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-転生奇譚- リンカネーションストーリー  作者: 彼岸花
第七章:灼熱の火山、業火の赤龍
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第八十九話:祭りの夜

 赤龍の討伐とドルマニア山の鎮圧から数日が過ぎ、一時は静まり返っていたドルムの街は今ではそれ以上の活気に満ち溢れていた。

 ドルマニア山を俺達が鎮圧した翌日から街を挙げての宴が始まり、未だに終わる気配はない。

 今日はクリスと二人きり、兄妹だけでのお出かけだ。

 火山を鎮めた日、宿に戻った後、頰を叩いた事をクリスに糾弾され、その埋め合わせという事でクリスに一方的にデートを取りつけられた、と言う訳だ。


 「おお、街の、いやさ、島の英雄のお通りだぞー!」


 街の通りを歩くとこんな調子であっという間に取り囲まれてしまう。と言うのも、あの日の翌日、俺達は個人的に礼をしたい、と再びドナテロの屋敷に招かれていた。その時、なし崩し的に街の中央広場で街の住人達の面前で表彰される運びとなったのだ。

 その所為で街中に顔が知れてしまい、今ではこの通り、と言う訳だ。


 「やっぱりあの時断っておくべきだった…」


 そんな独り言を言っていると後ろから黄色い声が響いてくる。


 「セオドア君よ!それにクリスティンちゃんもいるわ!」

 「本当に二人とも可愛いの!お持ち帰りしたいくらい!」

 「それに普段一緒にいるフォルクハルトさん、長耳種(エルフ)の血を引いてるだけあってカッコいいのよねぇ…」

 「アンリエッタさんもあの美貌で、任務の時は全身鎧っていうギャップがまた…」


 若い女性達がひと塊りに集まり、各々妄想を膨らませている。実際よくよく考えてみれば俺達のパーティーは美形ばかりだ。

 クリスは母であるセリーヌに似た美人に育っており、最近は背格好もかなり近づいてきている。フォルクの場合はやはりなんと言っても半長耳種(ハーフエルフ)ならではの美形だろう。アンリエッタも鎧を脱げばスレンダーな美女と言った所か。鎧を着ていない彼女は確かにどこか気品があり、名家の令嬢の様な印象を受けるだろう。アリーシャも整った顔をしており、普段から黒を基調とした服装を好み、あまり饒舌に話すタイプではない為、美しい落ち着いた大人の女性と言う印象だ。そして俺自身も自分で言うのもどうかと思うが、それなりの美形だ。クリスと二卵性の双子である為、そっくりとまではいかないが、仮にこの姿で元の世界にいたならば、ジャ◯ーズなんかのアイドル達にも引けを取らないだろう。

 そんな事はどうでもいいとして、実際このままでは身動きも取れない。まずは切り抜けなければ。


 「…人が増えてきましたね」

 「ああ、これじゃどうしようもないし一旦ここから離れるか」


 頷くのを確認して、俺はクリスの手を取ると頭に別の場所を思い描き魔力を練る。


 「クリス、スカートはちゃんと押さえておけよ、飛翔(フライハイ)!」


 魔術を発動すると、俺とクリスは一気に浮上し、取り囲んでいたドルムの住人達を振り切った。あの時は十人と赤龍を運んで、なおかつ俺自身魔素を消耗していた為、火山を抜けるので精一杯だったが、魔素を回復した後に一人で飛翔の魔術を試した時はサルディアとの往復に半刻もかからない程だった。とは言え、魔素の消費もそれなりにはあった為、流石に単独でもアトラシアまでは飛べないだろう事もわかった。

 いずれ俺自身の魔素総量がもっと増えれば大陸を飛翔の魔術で渡り歩くのも夢ではないだろうが、行き先はあくまで一度行ったことのある場所しか指定できない為、ガルムス大陸や大魔大陸へはやはり船旅となるだろう。

 そう考えている間にドルムの街の外れに到着し、俺とクリスは街外れの岩場で腰掛けるのに丁度いい岩を見つけ、二人並んで岩に腰掛けて話をしていた。


 「ごめんなさい兄様、本当はあの時兄様の言ってる事の方が正しいはずなのに…。叩かれたのをいいことにこんな約束まで取り付けてしまって…」

 「いや、手を出したのは事実だし、何を言っても手を出した俺が悪い。痛かったろ? ごめんな、クリス」


 クリスはあの日取り乱したことを謝るが、俺はクリスの頰を撫でながら彼女に謝り返す。


 「そうですよ、兄様ったら、あの時結構本気で引っ叩くものですから、翌日まで腫れが引かなかったんですよ?」

 「それは悪かった。でもあの時火山の噴火を止めるのに思いつく手立てがあれしか思いつかなかったからな…、正直俺もかなり焦ってたんだ」

 「冗談ですよ。ただ前もって言ってくれた方が私も納得できるので可能な限りは先に教えて欲しいです」

 「ああ、今度からはそうするよ」


 そう言って俺とクリスはそのまま岩の上で日光浴を楽しむ。

 ドルムの街の喧騒から離れ、静かな時間を過ごしていると、少し離れた所から剣戟の音が響いてくる。音の聞こえてきた方に視線を向けると四人の冒険者がドルムの街の周囲に生息する岩石蟹(ロッククラブ)と戦っている。と言っても、戦っているのは二人だけで、あとの二人は戦っている二人を見守っている様に見える。よく見るとその四人の冒険者は見覚えのある冒険者達で、ソフィーとミハイル、そしてバリオンとサントスだった。


 「ほれ、よく狙わんと全部甲羅と鋏に弾かれとるで!」

 「あかんあかん、ミハイル、もうちょい遅ぉしたれ、ソフィーが追いついとらんわ」

 

 状況を見るにバリオンとサントスがソフィーとミハイルを鍛えていると言った所か。岩石蟹は堅く、力も強いが、そもそも非常に大人しい魔物であり、同族との仲間意識も低く、その上、動きも非常に緩慢な為、脅威とされる事はまずあり得ない。後々ギルドに確認したところ、気性が荒ければBランクだが、自ら人を襲わず、同族と徒党を組まない事からCランクに位置付けされているとの事だ。故に、まだ未熟な二人の訓練の相手に選ばれたのだろう。


 「どうもバリオンさん、サントスさん。二人の訓練ですか?」

 「おう、セオ坊。せや、こんなら二人で組んどるっちゅうにまだまだ連携がなっとらんでな、ワシらで連携を叩き込んだろうっちゅうわけや」

 「あー、ちゃうちゃう!ソフィー、お前が先行くんなら頭を突いて腹をミハイルに狙わせんかい!…あかんなぁ、ワイらは斧と槍やから剣と魔術の連携がよぉ教えられへんわ…」


 指導が上手くいかずサントスが頭を抱える。そして俺達に気付いた彼は何かを思いついたようだ。


 「せや!セオ坊、クリス嬢ちゃん、お前ら剣と魔術やったな!すまへんけどこんならにお前らの連携見せたってや!」


 サントスは俺とクリスの肩に手をかけ、二人に俺達の連携を見せる様に頼んでくる。


 「えっと…私は構いませんが兄様が…」

 「ええ、今日はクリスと二人でのんびりするつもりだったんで剣も宿に置いて来てるんですけど…」


 今日の俺は完全にオフのつもりだった為、武具の類を一切持ち合わせていない。それを理由に俺は断ろうとする。


 「心配あらへん、別に普通の直剣も扱えるやろ? ソフィー、ちょっとこっちに戻ってきてやー!」

 「はーい!…って師匠?」


 サントスは断ろうとする俺の話も聞かずにソフィーを呼びつけると、彼女は元気な返事と共に俺達に気付き、走って戻ってくる。ミハイルもそれを追って戻ってきた。


 「ソフィー、セオ坊にお前の剣を貸したれや。これから二人がお前らに連携の動きっちゅうのを見せるさかい、しっかり見とけや」

 「えっ? ちょっ…」

 「はい!お願いします、師匠!」

 「セオドアくん、クリスさん、お願いします」


 きっぱりと断る間も無く俺は剣を渡され、強引に二人への連携動作の教習をさせられる事になってしまった。


 「それと、クリス嬢ちゃん、ミハイルも真似できるように魔術は威力を落として撃ってくれへんか?」

 「わかりました。兄様、すぐに終わらせてしまいましょう」

 「…ああ。全く、なんでこんな事に…」


 そうしている内にミハイルを追ってきた岩石蟹がのろのろとやってくる。


 「じゃあクリス、先に仕掛ける、合図を出したらアイツをひっくり返してくれ」

 「わかりました、任せて下さい」


 クリスが頷くのを確認すると同時に岩石蟹へと一直線に走り出す。そして借りた直剣を岩石に覆われた堅い甲羅に振り下ろす。


 「まぁ流石に効かないよな。…っと!」


 攻撃を仕掛けられた岩石蟹は防御の体勢から鋏を振り上げ、俺に向けて叩きつける。しかし、鈍重な攻撃を難なく躱した俺は凹凸の多い鋏を駆け上がり、岩石蟹の真上へと飛び上がる。それに釣られた岩石蟹は上体を起こし、空中にいる俺を見上げていた。


 「今だ、クリス!」

 「はい!土槍(アースグレイブ)!」


 俺の合図に合わせてクリスが放った土槍が岩石蟹の下から伸び上がる。体を起こしていた岩石蟹は為す術もなく上体を突き上げられ、真っ逆さまにひっくり返されてしまっていた。


 「ナイス!じゃあ仕留めるぞ!」


 空中から自由落下しながら俺は剣を真下に構え、ひっくり返されて藻搔いている岩石蟹の口内へと突き立てる。

 岩石蟹は外殻こそ頑丈だが口内は柔らかく、俺は確かな手ごたえを感じていた。

 口内から貫かれた岩石蟹は一時激しく暴れはしたものの、すぐに力を失い、青い血の混じった泡を吹きながら暴れるのをやめた。そして泡を吹くこともしなくなった事を確認してソフィーの剣を岩石蟹の口から引き抜いた。


 「剣士が先行するならまず囮になって注意を引き、魔術師がその隙に攻撃、それで仕留められればよし、仕留められなければ剣士がそのままトドメを刺す、まぁこんな所ですかね?」


 そう解説して借りていた剣をソフィーに返す。ソフィーとミハイルはあの堅牢な岩石蟹を一撃で仕留めた事に驚き、バリオンとサントスは感心している。


 「同じ剣でこんなに結果が違うなんて…流石です、師匠!」

 「うーん…だとすると相手の弱点や習性なんかもちゃんと調べる必要があるってことだね…」

 「そういうこっちゃな。それだけで随分と動きも変わってくるはずやで」

 「でもゆうて毎回毎回事前に調べられる相手とは限らんからな。初見の相手にどう対応するんかってのも考えなあかん。要するに洞察力がキモなんや。その辺り、セオ坊は目敏いんやろうな」


 四人は集まり、今後の二人の立ち回りについて話し始める。


 「じゃあ俺達は街に戻りますよ。後はお任せします」

 「二人共、頑張って下さいね」

 「おお、邪魔してすまんかったのう」

 「じゃあのう、気いつけて帰れや」

 「師匠、ありがとうございました!」

 「二人共ありがとう。もう少し頑張ってみるよ」


 俺達は四人に別れを告げ、街へと引き返した。


 俺達は街を前にして岩陰へと隠れ、どうやって街に入るかについて悩んでいた。


 「さて…どうしたもんか。このまま戻ればまたすぐに取り囲まれるし…」

 「これじゃあ何もできませんね…」


 真っ直ぐ戻ればまず間違いなく往来する人に取り囲まれてしまうだろう。少なくとも飛翔の魔術で戻ろうものなら間違いなく俺達だとバレてしまう。

 頭を悩ませているとクリスが何かを思い出したようだ。


 「…あっ、そういえば街の入り口の近くに服を売っている店があった様な…」

 「それだ!」


 街に戻った俺達は顔を隠しながらクリスの話していた服屋を見つけ、店内へと転がり込む。


 「いらっしゃいませー…って、これはセオド…」

 「「しーっ!」」


 俺達に気付いた女性の店員が驚き、声をあげようとするが、俺とクリスは直ぐに店員の口を塞ぎ、騒がないようにした。勿論滅多な事はしていない、多分。


 「…そ、それでセオドア様、当店へはどの様な御用向きで…?」

 「全身覆える様な服なんか無いですかね? あと顔も隠せるといいんですが…」

 「全身…ですか…? うーん…」


 俺が店員に服の要求を伝えると、唸りながら考え込んでいる。そう、このドルマニアン諸島は常夏の島で基本的には高温多湿なのだ。故に、基本的に街を行く人も冒険者も大抵は薄手の服や袖の短いを好み、厚手の服や長袖の服は需要が殆ど無いのだ。


 「あっ、そういえば…!ちょっと待っててくださいね!」


 店員は思い出したかの様に店の奥に引っ込むと、直ぐに二着の服を持ってきた。


 「こ…これは…」

 「まぁ…綺麗な服ですね、兄様」


 店員が持ってきた服は確かに綺麗な服だった。両方共にデザインは同じ、それぞれ黒と白の対象的な色の服で肌の露出は少なく、それでありながら薄手の生地でこの高温多湿の島でも快適そうだ。ゆとりを持たせたサイズで体の線も分かりにくいだろう。確かに俺の要求に沿った服であるのは間違いない。ただ一点の問題を除いては。

 店員が持ち出した服、それは貴族の女性向けのコートドレスと呼ばれる服だった。


 「ちょっと待て、これを俺に着ろと…?」

 「要望通りに行きますとこれしか…」

 「ぷっ…くくっ…兄様、どうしますか?」


 サイズは俺もクリスもほぼぴったり、もし諦めて外に出ようものなら立ち回り囲まれてまた身動きが取れなくなるだろう。


 「くそっ…着るしか…ないのか…」

 「ふふっ…くっ…兄様っ…お覚悟をっ…!」

 「…わかった…着れば…いいんだろう…」


 俺は店員の手を借りてドレスコートに袖を通す。また、このままでは顔を見られた場合にバレてしまうという事で店員の厚意で化粧まで施された。後は髪だがこちらも店にある展示用のウィッグでどうにかすることにした。

 自分で着る事が出来るクリスは先に着替えて待っており、化粧も済ませ、完全に貴族の令嬢へと変身していた。


 「ぷっ…アハハハハハハハッ、兄様…いや、お姉様、よくお似合いですよ!フフフフフフッ」

 「うるさいっ!こんなんじゃなきゃ俺だって着たくなかったよ!」


 完全に女性にしか見えなくなった俺を見てクリスは遂に笑いを堪え切れなくなったらしい。涙まで流しながら爆笑し続けるクリスに店員も少し困り顔だ。

 姿見に案内され、自分自身を見る。確かにこれならば俺とは分からないだろう。顔を見られたとしても恐らく貴族の姉妹、そうとしか見られない筈だ。


 「くくっ…お姉様…歩きにくくは…ぷふっ、ありませんか…くっ…」

 「いい加減慣れろ、流石に男物のブーツを履いてる訳にもいかないしな…少し歩きにくいけどまぁなんとかなるだろ…」

 

 店を出た俺達は大通りを進む。流石に変装しているだけあって、誰一人として俺とクリスとは分からない様だ。ちなみに流石に声ばかりは誤魔化せない為、基本的にはクリスが全て受け答えをする手筈になっている。まだ声変わりが済んでいる訳ではないが念の為だ。

 往来の多い大通りで俺はいつバレやしないかと自然と目が動いてしまう。すると串焼きの屋台を開くお節介そうなおばさんが声をかけてきた。


 「あら、見慣れないお嬢さんだこと。見るからに貴族様に見えるけど…お付きも連れずにどうしたんだい?」

 「ヒッ…」


 突然話しかけられた事に驚き、思わず変な声が出てしまった俺は慌ててクリスの陰に隠れてしまった。


 「ふふ、お祭りがあっていると聞きまして、お忍びで来てますの。姉様は少し人見知りでして…」

 「おやおや、そうかい。でも気を付けなよ、人が多いから変な連中もいるからね。数日前、冒険者のセオドア様とクリスティン様達がこの島にやってきた赤龍を討伐してね、しかもその時噴火したドルマニア山まで沈めちまったのさ!みんな島の英雄、ウィンズ様の生まれ変わりだってもうずっとこんな調子でね」

 

クリスは上手く貴族を演じており、一寸も疑われる事無く会話を続けている。


 「まあ、それは是非一目お会いしたいですわね」

 「ああ、さっき数刻前に宿から出かけたらしいけど二人とも魔術でどっか飛んで行っちまったらしいよ。あたしも見に行きたかったんだけどねえ」

 「あら、それは残念ですわ。ところでおばさまは何を売ってなさるのかしら」

 

 クリスが視線を向けた先はこの屋台で売っている串焼きだ。照りをつけられて焼かれた肉が食欲を掻き立てる。


 「ああ、貴族様のお口に合うかわからないけれど、これは火炎蜥蜴(フレイムリザード)の串焼きさ。少し肉は硬いけど噛めば噛む程美味しいんだよ。せっかくだし一本食べてみな!」


 店主のおばさんは俺達に半ば強引に火炎蜥蜴の串焼きを手渡し、食べるように勧めてくる。クリスは串焼きを受け取ると「いただきます」と一言、直ぐに串焼きを口に運んだ。


 「まあ!おばさま、美味しいですわ!」

 「そうかい、お世辞でも嬉しいね!」

 

 俺も気弱な女性を演じて、恐る恐る串焼きを口へと運ぶ。これは美味い。確かに多少肉は硬いが、噛めば噛む程、肉の旨みが口の中に広がり、漬け込まれたタレの味と絡んで絶妙なハーモニーを奏でている。


 「あら、お世辞じゃありませんわ? お祭りだけあって他にもこういったお店があるみたいですわね」

 「ああ、他にも屋台はいっぱいあるよ。さぁさ、こんなおばさんなんてほっといて祭りを楽しんでくるんだよ!」

 「ええ、おばさまも、セオドア様にお会い出来るといいですわね!それでは失礼しますわ」


 俺達はおばさんに手を振りながら再び大通りを歩き始め、その後も日が落ち始めるまで屋台での食べ歩きを堪能していた。

 日が落ち始めて俺達は再び街の外れの岩場に戻ってきていた。どうやら今日は街で花火を打ち上げるらしく、ここなら喧騒にも巻き込まれず、綺麗な花火が見られるだろう。


 「はぁ、もうお腹いっぱいです…」

 「しっかし、よくあそこまで演じられるもんだな」

 「あら、別に私は母様が村の領主だったモーリス様とお話ししていた時の見よう見まねで話していただけですよ。それとアンリさんの話し方も少し参考にしてます。どうもあの人隠しているみたいですけど、いい家の産まれだと思うので」


 クリスは思っていたよりも話をする方で、会話中も全くボロを出さず、完全にお忍び中の貴族のお嬢様を演じ切っていた。


 「確かに。でも初めて会って、ジャックにキレた時の変わりぶりには驚いたよな」

 「ああ、あれは…。確かに別人でしたね」

 「確か胸の話とアンリが勘違いしたんだっけか…」

 「でも、胸は女性の象徴ですからわかる気はしますね…。アンリさんは少し貧相というか…私よりも小さいんですよね、私ももう少し大きくなるといいんですけど」


 クリスは自分の胸をさすり、そこに目を落とす。思春期故に、己の身体の変化はやはり気になるのだろう。


 「今のアンリに言ってやるかな」

 「ちょっ、兄様!? 冗談はやめてください!」

 「嘘嘘、まぁ母さんも小さかったわけじゃないし、クリスもまだまだ育つだろ。まだ十三だ、決めつけるにゃ早いさ」

 「もう…兄様ったら。…そうだといいですけど」

 「お、クリス、始まったみたいだ」


 街の方から花火の打ち上がる音が聞こえ、俺は指をさす。その先には綺麗な花火が夜空を彩っていた。


 「まあ、綺麗…。はぁ…兄様が兄様でなければ良かったのに…」

 「ん? それはどういうこと?」


 クリスの言う意味が花火の音と重なって聴き取り辛く、何か凄い告白が聞こえた様な気がして、俺はつい聞き直してしまう。


 「兄様と兄妹じゃなくて、恋人だったら良かったのにって言ったんです!恥ずかしい事を言い直させないで下さい…」


 花火の光に照らされたクリスの横顔が紅潮しており、その言葉が如何に本心からの言葉かがわかってしまい、俺は言葉を失ってしまっていた。


 「えっと…まぁ…確かに俺も…」


 俺の言いかけた言葉は花火の轟音で夜の闇へと掻き消される。流石に顔を向けるのが恥ずかしく俺は顔も逸らしていた。


 「え? 兄様、もう一回、もう一回言ってください!」

 「ダメだ!今のはナシ!流石に恥ずかしすぎる!」

 「あっ、ズルいですよ兄様!私はちゃんと言い直したのに!」

 「ダメったらダメだ!絶対言わないからな!」


 花火を見ながら俺達は大騒ぎをし、花火が終わると真っ直ぐに俺達は宿へと引き上げた。

 クリスとの久しぶりの二人きりの一日はとても楽しかった。しかし、俺は一つ、重大なミスを犯していた。


 「ぷふっ…アッハッハッハッハ、セオ…くっくっく…ど、どうしたんだいその格好は…くふーっ…!」

 「セオ様…これは一体…まさかそんな趣味が…」

 「ああ、アルフレッド様、セリーヌ様…申し訳ありません、私が毒に冒されて倒れてしまったばかりに…」

 「ち、違うんだ!頼む、みんな話を聞いてくれ!」

 「すいません、兄様…。今日一日その姿に見慣れてしまったものでついうっかり言うのを忘れてました…」


 俺はうっかり女装姿のままである事を忘れ、宿に戻ってしまっていた。フォルクには笑われ、アンリは幻滅したらしい。エフゲニーの治療を終え、戻ってきていたアリーシャは遠い目で両親に懺悔していた。

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