第七章断章A:背を見せる二人と背を見る二人
「全く、シェリーにはしてやられたわ、なんでワシらがこんならの面倒見なあかんのじゃ…」
「まぁそう言いなやバリオン、駆け出しの冒険者の育成もワイらの仕事や。面倒思うのは分からんでもないけども、シェリーの言うんも間違っとらんし、第一、こんならを赤龍のところまで連れて行った所で犬死にさせるだけや」
バリオンが愚痴をこぼし、サントスはそれを諭す様に話している。
この馬面の魔族の二人は元々、赤龍の襲来によって鉱山に棲息する魔物が凶暴化したことで逃げ遅れた坑夫達を救出するという任に就いていたが、その途中で旧知の仲である獣人族の冒険者シェリーを連れたセオドア達と遭遇し、シェリーに半ば脅される形で彼らが連れていた駆け出しの冒険者であるミハイルとソフィーの二人を押し付けられていた。そして四人は任務を遂行する為、鉱山の奥を目指して薄暗い坑道の中を小さな松明を頼りに進んでいる所だ。
「まぁなあ…」
バリオンは気怠げにシェリーに無理矢理預けられた二人を一瞥する。そして深く大きな溜息をついた後、腰に手を当てて二人に振り返る。
「頼まれた以上、ワシらにも面子っちゅうもんがある。二人ともまずワシらの言葉には必ず従ってもらうで。ええな?」
「は、はい!宜しくお願いします!」
ミハイルは素直に返事を返すが、ソフィーはと言うとシェリーの子分程度にしか二人を見ておらず、バリオンの言葉に目を細めて訝しみ、逆に質問を返す。
「仮に従わなかったら?」
「ぐっ…そんときゃワシゃ知らんっ!…?」
明らかに素直に従う素ぶりでないソフィーに対し、苛立ちを見せ、自らのスタンスを固持する旨を言い張るバリオンだが、ソフィーの耳元に気配を殺し、音も無く白い馬面が迫るのに気付いた。そしてその白い馬面はバリオンに指で「違う、そうじゃない」と示唆する。
「…そんときゃお前があんなら冒険者と同じ骸になるだけや…」
「…きゃあぁっ!?」
サントスはソフィーの耳元に可能な限りの低い声で、ゆっくりとそう呟くと、彼女は驚いて腰を抜かし、尻餅をついてしまった。
「ブルッヒッヒ!ま、そうなりたく無けりゃワイらに従えゆうことや。そうしとる内はワイらが守ったるから安心しとき、ええな?」
サントスは腰を抜かしたソフィーの側を軽い口調で笑いながらそう言って通り過ぎ、まだ立ち上がれないソフィーは言葉もなく口を開閉しながらその場で頷いていた。
暫く坑道を進み、四人は再び広い空間に出ると鬼蜘蛛達の群れが彷徨いているのに遭遇する。当然鬼蜘蛛達もこちらを目視しているが、襲いかかってくる気配は見せていない。
「ど、どうしましょう、引き返しますか?」
「そう思うとる内は心配せんでええ。とりあえず二人とも得物はしまっときや」
ミハイルは鬼蜘蛛達の面妖な姿に狼狽えるが、バリオンは手に持つ戦斧も構える事も無く、余裕の表情だ。
「ええか、アイツらは敵意に敏感でな、少しでもしばいたろとか思うて敵意を向けたら逆にやられる前にやったろ思うて襲いかかってくんねん」
「…わかったわ、つまり大人しくしてろってことね?」
「せや、あんなら一匹一匹だけならB級上位程度やけど群れで襲われたらA級冒険者も手ェ焼く程やからな。…ええか? 近くまで寄られても、『絶対に』手ェ出そう思いなや。わかったな?」
バリオンとサントスは二人に強く言い聞かせると、まずはバリオンが二人に鬼蜘蛛達の群れのやり過ごし方を見せる。
「よっしゃ、二人共、よう見とき。…すんまへん、すんまへんなぁ、ちょい通らせてもらいまっせ…とと、よっ…とぉ…」
バリオンは蠢く鬼蜘蛛の群れの中を無駄に低姿勢になりながら、可能な限り刺激しないようゆっくりと進む。その途中で鬼蜘蛛の肢体に触れる事もあったが鬼蜘蛛達は全く気にも留めず、むしろミハイルとソフィーには鬼蜘蛛達がバリオンの通る道を開けている様にも見えていた。
「…まぁあんなもんや。優しゅう通っとればあんな風に触っても怒りもせえへんし、道も開けてくれる。知ってれば特に怖い魔物でもないんや」
サントスはバリオンが鬼蜘蛛の群れの中を見届けると、腕を組みながら二人の方に向き直ってそう話す。
サントスの話を聞いたソフィーはどうやら腑に落ちない様子で、直ぐにサントスに質問を返した。
「じゃあ他の冒険者達はなんで刺激しちゃうんです? 知ってれば避けられるのなら無視してればいいのに…」
ソフィーが口に出した質問はまさに純粋な疑問だった。襲わなければ襲われない、それなのになぜ襲おうと思ってしまうのか、これまでに鬼蜘蛛によって負傷させられたり屍と成り果てた冒険者を見てきたソフィーには不可解でならなかった。
「ええ質問やな。ドルマニア山は普段鉱山関係者しか入れんっちゅうのは聞いとるやろ?」
「そうですね、確かギルドでそんな話を聞きました」
「そう、そこが一番の問題なんや。鬼蜘蛛はこの山を寝ぐらにしとるんやけど、たまに狩りの為に外に出ることがあんねん。そん時は大抵一匹で出てきよる。やから殆どの冒険者は鬼蜘蛛の群れっちゅうのを見た事がないんや」
サントスがそこまで話すとミハイルはふと閃く。
「あぁ、成る程、つまり単独の鬼蜘蛛のつもりでつい倒そうとしてしまうわけですね」
「せや、外に出とる鬼蜘蛛は狩りに出とる。。やから少しばかり攻撃的になっとるからそれなりに実力のある冒険者なら直ぐに倒してまうし、新米はあんならとの戦いは避けるもんや。せやから半端モンの冒険者共はその生態を知らんのや。勿論ワイらの知っとる冒険者にはしっかり教えこんどるし、ドルムのベテラン冒険者連中は知っとるから基本的には自分から仕掛けたりはせんやろうけども、…まぁ新米はその半端モン共に巻き込まれたり、その新米共を助けに行こう思うてやられたベテラン連中もそれなりにおろうな…」
「おーい、何を話し込んどんねん!はよ来んかーい!」
二人がサントスの説明を聞いていると鬼蜘蛛の群れの先で待っているバリオンが痺れを切らして大声で三人に早く来るように呼びかける。
一瞬だけ鬼蜘蛛達はバリオンの声に反応して動きを止めるが、敵意を感じた訳では無い為、再び一塊になって蠢き始める。
「ほんならそろそろ行こか。バリオンのアホも待ちきれんみたいやし、最後はワイが行くさかい、二人共先に行きや」
「は、はい。じゃあ僕が先に行くからソフィーもすぐ後ろをついてきて」
「ええ…」
ミハイルはソフィーの手を取り、鬼蜘蛛の群れの中へと足を踏み入れる。ソフィーもミハイルに手を引かれてすぐ後ろをついていき、サントスも二人のカバーができるようにぴったりと後ろを追って行く。
「慎重に…慎重に…」
ミハイルはゆっくりと鬼蜘蛛の脚を踏まないよう慎重に歩を進めている。その時、ミハイルの後ろをついて行くソフィーの目前に鬼蜘蛛の頭が迫り、彼女の顔を七つの複眼でじっと見つめ始めた。
「ヒッ…」
鬼の様な風貌の鬼蜘蛛の顔が迫り、ソフィーは思わず声をあげそうになるが、寸でのところで自ら口を押さえて悲鳴を押し殺した。
その際にミハイルと手を離してしまうが、一度足を止めて気持ちを落ち着かせた後、再び群れの外へと歩き出す。
ソフィーは鬼蜘蛛の群れから抜けるとすぐに壁を背中にして寄りかかり、大きく深呼吸をして鬼蜘蛛の群れの方へゆっくりと視線を向ける。
「さすがにあそこまで寄られると怖いわね…ふぅー…」
「偉いで、よう叫ぶの我慢したな」
ソフィーが安堵している後ろからサントスが頭を鷲掴みにぐしゃぐしゃと撫でる。彼女は一瞬子供扱いをするなと口に出そうとするが、まだ成人したばかりであり、まだまだ冒険者としても駆け出しである事を考えるとバリオンとサントスは自身から見れば大先輩にあたり、彼らからすればまだまだ子供の様なものである。流石にソフィーもその事を弁えたのか、少し膨れ、軽く地団駄を踏む程度に留まり、喚き散らすのは我慢したようだ。
地団駄を踏んでいたソフィーは足元に落ちている何かを踏んだ事に気付く。
靴底についた何かを指で摘み上げてみると若干の重みを感じ、色も黒ずんだ金属のように光沢を放っている。
「砕けた鉄のかけら…? 冒険者の装備の破片かしら…」
「ちゃうな」
摘み上げた金属片の様なかけらを見ながらソフィーが呟くと、バリオンがソフィーの呟きを否定する。
「よう足元を見てみぃ」
サントスが壁にかけてある松明に火をつけると地面が照らされ、先程ソフィーが拾い上げた金属片と同じ様なものが砕ける前の完全な形で残っており、辺りにいくつか散らばっているのがわかる。
「これは…鱗?」
「その通りや」
地面に落ちている金属片が松明に照らされて橙色の光を反射させている。それを見たミハイルは何者かの鱗だと判断すると、バリオンがそれを肯定しながら地面に落ちている金属片の様な鱗を拾い上げる。
「これは火炎蜥蜴の鱗やな。こんだけ落ちとるゆうことは逃げて回っとんのか、あるいは…」
「誰かが追い回されている?」
「せや、鱗はこの先に続いとる、急ぐで!」
「は、はいっ!」
火炎蜥蜴の痕跡を辿り、四人は戦闘態勢を取りながら坑道の奥へと走り出す。
暫くして再び別の広い空間に飛び出すと、通路が崩れ、人がやっと一人通れるような狭い岩の隙間の周囲に三匹の火炎蜥蜴がたむろしているのがわかる。
「なんや、穴…?」
「あんならは何しとんのやろ?」
それぞれ斧と槍を構えたバリオンとサントスは薄暗く小さな岩の隙間に群がり、時折その中に火炎蜥蜴が真っ赤な火炎の吐息を吹き込むのを見つける。それとほぼ同時に生存者達の声が聴こえてくる。
「あちちっ、誰かっ、助けてくれー!」
「いかん!服に火が!熱つつつつ!」
岩の隙間の奥から聞こえてくる助けを呼ぶ声を聞いた馬面の二人は顔を見合わせ頷くと、火炎蜥蜴の背後へと走り出す。
「サントス、ワシが仕留める。任せたで」
「おうバリオン、任しとき」
サントスがやや先行し、両手に持つ槍の穂先を地面に滑らせながら火炎蜥蜴の腹下に突き入れ、巧みに槍を捌いて火炎蜥蜴の脚を払う。
サントスの槍による足払いは火炎蜥蜴の不意を突いた形で決まり、火炎蜥蜴を横倒しにするどころか完全に仰向けにひっくり返してしまっていた。
「しっかり仕留めや!」
「ほい来た、きっちり決めるで!」
声を掛け合いながら足払いを決めたサントスと入れ替わり、今度はバリオンが両手に持った戦斧を鳥居に構えて踏み込むと、バリオンは正中から右手を軸にして遠心力を活かした渾身の一振りを火炎蜥蜴の剥き出しの腹に見舞う。
バリオンの戦斧は火炎蜥蜴の腹を鱗ごと叩き斬り、一撃で火炎蜥蜴を死に至らしめる。
不意を突かれあっという間に仲間を失った火炎蜥蜴は漸くバリオン達に気付き、二人に標的を定める。
「ちょっとソフィー!ダメだ!」
「やあああっ!」
先制攻撃を仕掛けたバリオン達に続き、ソフィーがミハイルの制止を振り切って残った火炎蜥蜴の内の一匹に躍り掛かる。
しかし、此方も同じく火炎蜥蜴の不意を突いたものの、結果は全く異なるものとなった。
ソフィーの直剣が火炎蜥蜴の胴体を斬りつけたものの、鈍い金属のぶつかる音が響くだけで火炎蜥蜴の幾重にも重なった分厚い金属質の鱗には浅い一筋の傷が刻まれるだけに留まった。
「うっそ!? 硬すぎ…わわっ!?」
ソフィーの攻撃を強固な鱗で受け止めた火炎蜥蜴は鋭い爪を伸ばしてソフィーに反撃を仕掛ける。
「回避を…えっ!?」
火炎蜥蜴の攻撃を回避しようと地面を蹴ったソフィーの足が空を切る。それと同時に何かに身体が引っ張られ、身体が勝手に浮き上がり元のミハイルの側へと放り投げられた。
「アホンダラァッ!にわか仕込みの新米剣士が不意打ちで仕留められる相手ちゃうぞ、すっこんどれや!」
ソフィーが火炎蜥蜴に斬りつけた位置にはバリオンがおり、そこから彼はソフィーに対して怒声を張り上げる。彼は器用にも火炎蜥蜴が爪による攻撃を仕掛ける寸前、ソフィーを戦斧の柄にひっかけて後ろに投げ飛ばしていた。
「ソフィー、大丈夫かい? …悔しいけど、まだ今の僕達じゃ手に負えない魔物だ、せめてバリオンさんとサントスさんの邪魔にならないようにしてよう」
「う…うん…」
ミハイルはまだ未熟ながらも彼我の能力差を感じた様で、バリオンに投げ戻されたソフィーに対し、自分共々大人しくしている様に提案する。
対してソフィーの方もミハイルの提案を素直に受け止めていた。というのも、ミハイルは気付いてはいなかったがソフィーの身につけていた鉄の軽鎧、その肩口にはバリオンに投げられる寸前、僅かに火炎蜥蜴の爪が掠めており、その部分はくっきりと抉り取られていた。
幸い身体に届く前にバリオンに投げられた為に怪我を負うことは無かったが、彼に投げられていなければ今頃ソフィーの命は無かっただろう。
二匹の火炎蜥蜴と対峙するバリオンとサントスの二人は火炎蜥蜴を攻めあぐねていた。最初は火炎蜥蜴の不意を突けたが為に、弱点である腹を晒させた後の必殺の一撃で仕留めたものの、火炎蜥蜴が此方に注意を向けてからは簡単にはそうさせてはくれなかった。故に強固な金属質の鱗の装甲の前に有効な攻撃を与えられておらず、バリオンの強力な戦斧の一撃でさえも目立つ傷を与えただけに過ぎなかった。
「やっぱり一体ずつやないからあかんなぁ」
「せやな、そっちに仕掛けよ思うてもなかなかそうはさせてくれへんわ」
バリオンとサントスは先程の様な連携攻撃でどちらかを仕留めようと機会を伺っているが、そのタイミングを悉く潰されており、現状それぞれが一匹ずつを相手取らざるを得ない状態だった。
「なんとかせなあかんな…こんままいけばこっちがくたびれてまうわ」
「せやけどそのなんとかがならんから困っとんのやろ…。さぁて、どうしたもんか…」
サントスが相手をしている火炎蜥蜴が僅かに距離を取る。しかし、当然飛びかかって来られたり火炎を吐かれればバリオンの援護には行けない程度の距離は保たれており、サントスは釘付けにならざるを得ない状況に於かれている。
「どっちや…どっちで来る…?」
火炎蜥蜴は身を低く構えており、現時点では判別がつかない。そして、突然火炎蜥蜴は大きく息を吸い込んだ後、口を開ける。
「火炎か!避けんと…」
「爆炎!」
火炎蜥蜴が大口を開き、その中から炎が漏れ出すと同時に後ろから魔術の詠唱が耳に入る。すると、炎を吐き出そうとする火炎蜥蜴の口の中から爆発が発生し、驚いた火炎蜥蜴は大きく怯んでいた。
「…!? …今がチャンスや!」
突然の爆発で怯んだ火炎蜥蜴の隙をサントスは見逃さなかった。自身も予想外の爆発に面食らっていたが、彼もベテランの冒険者故、この絶好の機会を呆けて見逃す程間抜けでは無い。
バリオンが火炎蜥蜴の爪を戦斧で受け止めているその横からサントスが一気に間合いを詰め、がら空きの横腹を槍で穿つ。鱗の薄い火炎蜥蜴の横腹はあっさりと貫かれ、怯んだ火炎蜥蜴に大きな隙ができる。そしてその隙をバリオンも見逃さず、戦斧を振り回し、柄と刃による怒濤の連続攻撃で火炎蜥蜴を巻き上げ、最後に渾身の振り下ろしで地面に叩き落とす。
勢いよく地面に叩きつけられた火炎蜥蜴は反動で地面を跳ねると、今度はサントスが間合いを詰めていた。
「もろた!」
サントスの雷の如き鋭槍の閃きが火炎蜥蜴の心の臓を捉える。
串刺しとなった火炎蜥蜴は一瞬だけ手足をばたつかせるが、急所を穿たれた事で間も無く息を引き取った。
二対一となり均衡が崩れると、残る一体も二人の連続攻撃の前に為す術は無く、圧倒されたまま力尽き倒れていた。
「よっしゃ、どうにか片付いたわ。ミハイル、ようやってくれたな、助かったで」
「ったく、引っ込んどれゆうたのに…。まぁ、でもこっちも助けられたんは事実やな、…おおきに」
火炎蜥蜴がブレスを吐こうとした瞬間に爆炎の魔術で横槍を入れたのはミハイルだった。
彼の横槍をきっかけに各個撃破の機会が生まれ、四人は大した怪我を負うことも無く勝利を収めた。
サントスはミハイルの援護を素直に褒めていたが、バリオンはソフィーに怒鳴った手前、素直に褒める事はせず、少しばかりぼやきながらも感謝の意を示していた。
「おーい、火炎蜥蜴は片付いたさかい、出てきなはれやー」
サントスがミハイルとソフィーに火炎蜥蜴の剥ぎ取りの方法を教えている中、バリオンは火炎蜥蜴が取り囲んでいた岩の隙間に逃げ込んでいた生存者に声をかける。
「本当か!? わかった、今出る!」
岩の隙間から二人の坑夫が這い出してくる。二人とも全身が煤と砂埃に塗れており、着ている服も火炎蜥蜴の火のせいで所々が焼け焦げてボロボロになっていた。
そして瓦礫の隙間は二人が這い出してすぐに轟音と共に崩れ、埋まってしまった。
「いやー、間一髪ってトコだ。助かったぜ」
「アンタら、助けてくれてありがとよ。もう少しでステーキにされちまうトコだった」
二人は煤まみれの顔を拭いながら四人に感謝を述べる。バリオン以外の三人も火炎蜥蜴の素材の剥ぎ取りを終えて戻ってきていた。
「この崩れた坑道の先にゃ生存者はおるんか?」
「いや、俺たち二人だけだ。この先は行き止まりだし、崩れた先に誰かいたんなら叫び声くらいは聞こえた筈だ」
「よっしゃ、オッチャンら、歩けるな? ワシらもボチボチ引き返そか」
サントスが他の生存者がいないかを坑夫達に尋ねるが、彼等は自分達が最後だと告げる。バリオンはそれを聞くと全員に撤収する事を伝え、坑夫達の救出活動を打ち切る事を決定する。
帰りも薄暗い坑道と鬼蜘蛛の群れを抜け、途中で突然気温の下がった坑道内で寒さに震えながら鉱山の外へと彼等は出る。
救出した坑夫達を既に救出されていた坑夫達に任せ、四人はギルドからの撤退命令が下るまで待機する事にした。
「さて、ワシらの仕事はここまでやな。あとはセオ坊やシェリー達が上手くやってくれりゃええけども」
「せやな、もうぼちぼち他の冒険者達も帰ってきよる、あとは無事に戻ってくんのを祈って待つだけや。…さて、ミハイルにソフィー、自分ら、ワイらについて来てなんか学ぶことはあったか?」
バリオンとサントスは地面に腰掛けると二人に問いかける。
「はい。まず僕達自身、まだまだ力も知識も不足している事を痛感しました。でも自分で考えて、出来る範囲で動く、それも大事だと思います。」
「…あたしは連携の大切さ、です。個人の能力も大事ですけど仲間を頼る事も必要だって事がわかりました。ただ一点、何も出来なかった事、それが一番悔しいです」
二人の返答を聞いてバリオンとサントスはゆっくりと頷く。
「今はそれでええ、まだ駆け出しやから目一杯先輩を頼れ。とにかくまずは自分が生き延びる事を考えとき」
「精一杯生き延びて、力を付けた時、今度は自分らが後輩の冒険者にそうやって教え伝えていくんや。今も昔も、それだけは変わらんからな」
バリオンとサントスは二人にそう伝え、白煙が上がらなくなった火山をじっと睨んでいる。
時折、鳴き声や轟音が火山の方から聞こえてくるが、恐らく現在セオドア達と戦闘を繰り広げている赤龍のものだろう。
ミハイルとソフィーの二人も火山の方を見つめ、彼等の無事を祈り、手を握っていた。
断章回です。今回はドルマニア鉱山でセオドア達と別れて馬コンビについて行ったミハイルとソフィーのお話のその一です。




