どうやって仲間を作ればいいのかな?
新しく教員として、学園生活を送るシンクは、多忙な毎日を送っていた。
自分が受け持つ生徒以外にも。様々な相談を受けることになるシンクであるが、担任のクラスには、元悪餓鬼三人組のコウ、レンタ、マイト、宮廷魔導師を目指すシア、カナデ、新しい友人となった。マリアナ、クリミア。留学生のフタバ、キヌエと個性豊かな生徒相手に。再び苦労が始まるのだが……、
プロローグ
東大陸━━戦士の国・ドヴィア。
緑色のチェニック。ゆったりした麻のズボン。腰に大剣を吊るす男、イブロ・レダは王国騎士団長の要職に着いていた。 少し憂鬱そうな顔をして、傍らを歩く妻のセシル・レダは。精霊魔法使いで。ドヴィア学園の教員を勤めていた。
「……あなた、あの子から手紙が届きましたわ」
ようやく重い口を開いていた。最近は色々と気苦労が絶えないのか、疲れた顔をしていた。
「セシル少し待ってくれ。今ワインレモネードを入れるからさ」
イプロの自宅があるのは、城から程近い。歩いて数分で屋敷に着いた、そう声をかけたのは。朝から何も口にしてない妻の体調を気遣ってのことで、
「……ありがとう、あなた」
夫の気遣いに感謝して、言葉に甘えることにした。
イブロは慣れた手つきで、子鍋に。甘口の赤ワインを浸し。レモンの皮を手早く剥いて入れた。それから温め。疲れが見える妻のため。蜂蜜とレモンの皮を煮詰めた。ジャムをひとさしカップに注ぎ。輪切りにしたレモンを浮かべ。レモンの上からゆっくり温めたワインを注ぐ。それから先ほど買った。人気のクレープにフルーツチーズ挟んだ軽食を添えて、妻の前に出していた。
「ありがとうあなた♪」
優しく妻の肩に触れて、労る優しい夫の眼差しに。セシルの頬もほっと微笑みながら。何時しか唇を重ねていた。
「……それで、セレナはなんと?」
「あの方が。大変困っていると。あの子も悩んでいるようですわわ」
わが道を行く未来の君主、メルディスの暴君振りを思い出して、嘆息していた。あの方の性格では、それも仕方ないだろうと。納得していた。今のうちにあの性格を何とかしなくては……、何れ国民の信を失いかねない。それを考えれば、セレナの悩みも理解出来るが。あの子はとにかく姫様に甘いから……、
「だったら仕方ないですわ。あの方の成長を促すなら。セレナをあの方から引き離しましょうか?」
溜め息混じりにそう答えていた。深々と押し出すような妻の言葉に。虫歯が逃げ出しそうな真っ白い歯を煌めかせ。
「どうせなら姫様のこと。シンクに相談してはどうだろうか?」
あの子が教員になったと聞いた時は、唖然としたが。イプロも理由を聞いて、納得である。
「私もそうは思いましたが……、シンク様にそこまで、ご負担かけて良いのか……」
「だからだよセシル。忘れたか?、オーラルならどうするかを」
旧友の名を出すと。ハッと小さく息を飲んで、そっと苦笑していた。
「そうでしたわね……。でしたら」
ようやく何時もの強気な美しい相貌に。キラキラとした光を宿していた。
━━アレイ学園のある西通りの東。大通りから一本裏に入ると、主に学生寮が並んでいた、そのため朝は、アレイ学園に急ぎ向かう光景が、何時もの光景である。そのなかで明るい茶色い髪のフタバ、薄い茶色い髪のキヌエ二人の留学生も。通学に慣れた様子で、ようやく届いた学生服に袖を通して意気揚々と学園に向かっていた。
二人が通うアレイ学園は、世界有数の学園で。子供達にとって学園に入学することに憧れを持っていた。その事を最近ようやく理解出来た二人は、友人たちから。英雄王オーラル・ハウチューデンの物語を。聞くことを日課にしていた。なぜ二人が英雄王の物語を知らなかったかと言えば、最近まで二人の祖国が、鎖国をしていたからで。世界中で起きていた事件。世界の危機を知らずに生活していたことになるのだが……。
英雄物語に。引き込まれて行った……。中でも二人を受け持つ教員。シンク・ハウチューデンは若くして、英雄と呼ばれる人物である。また中央大陸の次期王様と知り。俄然興味を抱いた。彼を知る内に。彼の周りの物語を耳にすることになった。特に身に染みて。婚約者たちの強さに触れる機会が多いので、自然と二人もシンクを尊敬するようになっていた。
━━第2演舞場。
二本の短刀を手に、踊るような身のこなしで、キヌエは縦に。円を描くような斬撃を放つ。対するノノフレイミは、弓の柄で。連続の攻撃を軽く捌き、足払いを放った。
咄嗟にキヌエは、回転を利用して、側転で弧を描きながら。かわしたが、
距離をとると弓使いの間合いとなる。分が悪いのは否めない。素早く方向転換して、フレイミに。飛びかかるような動きで、間合いを詰めていた。
これにはタイミングが外されたフレイミだが。友人達との訓練で培われた経験値がある。迫る斬撃をいなして、再び後手に回るが……、接近戦の体捌きは、槍を学んでいるため。実にうまく、弟のマイト以上に隙がない。また何度もフタバ、キヌエは隙を見つけたと。嬉々として攻めるが、引っかけられたと気付いた瞬間負けていた。今度こそ一本は取ろうと気負い。攻め急ぎ、間合いを詰める。
留学生の二人も、朝練に参加してから。技量がメキメキ上昇していた。舞うような切り上げ、払い、足払いの三連撃。いなされた瞬間。延び上がるような回転切り。
たが……、フワリ軽やかに後方に飛んだフレイミは、素早く。矢を左右に放つ。
「因子を解き放つ」 風の魔法によって。矢は、方向制御を付与されていた。弓使いなりの魔法である。あの英雄王オーラル・ハウチューデンが、自在に操った魔法とされていた。
左右からキヌエを追尾する矢に、驚き、焦り、余裕すら無くなる。矢は時間と共に。増えて行くのだから堪らない。
「うっ嘘。まだ増えるの!?」
「最大16本まで、操ることが可能よ♪」そら恐ろしいことを聞かせられて。顔を青ざめさせていた。ただでさえ厄介な相手なのに……。こんな奥の手まで隠していたとは。
自分たちとの実力差を実感して、悔しさのあまり唇を噛んでいた、そしてキヌエは徐々に劣勢に追い込まれ、ひたすら逃げ惑うことになり。粘りに粘ったが……、遂に矢を受けて。キヌエの負けとなり、この日の朝練は終わった。
午前中の授業が終わると『特待生』のクラス部隊に参加してる生徒は、学年ランキングに参加する義務が生じる。何もかもが初めての経験。忙しいながらもフタバ、キヌエ達は、充実した日々を送っていた。
━━瞬く間に。今月も、終わろうとしていた。すると毎月『特待生』にはある。大変なイベントが待っていた。
「嘘~、また試験があるの?」
キヌエのすっとんきょうな声に。マリアナ、クリミアが顔を見合せ。苦笑を浮かべる。
「試験は毎月ありますわよ?、いまさらオタオタしても仕方ありませんわ」
アナの説明にコクコク頷くミア。二人は頭がいいからの余裕である。同じように頭を抱えるフタバとコウに気が付いて。三人は盛大にため息を吐いていた。
「とりあえずコウ。フタバ、キヌエ安心なさい。学年ランキングがある前期は、試験も難しい物ではないと聞いてるわ」パタリ。分厚い古書を閉じたシアが、目の疲れを癒すため。指でマッサージをしながら口を開いた。鼻の上にちょこんと置いていた。小さな魔法の眼鏡を外して、コキコキ首をほぐす。
「あらそうなんですのシア?」
「ええ。ただ問題があるとすれば、シン兄さんが……、先生であることね、何かしらやってくる可能性が高そうな気がするわ」
意味ありげな呟きに。反応を示したのが、シアと同じく宮廷魔導師を目指すカナデ・オーマである。
「アオイ姉さんも。似たようなこと言ってました……。でも~どんな意味があるのか、分かりませんでしたが……」
「まあ~あのシン兄だからな…、多分俺達に関係ありそうな気がしないかレンタ?」
マイトが珍しく。げんなりした顔をしたので、
「まさか!?。流石にあれはやらないだろ?」
同じことを思い出して、レンタは顔をひきつらせていた。
「いやいやレンタ!。あのシン兄さんだぞ?。十分考えられるだろ」
妙に説得力のあるコウの呟きに。二人が押し黙る。
━━果たして……、三人は何を思い出したのやら…、気になるばかりであった。
━━試験が行われるのは、月末の3日間と。翌月の3日間計6日で行われるが。1日は試験休みである、その間授業は無いので、学校は午前中で終わるのだが……。大抵の生徒は勉強する時間にあてる。試験の内容は歴史。言語。数学。魔法理論。武芸の5つである。
試験の一つ歴史と一口に言っても。アレイク王国の建築様式から、世界の地理、政治、過去の様々な事件まで、浅く広く学ぶため。記憶力が試される。
言語試験は主に。古代の民が用いた。魔法文字。他種族の言語。今でこそ世界中の国々で、公用語で通じるが、それぞれの大陸に違う言語がありそれを学ぶ。毎回先生が作った。魔法文字の論文の解読が試験として行われる。
魔法理論は、二年まで魔法の基礎と応用を学ぶため。それに対して、きちんと理解してるか、筆記と実技の両方で試験が行われる。
『特待生』の義務として、五教科の内。三教科は、A以上を取得出来れば合格と。かなり厳しい規定がある。しかし数学と歴史は頑張れば、一般生徒でもAが取れるレベルであった。しかし……学力に自信が無い生徒は、武芸試験に重きを置いていくのは、当然のことだった……。
それが露と消えたのが……、月始めに行われた武芸試験の時のこと━━。
「試験は、試合形式の先に一本先取した方の勝ちとする。また勝ち抜き戦であり。先に5勝した生徒。一クラス10名のみ合格とする」
ザワリ……、一年のこの時期にしては。かなり厳しい内容である。やっぱりかと元悪餓鬼三人組は、顔を見合せていた。 『特待生』クラスは、1クラス25人。全11クラスあるので、武芸の試験で、合格できるのはその内の10人だけ。そうなると……、ギリギリのラインにいる生徒達は青ざめる。シンククラス上位五人に数えられるコウ、マイト、キヌエ、フタバ、レンタ達も安穏としていられない状況となった。
今までの武芸試験は、ある一定のレベルにあれば合格だった。それだけにAが取りやすい試験とされていた。それが消えたとあれば……。真剣になる。しかも今回から一本勝負。不足の事態に陥ることもあるのだ。
五人は何とか勝ち抜いたが……、他のみんなが目の色を変えて試験に望む姿に。うすら寒い気迫を感じていた。
「さて皆さんにももう一つ伝えときますが、5位以内に入った生徒には、特別にAAを与えることになってますので♪」再び大きなざわめきが上がっていた。
試験で、AAを与えられることは稀である。さて……それがどういった効果をもたらすかと言うと……、他の4教科の試験で、例えB評価だったとしても。合格を与えられる。1教科特化制度である。それを聞いた瞬間。生徒の目の色が変わる。
シンクは思う、最近の学生は恵まれていると。手を抜くことを覚えてしまった生徒が増えていた。それが良いことだと、シンクは思わない。だって世界はまだ。本当の平和になった訳ではないのだから……。悪巧みする商人のような笑みを浮かべるシンク。元悪餓鬼三人は、戦々恐々と身を震わせていた。
━━訳を知る生徒にとって、これから安穏とした学生生活とは、無縁の日々の訪れを感じていた。奇しくも前学園長エドナの思い描く学園へと変わっていったのだ。
試験最終日の放課後……、
学年ランキング戦が、終わるのを待ってたシア達と。中央公園に行って、コウ達三人がバイトする。カフェ・ブルーで、お疲れお茶会をしていた。
「ねえレンタのお姉さんって。シンク先生の婚約者なんだよね?」
興味深そうな眼差しで聞く。キヌエにとって。都会の洗練された『院』生徒は、魅力的に映る。二人はたまたま立ち寄ったとのことだが、弟を猫可愛がる素敵な女性フィルと。おしゃれが歩いてきた。思わず錯覚する。洗練された服装のローザさん。
「あら私だけじゃないわよキヌエさん。彼女ローザもそうよ」
やんわり訂正して、にこやかに微笑んでいた。
「ローザさんも!?」
目を丸くした素直な性格のフタバが、すっとんきょうな声を上げて。面白いと思ったか、二人はクスクス微笑みつつ。懐かしそうに目を細めていた。
「でもさお姉ちゃん。随分気合い入ってるけど。シン兄とデートか?」
ズバリ核心を突いてきた弟に。姉は鮮やかな笑みを浮かべて。
「そうよ。今日はローザと三人でね」
「ひゅ~。言うね姉ちゃん」
素直に驚いたレンタに、クスクス吹き出して、種明かしをしていた。
「今シンクさん。教員をしてるから大変でしょ?。だから私達交代で、夕飯を一緒に食べることで、時間を共有することにしたのよ♪」
ローザが楽しみで仕方ないと言わん様子に。恋愛話好きな女子が食いつく。
「あっ因みに。お二人は、シンク先生のどんなところが好きなんですか?」
キヌエの問いに。ローザは、豊かな胸を抱えるように腕を組みつつ。
「やぱり……私を。いや私達を。愛してくれるのが分かるところかな~」
「あっ……」
マリアナがみるみる顔を赤らめ。何やら呟き、カナデ、シア、クリミアの三人は、友人の大胆発言に狼狽えていた。
「そうね……、私は~やはり。シンクさんの誠実で、一緒の時。甘えさせてくれる包容力が…」
「ああ~それ分かる彼と一緒にいると。本当に安心しちゃうからな♪」
二人の大人な発言に。男の子達は居たたまれなくなっていた。
ほどなくシンクが顔を出して、三人仲良く。東通りに向かっていた。
「……レンタ良いのか、シン兄さん達と、一緒に帰らなくてさ~」
コウの問いに。肩をすくめつつ。
「シン兄来ると。家の両親とじいちゃん、舞い上がるのがね~。ちょっと面倒になるから。俺はこのあとバイトに入る予定なんだよ」
なんとなく、みんなもレンタの立場を思い。なるほどとほろ苦く笑っていた。
━━翌朝。
朝練もそうそうに、午前中の学年ランキングに参加するキヌエ、フタバの留学生コンビは、今のところ一進一退の成績である。
「やっぱり疲れるわね……」
多少ましになったが、魔導兵とリンクして戦うのは、想像以上に…精神的疲労が蓄積される。そこで全然平気そうな三人を観察していると。気になることがあった。コウ、レンタ、マイトの三人だけ。リンク前に瞑想をしてることに気付いたのだ。「お二人さん、お疲れやな~」
そこに忙しく動き回ってたクレノ・ランディスが手を止めて、ぽっちゃた首を傾げる。
「ああ~あれは何をしてるのかと思ってね」
フタバは三人を指して答えた。なるほどとランディスは笑みを深める。
「コウ、レンタは基礎魔力が低いらしいねん。あれは~魔力を効率的に使うための精神集中らしいで~」
以外な話をされた気がした。マイトは魔力が高そうに見えたからだ。
「一応言っとくが、マイトはんは、普通の人より確かに魔力はあるんやが……、ここだけの話。マイトはん宮廷魔導師を目指しててな~、ただ魔力を使っただけじゃ足りないと。考えてらしいで~、コウ、レンタの二人は、マイトはんの付き合いで初めたんやが、試合後の精神的疲労が、ましになった言うて、それから毎日やるようになったで~」
ウインク残こして、ランディスは仕事に戻った。どうやら彼は見掛けによらず。機微にさとい人物のようだ…、二人の悩みに気付いての助言。二人はランディスの背に、頭を下げていた。
ランキング戦の後。二人は、コウ達に思いきって聞いていた。
「ん~、別に隠すことじゃないから教えるけどさ。俺とコウははっきり言って、魔力が低いからな~。やっぱり訓練するだけで、倒れた事があったんだぜ」
皮肉気な笑みを浮かべたレンタに。コウもしみじみと思い出しながら。口を開く。
「もちろん学園にあるような。魔導兵を使ってなんてこと。俺達は出来ないレベルだったんだぜ」
フフッとコウはにやり笑えば、フタバ、キヌエは顔を見合せ。信じられないと首を振っていた。
人間誰もが、大なり小なり魔力を有している。それはこの世界の大気、土地に魔力の元。マナが世界中を包んでいるからで、人間がこの世界に現れてから、大地の恵み。育てた食物。動物から糧を得る内に、マナが蓄積されたからこそ。魔法が使えるようになったと。二人とも知った。
魔法を使うには。大きく分けて、二つの方法がある。一般的に教わるのが、世界に満ちたマナから必要な魔力を抽出して放つことだ。だがその段階で魔法を使うものは、精神力を消費するのだが、
ここからはある一定の才能を必要としていて、例えば集めれる魔力の量は、ほぼ皆同じだとする。しかし扱える魔法が強ければ、集める魔力量が増える。魔力を放出する段階で。それを制御出来る精神力が高い人間ほど……。
魔力が高いと言われていて、マイト、シア、カナデの三人の魔力は、一年の『特待生』全クラスを見回しても。5指に入るほど。潜在的魔力が高いとされている。
レンタ。コウの二人は試験前での段階で、D+判定である。一般人よりかなり低い値だ。
「いまじゃ俺がB-、コウがB+まで上がったぜ!」
これには驚きが隠せない。フタバがB-、キヌエB+と変わらない魔力が扱えると言うことになる。
「そんで俺達二人は、目一杯鍛えた結果が、ようやく今のレベルなんだ」
ガキ大将が、そのまま大きくなったような顔をしてるコウの……言いたいことに気付いた。
「じゃ!、コウ達のやり方を学べば、俺達は、今よりも強くなれるのか?」鼻息荒く喰い気味に。身を乗り出すフタバに対して、マイトは首を傾げていた。
「どうかな?、その程度じゃ大してやれることはないよ~。ただ使える魔力が、増えるだけの話だからね~」
「あらそうなの?」 意外だとキヌエが呟けば、うんうんフタバが憮然とした顔をしていた。
「実際さ、魔力が強くなって分かることもあるよ……」
マイトがしみじみと吐息を吐けば、コウ、レンタの二人も顔を見合せて、肩をすくめていた。
そこはまだ魔力について、勉強し初めた二人である。理解出来ない話であった。『魔法は万能ではない。ただ汎用のある手段の一つである。』
シン兄が常に口にすることばであった。
初めて魔法を使えた日、本当に嬉しかった……。これで姉さんが嫁いでも、1人で生きていける。そう思ったのだ。
「マイトには、魔法を使う才能がある。だからこそ魔法に頼らない手段を、覚えて欲しんだ」
あの言葉はとても衝撃だった。才能があると言われたのは素直に嬉しかったが……、それ以上に魔法に頼らない手段があること。シン兄は、僕ならばそれが出来ると確信した顔で言うのだ。今までそんな風に期待されたことがなかったから……。父さんとの思い出が、あまりなかった僕は……、僕達はシン兄に様々なことを学んだ。歳が近い筈なのに、シン兄の知識は、宮廷魔導師クラスであり。知識の造詣は深かった。……何時しか僕達は、シン兄に認められることを。なにか一つでも勝るよう努力を勤めた。それがシン兄の好意に答えることだと信じて……、やがて義兄さんと呼べるようになるためにも。マイトはゆっくり眼差しをあげて、新しい友人二人。コウが精神集中の仕方を教えていた。彼らと交わることで、新しい発見を、心の内に芽生えていた。
「ゆっくり意識することと。毎日朝と夜訓練してけば、自分の内なる魔力に気付くからさ」
マイトの助言に、素直に頷いたフタバ、自分達にはなかった素養である。もしも神に感謝することがあるとすれば、新たな友人達に会わせてくれたことだ。今のマイトはそう答える。
王都カウレーンの東。商会が並ぶ大通り。城門に程近い場所で、店を営む中堅の商会があった、朝から活気があって。ややきつめな印象をあたえる妻に起こされた商人は、先日訪れた。義息子と娘の様子を思い出して、つい笑みを噛み締めていた。
「あらあらあなたったら……。またシンク様のこと思い出して」
呆れた口調ながら、妻の顔にも優しい笑みが浮かぶ。つい数年前まで……、二人は失意の底にいた。そんな夫妻に。最初に手を差し伸べてくれた女の子がいた。彼女は『オールラウンダー』の称号をその手中に収める才媛であった。
そして……娘と和解出来たのも彼女のお陰ならば、今のような夢のような立場に導いてくれたきっかけを与えてくれて……、義息子になるシンク様は、夫妻が気付かない内にレンタを救ってくれていた……。
「オーラル。お前さんと……。久しぶりに会いたい物だな」苦労人の青年の顔を思い出して。奇妙な縁を噛み締めていた。
「ふあ~おはよう父さん」
眠そうな目を擦りつつ。レンタが起きてきた。
「おはよう、今日も朝練かレンタ?」
「うん、何せ新しい留学生が張り切ってるからさ~、俺達も負けてられないよ!」
皮肉気に笑うが、なんだかんだ言って、嬉しそうである。
「あまり無理はするなよ」
背をポンポンと叩くと。少しだけ照れた笑みを浮かべて、
「わっ、わかってるぜ父さん……」
そう言って、元気に家を出ていた。
「こらレンタ朝ごはんは!」
「大丈夫、先輩達の分けて貰うから」元気に走って行く。仕方ない奴だと嘆息したが、顔には笑みが広がる。
━━王都カウレーンの西側。学園のある通りとはまた違う。職人通りから、2つ裏路地に入った通りには、苦学生、若い職人等、金銭に苦労している人々が暮らす長屋の一つに。コウ親子は住んでいた。
「おはよう親父!」 見るからにガキ大将が、まんま大きくなった風貌のコウを、ガタイの良い父親は、ニッカリ同じような笑顔で笑いながら。
「おはようコウ!、お前も早いな~、朝練か?」
「まあな~、それより……親父は遠出するのか?」
「おう、ブルーさんの頼みで、南大陸に行って来るわ」
「南大陸……、またずいぶんと急だな?」
「いやそうでも無いんだが……」
いい難そうな顔をしていた。何となくピーンと来た、
「そうか……大丈夫だぜ親父!、ありがとうな」
コウの為に無理を言って、待っててくれたことに気付いた。
「けっ……、一月は向こうにいる」
「そうか…、俺なら大丈夫だぜ親父!、だから心配するなよな~、なんてたって俺は『特待生』なんだからな!?」
胸を張って言うのだ。これにズズーッと鼻を啜りつつ。にやり豪快に笑う。
「本当に大丈夫か?、来月になったら一般生徒になってたりしたら。笑ってやるからなコウ!」
「へん!、親父こそ身体に気を付けて行ってこいよ」素直ではない親子は、ひとしきりお互いを睨み付け、鼻を鳴らすと。それぞれの無事を祈り、歩き出していた。
━━王都カウレーンの北、通称貴族街。
美しい庭園のある。有名な演劇の女神と呼ばれたある女優が暮らした。屋敷兼カフェの前を。カナデ・オーマと母カナイが、連れ立って歩いていた。
「それでね。マイト君はシンク様のお弟子さんで、シアちゃんも頑張って勉強してるんだよ~」
「あらあら良かったわね♪。同じ道を歩むお友達が出来て」
「うん♪、それでねお母さんシンク先生のお勉強、すっごく面白いんだ!」
なんていいながら、先日の授業風景を一生懸命話していた。シンクが受け持つ授業は、基礎魔法理論である。主に魔法理論を用いた応用と。簡単な魔法を教わる、そのなかから状態変化について学んだらしい。詳しく話を聞いてみると。なるほどと感心していた。
カナイが学んだ基礎理論は、恐ろしく地味で、やらなきゃならないのは分かるのだが……、カナイも苦手であった。それを植物の状態変化に置き換えて、段階的に種の発芽、7段階に分けて、やらせると言うのは確かに面白いと感じたし。目に見える成果は、生徒のやる気も出て、実際楽しいだろうと予測出来た。
「今日はね~。光の魔法を使って、簡単な魔法の作り方と。魔法の消失理論をやるんだよ~。すっごく楽しみ♪」娘の愉しげな顔を見てると、カナイまで、興味が沸いていた。
「へえ~魔法の消失現象をやるのか、あれは面白いからな。それに基礎理論を光魔法で学ばせた上でか~、なかなか考えてるわね」
感心するばかり。これで娘より3つしか歳が違わないと言うのだ。確かに学生にしとくのは勿体ない。あの人の気持ちもよく分かる。
「で、あの子は元気なのね」
「うん。お姉ちゃん、忙しいとぼやいてたけどね~」
「そっか、なら安心ね」
クスクス笑っていた。カナイの祖先は、あのオール・セラの直弟子であった、セラが失踪したあと、アレイ学園長をした経歴があって。一応カナイも非常勤の教員ではあるが……、司書の立場は、何かと忙しく。王立図書館の管理もあるので、なかなか学園に足を運ぶことが難しく、それを理由に少なくなっていた。
「授業参観は、ぜひ顔を出したいわね♪」
しみじみ呟いていた。
「それだと私も嬉しいな♪」
母の腕に抱きついて、甘える娘の頭を撫でながら、少しだけ気合いをいれていた。
中央公園から南。学生寮のある通り。一部中央公園の林道に隣接する寮に。学園有数の美少女セレナ・レダと彼女が主君と仰ぐ。メルディス・オーザ・ドヴィア、小柄な体躯の赤茶けた髪が印象的な女の子が暮らしていた。二人は先日行われた。学年戦争のこと……、ついに一年にまで負けた事が、流石に堪えていた。
メルディスは今まで……、自分の思うがまま。何でも自分の思う通りに叶えてみせる。そう思っていたし考えていた……。実際は自分が考えてるよりも、人をまとめる器量が、圧倒的に足りないと痛感したのだ。
「なんで……、どうやったらみんなを動かせるのよ!?」
地団駄踏みながら。あっちえうろうろ、こっちにうろうろ、色々考えては爪を噛むの繰り返しである。
「……姫様。一つ宜しいですか……」
まだ迷いはある。母の手紙……、素直に行動するのは、しかしこれだけ拗れてしまった学年部隊をまとめるのは…、今のところセレナの知謀を持って、何も思い浮かばない。仕方なく……姫様にある提案をして、酷く驚かせた。
━━その日『特待生』一年クラスでは、歴史と地理。それに伴う各国の建造物の要式と言う。学生にとって、恐ろしくつまらい授業が行われていた。
教壇に立つリタ・エルメルダ嬢は、魔方陣を組み込んだ。魔法建造物の父と呼ばれるソリム・エルメルダの孫娘である。彼女自身も魔法建造物において、他の追従を許さない。新進気鋭の建築家であり。アレイク王国宮廷魔導師第四席に数えられる実力者であった。
有能な魔導師だからと言って、生徒に教えるのが上手いとは限らず……、偏屈な性格もある上に。独特の甲高い声が、学生に不評で、彼女の授業は人気がないのだ。
「で、あるからして、わた~しの祖父は」なにより……、彼女の授業は、恐ろしくつまらないのである。ある種の睡眠魔法を使ってるんじゃないのか?。密かに噂が上がるほどで、
「クッ……」
学年ランキング、朝練の後である。一番眠い時間帯で……。これを我慢すれば、次はシンクが受け持つ。基礎魔法の授業……、あのわくわくの代償と思い。生徒達は何とか乗りきっていた。
シンクが受け持つ一年クラスは、一般クラス含め9クラスと新任の教員が受け持つにはかなり多く。その為自分が受け持つクラスの朝のホームルームが終わると、他クラスの授業に出てるので。あまりクラスにいないが、担任のシンクは、生徒から人気がある。それは彼が若き英雄と呼ばれるからではなく……。
シンクは必ず、基礎の理論を用いた簡単な魔法を教えてくれたり。過去の難しい魔法理論を。噛み砕いて説明するのがとにかくうまい。それはタイチ、リナに始まり、シア、コウ、マイト、レンタ、ソアラ逹。年齢も違うが、性格、性別もバラバラ。そんな彼等に勉強を教えていた経験から。ただ教えても覚える側はつまらず。また頭に入っていかないことに気付いた。
「カナデさん。炎と氷の魔法が、なぜ代表格な魔法に上げられるか、理由を知ってますか?」
当てられてカナデは立ち上がる。
「あっはい。炎の魔法が、比較的簡単に扱えるからで、氷の魔法が対照的に難しいからだと思います」カナデの答えは教科書通りである。確かに間違いではないが……、
「正解です座ってくださいカナデ。確かに教科書の説明ては、そうなりますがぼは、他にも意味があるのではと考えました。一つ思ったのが、2つの魔法が、分かりやすく視認出来きて、効果が目に見えて分かりやすいからではないかと思いました」
何人かの生徒がハッとしていた。なんとなくしっくりした答えだと思ったのだ。シンクは生徒に。見えるよう手を掲げて、指先に火を灯した。
「皆さんは、学年ランキングを観覧して。沢山の魔法を見ましたね?」
揃って頷いていた。確かに。炎や氷系統の魔法は、視認出来て、凄まじい破壊力があったり……、相手を凍り付けに出来たり……、シンクの言ってた言葉が、今度はすっと頭に入った。
「レンタ君、炎の魔法には、なぜ物理的破壊力がうまれるのですか?」
火球と言う魔法がある。手のひらサイズの炎を投げつける魔法で、ちょっとした破壊力がある。
「えーとそれは確か……、炎の魔法は、空気と魔力を燃料に、燃え広がるからで……、その破壊力は……、取り込んだ空気の量によって。燃焼温度に上限がないからです」
しどろもどろになりながら、何とか答えた。
「その通りですねレンタ君。さて皆さん今の説明では分かりにくい点に気づいたと思います。もっと簡単にいうと。炎を維持するには、燃える物と酸素が必要なのですが、それを魔力で補うため。魔力を高めれば、燃焼温度に上限はありません。そのため酸素濃度を調整出来たら。火力と破壊力をある程度押さえたり。破壊力だけ付与したりと。汎用があるのが炎の魔法です」
指先の種火が、一瞬で炎となった。さすがに驚きはしないが……、シンク先生は魔力を高めた様子が無いのが気になった。
「実はこのように。酸素濃度を調整出来たら。魔力をさほど使わずとも。こうして着火の魔法も。炎にしたりすることが可能なんです。それが、段階的制御です」
魔法には、それぞれ基礎となる魔法がある。それを段階的に意識して使うことで、無駄な魔力を消費せず。一つ上のレベルにある。強い魔法を作り出すことが可能であるが、やはり時間が掛かるのがネックであった。
「実は、これが時間が掛かると言うのは、炎の魔法においてのみの間違いだと。知ってましたか?」にやり不敵に笑いながら。驚いた顔の生徒に説明を始めた。魔法の基本だからこそ。極めれば魔法に汎用しやすくなる。
「火の魔法には、5段階的魔力の制御では量れない、独自性が存在するので、段階的制御には向かない魔法でした。しかし氷系統の魔法や、大地に属する魔法、風や雷。水を用いた魔法ならば、段階的制御の方が、実は使い勝手がよくなります」
残った時間で、二人一組となり。魔法の基礎制御の訓練に用いた。これが以外に難しく。やいのやいのやるのが楽しくて。みんなが一通り出来るようになると。何だか強くなった気がするから。シンク生徒の授業は、とても人気であった。
午前中の授業が終わり。職員室に戻ったシンクの視線の先に。赤茶けた髪の少女がうろうろしてるのを見かけた。
「あっメルちゃん」 「あっあうシンク……」
二人は無論顔見知りである。うろたえるメルディスは、気はずかしそうな顔をして俯いていた。メルディスは元来気の強い少女で、ギル・ジータのライラ王女共々。幼少からの幼なじみである。
「去年の入学式以来だね~、元気だったかな?」
「うっ、うん……」
数年前まで、ライラ王女とよく三人で、ギル・ジータの農園を走り回ったものだ。どうもリルムと反りが合わないので、中央大陸に来たことないが、シンクとは、それなりに良い関係を築けていた。
「何か、相談かな?」
メルの雰囲気で、それとなく察していた、直ぐに職員室ではなく。生活指導室に案内して、そこでお茶を飲みながら話を聞くことにした。
「メルちゃん、お昼は食べた?」
首をあわてて振るメルディス。シンクは一度職員室に戻って、リックを手に戻る。それはメルディスにも馴染みぶかい品である。中からおにぎりの入った包みを受け取った。
「メルちゃん食べたことあるかな?」
「あっうん、セレナちゃんが……」
「そっか、手が汚れたらこれ使って♪」 「あっありがとうシンク……」
相変わらず面倒見がいいな~と。懐かしさをしみじみ噛みしめながら、メルはライラ王女の顔を思い浮かべた━━。
二人は、シンクを兄のように慕っていた。すぐに相談に来なかったのは、たんに自分の力で、成長した姿を見てもらいたかったから。そんな思いもあった。何となく口を真一文字にしてたが、パクりおにぎりを食べると。自分の中に押さえていた気持ちが決壊して、いつしか相貌からぼろぼろ涙が流れていた……。自分が不甲斐なく。でもシンクの優しさに、安心していた。
どうにか泣き止み、メルディスはポツポツと、自分の現状を話していた。一通り話を聞いてみて、やっぱりか……妙な納得をしていた。彼女の性格を知るだけに。今の二年相手では厳しいだろうと……。案の定と言うわけである。
二年・四年の『特待生』教室は、コロッセオの北側にある。 中庭のベンチに座り。凡庸な目で、空を見上げる。痩せた少女ミガン・コンラーダは、腰まである金髪を無造作に流し。日がな一日。ただひたすら空を見上げるのが好きな。変わった少女であった。しかし彼女ある意味有名人である。何せあの魔王の愛娘リルムに、その才能を見込まれていて、彼女を弟子として、自身の弓の技を教え込んでいた。それほどの才能がラーダにはあった。
「ん?」
先ほどからじっと此方を伺いみながら座る。赤茶けた髪の少女に根負けして、声を掛けていた。
「お願いだ!?。ぼくに力を貸してください!」
メルディスの真剣な眼差しに、まるで表情を変えず。ラーダは口を真一文字に引き結び。眉値を寄せていた。考え込んでるようだ……。メルディスはただひたすら。彼女が答えを出すのを待った。
今までのメルディスならば、コンラーダに。一方的に自分の要求を伝え。答えを迫り。頷く彼女に満足していた……、昨日シンクに相談したら……。メルディス一人で彼女と会って、口説くよう言われた。━━そもそもミガン・コンラーダの声を聞いた生徒は誰もいないと言う……、また彼女が誰かと一緒にいる姿も誰も見たことがない。そう周りからも変わり者と。位置付けされていたが、やはり氷の女神リルムに認められたことで、何かと注目を集める存在であった。
彼女はメルディスと同じクラスで、同じ部隊なのだが……、自分から何かをすることなく。ただ言われたことだけをする。言いなりなのだ……集団戦では、
「ぬっ」
多分、どうした。そう聞きたいのだろうと察した。少し迷いながら。メルディスは素直に先日のことを話していた。「シンク兄さんが……、ぼく一人で行動して、貴女が話し掛けて来るまで、待っていろって言われて……」困ったような、意味が分からないと顔に書いてあった。
「ん!?」
でもラーダには理解出来た。だから一つ頷いて、先を促した。多分聞くだけ聞こう、そんな意味だったと思った。
拙い気持ちではあるが、自分の言葉で、はじめて……、気持ちを口にしていた。ラーダは、一度も口を挟まず。真剣な眼差しでメルディスの言葉を聞いていた。それに勇気付けられて、次第に口調は熱くなるが、今までのように上から。ただ命じるのではなく。1人の人間として対話することが、とても大切なことだと知った瞬間だった。
「お願い!、来年こそ優勝したいの。だから貴女の力を貸してください!!」素直に頭を下げていた。静寂はほんの一瞬だった━━。
しかし━━メルディスにとって、永遠にも続くかと思ったほどの時間である。まるで頬にあたる。風すら止まってるような……錯覚を感じた。
「。ん」
ラーダは、柔かな優しい笑みを浮かべて、右手を差し出してくれていた。その瞬間彼女から許されたのだと。気が付いた……、
「あっ……」
頭が真っ白になっていた……。相手から認められることが……、胸一杯になっていた。
優しくつ包まれた手を見つめて……、
彼女の手にすがり付くように。崩れ落ちながら、声を殺して泣いていた。はじめて自分から歩みより。仲間が出来た瞬間だった。━━放課後、学年ランキングを終えたセレナ・レダは、シンクに呼ばれたので。訝しい気持ちで、進路指導室を訪れていた。そこである話を聞かされていた。正直戸惑いが浮かんでいた。
「なんと……、姫様からしばらく離れていろと……」
「はい、今メルが成長するには、今までのように。君に頼らず自分で考え。相手の言葉に耳を傾ける努力なく、為政者に明日はない」
「それは……」
既に王として十分な資質と実力がある。シンクの言葉にある。重い響きが胸にしみた。
「いつまで……、いえそうですよね。私は部隊を抜け『院』で学ぶ方が…、姫様のためになりそうですね……」
セレナも気がついたようだ。王とは時に、事態の収拾を量り。厳しい采配を下さなくてはならない時がある。代償が例え愛する物の命だろうと。敢えて切り捨てることも問わない。それが王としての役目である。
「だから君にはしばらくローザ、フィルと。一緒に行動してはどうかな?。二人の才は、今の君に足りない部分を補ってくれるから」
その二人とは顔馴染みである。だけど……面白くないので、意地悪が言いたくなった。
「そこにヒナエさんの名は、上げないんですね?」
意味ありげな顔で、チクリと苦言を吐いていた。少しだけシンクが困ったような顔をしたから。溜飲を下げたが。意外なことを告げられて、シンクと言う少年の底知れぬ才覚に。恐怖を覚えた。
「セレナ君が上げたヒナエ。もしくはフレイミでは、君のような策謀家とは、お互い実りがないし。レイラやリルムちゃんでは。君の方の荷が重過ぎてね。仮にクルミではそもそも全てが続かない。そうなると君を任せるには、妥当な選択だと思うよ」
こうもそつなく答えられてしまうと。少しだけ面白くないが、反論が全く浮かばず。渋々頷いていた。
……後日。年齢的なこともあってセレナ・レダは『院』の生徒として、『特待生』クラスから離れることになり。さしものメルディスも不安になったが、新しく友達になったラーダが助けとなって、ようやく1人立ちした形である。彼女の行く手には。曲者の二年生が、立ちはだかる、これからは自分で考え友達と悩み。行動していくだろう……。シンクは信じていた。これでイブロさん、セシルさんが、安心してくれると良いのだが……、
「シンク少しいいかな…」
お昼を食べたあと。職員室から廊下に出たタイミングで、リーザに声を掛けられた。彼女は最近。髪を伸ばし、後ろで髪を纏めるようになって、すっかり大人ぽくなっていた。リーザは元同級生だが。彼女は現在準教員扱いの『観察官』に選ばれていた、シンク程ではないが、忙しい身である。
「うん大丈夫だよ~」
その上。彼女は新しい国。華の国ダナイの王子となったランダルフの婚約者でもある。
「あっうん……、そのランダルフさんのことなんだけど……」
実にいいにくそうな顔をしていた。
現在華の国ダナイは、2つの町と新たに城の建設に着手している段階なのだ。国として様々な問題に直面していた……。その一つが、国の地下に張り巡らされた迷路である。
大陸間にある迷宮と違い。疑似神の住まいであったためか、未だに疑似神の残党が徘徊していると聞く。リーザが心配しているのは、ランダルフの性格のことである。彼は長年仲間を裏切り、陥れ、唆すことすらい問わない性格だった。アレイク王国に暮らしていた人々の中には、ランダルフのこと知っていて、彼を忌避する人間がいると……。
「なるほどね……」 最近にたような話が多いな…、妙な近似感を感じながら、吐息を吐いていた。一通り話を聞き終えてシンクは、ある二人の人物の顔を浮かべていた。それを吟味しながら悪くないと思った、あの魂を持った自動人形……、案外面白いかもと思案した。
「ねえリーザ……」
シンクの話を聞いて、唖然としたリーザだが……、急に下を向いたかとおもえば、肩を小刻みに震わせ始めて。やがて耐えきれず。プフっと吹き出していた。
「やだ~もうシンクさんてば。そっ、そんなことしたら。クフ……ランダルフさん、わっ笑い……」
クスクス笑っていた。しばらくしてようやく落ち着いたリーザも気付いた。
シンクが思い浮かべた。生真面目な先輩であるコルトのこと……。彼から聞いていた。似たような境遇であること。目に理解の光が宿る。
「アノンちゃん私の友達です!。シンクさん聞いてみますね。ありがとうございます♪」
霧が、晴れたかのような晴れやかな笑顔を残して、走り去っていた。
「ん、きっと大丈夫さリーザなら」
眩しそうに。目を細め。その背を見送っていた。
……その後。ある噂が、シンクの耳に入る。ランダルフ王子、コルト・アルベルト公爵は、最近不思議な光沢のある。自動人形を供に連れていると。それを見た人々は揃って、漫才を繰り広げる様子に。思わず笑ってしまったと聞き。シンクは笑みを浮かべていた。きっとこれから二人の周りでは、常に笑顔があることだろうと。信じられた。
その日……カナデ・オーマは、週末の休日を新しく友人となったキヌエ、クリミア、マリアナ、シアの女の子五人で集まって、貴族街にある。有名な隠れ家的なカフェ・セリーヌを訪れていた。
「うわ~。素敵な銀磁器ですわね♪」
思わず吐息をもらして、マリアナが言えば、
「こちらのショコラケーキ、口に入れるとすっと溶けました!」
カナデが感動した様子で言うから。シアとキヌエもホークで切って、一口あむって食べるや、目を丸くしていた。「クリミアあなた。こんな素敵なカフェを知ってて、わたしに黙ってるなんて、ひどいですわ~」
幼なじみであるマリアナが、拗ねた口調で言うから。クリミアは苦笑していた。 「ごめんなさいアナ。こちらのお店は、わたしも母様から。最近教えていただいたばかりでしたから……」
済まなそうに眉を落とした。
「あらそうでしたの?」
「ええ……実は、こちらのお店の話を聞いた経緯がありまして、キヌエさんあなたの話をしたときでしたの」
いきなり自分に話が向くとは思わず。目をぱちくりさせていた、
今日女の子達だけで集まったのは、キヌエの頼みである。たまには女の子同士で色々な話がしたいとの頼みを快諾したのだ、
最近フタバ、キヌエに頼まれて、友人達は自分たちも意外と知らない英雄王の逸話を聞いていた。その経緯からカフェ・セリーヌを母から教えられたとクリミアが告白していた。
五人がいるのは、お屋敷の二階にあるサンルーフで、開け放たれた一室から。外の景色を楽しみつつ。談笑出来るのだ。「わたし?」
小首を傾げたキヌエに。クリミアは小さく頷きながら。
「こちらのお店、実は皆さんがよく知ってる方のお屋敷でしたの……」
王都の南に、国民が誰もが一度は訪れる有名な施設があった。この屋敷の主人である女性は、ある理念を残していた。
゛演じれる素晴らしさを感じて、誰もが楽しめる場所を提供したい。゛
晩年……彼女の構想は、完成を見ることなく永眠したが、彼女は国民に愛されていた。私財のほとんどを投げたし手にいれた広大な敷地に。幾つもの施設。大小の演芸場が作られた。そして今……、沢山の演劇を毎日開演していて、新しい音楽を生み出し、人々に笑いと一時の悲しみを与えてくれる。素敵な場所である。
「へえ~。アレイク王国には、そんな大きな劇場があるんだね!、もし機会があればあたしも見に行きたいな~」
目を輝かせるキヌエ。彼女がそう言うのには、少し理由があった、彼女の国は演芸が盛んで、キヌエも踊りを学んでいた。彼女の国ではオペラに似た、踊りと歌を交えた演目が盛んである。
「あらキヌエさんは、演劇とか見ますの?」
「うん。大好きだよ!」
それを聞いて。マリアナはそれはそれは嬉しそうに。目を輝かせると。
「あらあら。それなら是非ともご一緒しませんとね♪、そうだわキヌエさん!。来週にもいきませんこと」
「あっ、本当に!?、うんうん。わたし絶対に行きた~い」
同じ趣味であると分かるや。二人は演劇の話をしだしたから。クリミアとシア、カナデは顔を見合せ、肩を竦めていた。
こちらの屋敷は、演劇の女神リレーヌが。生前暮らしていた屋敷である。カフェ・セリーヌの名は、彼女の義母の名に因んでいた。またリレーヌと英雄王オーラルとは、交流があったことは、知られていた。
「あくまでも噂ですが、時折オーラル様が、お忍びで此方に訪れる名店ですのよ~」
「うそ!、一国の王様がお忍びで」
思わずカナデは声を潜めていた。誰が聞いてるか不安になったようだ。
「あらカナデさん。それは不思議なことでもないそうよ。何せ我が国には、陛下の御姉様が、お暮らしになられてますし。シンク様もおりますから」
自慢そうにつんとマリアナが言うから、思わずみんな顔を見合せ。苦笑していた。
「あらあら弟の名前が出てたから誰かと思えば、シアちゃんじゃないの♪」
「あっ……ミリアさん」気を抜いてた訳じゃないが、まさか貴族街で会えるとは思わず。驚いていると。マリアナ、クリミアの表情が変わる。彼女達は顔を知ってたようだ。
「そちらの二人は確か……、リノアさん、リルルさんの」
二人の顔がみるみる上気していく。
「はっ、はい!」
「おっお久しぶりです」
素早く立ち上がって、軽やかに一礼していた。
「そちらの子は、学園で会ったわね……。確かキヌエさんと言ったかしら。そちらは初めてね?」
カナデを優しい眼差しで見ていた。
「あっ、はいカナデ・オーマと言います」
「あら?。するとカナイさんの娘さんかしら?、するとヒナエちゃんとは親戚よね」「あっ、そうです……えっと母さんと知り合いなんですか?」
自信なさそうに。戸惑いながら訪ねていた、
「ええ姫様じゃなかった。王妃様に乞われて、よくお茶会に参加してるので、顔馴染みなのよ~」
1人キヌエだけは、何でみんなこんなに緊張してるのか、不思議そうにしていると。
「ミリアさんどうしたんですの?、そんなところで立ち止まって」
もう1人。後ろからトテトテと表現の似合う。美しいと言うよりも、可愛らしいと表現の似合う。少女が顔を出した瞬間。三人の少女は慌てて立ち上がり。一礼していた。理由が分からぬシアとキヌエは、眉を潜めていると。それに気が付いたクリミアが小声で、
『あちらの御方は、我が国の王妃ミレーヌ様ですわ』
二人もハッとして、慌てて立ち上がり一礼していた。
「あらあら皆さんごめんなさい。わたくしに気を使わず、お茶会を楽しんで欲しいの♪」
どうみても少女にしか見えないが……、確かミレーヌ王妃様には、二人の子供がいた筈である。
にこやかに微笑む姿を見て。みんなの顔にほっとした空気が流れる。
「ミリアさん。こちらの皆さんは、お知り合いなんですの?」
「ええ。皆さんシンクが受け持つ生徒だったはずですよ」
パッと見ただけで、だいたいの経緯を見てとったミリアの答えに。
「あら♪、それは素晴らしいことです~♪。そうだわ皆さんさえ良かったら。シンクの様子聞かせて下さいませんの?」
可愛らしく笑う王妃様のお願いに。逆らえる者はいなかった。
それから……、女の子達は貴賓室にご招待を受けて、見たこともない精緻なお菓子。ロイヤルミルクティ、ミレーヌブレンドを頂き。王妃様の気がすむまで、学園の話から。キヌエが呉の国から来た留学生だと知るや、見識のない呉の国の様々な話を聞かれては、柄にもなくキヌエは緊張していた。
「まあ~♪。来週演劇を見に行かれるのですか。わたしも時間がある時よくいくんですの~」
マリアナの話を聞いて、それはそれは愉しげに微笑んでいた。
「そういえばミリアさんは、オーラル様とリレーヌの劇に。出演したことがありましたよね」
これには意表を突かれて、少し驚いた顔をした。
「以前クエナちゃんから聞きましたの♪」
「あははは……、クエナってば、内緒にしといてって言ったのに~」
仕方ないわねって。感じで苦笑していた。
「そう言えばシアちゃん。マノアさん。お元気?」
「あっはい、お母さん相変わらずです」「そう~、たまには顔を見せるように言っといてね。リーラが気にしてるようだったから」
「はっ、はい伝えときます」
困ったような。嬉しいような。シアは悩ましそうな顔をしていた。色々とシアに聞きたそうな友人達に。わざわざ自分の口から言うのも照れ臭いが、隠しとくのも悪い気がしたのだ。
結局王妃様から解放されたのは、日がすっかり傾いた頃で……、シアは迷ったが、帰り際に。両親とオーラル陛下夫妻が、友人だったこと素直に話していた。
「あらそうでしたのね♪。わたしの父は、オーラル様の直属部隊に所属してました。ミアのお父様もね~」
マリアナが、あっけらかんと言うから。シアはほっとしていた。
「シアさん、実はわたしとアナの母は。姉妹なの」
いきなりの発言に多少驚きはしたが、なるほど。二人の顔立ちはとても似ていた。
「本当言うとね。オーラル陛下とリーラ様にわたし達の母は、命を救われた身ですわ。だからやっかんだりしないから安心してね」シアの気持ちを察して、きっぱりと言ってくれた。思わず泣きそうになっていた。
「……あっ、もしかして、お二方のお母様はあの事件に……」
カナデにはピンと来たようだ。
━━当時。世界議会もなく。仮染めの平和の上に、成り立っていた……。
西大陸。魔導王国レバンナ、しかしかの国を統べる王こそ。世界最強の魔導師であり。西大陸を手中に収めていた。数百年もの長き時をだ……。それゆえ魔王と呼ばれる存在だった。
━━だが……、世界を震撼させる出来事が起こる。新たな魔王の誕生であった……。
「魔王って……」まるで風の魔王、火の魔王と似たような存在だろうか?、キヌエはそう考えていた。今まで狭い世界しか知らなかったキヌエにとって、聞くもの全てが新鮮であった。
━━中央公園にある。カフェ・ブルー本店。店長がしばらく南大陸に出張のため。久しぶりにオーナー自らが、その腕を奮っていた。
「コウ~、悪いなメレンゲ固めに頼む」 「はい!」
次から次へと。注文が舞い込んでしまい。熟練揃いのパティシエ達だけでは、間に合わず。ウェイターのバイトしていた。元悪餓鬼三人組。コウ、レンタ、マイトまで駆り出されていた。
「レンタ、シュウ生地が焼けてるはずだ。中身を頼む」
「了解です店長!」器用なレンタは、パティシエと並んで作業しても。そのスピードは遜色なく。商人だからか、ほぼ一発で、同じ量のクリームをシュウ生地の中に流し込む作業が。恐ろしく正確であった。
「マイト土台は焼けたか?」
「終わって、ブランデーに着けた物と。シホンに分けてあります!」
「ならワンホール。ショートで任せても?」
「了解です」
先ほど急な誕生ケーキを頼まれたのだ、だいたいどんな仕事もこなせるマイトは、ブルーにとっても助かる存在である。 「オーダー入ります!。三番チーズスリー、アッサム1、レモネー1、アップティ1」着物姿のウェイターが、涼しい顔で、たった1人忙しい店を切り盛りしていた。 本当はお客だったのだが、いつの間にか……、苦笑しながらも国にある実家を思い出して、つい働いていたのだ。
「すいませ~ん」
「はあ~い。お待ち下さい」
元気に返事をして、フタバが五番テーブルに向かう。
「なかなか使える友人をもったな~」
ハープの茎をピコピコ。ブルーは密かに笑う。何かと忙しい身の上だが、本業は疎かに出来ないと気合いを入れた。
エピローグ
北の貴族街の入り口。通称騎士通り。下級貴族が住まう通りに。シアの住まう家宅はあった。
「ただいま~」
「お帰りなさいシア。手を洗って、うがいしなさいね」「はあ~い。お母さんソアラは?」
ついでに部屋を見たら。妹の姿はない。
「今日はリナちゃんと。ジルちゃんのお家に泊まるからって、張り切ってたわよ」
「あっそうなんだ~」
少し残念そうに吐息を吐いていた。でもと思い直して、 可愛らしいジルちゃんの思念を思い出して、笑みを浮かべていた。
「あらあら思いだし笑い?。クスクス楽しかったのね」
「うん、お母さん今日ミリアさんに会ったよ」
「あらミリアさんに?。元気だった」
「うん、お母さん最近顔出してないから。心配してたよ」
アッて顔をして、少し恥ずかしそうな顔をしていていた、
「そう言えば最近、ソアラのお迎えしなくて良くなったから……、う~んお店に行ってよいのかな?」
何やら思い悩む様子に。小さく嘆息していた。母の心配性は相変わらずである。
「そう言えばお母さん、もうすぐ結婚記念日でしょ?」
再びアッて顔をしていた。本当にしょうがない母である。ここは少し知恵を授けることにしていた。 「前に結婚指輪のサイズが合わなくなったって、言ってたよね~。ミリアさんに相談したらどうかな?」
「!?……、そうだわね。いいとこに気が付いたわ。さすがシアね♪。早速明日にでも行ってくるわ。ウフフフ」
上機嫌にスキップしながら。居間に戻る母を。半分呆れながら見送っていた。
留学生のフタバ、キヌエの国には、まだまだ謎があるようで、
……やがて、
コウ達は、ある大きな事件に巻き込まれていきますが、それはまだ先の話である。また同じ物語か別の物語で、背徳の魔王でした。




