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-転生奇譚- リンカネーションストーリー  作者: 彼岸花
第七章:灼熱の火山、業火の赤龍
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第九十話:回顧

 ドルムの街の街をあげての祭りも終え、あれから一年程の日が過ぎ、火山の噴火による爪痕も既に修繕を終えており、街はすっかり元通り、以前の鍛冶屋達が鉄を打つ快音と往来する人々の喧騒が響く街に戻っていた。俺達が街を歩いていても、声をかけられる事はあるにしても既に取り囲まれる様な事もなくなり一安心と言った所だが、いつの間にかドナテロが注文したのか、街の中央広場のウィンズの銅像の側に俺とクリスの銅像が並べられていた。


 俺達は一年の間、ドルマニアン諸島の随所を冒険して回っていた。

 原住民の集落を訪れ、迷宮の攻略に挑み、海を渡ってドルマニアン諸島の孤島の散策し、時にはギルドの依頼をこなしたりと、ドナテロの厚意で彼の別邸を与えられたものの、結局何日も滞在する事は無く、殆ど毎日が冒険の日々だった。アリーシャがリハビリを終え、俺達に合流したのは現在からほんの一月程前、既に後遺症の類は無く、むしろ今の方が剣のキレは増しているのでは、と思える程だ。

 勿論俺達もずっと現状を維持していた訳では無く、冒険者としてのランクもクローディアを除いて全員がS+級、クローディアもS級となり、全員が一回り力をつけている。迷宮の攻略も戦闘においては赤龍と戦った俺達からすれば特段問題にもならず、罠に関しても以前ジャックから貰ったレンズとフォルクの嗅覚とで難無く突破し、最奥にある魔石の力を取り込む事で全員の魔素総量を更に増やした。

 一通りこのドルマニアン諸島でやれそうな事を駆け足で取り組んできたが、それらも全て終わり、俺達はその間に世話になった人々へ島を離れる前に挨拶回りを行なっていた。

 

 俺達はまずエフゲニーを訪ねることにした。彼がいなければアリーシャが毒に冒された時、救う方法が分からず、俺達は彼女を失っていただろう。

 彼の家を訪ねた時、以前クリス達が片付けをしたものの、やはり一年も経てば元通りのゴミ屋敷になっていた。

 再び俺達で片付けたものの、エフゲニーはその後でクリスとクローディアの二人にこってりと絞られていたがこういった癖はなかなか治るものではない。恐らく再び訪れた時にはまたこの状態に戻っているだろうと内心思っていたが、彼の為、口に出すのはやめておくことにした。そして当時の事に改めて礼を述べると、彼は忘れていた、と自室から薬の小瓶を十本程持ち出し俺達に渡す。中身について尋ねると当時、毒の治療に使った薬の余りらしく、材料の龍の胆もまだ余っている為、在庫の処分を兼ねて渡したとの事だ。彼が言うには、仮にまた死神蛇(デスコブラ)の毒を受けたとしても直後に飲めばすぐに解毒できるとの事で、俺達は有難く受け取る事にした。


 次に向かったのはギルドだ。コビィに会うつもりでギルドを訪ねた時に、丁度掘削作業を行って貰う土魔術師の調達に来ていたドナテロと鉢合わせになり、彼らとはギルドで別れを告げる事になった。

 ドナテロはやはり予想通りというべきか、俺達を引き留めようとあれこれと魅力的な提案を出してきた。

 確かに安定した生活を送ろうとするのならば間違いなく好条件だろうが、元より旅の途中である俺達にとってはどんな好条件を並べられてもそれに応えるつもりなど無く、幾度断っても食い下がり続けるドナテロも、最後にはとうとう秘書である妻ヘスティアに怒られた事で漸く諦めたようだ。

 コビィはと言うと、「達者でな」と一言、意外とあっさりとしたもので、それだけギルドマスターとして冒険者との出会いと別れを繰り返してきたのだと予想できる。

 また、彼に挨拶を済ませた後、俺は手紙の配達を依頼していた。

 俺達が父に村を叩き出されて二年余、一度村に戻った事もあったがあくまで俺とクリスとして戻った訳ではなく、まともに親子の会話はしていない。俺達が海を渡ってから既に一年以上は経つ為、そろそろ父と母、そしてまだ幼い弟に生存報告くらいはしておこうとクリスと二人で認めた手紙だ。

 コビィは快く引き受けるとすぐにその場にいた冒険者に募集をかける。すると冒険者達が群がる様に俺達の依頼に食いついてきた。コビィはその中から元々アトラシアへ行く予定の冒険者がいた為、その冒険者に手紙を託して、旅費を渡していた。


 故郷への手紙を渡し、コビィとドナテロ、ギルドの冒険者達に別れを告げた後、ドルムで最後に訪ねたのはバーバデールの工房だ。入り口を守る守衛とも見知った仲で、彼らも俺達を見るなり、引き止めるどころかわざわざ扉まで開けてくれる程だ。

 店内に入り、俺達の姿を認めたバーバデールはぶっきらぼうに声をかけ、新しく雇った弟子に仕事を任せて店内へとやってくる。話を聞けば、バーバデールの工房に関しては現在高ランクの冒険者達の注文が殺到しているらしい。赤龍の素材を用いた装備の製造は優先して行ってもらったが、もし通常通りに注文すれば、向こう二年以上はかかっただろうとの事だ。

 マクニールに卸された龍の素材は既に売切れらしく、現在バーバデールにとっては武具を作る事よりもマクニール宛の注文書を書く事が多いそうだ。

 少なからず、マクニールの思惑通り、いや、それ以上に事が運んだと言えばその通りだが、バーバデール本人もまさか備蓄素材さえ無くなる程の注文が入るとは予想してなかった様で、連日書類の整理と武具の作製に追われている。とは言え、武具の作製の面で言えばやはり職人故か、彼は愚痴を零しながらもどこか嬉々としているのが感じられた。

 バーバデールと別れる前に、俺達は呼び止められ、「持っていけ」と、彼が全員に用意していた物を渡される。

 俺達に渡された物はお守り(タリスマン)で、各々の弱点にあたる部分を補う様な効果を付与されていた。

 クリスとクローディア、フォルクに渡されたお守りには物理的な攻撃に対する抵抗力を高める効果を、アンリエッタには魔術に対する抵抗力を高め、更に雷属性に対する抵抗力を高めるお守りを、俺には膂力を高める効果を持つお守りだ。

 お守りはネックレスの形状に仕上げられており、その全てが魔導銀(ミスリル)で出来ている。

 全員が受け取ってすぐにお守りを身につけ、彼に礼を述べて彼の工房を後にする。


 ドルム周辺を取り巻く環境だが、鉱山の方はと言うと、火山の噴火によって坑道の至る所が冷え固まった溶岩で埋まっており、まだ再開にはこぎつけていないようだ。しかし、ドナテロがギルドの方に土魔術の使い手を随時募集しており、坑道の掘削を続けている。

 実際、掘削自体よりも坑道の補強の方に時間がかかっているらしいが、近い内に再び採掘が始まるという噂だ。

 火山自体は既に活動をしていないが現状はドナテロがサヴィオラを逐次派遣し、火山の様子を探らせているらしい。

 火山周辺もクリスの大魔術の影響で気候そのものが変わったらしく、常に雪が降り続けており、龍種も一部を除けば基本的には棲みつくのに適さない環境になり、火山周辺以外は温暖な環境である為、今後赤龍や雪山の様な寒冷地を好む青龍のような魔物がやってくることはないだろう、というのはフォルクの弁だ。

 元々この島は温暖な環境である為、雪山となった火山に新たに棲みつく様な魔物はおらず、返って坑夫達にとっては安全な仕事場となっている様だ。


 ドルムを後にした俺達は最後くらいは、と言う理由でこれまで飛翔(フライハイ)の魔術で行き来していたサルディアへの移動を魔獣車で行う事にした。元々急ぐ旅でもないし、この一年の間、殆どこの街道を通る事も無かった為、最後はこの道を通って帰ろうと言う事だ。

 数度だけ通ったこの街道はいずれも駆け足で通り抜ける事となった為、殆ど景色などを眺めている余裕など無かったが、改めてゆっくりと魔獣車に揺られながら景色を眺めていると、小型の王虫種や鳥種、四肢獣種が多数、草や木の陰に生息しており、木々のざわめきと木漏れ日が鬱蒼とした密林の陰鬱な風景を払拭するかのように賑わせていた。

 街道を進む途中、かつてサヴィオラが根城としていた遺跡へと続く獣道が既に開発が進み、石畳で舗装されているのを見つける。御者に尋ねると、一年前にこの遺跡をギルドに報告した後から直ぐに調査が行われ、周囲に脅威となる魔物やその巣も見つからなかった為、再び盗賊などの根城とならない様にドナテロが手を回し、開発に着手していたらしい。

 遺跡は既に建て替えの工事が始まっているらしく、街の象徴となる予定だそうだ。また、それ以外に、古くなりつつある街道もこれを機に舗装される様で、現在鉱山が閉鎖され、食い詰めている坑夫達は新たな街の建設と街道の舗装作業に充てられているとの事だ。

 

 ゆっくりと魔獣車に揺られながらサルディアに到着すると、すっかり日は落ち始め、夜が訪れようとしていた。

 早速、ギルドに顔を出すとそこには都合よく見知った面々が顔を揃えていた為、ドルマニアン諸島を去る旨を伝える事にした。


 シェリーは手に入れた赤龍の素材をバーバデールの工房に持ち込み、新しい武器を手に入れた後は迷宮の攻略に明け暮れていた。時折、迷宮を攻略する途中で彼女と遭遇し、そのまま迷宮の攻略を共にするという事もあった。

 彼女はクローディアとの別れを惜しんでいたが、話を聞いていると彼女も近々ガルムス大陸に渡るつもりらしく、なんでも近々ガルム帝国の帝都ガルマリアで闘技大会なるものが催され、それに出場するつもりらしい。


 バリオンとサントスは相変わらず漫才師の様に息のあった掛け合いを繰り返している。

 あの騒動以降、ミハイルとソフィーの世話は彼らに任せており、アリーシャが毒から復帰してしばらくは彼らに合流させていた。彼ら自身も面倒を押し…いや、頼むと、文句を言いながらもなんだかんだと引き受けてくれ、しっかりとその役割を果たしてくれていた。そういう点ではこの島で一番世話になったのはこの二人だろう。

 彼らと話す時はやや茶化し気味に話していたが、正直一番頭が上がらないのもこの二人だ。


 ミハイルはやや別れを惜しみながらも自身の力不足を理解している為か、この島でもう少し力を付けてから俺達の後を追うと言ってみせた。船で始めて会った時はどこか自信がなく、オドオドとしていた彼も、サヴィオラの一件以降、一変してしっかりとした青年となっていた。

 一方で、ソフィーの方はと言うと、ミハイルがこの島に残ると言う決定を下した時に、ミハイルを残してでも俺達についていく、と大騒ぎしていた。

 ギルドにいた全員に止められたにも関わらず、頑として聞かなかった彼女だが、最後にはミハイルに引っ叩かれ諭された事で漸く落ち着いた。

 

 赤龍の騒動の時に火山で出会ったフェタ、リコッタ、シェーブルの三人は冒険者を廃業し、ギルドの職員として働いていた。なんでもフェタとリコッタの二人は結婚したらしく、冒険者稼業はどうしても危険が伴う為、廃業を決めたらしい。シェーブルも長年一緒に冒険者として組んでいた二人が結婚を決め、冒険者稼業を廃業するにあたり、二人以外と組むつもりはないと、彼も冒険者を廃業した様だ。結果、フェタはギルドの職員となり、リコッタは併設された酒場でウエイトレスを、シェーブルはギルドの守衛として、結局三人とも毎日ギルドで顔を合わせている様だ。


 ライ達にも挨拶しようと探したが、聞けば彼らは赤龍討伐の報酬を受け取った後、すぐにドルマニアン諸島を発ったらしい。サルディアのギルドで聞いた話ではマクシミリアン帝国を目指しているそうだ。

 彼らがドルマニアン諸島を発つ前にギルドを訪れていたらしく、次に会う時は俺達と戦ってみたいと話していた様だが、正直彼の人獣化は計り知れない能力を持っている為、出来れば勘弁願いたい所だ。少なくとも相手が赤龍だったからこそ耐え凌げたのだろうが、生身の人間ではあの攻撃の一撃一撃が致命傷になり得る事は容易に想像できる。

 いつか彼らと再会した時は敵でない事を祈りたい所だ。


 サルディアを訪問した時、シアンやサヴィオラに捕らえられていた人達とも再会した。シアンは別行動中にアリーシャと会っていたらしく、その時は涙を流してアリーシャの快気を喜んでいたと両親が話すと、恥ずかしかったのか、シアンはしどろもどろになりながらその事を否定し、俺達や人々はその様子に微笑んでいた。

 彼らはサヴィオラから救われた事に改めて礼を述べ、クローディアにはあの時、罵声を浴びせ、石を投げた事を謝り、シアンや他の子供達は俺達の様な冒険者を目指すと熱意を燃やしていた。ギルドの冒険者達もそんな子供達を見て、サルディアのギルドの未来は明るいと酒を飲みながら笑っていた。


 最後に訪れたのは俺達に赤龍の情報を教えてくれたニーナの店だ。

 彼女は俺達が全員生きて赤龍を討伐した事に驚いていたらしい。だが実際の所、聖龍神(シャルディン)がいなければ逆に全滅していただろう事を考えると、彼女の忠告は間違っていなかった事は紛れも無い事実だが、流石に聖龍神の事を話した所で誰も信じはしないだろう。

 マクニールは俺達が赤龍の討伐を成した一報を聞いた後、すぐに大魔大陸の方へ引き上げたらしく、この島を発つ前に彼女に伝言を頼み、俺達が赤龍の討伐に成功した事を祝福する言葉を残していったが、その際、彼は気持ち悪いくらいニヤついていたとも話していた。

 ニーナに改めてマクニールについて聞けば、彼はあらゆる商売に手を出している大店の旦那らしく、特に彼が自ら行く先々では大きな商談が成立するという話だ。それは彼の商才故か、はたまた嗅覚故か、何にしても強い幸運に恵まれたやり手の商人である事は揺るぎない事実だろう。

 そして根拠こそないが、彼とはまたどこかで何かしらの形で再び会う事になる予感を感じていた。


 ーーー


 そして今現在、俺達は船の出航を待ってサルディアの港で待機をしている。既に先程話した人達が俺達の見送りに駆けつけ、俺達と一緒に船の乗船準備が整うのを待っている。

 船の方を見ると一年前に見た大男が船を降り、桟橋をのっしのっしと歩いてこちらにやってくる。連絡船の船長のラルゴだ。相変わらず筋骨隆々の逞しい身体を保つラルゴは今か今かと待っていたクリスに話しかけ、豪快な笑い声をあげている。


 「兄様ー!船の方、もう準備いいそうです!行きましょう!」


 クリスの呼ぶ声で俺達は荷物を抱えて立ち上がり、そして桟橋まで進んで後ろを振り返る。

 やってきた時には真っ白な噴煙を上げていた黒い山も、今ではその煙を纏ったかのように白く染め上げられて風景に馴染んでいる。


 「じゃあ、皆さん、さよならとは言いません、行ってきます!」


 見送りに来た人々に別れの挨拶ではなく、出発の挨拶を告げて手を振ると、人々はそれに応える様に激励と歓声をあげ、手を振り返していた。

 

 他の乗船者達の搭乗が終わり錨があげられ、船が進みだす。次に目指すは獣人達の帝国ガルムの治めるガルムス大陸だ。

 ドルマニアン諸島の島々の間を抜け、静かな波をゆっくりと掻き分けながら、船はゆっくりと大海へと向かっていた。

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