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少尉ですが何か?  作者: 背徳の魔王 人と話すうちに性格から行動パターンを読み取り。隠された本性を暴き。時に未来を予言することからリアル魔王と呼ばれ。材料と調味料の分量で味がわかるので、絶対味覚と本人が詐称する一般人
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後輩が出来ました。なんだか気恥ずかしいです。

━━あの疑似神討伐から、二年の歳月が過ぎていた。



元悪餓鬼の三人組コウ、レンタ、マイト達は、アレイ学園入学の日を迎えていた。

プロローグ




━━東大陸アレイク王国・王都カウレーン。




━━東の大通りに面した。大聖堂から程近い。北の貴族街の外れには。

貴族に準ずる準貴族階級の者が住まう住居が並んでいた。



騎士とは、国により異なるが、アレイク王国において貴族階級に数えられる称号である。またそのほとんどが一代限りの称号であり。騎士階級の多くがフロスト騎士団の小隊長、軍職にある少尉以上の下級士官がこれに当たる。

━━アレイク王国には、4つの軍部が存在していた。フロスト騎士団もその一つであるが、国軍とは異なり。崇める女神アレの私兵と言う。位置付けであった。



職務の多くも。国事に関わる事ではなく。信者である民を守る側面が強く。他の騎士とは仕事が異なる。



それが理由ではないが、フロスト騎士の称号を意味するのは、希に国に多大な貢献をした民に与えられる。一代限りの貴族の称号と黙されていた。

準貴族の称号を与えられた人々が暮らす通り。

━━近隣の住民が、騎士通りと呼ばう通りである。家宅の多くは国営の物で、騎士に貸しされる。



━━その昔……。英雄王オーラル・ハウチューデン、さらにその父で、北のレオール連合の将軍職にある。リブラ・ハウチューデン、北大陸アレイ教大司教ララ様がこの通りに、住んでたことは有名である。



━━後年。

ハウチューデン一家が、住んでいた家屋は、夫妻の願いにより。大恩あるアレイ教に寄贈されたことから、エレーナ・シタイン大司教様が、住まわせる者を決めたのが始まりだった…………。

━━最初は、本当にただ偶然と……、誰もが思った。

だが……こう続けて、奇跡が起これば……、ハウチューデン家の強いお力ではないのか……、噂が流れるに時間はかからなかった……、

「ねえ聞きました奥さん。またあの家に住んでた人が……」

「まあ!、本当ですの」

「そうなのよ。羨ましい話ですわね~」

溜め息混じりに。件の古くも。大切に住まわれてる。家屋に羨望の眼差しを向けていた。




━━奇跡の始まりは、オーラルが国を興すため。アレイク王国を去り……、


━━翌年。最初の住人が住み始めた。



彼は若くしてフロスト騎士の称号を得ただけでなく、司祭の資格を与えられた文武に優れたナギ・グレン夫妻が、この家屋に住み始めた。彼の妻は、子を産んでから病気がちになっていて……。その頃城下の仕事が多かったナギは、妻を城塞都市ベゼルに残すのが心配だった、しかし大司教の温情で、教団の大聖堂に近い。騎士通りに住まうことが決まり。大層エレーナ様に感謝していた。



ナギはその後。僅か二年で副団長まで出世して、その間に妻の病が回復するという奇跡に。驚いたと言う。

その年……さらに周りを驚かせる出来事があった。なんとオーラル王から直々に。中央大陸の大司教補佐にと引き抜かれたと言うから……、その類い希な才覚は、英雄王のお墨付きを得ていた。即ちナギは20代後半でありながら。事実上アレイ教中央大陸のトップまで登り詰めたと言うことである、当時の感想としては、まさかな……、その程度の認識であった。



━━だが……、次に大司教の実子夫婦が、件の家屋に住んで、僅か一年未満のある日のこと。カール・シタインが第1師団の准将に選ばれたのだ。

━━翌年、妻のエル様が、宮廷魔導師筆頭に選ばれたと聞いた時は……、鳥肌が立った。まさに奇跡だと噂した。その後カール夫妻は夫の昇進と共に。貴族街に移り住み。空き家になった噂の家屋に。新しい住人が引っ越して来たのは、



━━それから半年後のことであった。そして新たに引っ越して来たのは、結婚間もない初々しい。若い夫婦で。夫は新米のフロスト騎士の小隊長シデン・レノ、妻は元シスター、マノア・レノで、人付き合いの良い二人は、瞬く間に住人から受け入れられた。━━若い夫妻が、件の噂を知ってたかは、分からないが、二人がこの家屋に住むよう、強く勧めたのが、エレーナ大司教様だったと。後に近隣の奥様方は、噂を聞いていた。

……一方の二人は、不思議な奇縁を感じ。顔を見合い。笑いあった物だ。



それから二人は……つつまやかくも幸せに暮らしていく。



━━17年前……。中央大陸事件の少し前。シデンはまだ。見習い騎士の1人でしかなかった。

当時のオーラルは『オールラウンダー』の称号を与えられてはいたが、カレイラ師団に在籍してる。新任の少尉(騎士階級)になったばかり。時々オーラルはリーラ侍祭に会いに来ては、彼女を待つ間に。時折訓練をともにしていた間柄で……、本人も気付かない内に。実力を底上げされていた。



━━翌年……、聖騎士ナタク急襲により。多くの命が失われて、押し出されるように。シデンは望まない形で、正騎士になった。

━━当時のシデンは、あまりの毎に。恐怖に震えた。あの武勇伝に羨望を抱いていた。ブラレール・ロワイ騎士団長が……。

あのガイロン重騎士団までも……、

信じられない毎に。『オールラウンダー』の称号を与えられた。救国の英雄カレイラ・バレス様までが、相次いで壊滅。殺害され。訃報に我が耳を疑った……、翌朝……、ケレル殿下の病死、



悲報・訃報の数々に。人々は……、最早アレイク王国が終わるのでないのか?、自分たちは大丈夫なのかと。誰もが一度は悲観したはずである。

それを救ったのが、エレーナ大司教と、シスター達だった……。




一度は、何もかも捨てて、逃げ出そうとしたシデン。それを殴り、涙を流し。怒ったマノアの顔を、一生忘れられないだろう。

「あんたは、私を見捨てて逃げるの?」

ガツンと甲冑で、頭を殴られた以上の衝撃だった……、マノアに言われなければ……、今の今までそんなことにも気付かないほど、自分を見失っていたのかと……。血の気を失うほど、蒼白になっていた。熱く語り見合う二人は、何時からだろうか……、ゆっくりと愛を育んでいたのだ。

「ゴメン!マノア、馬鹿だな俺……、こんな俺でも。その……。いくじのない俺が、みんなの役に立つのかな?、こんな俺がお前の側に、いても良いのかな?」不安のあまりに。気弱な言葉……。聞きようによっては、無様なことを言っていたと思う……。だけどマノアは、とびっきりの輝くような笑顔で、自信満々に言ってくれた。「当たり前でしょ?、わっ、私を幸せにしてくれるつもりあるんでしょ?」

怒ったように、でも勇気をだしての告白。彼女の恥ずかしそうな顔を見た瞬間。雷に撃たれたように歓喜した。彼女を失わずに済んだ幸せを。女神アレに感謝して、力一杯マノアを抱きしめていた。




あの激動の中。歯を食い縛り奔走出来たのは、彼女の支えがあったからだ。無論微力ながらシデンも奔走したが、人々に朗報がもたらされたのは、それから間もなくの事である。




あれほど不安そうにしていた民に。勇気を与えたのが、王女を無事南大陸から。連れ戻った話であった。民は大いに安堵した。それと同時に。人々は思い出していた。もう一人の『オールラウンダー』の存在を……、そして……不安の底にいた人々は、最後の希望にすがっていた……、

シデンだって当時はそうだった。

オーラル……あいつは、リドラニアの吸血鬼王を滅ぼし。ラトワニア神国を救った英雄だった。だから楽観的にきっと大丈夫だと思った。

━━精神的支柱を失っていた人々も。藁おも掴む気持ちで、オーラルに救いを求めていたのは……、今思えば酷い話である。



だが当時は、人々に僅かな希望を与えたのも間違いない。

レゾン王も。それを理解したからこそ。国政に携わるには未熟な。オーラルを召集なされたのだ。

━━しかし当時のオーラルは、直ぐに城には向かわなかった……、

それどころかか、エレーナ大司教が、大聖堂に戻るまで、自宅にいたと聞いて。呆気にとられて。何を考えてるんだと本気で頭に来たものだ。

━━だが、時が立つに連れて……。ようやく当時のオーラルの行動が、少しだけ理解出来るようになっていた。

あまりに多くのことが一度に起こり過ぎた。いかに書面を見せられようと、実際に現状を見た者にしか分からないことが、実はとても多いことを。今は知っている。また打開策もその場で見付けるのではなく。事前に準備する必要があるとオーラルは気づいていたのだ。



何故当日オーラルが、エレーナ様を待っていたか、まず国内の情勢に詳しい、アレイ教のトップである。エレーナ母様に詳しい話を聞きたかったと。シデンに語った。何故シデンがあの場に呼ばれたのか……、今もって謎だが、とても嬉しかったのを覚えていた。

━━久しぶりに会ったオーラルに。請われるまま最前線のこと、小さな村、町の様子を事細かく話していた。目の前に座るオーラルからは、自分と気楽に訓練していた頃には感じられなかった。人を惹き付ける。強い魅力を感じた。そんなオーラルが、シデンが部屋に入った瞬間。

「シデン無事だったのか!」

友と呼ぶには、拙い関わりだったが、無事を喜んでくれたのが、これ程嬉しく思ったことはなかった。

「まあな。人がいなくて、俺ごときが騎士に受勲されたよ」

照れ隠しに嘯いていた。オーラルは眠そうな眼差しを柔らかく細め。

「お前なら、騎士になれると分かっていたさ」

嬉しいことをさらりと言ってくれる。オーラルはそんな気持ちの優しい奴だった。

「……まっ、まあな」不覚にも。疲れていた俺は、泣きそうになった。自分が誰かにそう言って、背を叩かれたかったのだと。あの時初めて分かった。

「ブラレール・ロワイ殿 は、どうにか命が助かったと聞く。フロスト騎士団の現状をなるべく詳しく教えて欲しい。何もかも」

何故オーラルが、そんなこと言い出したのか、その時は、分からなかった……、



妻のマノアが、最近教えてくれた。

「オーラル様は、当時英雄と言う。圧倒的な精神的支柱を。アレイク王国の民の為に。産み出したかったと、リーラにだけ言ってたの。かなり無理をしてたのよ……」

知らなかった……。自分は……、彼奴の何を見ていたのだろうか?、今考えたら少しだけ分かる。どんな偉業を成したとはいえ。彼は悩み。苦悩した。俺と変わらない。普通の人間だったのだ。




━━今や伝説と呼ばれた。数々の奇跡は、オーラルの緻密な情報集め。気転と奇異に映るが、根幹を素早く見抜き。丹念に下準備させ。何時でも実行出来るよう。準備していたのが、生きる伝説の根拠になっていた。彼こそ類い希な。先見を見抜く天才だった。だから迷わず行動してたのだ。類い稀な英雄を演じる為に……、



そんなオーラルが、アレイク王国で安穏とせず。中央大陸に渡り。建国した四年後。マノアと正式に結婚した。



━━国内は、不安定だったから……。本当は迷っていた。だが背中を押してくれたのは、意外にもエレーナ大司教様だった。

「失礼します……」

団長が未だ空席のフロスト騎士団にあって、教団内部と政治。双方の中核を担っていたナギ副団長が、中央大陸に渡ることが決まていた。フロスト騎士団には4人の大隊長。8人の中隊長。16人の小隊長がいる、仕事には支障は出ないが、軽んじられるのではないか、不安が囁かれる時期であった……、マノアは大司教様が無理をしないか、何時も心配していた……。

「貴方を呼んだのは、ラノバ大隊長が副団長になることが、正式に決まったのは聞いてるわね?」

「はい」

子息のカール様が、正式に。第1師団長に選ばれて。喜ばしい話が相次いでいた。

「貴方と、マノアの二人に話があり……」

控え目なノックがされ。大司教様は柔らかく。そして優しい笑みを深めた。




入室したマノアは、恋人のシデンを認め。少し驚いた色を浮かべていた。

「あっあの。エレーナ様。急用だとお聴きしました」

ちらり恋人の顔を見ながら、お互い元気そうでと二人は喜びあった。そんな二人を好ましく見つめながら。話を進める。「さてシデン、マノア、二人に命じます。シデン・レノを小隊長の昇格を認め。マノアと夫婦になることを私が認めます」

「なっ……」

「エレーナ母さん……」

二人の顔が、みるみる真っ赤になっていき、お互いの顔を伺い。見合う。

「エレーナ大司教様……」「実はリーラからのお願いなのですが、二人とも。よく聞いて下さいね」

どうにか落ち着いた二人を。優しく見つめながら。大司教は義娘リーラからの願いを話す。やがて二人の中で、仄かな優しい気持ちが溢れていた。シデンの顔に小さな決意が、マノアの顔に。嬉しそうな笑みが広がった。

「マノア……頼む。この俺と……。結婚して欲しい」

「……はい…喜んで…」

「エレーナ大司教様。喜んでオーラルの家宅。住まわせて頂きます」

恋人の……、夫になる決意を決めたシデン。強い眼差しを受け、嬉しそうに。童女のような笑みを浮かべていた。



新任の小隊長夫婦が、翌月から。噂の家宅に住まい始めた。翌年、二年後と……相次いで、二人の娘に恵まれて、本当に幸せな時間であった。



━━7年の間シデンは大隊長にまで昇進した。

……その三年後。副団長に抜擢され。シンク王子が、入学なされた今年。

前任のラノバ団長の引退に伴い。シデンが新しい騎士団長に選ばれた。

「ただいま~♪」終始ご機嫌の母に連れられて。帰宅したシア・レノ、ソアラ・レノ姉妹は、恥ずかしい思いをしたが、晴れ晴れとしていた。それと言うのも姉シアはまだ10歳だが。来年アレイ学園に。早期入学を望んでいた。



きっかけは些細なことだった……。父は、どちらかと言えば。早期入学に反対をしていた。だがシンク王子が、先輩になることが分かるや。コロリと手のひらを返して、

「ほほ~うシンク王子のか、ならいいかな」

上機嫌に言うのだ。気になった姉妹は、母にねだりそして、英雄王オーラル様と父が、友人関係にあること、母もオーラル様のお妃様である。リーラ大司教様の親友だったと聞かされて。母が渋るのも構わず。こうして今日シンク王子様に。会いに出たのだ、何度か朝市に出かけたが、母が恥ずかしがり。話し掛け難かったようで。今日ようやく話せたシンク王子様は、二人が想像してたよりも優しく。また想像以上に怖かった。

「シンク兄……、あんな怖いの着けて。よく平気よね。お姉ちゃん」

「そうね……、あれ……多分ドラゴンよ?」

魔力の流れが見えてしまう。そんな力があった姉妹は、シンクが、義手、義足だと、最初から気が付いていた。だけどそうした過ぎた力は……、人々に忌避されること、歴史が証明していた。だから姉妹は知られないように。姉が考え。妹も渋々了承した。だから両親にも内緒にしていたのだ。



━━本当は、姉妹がシンクと出会ったのは、半年近く前……。夏休み後になる。



あれは……、

シンクと。妹ソアラと同い年の姪リナちゃんを連れて、中央公園を抜け。何時もの孤児院に遊びに向かう途中、姉妹と出会った。

「おっ、お姉ちゃん」潜在的に。凄まじい魔力を秘めた人間は……、魔力の柱を作ると言われていた。それが3つもある人間など。生まれて初めて見て、目を丸くしたものだ。するとシンクが私達に気が付いて、

「君たち。もしかして……。僕の魔力が見えてるのかな?」

悪戯ぽく聞かれ。戸惑っていると。

「シンにい!、二人は、リナやジイジと同じなの?」

キラキラした眼差しのリナちゃんに。ニッコリ微笑み。

「内緒だよリナ?。二人もその方が良いんだよね?」

優しく聞かれた姉妹は、虚を突かれて顔を見合う。小さく妹のソアラが頷いていた。

「ぼくはシンク・ハウチューデン、その目に関して、わりと詳しいから、困ったことがあれば、職人通りのオリバー小間物店を訪ねて、アドバイスは出来るからね♪」凄まじい魔力を内に秘めた人間は、大抵一流の魔法使いである。父はフロスト騎士だが、潜在的に強い魔力があった。姉妹は父の能力を受け継いだと言えた。だから分かる。1人の人間にどれ程強い潜在能力があろうと。作られる魔力の柱は一つだけである。強大なドラゴンの魔力を2つも持ち。制御出来るだけの力量がある。シンクと言う少年は、二人が知る限り。超一流の魔法使いである。だから二人は、軽い気持ちで、お願いしたのである。

「シンク様……、私達に魔法を教えて下さい!」

驚いたようだが、

「それなら毎週日曜日の朝市の後。孤児院においで、みんなと一緒に勉強しよう」快く引き受けてくれた。そこで出会ったのが、マイト、レンタ、コウの元悪餓鬼三人。フロスト騎士見習いになったタイチ、それから謎の声の女の子……、




彼女は凄まじい魔力を。内在的に秘めていた。何時も勉強を始めるとき、現れるのだ……。最初は戸惑ったシア、ソアラ姉妹も。甘えん坊な可愛らしい思念に。自然と慣れていた。

『ネェネェ~お姉ちゃん達のお父さんは、何をしてるの?』

初歩の魔法理論や。簡単な属性について勉強を見てもらった後。必ず思念だけの女の子は、

『ネェネェ~が始まるのだ』

「私達の父さんは、フロスト騎士団長をしてるわ。ジルのお父さんは何をしてるの?」一生懸命『うんとね~』を繰り返しながら。

『お父さんは偉い人なんだよ~。お母さん言ってたもん♪』

自信満々に言うから。思わずシンクは吹き出していた。思念が聞こえない。コウ、レンタ、マイトが怪訝な顔をしていた。

「シン兄~もしかして、ジル来てるの?」

勘の鋭いタイチが、正解を口にした。

「うん来てるよタイチ~」

この頃になると魔法感覚の鋭いリナは、エルの娘ジルの思念を。捉えられるようになっていた。

『タイチにいに。わたしの声が聞こえたらな~、何時もお話してくれるの♪』

それはそれは嬉しそうに自慢していた。

「タイチは優しいからね♪」

リナが褒めた瞬間。真っ赤になったタイチ、

『うん~タイチにいに大好き♪』

何てことが話されてるのだが、四人には聞こえてない。どうしたものか考えてると。

『シンク……、我の力を使え』

左足から思念が響く。滅多に口を挟まない地竜クエトが珍しく。優しい思念で自分の力を伝えた。

「クエト……覚醒だ」

『承知……』

地竜クエトの魔力が一瞬で高まる。姉妹は驚いたように目を丸くしていた。

「四人にも。タイチの妹。ジルと話させてあげるよ」素早く地竜クエトが魔力を収束。タイチ、コウ、レンタ、マイトに。一時的魔力を高める。竜の覚醒魔法を使った。驚いたタイチ達は。そわそわ辺りを見回して、自分の手やお互いの姿に。興奮した顔をしていた。

「シン兄!、これどうなってるの?」

『シン兄ちゃん。本当にタイチにいにとお話出来るの?』

可愛らしく。それでいて好奇心一杯な女の子の声が、四人の心に流れてきたから。ビックリした。

「だっ、誰なの?」コウが腰を抜かして座り込む。マイトは驚いたようだが、

「シン兄……今の竜の魔法だよね?」

気が付いたようだ。

「もっもしかして、二人やリナちゃんが、話してた相手?」商人に必要な、目敏さを持ってたレンタは、訝しげに思ったが、内緒にしててくれたようだ。

「ジル……、お兄ちゃんの声が聞こえたら。返事を聞かせて……」

負けん気の強いタイチの顔は、妹を心配する兄の顔をしていた。

『はあ~い♪。タイチにいにジル聞こえてるよ』

甘えた声を出して、舌ったらずな可愛らしいお返事をした。

「ジル声が聞こえたよ!」

『本当!?、凄い凄い!、シン兄ちゃんの魔法凄いね♪』

はしゃぐ思念は、部屋中を駆け巡るように楽しそうに笑う。だから皆も安心して、

「はじめまして、俺はコウ!」

「レンタです。よろしくね」

「マイトだよ。ジルちゃんよろしく」三人が順番で挨拶すれば、

『お兄ちゃん達!、はじめまして、私はタイチにいにの妹ジルです♪』

しばらくジルははしゃいでいた。終始上機嫌で皆と会話を楽しんだが、さほどせずに。

『タイチにいに。私ネムネム~、またお家でね♪』

おいとまを告げると。消えていた……、



シン兄に。タイチの妹が、どうして声だけ現れる事が出来るのか興味が沸いて。しばらく勉強は中断。魔法の応用と使い方。また出来ること。出来ないことについて、話して聞かせた。

「じゃあシン兄の使った、竜の魔法『覚醒魔法』をまた使えば、あの子とまたお話出来るのかな?」

マイトには魔法の才能がある。きちんと修行を積めば、宮廷魔導師となるのも夢ではないだろう。だからシンクの覚醒魔法によって。一時的とはいえ。自分の力の片鱗を目にしたのだ。

「三人供。そんなことしなくてももうすぐ会えるよ。ねえ~タイチ♪」

「うん!、もうすぐ僕はお兄ちゃんになるんだから」

鼻息荒く言うタイチ、だけど理由を知らない五人は、ただ首を傾げていた。



あの出会いからもう二年が経っていた……。私達四人は、早期入学を決めて、今年アレイ学園に入学をする。あの当時タイチ君の妹が、まだ生まれてもいないとはとても驚いた。でも私達は彼女ジルに会いに毎日通い。母のエルさんと話をすることが増えた。彼女は私達姉妹の不安を見抜き、様々なアドバイスをくれる素敵な女性である。何時しか私はエルさんのような、宮廷魔導師になること夢見ていた。



━━西の通称職人通り。小さな通りに様々な商店が並ぶ。そのなかでも隣の武器屋を買い取り。店舗を大きくした小間物屋は有名だろうか、何せ戦乙女ヴァルキュリアと呼ばれる美しい店番がいるのだ。翼人の女性サノビアは、近所でも働き者と大変評判である。

「あらおはよう、今日も早いわね~」

「あっ金物屋の女将さんおはようございます」

ずんぐりした体型のドワーフ。彼女も見事な髭を蓄えていた。

「おはようね~、後でミリアさんに、ブライアン君に頼まれていた金型出来てるからと伝えてちょうだい」

「はいわかりました」

「やあ~おはようサノビアさん」

今度は向かいの硝子細工を生業にする。中年の職人で、彼は毎朝大聖堂に赴き、ステンドグラスの改築を請け負っていた。

「奥様の具合はどうですか?」

「だいぶいいよ♪。シンク君の癒しが随分効いていてね。明日にも起き上がれるようになるさ」


ニカリ安堵の笑みを浮かべていた。

「それは良かったです」

「ありがとう、シンク君には本当に感謝してるよ。無論君にもね」

「あっ、そんな……」

照れて赤くなるサノビアに。この通りの住人は笑顔になっていた。

「サノビアさんおはようございます~」黒髪の女の子が元気に出てきた。

「あっ、リナ様おはようございます♪」抱き着いてきたリナを受け止めて、嬉しそうに相好を崩した。

「うん♪」

最近背が伸びてきていて、サノビアの胸元まで、身長が伸びていた。

「どうしたんですこんなに早く?」

「今日はね。シアさんと。コウ達がアレイ学園に入学するから。タイチとソアラちゃんで見に行くんだ~」

なるほどもうそんな時期なのかと。にこやかに微笑んでいた。




━━アレイ学園『特待生』三年教室。



教鞭をふるうのは、黒髪の少年シンク・ハウチューデン、学生から教職を任せられた者は、100年前まで遡る偉業である。シンクが正式に、教職員を頼まれたのが昨年のことだ。普通ならまだ二年生の立場であるが、もはやシンクに何を教えてよいか分からないと、教員から訴えがあって、特別処置に教職を任せたのだが……、

「今日は入学式です。皆さんには定例行事として、迷子の案内人か、『総合武術大会』『魔法比べ』『学年戦争』の何れかに参加して頂きます」

よりにもよって、同級生のクラスを任せられるとはと。昨年は色々大変だった……、

「シンク!、今年から一年を受け持つそうね?」

同級生でありながら一年から『院』に在籍していた。リーザ・カーベンは小さな眼鏡をちょこんと鼻に乗せた。赤髪の美しい女生徒である。

「うん、さすがに体裁があるからね~。皆さんとは、卒業まで顔を合わせる機会が減ることになるね」

それは仕方ないことではあるが、見るからにヒナエ、ノノフレイミの二人が不機嫌そうな顔をしていた。

「皆さん短い間でしたが、お世話になりました」頭を下げるシンクを。色々と不思議な面持ちで認めたフィア他。同級生達は、二年の間に起きた様々な出来事を思い出した。



疑似神討伐に参加した『特別教室』の生徒達。コルトは帰郷して父の跡を継いで公爵となった。ランダルフは華の国ダナイの王子となり多忙だが、二人とは友人として、時折近況を知らせてくれていた。フレア、シアンの二人は『院』を卒業して、プロのコンテスタとして、各国を二年間限定で訪問しており。各国の学生達に。演技指導を行っていた。その後フレアは母の跡を継いで財務官に就任、シアンは第7席の宮廷魔導師になることが決まっていた。婚約者であるローザ、フィルと彼女の友人達は、揃って『院』にあがっていて、シンクが卒業する再来年。婚約者一同は、中央大陸に移り住むことになっていた。




シンクが三年の『特待生』教室を後にすると。学生達はそれぞれの仕事に動きだしていた。



毎年アレイク王国の春の風物詩とも言われる。異国情緒たっぷりの民族衣装を着て、諸外国から沢山の生徒、家族が訪れる。その中に薄い茶色い髪。南大陸で一般的な着物姿の少年は、目をキラキラさせながら。王都に足を踏み入れた。

「フタバ随分と御機嫌ね♪」

「まあね~。キヌエだって、鎖国していた我が国と貴方の国が、一時的でも鎖国を解いてくれたのは朗報よね♪」他国の都会に留学出来る喜びは、存外に楽しいものだ。二人はアレイク王国がある東大陸のさらに東にある。諸島郡と呼ばれてる。小さな国々の一つ和のわのくに、呉のくれのくにからの留学生である。



昨年のことだ。オーラル王の働きにより、造船と機械の国ジエモンを介して、友好国である二国は、鎖国を一時的に凍結、東大陸の5ヵ国と交易を始めていた。

「それよりも噂の英雄殿の後輩になるわけだけど。貴方やる気でしょ?」

好戦的に笑うキヌエに、まあなと頷いていた。噂ではこれから通うアレイ学園には。世界中から凄腕の生徒が集まってると聞く。

「それじゃ~貴方とは『総合武術大会』であたるかもね」「そうだな。キヌエと手合わせするのは『諸島郡武芸会』以来になるから二年振りだな。お前には負けないからな」

「あら私だって腕を上げたのよ。今度こそ打ち負かすからね♪」

バチバチ火花散らせながら。二人は学生寮から、人波に流れて、アレイ学園に向かっていた。



今や世界議会加盟国に参加してない国々は、諸島郡の六ヶ国と西大陸の南西にある。海洋王国シーグランデリアくらいであろうか……、昨年新たに。亜人として初めて、加盟国に名を連ねたケンタウルス族は。一部中央大陸に移り住んでいた。



━━今年は例年以上に沢山の生徒が、アレイ学園の門戸を叩き。入学式が間もなく始まりを向かえる……。


やや美しい相貌に。緊張を隠せないのが、新たにアレイ学園長に就任したエル・シタインである。前任のエドナ学園長が、宮廷魔導師の退任を申し出たため。急遽決まった人事である。正直荷が重いとは思ったが、適任者が見付からず仕方ない話であった。

「あらあら緊張してるのかしらエルさん」

扇情的なドレス姿で。豊かな胸をさらしながらも。クスクス艶然と微笑む、エドナ元学園長を軽く睨む。

「そんな顔してもダメよ~、流石に私も年だから、後は貴女達に託すわ♪」

もうやり残したこともない。

「……本当に行かれるのですね?」色々と言いたいことはあったが、結局当たり障りのないことしか口に出来なかった。

「まあね~仮にも私の生まれた国ですし。義娘リーザが将来生きる国ですもの。今の内に少しでもよくしときたいのよ」

艶やかに微笑んでいた。確かに元々エドナ学園長姉弟は、華の国ダナイの生まれであった。

「私の最後の仕事は、貴女という素晴らしい後継者に恵まれたからこそ。喜んで椅子を貴女にあげれるのです。誇りなさい貴女の父と友であるオーラルに」

ハッと息を飲んでいた。そうだったと強い意思を相貌に宿して、二人は沢山の新入生の待っているグラウンドに現れた。好奇心や不安、様々な意識が、津波のようにエルを押し潰す。圧力を与えた。もしも子供時代のエルならば、逃げ出していたはずだ。大好きな父に娘にしてもらい。大好きな母が抱きしめてくれ。大好きな妹達が、エルに力を与えてくれていた。何よりも……、愛する夫と我が子。その友人達に巡り会えた全てが愛しくて。同じように素敵な出会いが、生徒達にも出来るよう。エルは新入生を導くことを選んで。誰よりも目立つ壇上にあがり。誰もが見惚れるような笑みを浮かべていた。

『今年度、新たにアレイ学園長に就任されました。エル・シタイン筆頭から。挨拶をお願いします』バレンタイン教頭が、風の魔法を用いて、全校生徒に言葉を届けた。 好奇と羨望。生徒達の思念に混じりほんの小さな優しい気遣いを感じて、そちらに目を向けて、思わず微笑んでいた。

『皆さん御入学おめでとうございます。ただいまバレンタイン教頭から紹介を受けました。エル・シタインです。これから先皆さんが出会う。友人や恋人または恩師と出会えるような。素晴らしい学園生活を送れるよう。私や先生方で、ほんの少しだけ。お手伝い出来ればと考えてます』

言葉を区切り、皆がどのように聞いてるかを確認してゆく。無論素直に話を聞く生徒ばかりではない。中にはつまらなそうな生徒もいる。

『そんなにつまらないですか、キヌエ・ナナツさん?』

いきなり名指しで呼ばれて、ギョッとしていた。『そこのフタバ君は、そうシンク君と勝負したいのね?』

ズバリ言い当てられて、二人は思わず身をただしていた。

『彼等のように。皆さんも色々なことを考え。夢中になることは、悪いことではありません。誰だって物語の英雄にも。スターにだってなれる可能性があるのだから、皆さんはどんどん競い。存分に学んで頂きたいと思います。長々話しましたが、最後に前任のエドナ学園長よりご挨拶を』

悪戯ぽく微笑み。名指しされて、どう反応してよいか戸惑う二人にウインク残して、エドナ元学園長と交代していた。

『皆さん御入学おめでとうございます。色々と言いたいことは全てエルさんに言われてしまいましたので、私としてはある生徒の話をしようと思います』

あれから……20年以上も前になる。アレイ学園で起こった。ある悲劇の物語に。いつしか新入生達は、引き込まれていった。

『後に彼は、私達の自慢になりました。私の教師としての人生において、ままならず挫折したこともありましたが、沢山の出会いが、今の私を支え。安心して退任出来ますこと。感謝致しております。皆さんも後悔しない学生生活を送れますよう。祈ってますわ』

最後にバレンタイン、エルに視線を送り。エドナ学園長は、壇上を後にしていた。彼女はその足で、華の国ダナイに向かうつもりなのだ。二人は頭を下げて、学園長を見送っていた。

入学式が終わり、生徒達は、自分たちのクラスが張られた掲示板を見上げては、それぞれのクラス が何処にあるのか、地図とにらめっこを始めていた。その中でも目立つ。薄い茶色の髪のフタバ、赤髪に見えるキヌエも唸っていた。

「いや~さっきはびっくりしたね」

「本当よ!。まさか名指しされた上に。気持ちを読まれたなんて。はっ恥ずかしいわよ」

不貞腐れ気味のキヌエとは違い、フタバは別の感情を抱いた。先ほどから鋭い視線を幾つも感じたからだ。それもかなりの実力者とわかるだけに。じっとりと手汗をかいた。

「初めまして、少しだけいいかな?」

そんな二人に急に声がかけられて、

「えっ、あっはじめまして」

慌てて着物の裾を直すキヌエに。やや唖然としたが、相手の少年を見てなるほどと微笑んだ。キラキラと輝くような金の髪。穏やか風貌を、人好きする笑顔に色どらせていた。女性好感度MAXである。

「ぼくはマイト、それから……」後ろの二人を手招きしていた。つられて二人もそちらを見て、ハッと息を飲んでいた。一人は細面の警戒心を抱いた顔を。まったく隠さない少年。もう一人はふてぶてしい顔をした。やんちゃな子供をそのまま。大きくした風貌の少年で、自然と二人はふてぶてしい顔の少年を警戒していた。かなり強いとの判断である。

「そう慌てるなお二人さんよ~。俺はコウ、こいつはレンタ、よく言う幼なじみでな」

クシャリ笑った瞬間。二人の中にあった警戒心が消えていた。この男は信用出来ると本能が告げていた。

「二人は『総合武術大会』に出るんだろ?」

そう聞かれて、顔を見合いあったがそうだと答えていた。

「なら、シン兄とは戦えないぜ」なんてこと言われて、目を白黒させる二人に。レンタを見やると仕方ないな~そんな顔で、ある提案をしていた。

「お前らシン兄さんと戦いたいなら。『学年戦争』に出れば可能性はあるよ」

「ん……『学年戦争』?』

確かにそんな模様しはあるとは知っていたが……、鎖国していた六ヵ国には、魔導兵のような技術がない。

「安心しなよ。君たちにいきなり魔導兵ゴーレムに乗って戦えとは言わないからさ。今からと明日の『総合武術大会』予選の後。僕らの陣営で訓練してみて、大丈夫そうなら『学年戦争』に参加してみないかい」

魅力的なお誘いであった。二人の躊躇も一瞬で、力強く頷いていた。



二人はコウ達の案内で、馬車に乗り向かったのは、二人の祖国の城よりもはるかに巨大な建物の前で、馬車は止まった。「ここは……」

あんぐり惚けた顔で見上げたキヌエのために。マイトが説明した。

「ここが僕らが戦うフィールド。コロッセオさ」

それから二人を一年の陣営。黄色の旗に鎧の紋章のあるフィールドに二人が向かうと。徐々に凄まじい轟音と身体に感じる振動が響いていた。言い知れねわくわく感が止まらなくなっていた。



そして……一年生の陣営では、ターフビジョンに映された訓練風景が見れたので、食い入るように二人も見ていた。

「あれが魔導兵?」

「ああそうだ。凄い迫力だよね」

急に砕けた口調になったレンタは、キラキラした眼差しで、魔導兵を見ていた。よっぽど好きなんだろうな。

「コウさん。準備は出来てますよ」

ドタドタ走って来たのは、大柄なふくよかな少年。クレノ・ランディス、

「おやおやそちらの二人~、和の国か呉の国の方ですやんか」

ん?、二人が訝しげな顔をしていた。

「ああ~えろ~すいません。わてジエモンに住んでますが、父が呉の生まれでしてな」

成る程と二人は笑みを深めた。ジエモンは移動する島国である。小さな町程度の大きさであるが、なんと住民の99%が何らかの職人と言う、面白い国でもあった。「おいらコウさん達に誘われて、魔導兵のリンクシステムのメンテナンスとか、まかせてもろうてます。まあ~よろしゅうに~」

独特のイントネーションは、馴染み深く。二人の顔にも笑みが浮かぶ。

「ぼくはフタバ」

「あたしはキヌエよ。よろしくねランディス」

「ランデーでええで~」

すぐに打ち解けた三人に。コウ達も笑みを深めていた。

「あんまり時間もないから二人は、早速リンクしてみようか」

『はい!』

勢いこんで頷いていた。



それからひととおり、基礎訓練を終えた二人を連れて、コウ達は『特待生』一年のクラスに向かった。色々と楽しい体験をした二人を。本日最大に驚かせることが待っていた。「初めまして、皆さんの教員を勤めます。シンク・ハウチューデンです」

黒髪の優しい顔立ちの少年が、にっこ微笑み教壇に立つから。あんぐり二人は惚けていた。




こうして……、新たな学園生活は、様々な驚きに包まれ。始まりを迎えていた。「まさか、シン兄が僕らの担任になるとはね」

「驚いたなマイト」レンタとマイトは苦笑していたが、コウは実に嬉しそうに笑っていたが。

「でもよ!、シン兄に色々教えて貰えるなんて、俺はすげ~楽しみだぜ」

確かにとそこは二人も頷いていた。

「さっきから気になったんだが、三人はシンク殿と知り合いなのですか?」キヌエが気になったのか、訪ねていた。

「ああ俺達三人の他に。幼なじみが後二人いるんだが……、その内の1人が、シン兄の姪でね」

それを聞いて、フタバは納得していた。

「君たちは気にならないのかしら、その……わたし達は……」

いい淀むキヌエに。三人は苦笑する。

「あれだろ、シン兄を倒して名を上げたいとか、構わないさそんなこと誰もが考えることだしな。シン兄なら喜ぶと思うぜ」

「だよね~。その程度の理由なら、僕らは散々試したさ」

「それで勝てるなら、シン兄さんは、英雄なんて呼ばれないよ」

三人は達観した顔でしみじみ言う。先ほどコウと手合わせした二人にとって、重い現実を突き付けられた気がした。「それに二年後には、俺なんか勝てない後輩が入学してくるんだぜ?。シン兄ばかり見てる訳にはいかないよな」

妙に気になることを言われて、多少なり気にかかる。

「なあ~シア。お前の妹もその頃入学してくるだろ?」

少し離れた席に座る。赤髪の上品な雰囲気ある。少女をコウは伺い見た。すると軽く肩を竦めて見せる。

「彼女はシア・レノ、次期宮廷魔導師を狙う魔法の天才だよ。彼女もシン兄から魔法を習ってたことがあってさ」

紹介に預かったので、手元にあった古書を閉じた。

「お二人ともよろしくね。コウ達とは、それなりに付き合い長いから言うけど。このクラスの生徒の半数は、シン兄さんに。何らかのお世話になってるわ。みんなシン兄さんに、一泡吹かせようと躍起になってるわ。せいぜい頑張りなさい」

なんだか随分と冷めた女の子である。二人が呆気にとられていると。

「仕方ないな~」

にこやかな人好きする笑顔が眩しいマイトが代わりに。

「シアはシン兄さんに色々と相談してたからね~」

「本当の理由はさ~、大好きなシン兄が、みんなとばかり遊ぶのが、何だか面白くないのさ」

バッサリ切り落とした。

「なっ!、レンタあんたね」

羞恥で真っ赤になったシアに。二人は、ああ~なるほどねと。クスクス笑っていた。

「ふっ、二人とも。ちっ違うからね!、誤解しないでよ」ぷいって横を向いていた。

「わたしはキヌエ、貴女のことシアって呼んでも?」

「……構わないわ…」

つんとしていたが、口元が嬉しそうにはにかみ。何だか彼女が可愛らしくて、つい微笑んでいた。

「あっあの……」

躊躇うような気弱な声が二人に落ちる。振り返ると。黒髪の目を見張る美少女が佇んでいた。

「今の話小耳に挟みました。私カナデ・オーマと申します。母が宮廷魔導師をしてまして~。私も目指してるんです♪」可愛らしく。照れたように笑うカナデに。キヌエとシアも目を丸くしていた。

「じゃ~私達はライバルね~。カナデそう呼ぶわね、私のことシアで良いわよ」「初めまして、私のことキヌエと呼んで下さい。カナデよろしくね」

「あっはい!、よろしくお願いしますキヌエ、シア」

三人は早くも意気投合して、仲良くなり始めていた。

「なあ~マイト、あの子ローザさんの取り巻きに似てないか?」

「ん、確かにアオイ先輩に似てるね。同じオーマの姓だし……」

二人は顔を見合せていた。

「惚れた……」

ぼそり呟くコウは、熱い視線をカナデに向けていた。



至るところで、新入生による新たな出会いが繰り広げられる中。思い悩む生徒も多い、一般生徒の中で、ただ1人服飾技術が認められて『特待生』に選ばれた。モレン・エドナ・オードリーは、多忙を極めていた。

「モレン先輩!。赤とニビ色。スカイブルーとコバルトブルーの生地届きました」「あっありがとう。悪いけど。型紙用意してあるから、パタンナーあてちゃって」

「はあ~い」

生地を切る音、独特のリズムで次々と生地が切り出され。モレンの手による縫製が、まるで魔法を見てるように紡がれて。瞬く間にパーツ毎に仕上がって行く。

「オーダーの『魔法比べ』参加のユミチカさんの仮縫い終わったから。本人に着てもらって」

「はあ~い。状態は私が見ますので、先輩は次の縫製お願いしました!」

「うん助かるわアイリスちゃん♪、よろしくね」

藍色の胸元開いた大胆なドレスを抱えて、元気少女アイリスは走り出していた。

「よし!」パンパン頬をた叩き眠気を晴らした。後オーダーは四着、今日中に仮縫いは終わらせたいところであった。



その昔……、アレイ学園で、伝説を作った部隊が存在した。あの英雄王、魔王、三賢者の1人や世界を代表する方々を育んだ彼の部隊は、今までだれも追い抜く事が出来ない伝説を残していた。遂にそれに並ぶ部隊が誕生していた……。白銀の長い髪を。後ろにかきあげ、颯爽と歩く様は、女神もかくやと男女問わず振り返り。彼女の顔を認め溜め息を吐く生徒が実に多いことだろう……、傍らには男装を好む麗人エルマを従えている、彼女こそ魔王の愛娘リルム・アオザ・パルストアと呼ばれる。見目麗しい少女であった。



昨年含めリルムは、『学年戦争』で将軍を勤めニ連覇の偉業を為した。個人でも『学年ランキング』前期二年連続優勝、後期『トーナメント』では、最大のライバル、レイラ・バレス率いるチームを倒して優勝。気がつけば伝説のミザイナ部隊に。ポイントが並んでいた。




明後日から行われる。『学年戦争』で優勝すれば、歴代ナンバー1部隊に輝く。



最大のライバルは二年連続。準優勝部隊フィア・ガイロン率いる三年『特待生』部隊である。

「フィア~聞いて!シンクさんと。しばらく会えなくなるの……」

泣きそうな顔のヒナエ、仏頂面のフレイミを見て、盛大な溜め息を吐いていた。

「全く困った物だな……」

「そうなのよ~」分かっていない幼なじみの1人を。ため息混じりに肩を落としていた。まったくヒナエは気付いてないようだ。クラスの男子生徒の視線。何か言いたげな女生徒の視線に。相変わらず無頓着である。ヒナエはバウスタン流体術の師範代である。道場主で母のミラさんも。似たような格好してるので、当たり前に思ってるのだろうが……。慣れた同性のフィアですらドキリとさせられる魅力を醸し出していた。何せ豊かな胸の形が丸わかりな。革のピッチリした胴着を、薄手の服の上から着ているし。目元のホクロも妖艶である。隣に立ってるフレイミも。二年の間にすっかり見違えて、美しい女性となっていた。昨年ローザが『院』にあがってからは、フレイミが学生達の美のカリスマと呼ばれるようになっていて。今ではヒナエと、二分する人気を得ていた。色々と言いたいことはあるが……、もはや諦めていた。それに上ばかり気にしていたら。足元をすくわれかねない。何せ二年生は曲者揃いである。気は抜けない。



二年、四年『特待生』教室は、第二演舞場近く校舎があって。1~3階までが一般生徒のクラスである。



━━『特待生』二年教室……。赤み掛かった髪。小柄な体躯、不敵な笑みを張り付け。ふんぞり反る少女。ドヴィア国次期女王メルディス・オーザ・ドヴィアである。傍らには金の髪を後ろに縛る。美少女セレナ・レダ。本人は母国の『院』を卒業していた。しかし姫様がどうしても1人で行くのはやだと我が儘を言うので、卒業までの四年間、アレイ学園の『院』に在籍する条件で、『特待生』として昨年から入学していた。

「今年こそ魔王の愛娘を倒してみせる!」

鼻息荒く言うメルディスに、セレナは深々とため息を吐いた。それはなかなか難しい話である。知恵者と密かにリルムから認められてるセレナから見ても。自分たちには根本的に何もかもが足りないこと。正しく理解していた。確かに癖のある同級生はいるが、メルディスは嫌われている。本人は理解してないようだが、



新たな学園長に就任したエルさんに呼ばれて、シンクは、学園長室で、顔を会わせた。

「よく来たわシンク。早速だけど月末の試験ね。実技は貴方に任せたいのだけど構わないかしら?」

毎月行われる試験は4教科、実技の5つから。合否が出されていた。

「それは構いませんが、一年生には厳しくありませんか?」 実技の試験は、試験官に認められるか、一本とることである。今現在シンクとまともに勝負になるのは、『特別教室』の面々か、あの三人くらいであった。

「流石にそれはないかしら、貴方に頼む理由は、夏に決める一年生『観察官』の査定も兼ねた、ところなのよ」

なるほど……、今年の三年は城塞都市ベゼルで、乗馬訓練をするが。一二年は懐かしの船舶訓練である。現在三年の観察官は、特例でシンクが教員になったので、リーザが選ばれていた。



なるほど一年最初の試験である。手抜きしても構わないから。見込みのある生徒を探せ。そんなところであろうか、シンク個人としては4人ほど。候補はいるが、色眼鏡をする気にはならない。様々な生徒と交流を持ち。何らかのきっかけに使えと。暗に言ってると察した。すると満足そうに微笑むエルさんの顔から、正解だとわかる。

「分かりました、今回の試験は良い機会なので、一年クラス全員の総当たり戦にしましょう」

シンクの考えを読んで、やや驚いた色を覗かせたが、なかなか面白いと微笑んでいた。

「では、任せたよシンク」

「おまかせください」二人は顔を見合せ。にこやかに笑っていた。




多忙なエルさんは。お昼になると王宮に戻っていた。バレンタイン教頭、各学年の観察官と供に。裏方仕事に奔走するシンクは、先生の大変さを身に染みて感じていた。

「シン演舞場の支度は終わってるから、私達は『魔法比べ』会場の結界の準備に向かおう」

「はいバレンタイン教頭」

見るからに戦士のような風貌。がっしりした体躯のバレンタインは、額に汗を光らせ明日から行われる。『学年戦争』『総合武術大会』『魔法比べ』の準備に奔走していた。得てして裏方と言うのは地味で、面倒な仕事が多く。シンクなどあまりの仕事の多さに呆然としたものだ。「ですが、結界の方は、既に終わらせてありますから。後で確認だけお願いします」

「おお!それは助かる。結界の魔方陣を描くのは大変だったろう」

「はい、なのでそれ用の魔方陣を書ける魔法を作ってみました。それはレポートにまとめてあるので、後程」

「なっ……なるほど、それは思い付かなかった、実に面白い!。色々と汎用がありそうだな」

「はい意外と簡単なので、先生方の秘密の魔法という感じですかね」

にこやかに答えるシンクを。それはそれは眩しそうにみながら、笑みを深めた。「なら我々は、貴賓室の準備かね?」

「そちらも終わらせてあります。後はどなたがこられるのか、名簿が来ましたら席の準備は終わります。その他料理、酒、ワイン等準備も終わってます」

流石に驚いたバレンタインは足を止めていた。夜まで終わるか微妙だった大変な作業が、こんなにも早く終わったと言う。

「ですのでバレンタイン教頭は、今頃『学年戦争』の準備を終えてるリーザと。先にお昼をどうぞ」「しかしそれは……」

エドナ学園長が退任され。まだ若いエル筆頭が就任したばかりである。色々と確認しなくてはと気ばかり焦る。

「大丈夫ですよ。バレンタイン教頭の仕事は、雑務だけです。だから今日はリーザと先に帰られても問題ありませんよ」安心させるように。懸念に思ってた案件を一つずつ上げて、理由を説明。この時ばかりは……。あのエドナ前学園長が、シンクを頼る理由を理解した。なんと言うか……、安心感を感じてしまう。学生にしとくのは確かに勿体ない。

「分かったシンク。君の言葉に甘えるよ。最近リーザと時間が作れていなかったから。とても助かるよ」

白髪の増えた髪を掻きながら。照れ臭そうに微笑んでいた。



毎年この時期。校庭が解放されて、学生や『院』生徒。アレイ学園から出店をお願いしてる店舗が、屋台の準備が刻々となされていた。

「お母さんただいま~」

夫オリバーが引く。手押し車の後ろから、息の上がるリナのにこやかに声を聞いて、手を止めたミリアはにこやかに娘を出迎えた。

「ご苦労様リナ、あらこんなに汗をかいて」ハンカチを取り出して額の汗を拭ってから。

「ミリア、ハミウリが売られていた。お前も少し休みなさい」

手押し車の荷台に、冷やされたハミウリの入った器を取り出して、優しい眼差しで労を労う。こうした気を使ってくれる夫に。年甲斐もなくときめきながら。

「はい。ありがとうございますあなた♪」

夫の言葉に甘え。早速はを貰うことに。 「ん~♪美味しい、春はハミウリね」

水気たっぷりのハミウリは、仕事の合間に食べるとほんのり甘く。疲れが癒されるようで、顔も綻ぶ。

「リナも食べなさい」

「はあ~い」

父から大きめのハミウリをもらい。ニコニコしながらシャクリ。

「冷たくて美味しいね♪」

「そうね。案外悪くないかも」

考えてみれば、安価で簡単に買えるハミウリを。屋台で出すのはどうかと考えていた。そこは長年一緒にいる夫婦である。

「そうおもって、ハミウリ農家に頼んである、明日の朝には届くよ」

抜け目ない夫の一言に。あらあらとつい微笑んでいた。

「これならサノビアさんにお願い出来るわね。リナお手伝いお願い出来るかしら?」

「は~いリナ頑張るね」

夫妻が住む職人通りならば、サノビアも受け入れてもらえてるが、まだまだ偏見を抱く人間は多い、多少なり交流を持って、彼女のような人が安心して、我が国で暮らせれたらとても良いのだが、先はまだまだ長そうである。



━━早朝マイト、コウ、レンタの三人は、マイトの姉のノノフレイミと。学園で朝練をするため。一緒に登校していた。 「流石に眠いよ~。姉さん達は毎朝こんなに早くから?」

「みんなはもう少し後だけど。私はみんなに比べるとまだまだだから、先に基礎訓練をしてるのよ」 恥ずかしそうに。はにかむフレイミ。三人の眠気は霧散していた。

「そうそう最近ね。私も槍の訓練してるから、ちょっと大変なんだけどね」

しみじみ呟いていた。今話に出たレイラ・バレスは、女性初の『オールラウンダー』の称号を得ると評判の女生徒で、噂では既に全ての試練を潜り抜けていて。卒業を待つだけと言う女傑である。何せあのシン兄と互角に戦えるだけでも脅威であった。それから彼女もフレイミと同じ。シンクの婚約者である。

「姉さん、リルムさんは朝練来ないって本当?」

「まあね。あの子朝ダメだから仕方ないのだけど」

内緒よと弟をたしなめる。姉は最近シン兄が。教員になって会えないと寂しげだったが、三年の教員だったから。まだ我慢できた。今年から一年の教員になることが決まり。すっかり拗ねてるのだ。

「それはそうと。レイラさん達に。留学生の話してくれたかな」

「ええシンクと勝負したいんですってね。クルミさんがてぐすね引いて待ってるそうよ」

意地悪そうに言うから。思わず三人は顔を見合せていた。クルミ・アルタイル。アレイ学園最強の剣士。その腕前は信じられないことにシン兄さん以上と言われていた。ローザさんと同じく『院』に上がった先輩の中には、シン兄さんと同レベルの人もいると言うから。信じられない話である。



三人が案内されたのは、『総合武術大会』会場に使われる第1演舞場である。

「あっクルミさんおはようございます」 フレイミが見てる方に視線を向けた三人は、一瞬首を傾げていた。

「誰も……、へっ」レンタが驚いた声を出した。突然栗色の髪のチンマイ少女が、目の前に現れたので、驚いたのだ。

「ふん気付いたのは二人だけか、そっちの子は基礎はあるが、使い方を知らないようだな」

偉そうな物言いだが、コウとマイトは冷や汗をかいていた。見た目可愛らしい風貌の先輩が、恐ろしい使い手だと直感的に理解した。

「そっちの子がフレイミの弟か、彼は魔法の方が得意そうに見えるが、鍛えてるようだな」

女性に好かれそうな風貌をしているが、存外きちんとした性格のように見受ける。

「そちっが……なるほどな、シンクの弟子達か、異国の留学生もいると聞く。たのしめそうだな」

にやり獰猛に笑っていた。



遅刻間際にフタバ、キヌエの二人は、どうにか教室に滑り込みホッとしていると。タイミングよくにこやかな笑みを浮かべたシンクが、プリントを持って現れた。

「おはようございます」

『おはようございます』

返事に笑みを深め。自らプリントを配る。内容は生徒ごとに違うからである。

「コウから聞いてる。二人は魔導兵の訓練を始めたとか、今日は『総合武術大会・予選』があるから、終わるまでひかえるようにね」

そう注意を受けて、二人は訝しい顔をしていた。昨日マイトも言ってたが、いまいち理由が分かってなかった。

「二人は今日。遅刻ギリギリで来たよね、それは目覚めたとき。身体がだるくてなかなか起き上がれなかったからじゃないかな?」

ズバリ、今の体調の変化を言い当てられ。少しだけ驚いた色を浮かべていた。

「うん、君たちは試験で、魔力があると説明を聞いてるね?」

二人同時に頷いていた。

「二人は知らないだろうが、魔導兵を動かすのはかなり魔力を消費する。あれって慣れるまでは、精神的疲労がなかなか抜けないのさ」

なるほど……、魔力を使うとそんなことに。

「コウ、後で二人に」

「はいよシン兄」

コウは何時ものノリで。気楽に答えていた。これに小さく苦笑して、

「とりあえず学校では、先生をつけてなコウ」

「あっゴメンシン先生」

慌てて言い直し。笑いを誘う。

「魔力が、回復するには、ある程度時間が必要だから、それで予選が終わるまで、魔導兵にはリンクしないようにと言ったのさ」

ここまできちんと説明されたら、二人も納得していた。

「みんなそれぞれ配ったプリントは、入学前に参加予定してる催しの説明、時間、場所が書かれている。シア君が参加する『魔法比べ』予選は明日だから、リナがお店に来てねと言ってたよ」

「あっはい分かりました。今日は妹とリナちゃんのお店手伝うんです」

「うん聞いてる。後でタイチも来るそうだよ。衣装の方は、服飾科のモレンに相談すること。カナデさんも参加予定だよね?」

「あっはい」

ヒナエ、アオイに顔立ちは似ているが、眼鏡をしてるので、おっとりした印象である。

「このクラスでは、マリアナ、クリミアが参加だね。君たちもホームルーム終わったら、服飾科のモレンを訪ねなさい」 二人の対照的な少女達は、それぞれはいと返事を聞いて、シンクはにこやかに微笑していた。



ホームルームが終わると、キヌエが、シアの元に行って、

「ねえシア、わたしも服飾科一緒に行っていいかな?」

「ええ構わないわ。ただしモレンさんかなり個性的な人だから、一応注意しとくわね」

見た目クールビューティーな雰囲気もあるが、妹の面倒をきちんと見る。面倒みの良さが隠れていた。

「あっでしたら私も良いかしら」

カナデがおっとりした笑みで申し出る。

「私達も御一緒して良いかしら」

纏う空気から、貴族の子女だとわかる。シアは二人を伺い頷いたので、

「構わないわ私はシア」

「カナデです」

「キヌエだよ」

「よろしく。私マリアナ・ラルベルト、お友達はアナと呼びますの」

「はっ、初めましてクリミア・ローデンです。ミアと呼ばれてます」

気が強そうな美しい金髪のマリアナ、ややくすんだ金髪のマリアナの背に隠れるように。赤い顔をしてるのがクリミアである。

「よろしくねアナさん、ミアさん」

まだ彼女達の性格が分からないので、当たり障りなくシアが対応する。

「よろしくねシアさん」

彼女達の様子を見て、案外正解だったとさとる。



服飾科・縫製科のある教室があるのは、コロッセオの北側、なので馬車で向かう。

「昨日も思ったけど、学校の中に乗り合い馬車があるのに驚いたわ♪」

キヌエは面白そうに窓から外を見て、足をバタバタさせていた。

「先ほどのお話ですと。キヌエさん呉の国から来られたとか」

マリアナが興味深く目を輝かせる。

「そうだよ~。私達の国に交易船がないから。アレイク王国までどういくのか困りました。リドラニアのブライアン様がお力添え下さり。ジエモンまでお迎えに来てくださりまして」

「ああ~ブライアン様が、キヌエさんはブライアン様とお会いに?」

興味抱いたのか、クリミアさんが尋ねた。

「はい。私達と変わらないお年ですが、優しくてとてもお強い方でした」ほんの数日であるが、忘れ得ぬ時間であった。

「そうでしたか、流石はシンク様の叔父様ですね」

「へっ?、誰がシンク先生の叔父さんなんですか?」

四人はおやと思った。代表してシアが説明する。

「あっあのブライアン様が、先生の……知りませんでした。フタバにも教えなくては!」

しきりに関心してる様子から。よっぽど強い思い出になったのだろう。

「そうだ……、お伺いしたいことがあるんだけど」

少しだけ恥ずかしそうに。噂の英雄シンク先生について聞いていた。四人は再び驚いた顔をしたが、冗談を言ってるような感じではない。だったらと、シンク先生のお父上。英雄王の話から代わる代わる話していた。「くっ、国を興されたのですか」

キヌエの隠さない素の顔に浮かぶのは、キラキラした子供のような瞳である。

「あらもう着くわね。キヌエさん良かったら。いつでも私達の国を救ってくださった。オーラル陛下とシンク先生のお話いたしましょうね」

マリアナさんは、彼女を気に入ったようである。



━━服飾科・縫製科の一般生徒は、二年で卒業するのだが、モレンのように普通科にいながら『特待生』に選ばれた生徒は多少なり在籍していて、二年の修学の後。普通科の教員見習い扱いとなる。

「モレンさん。お客さんですよ」

今年入学した一年にとって、モレンさんはお姉さんのような存在だと。縫製科の教室に案内してくれた。青みかかった髪色が珍しいアイリスが教えてくれた、

「はあ~い。ちょっと待ってててね」

マッドなデザイナー&縫製職人を目指してるモレンは。

何かしらの台の上に置かれた生地を乗せて、足をパタパタペダルを踏むと。だだだだたと音がして、生地が縫われていた。まるで魔法のように綺麗な服が出来ていた。

「うんこれでいいわ。それじゃ二年の子に渡して来て」

「はあ~いモレンさん」

鮮やかな黄色い花のようなドレスを。手に二人の一年生が走ってゆく。

「お待たせ、えーと貴女達は?」

「はっはいシンク先生に言われて」

「ああ~シンクさんが、じゃ貴女達は一年生の『特待生』ね」

「あっはい」

「ん?あら……、貴女は見たことあるわね」

「あっはい、多分リナちゃんのところで」

ああ~なるほどね。とにこやかな笑みを浮かべていた。

「じゃ、採寸しようか」




てきぱき採寸済ませたモレンは。一人一人に合わせてデザインを済ませてくれた。

「シアさんは、淡い青が似合うわね……。あら貴女リナちゃんと同じなのね」

「えっ……」

ドキリとしていた。なんだかモレンさんは、目は私を見てないような、遠くを見てるような不思議な眼差しをしていた。

「ああ~だからシンクさんと。ん~こんな所ね」

勝手に自己完結したのだが。モレンさんの笑顔は優しい物に変わっていた。



━━帰り道。校庭の屋台に向かうからと。シアが途中で降りたのだが、予選に向かうキヌエ以外。三人が付いてきた。

「先程シンク先生がおっしゃった。リナちゃんのところですわよね?」

「はい、妹達も来てる筈ですので」

「御一緒しても宜しいかしら」

キラキラしたマリアナさんの眼差しを受けて、

「構いませんが…」 「良かった♪、私達こうしたもようしが初めましてで」

クリミアさんもうんうんと頷いた。何だか物珍しそうにキョロキョロしていた。それでなんとなく彼女達がどんな子か理解した。

「あっ見えました。あそこで手を振ってるのが、妹です」



色とりどりの飾り付けされた屋台が並ぶ中に。ひときわ可愛らしい小物が、軒先に並ぶのを見て、三人は目を輝かせた。「まあ~なんと可愛らしい」

モンスターをデフォルメした人形や、可愛らしく衣装を着たぬいぐるみにマリアナ、クリミアが食い付いた。

クリミアが手にしたのは、赤い石の付いたブレスレット。

「意匠が凝ってますわアナ♪」

安い鉱石を用いた品であろうが、確かに手の込んだ素晴らしい品である。

「あらあらお目が高いわね。そのブレスレットの輝石は小さいけどルビーが使われてるわ。台座は銅を使ってるけど、意匠はドワーフ職人の物よ」

二人に、黒髪の美しい店主が、声を掛けてきた。

「あっお久しぶりですミリアさん」

「まあ~シアちゃん。お久しぶりね」

にこやかに微笑みながら。

「二人は、お友達かしら?」「あっ、はい」

「そう。それならサービスするわね」

パチリウインク残して、二人に品の説明を始めた。

「お姉ちゃん」

ミリアさんなら悪いことにはならないだろうと。少しだけ肩の荷を降ろして、隣の屋台に顔をだすと。

「ソアラお待たせ」 「ううん大丈夫だよ。リナちゃんとハミウリ売りしてたから♪」

そう声をかけたが、意外なことに。売り子の手伝いをしていたと言う。見れば安価なハミウリは、飛ぶように売れていた。かなり盛況のようだ。

「シアさんこんにちは」

パタパタ手を振ってくれるリナちゃんに。手を振り返す。隣でやんちゃそうな顔の少年タイチも。一生懸命お手伝いしていた。メインのサノビアが、見事な腕前でハミウリを八つに切り分けると。子供連れのお父さんが、サノビアさんを食い入るように見ているのが、なんとも腹正しい。見ればお客のほとんどが男性客である。悲しいかな揺れる胸に釘付けのようだ。

「男ってバカよね♪」

クスクス笑いながら、ミリアさんが意味ありげに言うから。仕方なく頷いていた。

「シアさん貴女のお陰で、沢山おまけして貰いました♪」

身に付けた品々を大切そうに見せてくれた二人。笑顔をみると。もやもやした気持ちが消えていた。 「良かったねアナ。ミア」

心からそう言うと。二人は何故か、少しだけ嬉しそうな顔をしていた。



翌朝……、寝坊せず目覚めたフタバは、昨日の試合いを思い出して、少しだけ落ち込んでいた。



フタバの故郷、和の国は、片刃の刀と体術を合わせた。変幻自在の舞踏のような技を伝えていた。相手に予想外な動きから、圧倒して倒すことを理念に。国内でも有数の力量と。自信があっただけに。苦戦の連続は予想外なことである。フタバは知らなかったが、華の国ダナイと言う大国には、似たような技を持った剣士が多く。珍しい物ではなかった……、同級生には勝てたが、上級生には何度も負けかけた。

「おはようフタバ……」

少し元気なさそうなキヌエ、彼女も苦戦した口だ、呉の国では、短刀の双刀を用いた蓮華と呼ばれる息をも尽かせぬ速攻を得意にしていた。フタバと似た理由で苦戦を強いられたのだ。最終日に行われる準々決勝に残れたが、優勝候補の二人と対戦。口数も少なくなる。

「マイトに朝練誘われたけど。自信無くしそう……」

「そうだな……、でもコウの持ってたちょこれーと。あれまたくれると言われたらな……」

「ああ~あれは本当に美味しかったよねちょこれーと」

昨日のこと思い出して、複雑な口調で呟いていた。



昨日『総合武術大会』予選で使われた、演舞場には、早朝なのに沢山の生徒がいて、とても驚いてると。風切り音を奏で、縦横無尽に宙を飛ぶ。羽のある女性に気が付いて息を飲む。

「あっおはようフタバ、キヌエ」レンタの皮肉気な笑みを見付けて、二人は少しだけ安堵した。轟音たてながら。栗色のチンマイ女の子が、上空からの斬撃を軽く押し退け。逆に凄まじい勢いで肉薄すると。下方からの切り上げ。

「グッ!」

二本の細身の剣を十字にして、受けたが、体ごと弾かれていた。ゾッとした。二人から見て翼ある女性の一撃は、必殺に等しい。それを平然と受け止め。必殺に等しい切り上げを放つなど。自国の剣の指南役ですら敵うか……、息を飲んでいた。「ああ~クルミさんの実力みると。冷や汗でるね」

二人の胸中に気付き、苦笑混じりに言葉を重ねた。

「準々決勝でフタバが戦うのが、あのクルミ先輩だよ。キヌエの……今上がった黒髪の先輩。ヒナエさんだよ」

二人が舞台から降りて、変わって槍を手にする金髪を後ろに束ねた。ほっそりした顔立ちの女性。対するのがピッチリした皮の胴着を着る。妖艶な魅力ただよう女性である。



二人が身構えた瞬間。先に脱兎の如く動いたヒナエは、空気を切り裂くような。鋭い音を響かせ、いきなり背を見せる変則的な構えからの。ハイキック。クルリ風車のように回して、バシンと槍の柄で受け流し。槍を引き込んで、石突きの刺突。



さっとトンボをきってかわしたヒナエは、槍使いの懐に飛び込んで、息をも尽かせぬ連撃を見舞う。全て紙一重でいなした槍使いは、ヒナエの足を引っ掛けバランスを崩させた。その瞬間槍使いは不思議なことをした。片手に持った槍の石突きを蹴ったのだ、見えぬ矢のごとき刺突が、体勢を崩したヒナエの0距離から放たれた。決まったと二人は思った。バン、固い音がしたかと思えば。槍を弾いていた。

「行きますレイラさん」

ヒナエの腕に二人は注目していた。素手ではない点から。拳を痛めないようにの配慮だろう。


鋭く踏み込んだヒナエの肘うちが、レイラの首筋を狙う。バウスタン流、牙斬、かわされた瞬間。裏拳、横蹴りをいなして、レイラは槍で薙ぎ払い。ヒナエと距離をとった。

「そこまで、次コウ、マイト」息をするのも忘れていた二人は、貪るように空気を吸った。

「なかなか見応えあるよな~、でもあの二人も負けてないぜ」

呼ばれた二人の手にある獲物は、コウが長剣、マイトは弓である。

「マイトのお姉さんて『学年ランキング』優勝経験もある。凄腕の弓使いなんだぜ」

「へえ~。それは楽しみだね」

「なんだかみんな強いから。見応えあるし」

二人も武人。優れた武人同士の試合は、見ていてわくわくしていた。

「行くぜマイト」

「今日は負けないよコウ」

二人は幼なじみ。だから負けたくない。先にマイトが動く。何もない虚空に矢をいきなり数本放ち。コウに向かって走り出した。

「何を……」「なあ~二人とも。弓使いだからって、接近戦に弱いと思ってると痛い目見るぜ」

当然の疑問に対して、ヒントを口にしていた。レンタと言う少年、何もかも語ることをよしとしない。聞き手の興味を掻き立てる語り部である。



コウはマイトを迎え撃つように。抜き打ちの構えをとった。 「あれは抜刀の技?」

諸島郡六ヶ国の一つ。弐の国の剣士が得意にしている技に似ていた。

「コウのあれは我流だ、シン兄さんから矢流しを学んだ時。覚えたんだ」

「矢流し!?」

二人は今度こそ狼狽えた。矢流しとは剣の極意の一つ。目で見てかわせぬ矢を。捌く技術のことだ。

「まあ~一応俺も出来る。たまに失敗しちゃうんだよな」自嘲気味に言う。だが内容は聞き逃せない。レンタは商人になることを望んでいた。姉のような頭も。友人達のような夢を見ていない。ただ現実を見て楽しむ時は楽しみ。とりあえずやれるところまではやってみて。そこから引き返したり。道を変えてもいいんだと。シン兄さんから教わった。どうせ商人になるなら。世界一の商人と呼ばれるようになりたいと。最近考えれるようになったのは、幼なじみ達の影響かもしれないが、皮肉気に笑う。




迫るマイトを切り伏せる。コウが抜刀した瞬間。何故かマイトは後ろに大きく飛んでいた、咄嗟にコウが追いかけようと一歩踏み込むや。頭上から無数の矢が落ちてきた。慌てて回避するコウ。マイトはその隙を見逃さず。避けた方に矢を放つ。

「チッ」

剣を戻す間もなく。矢を払う。マイトはいつの間にかコウの背後をとって矢を手に、コウの喉元に突きつけていた。

「それまで」

きびきびした女性が、制止をかけた。 「あの人はフィアさん。三年の将軍で。まさに文武両道の名に相応し人だよ」

「レンタ上がってこい。私が相手をしてやろう」

泰然自若としたフィアのご指名に。アチャ~てな顔をしていたが、半分諦めて、素直に舞台に上がる。

「レンタは珍しい武器を使うから、見ていてためになるよ」 練習試合を終えた。みんなが集まっていた。




演舞場に上がったレンタが手にした武器は、一瞬短い棒かとかと思ったが、形が違っていた。持ち手が金属の棒の横に付いていた。

「あれはなんて武器なのかな」

見たことない武器に興味を惹かれていた。トンファと呼ばれる武器である。この武器は防御力に優れていて、体術と合わさると。棍棒にも盾にもなる攻防併せ持つ珍しい武器であった。対してフィア・ガイロンは、ガイロン重騎士団の代名詞。ポールアックスを手に。悠然と構えていた。先にレンタが動く。大物武器の攻撃を受けるのは、得策ではないとの判断。こうした咄嗟の判断は、損得勘定の早い商人ならではで、また戦い方も武人とは異なる。攻めているようで、何時でも逃げれる位置にいて、避けられても問題ない攻撃ばかりである。一瞬でフタバ、キヌエの二人は、レンタが格下だと決めつけた。

「フフフ、普通は君たちのように。彼を侮るよね」

いつの間にか、男装した女性エルマが側に来て、二人に声を掛けた。

「うっ、ビックリした。先輩はそう思わないんですか?」

キヌエが切り返した。

「私なら止めを刺すまで、彼から注意を怠らない」

きっぱりと断じて、鋭くレンタを見ていた。顔を見合わせる二人のためマイトが、幼なじみの名誉を守る。

「二人は武人だから。毎日勝とうとして訓練してるよね」

そう切り出した。その間もフィア、レンタの攻防は見てる限りでは。タルいものである。相手の先輩はかなりの使い手だ。しばらく見ていて二人も徐々に疑問を抱いていた。なぜ倒せないのかと……。

「レンタは商人として、訓練に参加してるんだよ」

まるで意味が分からなかった。眉をひそめる首を傾げた。



もしも商人として、武人との争いに勝つにはどうしたら良いか?、抱いたのはそんな疑問であった。自分で答えを見付けるため試行錯誤したが、まるで満足出来る答えは得られなかった。その結果ある結論を出した。無理をする必要はないのだと……。無様でも。周りから見て、例えつまらなく思われようと、最後に立っていれば、そいつが勝者ではないか?、レンタとは打算的な思想の少年であった。周りの評価がどうであろうと。シンクやフィアなど先輩にも恵まれた。正しく評価されたことを嬉しく思っていた。確かに武人から見れば、潔くないだろう。本当の戦場に立ったことがあるフィア達『特別教室』の生徒から見たら。レンタの考えは面白いとさえ思う、よく言えば粘り強く強か。悪く言えば意地汚い。使える物は何でも使う。

無造作に見えた一撃を、フィアが受けずに回避した。舌打ちしたい気持ちはあるが、さすがはフィア先輩だと内心唸っていた。結局粘りに粘ったが、負けていた。

「今の何気ない一撃。あれを受けずにかわしたフィアに軍配上がったが、あれを受けていたら。勝敗は逆転していたな」「はっ……はあ~」理解していないようだ。

「うむ。自分で試してみるといい、お前達の試合を見たが、足りない部分が分かるよ」

そう言われたら。俄然興味を持って、

「レンタわたしと試合なさい」

多少疲れていたが、まだいけると皮肉気に頷いていた。

フィアはそのまま審判を勤めるため残る。

「暇なら少しどうだ?」

コウが不敵に笑いながらフタバを誘う。

「いいね。ちょうどうずうずしてたんだ♪」

喜んで誘いに乗っていた。クルミ、シンクが始めた朝練は、次代の後輩たちに受け継がれて行くようで、レイラの隣にいたクルミは感慨深く。吐息を吐いていた。



ホームルームが終わった後。カナデ、シア、キヌエ、マリアナ、クリミアの五人は午前中行われる『魔法比べ・予選』に出場するため。以前弓の競技会が行われた。広々とした広場に案内されていた。



昨年卒業したが、『魔法比べ』別名コンテスタを広めた。伝説の姉妹が在籍していた。二人は世界中を周り。後輩たちにコンテスタの演目を教えていると言う。キヌエは参加しないのだが、四人の衣装に興味津々で、自国にはない魔法を楽しみにしていた。諸島郡六ヵ国にも魔法に似た力はあるが、概念、使い方が異なる。

「だからわたしとしては、せっかくだし魔法も学びたいんだよね」

順番を待ちながら、カナデに請われるまま説明していた。

「呉の国って、どんな魔法があるんですか?」

未来の宮廷魔導師を目指すシアとしては、興味があった。 「ん~やっぱり札術か、式神な~」

「札術に式神?」

「うん、浄めた紙に術を込めて使うのが札術、式神は力ある妖怪、神々と契約して使役する術です」「ああ札術ってのはなるほど~魔砲と同じ原理ですね」

「式神はあれかな使い魔の魔法の強力番とか、契約魔法が近いかな」

カナデ、シアが自分たちの知識に当てはめる。目をパチクリさせるキヌエは、

「魔砲とかって言ったのさ、なんとなくだけど魔法とは違うよね?」

疑問を口にしたキヌエのため。簡単にカナデがレクチャした。

「あっはい。魔砲はまだ新しい技術なんですが、わりとポピュラーな魔法を。加工した弾丸に込めて、専用の砲銃で打つ武器のことです」

目を丸くしたキヌエは、ややカナデの方に身を寄せて、

「アレイク王国には、そんな技術もあるのか?」

武人ならではの才覚で、魔砲の汎用性に気が付いたようだ。「まあ~、正確には帝国発祥の技術なんですが、学園でも教えてるので、興味があったら先生に聞かれるといいですよ」 それは良いこと聞いた。目をキラキラさせるキヌエに。四人の顔にも笑みがあった。

「マリアナ・ラルバト」

「あっはい。では行って来ますわね」

「アナ頑張って」シアの声援に華やかに微笑み。いざ決戦の地に歩を進めた。



結果マリアナ、シアが予選を突破。カナデ、クリミアは優勝候補相手に善戦したが、敗退していた。

「はあ~、やっぱり本番は失敗しちゃいました」

盛大にため息を吐いてクリミアが、目に涙溜めて言えば、どんよりした空気を纏うカナデとヒシリ抱き合い。ジトリトした目を二人に向けていた。

「さっさあ~シア、『学年戦争』でも見に行きましょうか」 「そっそうだねキヌエが出るかもしれないし」

シアが追従して、素知らぬ顔をしていた。

『やばいですわ。素直に喜べません』 『本当に……』

二人はどんよりした目のミア、カナデを前に頭を抱えていた。



その頃……、キヌエ、フタバはコウ部隊の正式メンバーとして、『学年戦争』に参加していた。


━━『学年戦争』とは、

一年~四年の『特待生』。各クラスの部隊総勢70~80名プラス、傭兵30、傭兵国の傭兵一人~二人を雇い。広大なフィールド内で、王である旗を守り。敵国の三ヵ国を倒した。仮想国の優勝となる。

「まさか学校で合戦をやれるとは!」

鼻息あらく。フタバは言うが、自分たちがこの中でまだまだだと認識してるキヌエとしては、コウがわたし達を正式な仲間にしたのか、そこが不明な内は、素直に喜べない気持ちであった。「お二人さん~、ぼちぼちリンクしましょうか」

ぽっちゃり体型の元呉の国出身のランディから急かされるまま、二人は棺桶と呼ばれる長方形の中に入る。意外と寝やすいので、こんなのが魔法のシステムだとは、少し信じられなかったのだが、今ではすんなりリンクが出来た。




黄色旗の中に鎧の紋章がはためく一年国は、三ヵ国の中で、一番戦い安い二年国に戦を仕掛けた。傭兵機体に紛れレンタ、マイト、フタバ、キヌエが、マイトの作戦通り。傭兵機体が出てくると、目立ちたがりやのメルディスがでばって来た。横に策略家のセレナがいるが……、メルディスが一緒ならば怖くない、罠に掛かったとマイトはほくそ笑む。全体的な戦力は大して変わらない。となれば駆け引きが物を言う。優勝候補の三年、四年は今年最後である。決戦を望むのは予想通りで、メルディスが四年の魔王の愛娘に敵意を抱いてる。横槍をいれるつもりだった筈だが、そこは抜け目なく。裏でリルムと通じていたマイトの策に。リルムは面白いと微笑んでいた。

「貴方さすがはノンの弟ね。戦場の吉備をわかってるわ。良いでしょ初日はいかなることがあっても一年を狙わない。それでいいのね」

冷ややかな笑みを浮かべていた。恐らく次の言葉でマイトを判断するつもりであろう。

「はい。僕達はシン兄さんの言わば弟子達です。見所くらい作らなきゃ、シン兄が悲しみますから」

「クフフあらあら貴方、案外面白い子に育ったのね♪」

お気にめしたようで、ようやく肩の荷を下ろした。

「ただエルマさんうちのコウは長剣の扱いで、シン兄に認められてる実力者。同じ長剣使いとして、侮らないで下さいね」

わざとリルムの補佐エルマを挑発した。ほほうとばかりに好戦的な笑みを浮かべたリルムは、大切な副官のエルマを伺い。

「後輩がここまで言ってるが、どうする?」

「お嬢はしらないでしょうが、そこのマイト、レンタの三人留学生の二人は、かなりの実力者。しかし長剣使いとして、負けるつもりはありません」強い光を宿したエルマに。あら珍しいわねっと小さく笑う。確かにマイトの姉ノンは、強かで抜けめない人である。目の前の彼は、レイラに似た侮ってはいけない空気を纏っていた。実に面白い後輩が入ったものだと。密かに楽しみに思っていた。



轟音たてて緑色の機体を破壊する。小柄な機体に…。死角から矢を放つが、セレナが防いだ。驚いたメルディスが止まった隙を突いて、フタバ、キヌエが二人を襲う。それを見て二機は動き出した。やはりと言うか、まだ魔導兵の扱いに慣れてない二人には、荷が重いが、マイト、レンタが手助けすれば、互角に戦える。マイトの考えはこうだ。二人さえ押さえてしまえば、残りの魔導兵は二人のために動かない。メルディスの才能は認めるが、所詮は裸の王さまである。嫌われ者の暴走に従う者はいない。それが曲者揃いの二年が、簡単に負けていた理由であった。



『二年旗を奪われ敗退』

悔しそうに地団駄踏んでるメルディスとは違い。セレナの美しい相貌に艶やかな笑みが一瞬だけ浮かぶ。

『三年旗機を打ち取られ敗退』

こうして前哨戦が終わり。明日のお昼『学年戦争』優勝が決まる。グッタリしてるフタバ、キヌエにコウが、父謹製のショコラーデを振る舞う。

「ん~、美味しい」

「うま!」

パッと顔を輝かせる二人に、コウの昨日の歯ごたえあるチョコレートもいいが、口どけのよいショコラーデの濃厚な旨味もまた斬新で。実に心地よく身体に染みた。偏頭痛がすう~と消えていた。

「まだあるがもう1つどうだ?」キヌエに差し出すと。凄く嬉しそうに受けとる。

「チョコレートって本当に美味しいわね♪」

すっかり気に入ったようだ。

「ああ~いいなキヌエ」

フタバの羨ましい気な顔を見て、満更でもないコウは、

「学園の休み。予定ないなら。ケーキ屋とか行ってみるか?」

二人を誘うと。揃って首を傾げた。

「ケーキって何かな?」

「ああ~そうか~、お二人さん知らへんのやな」

ランディがぽっちゃりした相好を崩しながら。

「珍しいお菓子が食べれる甘味処のことなんや~」

ジュルリ、今にもよだれ垂らしそうな顔ので説明する。成る程と二人は頷いた。「悪くないわね!。だったらシア達も誘いたいんだけど……」と提案していた。キヌエが最近シア達と仲が良いのは知ってた。バイト代叩けば何とか足りるか……、コウ、レンタと目配せしていた。

「仕方ないな。構わないよ」

ほろ苦くマイトが言えば、キヌエは嬉しそうにはにかんだ。



翌日の昼……、



『うぉおおおお!』 瞬く間にマイト、レンタが魔王の愛娘に討ち取られ。お目こぼしで旗機に乗るコウが、エルマとの一騎討ちを所望された。勝てば一年の優勝で構わないとまで甘い確約をしてくれる。太っ腹な振る舞いに。藁にも群がる人々のように士気があがるが、コウは。エルマさんの実力を知るだけに、楽観視出来ない。



二機がにらみ合い。殺伐とした空気すら流れていた。息を飲む緊迫した雰囲気。躊躇するコウの心情を読んでたように。リルムは空を掴み矢をつがえ。二人の近くに着弾。弾かれたように二機が動き出した。通常の剣より多少長いだけの剣。されど間合い。破壊力。技術、剣のバランス、重さ、身体の使い方。目測の全てが変わってくる。しかし二人にとって、長剣は手足のごとく扱い。自分の力と自負していた。ガツンとコウの切り下ろしを受け止め火花散る。まだまだ荒いが、目を見張るほど生き生きした剣に。エルマは次第にのめり込んでいた。




……『飛燕』

切り下ろしをかわされた瞬間。宙にVの字を描く切り上げを見舞う、



背にひやりとした寒気を感じて、エルマは後方に飛んでかわす。『ほう~そんな技を隠していたか』

面白いと誉めれば、『今ので決められなかったのは痛いです』

素直に嘆くが……、決して勝負を諦めてるようには感じない。成る程マイトが言うだけはある、コウを見直していた。結局は負けてしまったが、あの魔王の愛娘の右腕に認められた一年がいると。コウは全学年から注目を集めることとなった。



夕方になると校庭にある屋台では、沢山の提灯が掲げられていて。不思議な楽しさを感じていた。着物に着替えてきたフタバ、キヌエは『魔法比べ』の演目を見るため。再び学園に来ていた。

「今日、明日は、遅くまでやるからって、ミアから言われて来たけど。凄い人手だねフタバ!」

「そうだな~。まるで夏祭りのようだね」

諸島郡の六ヵ国では、夏祭りは合同で行われるため。それはそれは華やかであった。着物姿の生徒も意外と多く、驚いてると。二人を誘ってくれたマイトの姉フレイミさんが、

「それはドヴィアの方々が、来日されてるからね」

「ドヴィアって、戦士の国の?」

多分気付いてないな~とは思ってたのだが……、

「アレイ学園には世界中の国々の王族、有力諸侯が入学なされることがあるって、聞いてるかな?」

「あっ昨日マリアナから聞いたよ」

キヌエの口から出たマリアナとて、アレイク王国の貴族令嬢である。

「そういえばコウ君とレンタは?」「二人はコウのおじさんの手伝いでバイトに行ってる。明日俺がバイトだから二人の応援はコウ、レンタが行くぜ」

成る程それなら仕方ないなと頷くフタバ、それにしてもさすがは大国の学園である。見たこともない食べ物が沢山売っていた。

「あらあらノンちゃんにマイト君じゃないのよ。寄ってきな」

「あっおばさん今晩ゎ」

恰幅のよい女性に声を掛けられたようだ。

「マイト知り合いかい?」

「あっうん、近所のおばさんだよ。この辺りの屋台はだいたい知り合いがやってるね」

「あっマイト!、寄ってきな」

向かいのおじさんがにこやかに手招きしたので、二人を連れてくと笑みを深めた」

「初めてみるがマイトの友達かい?」「うんそうだよ。二人は留学生でさ、諸島郡から来てるのさ」

「ほほ~うそんな遠くからか。よしこいつはおじさんの奢りだ食ってきな」

三人に一枚づつ。紙の容器に入った食べ物が渡された。

「こいつはクレープって言ってな。中央大陸発祥の軽食さ。中身はバナナ、チョコソース、生クリームだ」

なんか分からないものが沢山入ってる物を。恐る恐るあむって食べた二人は、目を見開き。

「あっ甘い!」

「うま!、めちゃくちゃうまいんですけど」

「気に入ってくれて良かった。こいつはミリアさんから教わった料理でな、最近人気なんだぜ」

「おじさん私にもそれくださいます」

「あれカナデ……」 もう一人そっくりな風貌の女の子がいた。

「あれあんた……、ノンさんの弟くんじゃん」

「あっアオイさん今晩ゎ、やっぱりカナデさんは妹さんなんだね」

一瞬驚いたようだが。軽く肩をすくめてまあねと答えていた。

「じゃキヌエ、またあとでね♪」

カナデが手を振り、二人は仲良く。雑踏に消えていた。

「マイト~そろそろ会場に行くわよ」

姉に言われて、空を見上げれば、すっかり日が落ちていた。間もなく決勝が開始される時間であった。



毎年『魔法比べ』を楽しみに沢山の観客が訪れる。




今年の優勝候補は。一年の時、あの姉妹から屈辱を味わった苦労人ヨハナ・ミルク三年。リドラニア公国出身サシル・エブローザ、父は海軍中将。対するは一年二人であった。



空を思わせる青のドレスに身を包むシア、傍らに艶やかな胸元が薔薇をモチーフにしたドレス姿のマリアナの二人は、緊張した面立ちをしていた。

「あっいたいたシア、アナ!」

声を掛けられちょっとだけホッとした二人は、新しく友人となったフタバ、キヌエ、クリミア、カナデ、一度も話していないが、女の子に人気のマイトが応援に来てくれた。

「シア、ソアラはリナ達ともうすぐ来るから、先に行く俺に『お姉ちゃん頑張って』だとさ」

「そう、二人はバイトかしら?」

「ん、コウが悪いとか言ってたよ」それは仕方ない。分かっているが、せっかくの晴れ舞台。あいつには見て欲しかったのに残念である。

「昨日しっかり見てたからね、あいつ面と向かっては言わないけど。『似合ってる』ぼそり言ってたよ」

意表を突かれたシアだったが、まんざらでもなさそうに。ツンとそっぽ向いて、

「そう、彼奴らしいわね……クス」

柔らかな笑顔が浮かんでいた。驚いた同級生四人に意味ありげにウインクしていた。



惚れっぽいコウのことはさておき、コンテスタ決勝の舞台を彩るためサプライズで、二人の美しい女性が、ゲストとして現れた。『本日、コンテスタの生みの親フレア=カレン・ダレス、シアン・イナバ姉妹が、エキシビションを公演なされると。緊急帰国なされて下さいました』

豊かな真っ赤な髪を肩口で揃えてる姉のフレア、対照的に後ろは刈り上げ、耳元に切り揃えてる。活動的な雰囲気を醸し出す妹シアンは、それぞれ光と闇を表すドレス姿で、歓声を上げる皆に手を振っていた。

「うわぁ~あの二人きれい……」

うっとりと目を惹く双子に釘付けのキヌエ。確かにと相槌うつフタバ、彼等は知らないが、何れもアレイク王国の重責を担う。未来の重鎮であった。

『本日は『特待生』から教員になったシンク先生が、決勝の進行を勤めます。では先生お願いしました』

パチリ指を鳴らされた音がした瞬間。会場となる結界ないに。無数の明かりが灯る。中央に立つのは黒髪の少年である。ざわめきは一瞬で静まるなか、シンクの言葉が、人々に伝わるように魔法を唱えた。

『今宵……一夜の夢が見られますよう。決勝出場を決めた乙女達を紹介いたします』

人前に立つことになれてるシンクは、バレンタイン教頭と違い、進行役もそつなく見事に聴取の心を惹き付けた。

『三年ヨハナ・ミルク』

パチリ指が鳴らされるや、光は一人の女生徒を映した、シックな色のドレスは、身体のラインが分かる艶やかなもの、彼女は二年前……、フレアの一言に一度は挫折して、この場を逃げ出した、




しかしコツコツ努力を重ね。今や、優勝候補に名を連ねる程の実力を磨いていた。

『今一人、二年サシル・エブローザ』

父はリドラニア公国海軍中将、銀色と銀のスパンコールが目を惹くクールビューティ、プラチナ色の髪を肩口で揃え、大ぶりのダイピアスが耳元で輝いていた。

『一年から二人、マリアナ・ラルバト』 緊張が幾分和らいでいたが、憧れのコンテスタ姉妹がエキシビションを披露してくれると聞いて。頬を赤らめていた。

『今一人、シア・レノ』

冷めた顔をしてると子供のころから言われてきた。それは姉妹の秘密を隠すために必要なことだと未だに思うが、慎重な性格のシアが、華やかなコンテスタの舞台に立とうと思えた。シン兄と出会ったから……。

沢山の友人に恵まれ、新しい友人が出来た。なぜ父がシン兄の後輩ならばと言ったのか、今なら分かる気がした。

四人の生徒が、自信に満ちた顔をして、今宵一夜の夢を披露する。



最初の演じ者は三年ミルクである。

二年前のことが脳裏に浮かぶが。一度首を振って、ゆっくり自分のペースで、物語をつぐむ。彼女が得意にしてるのが砂の魔法である。

『皆様は、上空の魔法のビジョンをご覧下さい。彼女の魔法は、儚いサンドアートと呼ぶもの』

映しだされた映像を見上げた観客は、何時もと赴きの違う演目に。戸惑いを隠せない。ミルクは。結界内に光を放つ蛍石を磨き。平たく加工された土台と、黄金に輝く魔法の砂を召喚していた、




サンドアートとは、淡く光る土台の上をキャンバスに。魔力を持った砂を操り。様々な絵を描き。物語を描くアートである。

ああ~、ほほ~、等沢山のため息、感心した吐息が漏れでていた。一見地味に見えるが、計算された物語に、新たなアート誕生の予感を……。人々は感じていた。さらに魔法の砂には面白い効能があった。耳を澄ませば聞こえてくる。実に心地よいサラサラと音が、辺りに聞こえていた。




コンテスタの舞台で、他人の演技をこれほど真剣な面立ちで、見たことがなかった。コンテスタ姉妹ことフレア、シアンは、感心したように舞台のミルクを見ていた。


二番手サシルは、コンテスタの華。光と闇をモチーフに演目を演じた。一年の二人も頑張ってはいたが、二人の技量が抜けていた。

『優勝はヨハナ・ミルク』

同級生の活躍を称え出迎えるシンクに、気恥ずかしそうな顔をしたミルク、それでも堂々と胸を張る。

『これより我が学園が生んだ美姫達による。素晴らしい演目を披露していただきましょう』

二人のプライドを刺激しつつも。背をわざと押すような司会プリに。姉妹は顔を見合せ。二年前……、彼が現れた日から起こった。様々な出来事を思い出す。だから姉妹は、最初で最後の意趣返しを狙っていた。




素敵な思い出のありがとうを。行動に移した。二人は同時に下がろうとしたシンクの腕を掴み。悪戯ぽく笑いながら左右から同時にキスをしていた。ざわめく観客。真っ赤になるシンクを囃し立てる。

『皆様。彼は私達姉妹と両親を繋いでくれた善き後輩です』

『今宵は私達の我が儘で、シンクにありがとうを伝えたいと思います』

二人はシンクを中心に。演目を開催した。慌てるシンクはまるでピエロのごとく映る。しかし二人の演じる魔法の演目は、炎の精霊王と氷の精霊女王の愛から生まれた。水の精霊の物語。フレアが扱うのは世界にただ一人。影を操る魔法。妹のシアンは自分を分身させて、物語を紡ぐ演目を得意にしていた。今宵現れたのは精霊の少女が。精霊達から嫌われ。恐れられ。孤独であること。



そんなある日。一人の人間が精霊の少女を救う。彼は少女を自分の娘にした。妻も少女を自分の娘として育て、彼等の本当の娘達も自分を姉と受け入れてくれた喜び。



……しかし…、村人は少女を恐れた。やがて追い詰められてく家族のため。精霊の少女は村を飛び出した。



……つらく、悲しい旅の中で少女は、沢山の友人に出会い。やがて美しく成長して行く。姉妹は忘れない、彼が残し育んでくれた優しさを。 『うぉおおおお!!?』

涙すら流して、コンテスタ姉妹の演目に総立ちとなっていた。

「シン……、私達あなたが好きだったよ」

「だからさっきのキスはお礼と、半分愛情表現ねクスクス」可愛らしく笑う姉妹の魅力に。みるみる真っ赤になってく様子を見て、彼を好きになって良かった。心からそう思えた。これから二人は、有象無象を相手に政治と言う。化け物の巣窟に入っても、その輝きを失うことはなかった。



あの美しいコンテスタ姉妹が、熱ぽくシン先生と話てる姿は、なんと無く面白くない。隣をみるとフレイミさんが、悔しそうな顔で、苛々してるからどうしたんだろと。キヌエは首を傾げていた。



━━翌日。お昼から『総合武術大会』、準々決勝、準決勝が行われた。



予選の時とは大違いな人手に、圧倒されてたフタバ、キヌエの二人を。コウ、レンタが応援に来ていた。「二人とも相手は大変な人ばかりだけど、頑張ばれよ」

皮肉気に言うレンタに言われるまでもない。二人はよ~く彼等の実力を知っていた。フタバの対戦相手は『総合武術大会』二連覇を狙うクルミ・アルタイル。キヌエの対戦相手はヒナエ・バウスタン。運良く勝てても決勝に、フィア・ガイロン、レイラ・バレス、エルマ・ロドラ、ノノフレイミ・ラネスと頭の痛くなる相手ばかりである。

「良かったな二人とも今年、フィルと、ローザが『院』に上がっていて、でなければ準々決勝すら経験出来なかった」

栗色の髪、背に自身の身長ほどもある大剣、下から上目線のクルミ先輩のお言葉に。肌が粟立っていた。



━━後年歴史家は、7人の妻達の凶演と呼ばしめた『総合武術大会』が二度あったと書き残している。あまりにも美しく。刹那的な試合の数々は、妻達の爪を、牙を、同盟者を鍛えあげたと言う……、その年……。参加した留学生の二人。後に和の国で、国王の腹心となるフタバが母国の王に宛て。

『我等、一合も打ち合えず。』

と残している。それほどの豪傑が集まる国だとしり、鎖国をしていた残りの弐の国。石。風。火の四国も。翌年鎖国を解いている。



その年……怒りを内包した。フレイミとクルミが決勝を戦い。散々クルミを苦しめたが、これを退け優勝していた。



エピローグ




初めての週末。マイト、レンタ、コウの三人は、幼なじみシアと新しい友達のフタバ、キヌエ、カナデ、マリアナ、クリミアを交えて。カフェブルーにて、お疲れ会を開催した。



「おっあのコウがガールフレンド連れとは。なかなかやるな」

ハープの茎をピコピコしながら。珍しくオーナーのブルー・ファミイユが、新作ケーキの試食を。コウの父ゴウザブロウにさせていた。各店舗の店長は、ブルーが認めてるパティシエ揃い。今や片腕と見込む苦労人に味の感想を求めていた。 「俺に似ず意外とモテやがるようですが、いかんせん惚れぽくて」

「クッ……」

生真面目に答えられて、声を押さえて爆笑していた。




ようやく笑いを治めたブルーが、新作ケーキを指した。

「それはそうとこれどうだった?」

「あっへい。こいつは最近流行りのクレープ生地を。層にしたやつですな」

「まあな。今や人気だし。取り入れれるなら早めに取り入れたいとこだしな」

「軽い食感で、口どけも面白いと思いやす。ですがブルーで出すには味が単純じゃありやせんか?」 「やっぱりそうか……」

渋い顔をしながら腕を組む。

「どうでしょうかここは、若い味覚に聞いて見ては」

ゴウザブロウが見たのは、息子達のことだ。確かに三人のバイトは味覚に優れていた。案外面白いなと一つ頷き。

「何も言わず出してこい」

敢えて意図を告げず持たせた。

諸島郡六ヵ国からの留学生フタバ、キヌエ、元悪餓鬼三人組の新たな学園生活は、こうして始まりますが、新たにアレイ学園の先生を任せられたシンク。未だに世界の情勢は不安定であるが、次世代を担う物語は始まっていた。また同じ物語か別の物語で、背徳の魔王でした。

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