)!」


 アリーシャはソフィーに蹴りを入れようと体勢を変えていたが、ミハイルの水属性の魔術が発動するのを見逃してはおらず、地面の亀裂が見えた瞬間に蹴りの体勢から戻り、後ろに飛び退いた。


 アリーシャとソフィーの間に水柱が立ち、一瞬だけお互いの状態を見失い、アリーシャは特に構えを取らず、水柱から離れた位置で二人の出方を伺っていた。

 水柱が止まろうとする瞬間に、ソフィーが弱まった水柱を突き抜けてアリーシャ目掛けて突っ込む。そして、その後ろではミハイルが炎の魔術を放つ構えを見せていた。


 「二連爆炎デュアルエクスプロード!」


 ミハイルが魔術を放つと、アリーシャのやや後方で二つの爆発が発生する。アリーシャは動かず、その場で剣を構えたまま、突進するソフィーを迎え討つ形となった。


 「…なるほど」


 退路を断たれたアリーシャはソフィーの剣を真正面から受け止め、声を漏らしながらほんの少しだけ口元を緩ませていた。


 「なんやもったいない!ミハイルの奴、せっかくのチャンスやったのに肝心なトコで外しよってからに…」

 「アホ、外したんちゃう。わざと逸らしたんや。直接狙ってもアリーシャはんの足なら逃げられてまうからな」


 バリオンはミハイルが二連爆炎を直接狙わなかった事に憤慨するが、サントスはバリオンの頭に手刀を食らわせてバリオンに説明する。

 彼の言う様にミハイルは敢えてアリーシャの後方を狙って二連爆炎を発動させていた。アリーシャの方は二人の出方を伺いながら、回避して仕切り直しを図るつもりだったが、一瞬だけ見たミハイルの目が彼女から回避と言う選択肢を奪い取っていた。


 「もしかしたらあんなら、アリーシャはんから一本取るかもしれんで…」


 ソフィーの剣技はまだまだ未熟だが一ヶ月の合間に大きく成長した。当然アリーシャには及ばないが、それはあくまで一対一、なおかつ優劣のつかない状況からの話だ。


 「やぁっ!たぁっ!せいっ!」

 「火矢(ファイアボルト)水弾(ウォーターショット)!」

 「くっ…!」


 ソフィーが連続攻撃で攻め立て、その隙を埋める様にミハイルが魔術での攻撃を仕掛ける事でアリーシャは防戦一方となっていた。


 「せいやぁっ!」


 ソフィーの掛け声と共に放った斬り上げがアリーシャの左手に持つ木剣を上空へと弾き飛ばす。


 「おお、やるやん!」

 「さぁここが攻め時やな」


 「チャンスッ!たあぁっ!」

 「今だっ!魔力誘導弾(エーテルミサイル)!」


 一刀となってしまったアリーシャに好機と見た二人は同時に攻撃を仕掛け、正面からはソフィーの振り下ろしが、左右と上からはミハイルの両手から放たれた魔力誘導弾がアリーシャを襲う。


 「好機…ですか」


 アリーシャは微かに呟くとソフィーの剣を右手に持つ剣で滑らせて往なすと、体勢を変えながら地面の石ころを左手で弾き飛ばす。


 「あうっ!?」


 弾き飛ばした石飛礫がミハイルの顎に当たり、彼が怯むと、それまで真っ直ぐにアリーシャ目掛けて飛んでいた魔力誘導弾の軌道が僅かに振れる。そしてアリーシャは飛び上がり、錐揉みに回転しながら次々に飛んでくる魔力誘導弾の回避を試みる。

 一瞬だけミハイルの制御を離れた魔力誘導弾はアリーシャを掠めながらも、直撃した様子もなく通り過ぎて行くが、再びアリーシャを目掛けて軌道を修正していた。


 「まだまだっ!」


 アリーシャの着地に合わせてソフィーが仕掛けるが、大振りでは当たらないと判断したのか、今度は的確かつ、細かい連続攻撃に切り替えていた。

 アリーシャがソフィーの連続攻撃を受けていると先程弾き飛ばされた木剣が落ちてきていた。

 一気呵成に攻め立てるソフィーの攻撃を往なしながら、アリーシャは身を屈め、ソフィーに体をかます。


 「ううっ…!」


 ソフィーの体勢を崩すが、アリーシャの背後からは軌道を修正して戻ってきた魔力誘導弾が迫ってきている。


 「…ここ!」


 アリーシャは飛び上がり落ちてきた木剣を掴むと同時に身を翻し、ミハイル目掛けて投げつける。


 「うわああぁっ!」


 魔力誘導弾の制御に集中していたミハイルは回避が間に合わず、投げつけられた木剣を眉間に受け、そのまま気絶してしまった。そしてアリーシャは体当たりで体勢を崩し、立ち直ったばかりのソフィーの目前に着地する。だが当然ながら制御を失ったとは言え、軌道を修正した魔力誘導弾はアリーシャを既に捉えようとしていた。


 「えっ…!?」


 立ち直ったソフィーは当然引っ張られる。すると眼前には無数の魔力誘導弾が迫ってきていた。


 「ウソウソッ!? いやあああっ!!」


 アリーシャはソフィーを盾にしてミハイルの魔力誘導弾をやり過ごす。

 突然引っ張られ、魔力誘導弾を避ける為の盾にされたソフィーはただ動揺しながら叫ぶ事しか出来ず、結局どうする事も出来ずに魔力誘導弾の餌食となり、気絶していた。


 「まだまだ。…ですが、漸く連携が様になってきましたね。私も流石に少しヒヤリとしましたよ」


 気絶している二人を背にアリーシャはそう言いながらバリオンとサントスの座っている岩に腰掛けると、大きく息を吐く。


 「お疲れさんです。なんぼ手加減しとるゆうても、そろそろ余裕なくなってきとるみたいですなあ」

 「アリーシャはんに鍛えられて半年、あんだけボロクソにやられて逃げ出すどころか食らいついてきよるからな、あれで弱いまんまやったらウソやでホンマ」

 「ふふ、そうですね。かつてのセオドア様とクリスティン様の鍛錬をお手伝いをしている時を思い出す様です。もうあの二人は私の教えも必要ない程に強くなってしまいましたが」


 アリーシャは快晴の空を見上げながら手拭いで顔の汗を拭うと、ある事に気付く。

 汗を拭いた手拭いを見ると、そこには赤い一筋の線が出来ており、それに気付くと同時に肩に痛みが走る。


 「一発だけ当たっていましたか…もう半年もしない内に本気でやらなければならなくなりそうですね」


 アリーシャはそう言って肩を回すと、傷薬を取り出して頰にできた細い傷に這わせる。

 傷が隠れ、血が流れていないのを確かめると彼女は二振りの木剣を担いで二人を起こす。


 「うーん…痛たた…もう少しだと思うんだけど…」

 「頭が…。まだ敵いませんか…今回はいけると思ったんですけど…」


 二人は痛む場所を摩りながら体を起こし、今回の結果を振り返る。本人達はどうやらまたいつも通りアリーシャに手が届く事なく倒されたと思っている様だ。


 「二人共、連携はかなり取れる様になりましたがまだまだです。さ、日も落ち始めてますし、反省は帰りながらにしましょう」

 

 アリーシャは彼らの戦い方が自分に手が届き始めている事は告げず、肩に受けた痛みも決して表には出さなかった。

 二人は帰る準備を済ませると連携の相談をしているのか、真剣な表情で話し込んでおり、アリーシャとバリオン、サントスは二人の後ろからその姿を遠目に見ていた。


 「そういやセオ坊は半年程あちこち回っとるみたいですけど、どうしとるんです?」

 「今は迷宮を攻略して回っているみたいですね。もう半年もしない内にこの島を離れる予定だそうです」

 

 セオドア達は現在ドルマニアン諸島を歩き回っており、最近は迷宮の攻略に執心との事で、彼女も彼らが帰還する度にお互いの状況を確認しているらしい。


 「そうなると…アリーシャはんはセオ坊の所に戻るとして、あんならはどうするんです?」

 「そこは彼ら次第でしょう。我々について来てはいますがパーティーとしては別ですし、我々が口を出す事ではないかと。私も彼らを鍛えてはいますが、あくまで彼らがそう希望し続けているからであって、パーティーに迎える為ではありませんから」


 アリーシャはきっぱりとそう答え、燦然と輝く夕陽で照らされた街道を歩く足を早める。

 取り残される様な形となった二人はアリーシャの背中を見ながら考え込んでいた。


 「あんならもセオ坊も、若い連中はもの凄い速さで成長しよる。セオ坊は兎も角として、ワシらもうかうかしとるとあんならに追いつかれてまうなぁ」

 「せやな…せやけど、ワイらはワイらや。流石に今更若い連中みたいに無茶はできひん。けど若い連中の道標ぐらいにはなれると思うとる」


 バリオンは立ち止まり、夕陽に照らされ橙に輝くドルマニア山を見つめながら尻尾を振る。


 「のう、サントス」

 「なんやバリオン」

 「セオ坊とクリス嬢ちゃんの事やけど、あの二人、特にセオ坊やけど普通の人間とちゃう気がするんや」

 「まぁあの火山を雪山に変えるくらいやしな、そら才能の…」

 「ちゃう、それはそうやけど別の話や」


 バリオンは鼻息を荒げてサントスの答えを遮る。


 「確かにあんな子供が赤龍を仕留めよったり、火山を雪山に変えたり、普通やあらへんのは間違いない。せやけど、あの二人はそれ以上になんかこう…どう言ったらええかわからんけども、得体の知れん何かとんでもないもんを感じるんや」


 恐れすら感じているかの様なバリオンの言葉にサントスは深いため息を吐く。そしてゆっくりと口を開いた。


 「関係あらへんよ。あいつらはあいつらや、セオ坊もクリス嬢ちゃんも少しませとるだけの子供や。お前の言うように確かに少し、いや、かなり変わっとるかも知れんけども、まーだ十三、十四くらいの子供や、間違ったらワイらが教えてやればええ。もっとも、二人とも大人も敵わんほど賢いからな、心配あらへんよ」


 サントスはそう言ってバリオンを置いてさっさと街道を歩き始める。


 「せやろか…。まぁせやったらええけども…ってもうおらんのかーい!…杞憂で済むんならええけどな」


 バリオンは胸にしこりを残しながら自分を置いていったサントスを追いかける。

 バリオンの抱いた違和感はサントスも同様に感じていたが、サントスは詮無き事と、半ば投げやりに楽観視していた。


 「明日は明日の風が吹く、なんてな」


 サントスは頭の後ろで両手を組み、そんな事を言いながら走って追いかけてくるバリオンに笑っていた。


 ーーー


 更に約半年が過ぎる間にミハイルとソフィーはB級の冒険者となり、既に一端の冒険者となっていた。

 結局、半年の内にアリーシャから一本を奪うことはできなかったが去り際のアリーシャにもう十分二人でやっていけるだろう、と認めて貰っていた。

 セオドア達がドルマニアン諸島を離れる日、他の人々と共に二人もやってきていた。

 人々はミハイル達もこのままセオドア達について島を離れるものと思っていたが、ミハイルは力不足を理由に自分達はこの島に残ると告げた為、ソフィーは大騒ぎしていた。


 「何で!? 今日で師匠達この島を離れちゃうのよ!? この島に残るよりも師匠達について行った方が私達の為になる筈よ!? 」

 「ああ、確かにその為にこうやって今日まで頑張ってたつもりだし、ついこの間までは僕もそう考えてた。でも僕達はまだまだセオドア君達には遠く及ばない。僕達にとってはいいかも知れないけど彼らにとっては僕達は足手まといになる。彼らの旅の邪魔になるわけにはいかない」

 「じゃあ私はミハイルを置いてでもっ!…っ!」


 ソフィーが食い下がろうとした瞬間、ミハイルはソフィーの頰を叩く。


 「僕らに僕らの旅があるように、彼らにも彼らの旅がある。それを邪魔しちゃいけない。何も考えずに彼らについていくのは簡単だ。一年前にアンリエッタさんに聞かれただろう、『何の為にセオドア君が稽古をつけたのか、何の為にアリーシャさんとの模擬戦を見せたのか、もう一度考えろ』ってさ。僕の中ではもう答えは出てる、ソフィー、君もその筈だ。違うかい?」

 「…それは、そう、だけど…」

 「だったら僕達は残って自分達で力をつけて行こう。ね、ソフィー?」


 ミハイルは諭すようにソフィーに言い聞かせるとセオドア達の方に向き直る。


 「そう言う事だから、僕達はここに残る事にするよ」

 「いいんですか? 俺達は付いてきても構いませんけど…」

 「いや、それじゃあ僕達の為にも君達の為にもならない。今まで僕達は二人で何でも決めていた様に思ってたけどそうじゃ無かった。実はただお互いに依存していただけ、ソフィーは僕に考える事を、僕はソフィーに決定する事を委ねてた。自分達で考え、行動する。他人がどうだとか、そうじゃなくて自分達は自分達、人に流されて動くのではそれは真に僕達の旅とは言えない。二人で考えて、二人で決めて、そして二人で力を合わせていかなきゃこの先もきっと僕達は今のまま、誰かに流されて生きていく事になると思う。セオドア君達との出会いは僕達にとってはきっかけで、ここから先は自分達の足で進んでいくべきなんだと思うんだ。…アンリエッタさん、これが僕達の答えです」


 ミハイルはセオドア達の旅に同行する事を断ると、アンリエッタに目線を向け、あの時の質問の答えを告げる。


 「ふふ、どうやらもう心配は無用みたいですわね。…今生の別れでもありませんから、きっとまたどこかで会える事でしょう。アリーシャさんも貴方方の成長は目覚ましいと話されていましたし、その時はきっと肩を並べられる程に成長されていると期待していますわ」


 自らの道を歩む事を決めたミハイル達にアンリエッタはそっと微笑みかける。その微笑みは自分なりの答えを見出し、決断したミハイル達を一人の冒険者だと認めた事を示しているのだろう。


 「ええ、必ず。セオドア君、僕達は僕達でもう少し力をつけて、きっと君達を追いかける。僕達の行く先で追いついてくるのを待っていて欲しい」

 「絶対に…絶対に追いついてみせます!だから師匠、待っていてくださいっ!」


 ミハイル達はセオドア達に追いついてみせると言い切ると右手を差し出す。

 セオドアも彼らの決意に応える意思を示す様に差し出された右手を握り返した。


 「わかりました。僕達もきっとミハイルさんとソフィーが追いついてくる事を信じて次の旅に向かいます。ミハイルさん、ソフィー、またどこかで!」


 セオドア達と固い握手を交わし、セオドア達が船に乗り込むのを見届けたソフィーはミハイルの手を引き、踵を返して足早に港を去る。


 「そ、そんなに急いでどうしたんだいソフィー?」

 「やるからには一日でも早く師匠達に追いついてみせないと!さ、ギルドに急ぐわよ!」


 ソフィーが意気込む時は決まって空回りに終わる事はミハイルはよくわかっている。普段なら少し待つように進言するミハイルも、この時ばかりは走り出したソフィーを追って自らも地面を蹴っていた。


 「ソフィー!ここからだ!ここから僕達の旅を始めよう!」

 「ええ!今度師匠達と会った時に絶対に驚かせてみせるわよ!」


 潮騒と雑踏が響く街の中を二つの風が通り抜ける。

 王都ヒルデガルダを飛び出した二人には特に宛ても無く、ただヴィリディアリーフ家とパーブルストーン家からの追及から逃れたい一心でアトラシア大陸からドルマニアン諸島へと渡ってきた。

 力も持たず、流浪の旅を続けていた彼らもセオドア達と出会いを経た事でそれなりの経験と力を得る事が出来た。

 今では新米ではなく、一端の冒険者として名乗りを上げた彼らはセオドア達と別れ、新たに自らの道を歩みだす。

 いつの日か、セオドア達と肩を並べ、共に歩む日を信じて。

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