閑話どたばた恋愛模様かもです
プロローグ
昼過ぎの早い時間に。野外授業から戻ったコウは、貧乏長屋にある。自宅に戻っていた。
「ふぅ~、さすがに疲れた」
座り込んだコウは、ガキ大将がそのまんま大きくなったような風貌。いっそ粗野と言われても仕方ない顔立ち、その実細やかな気遣いの出来る少年である。まさか自分たちが『オールラウンダー』候補者に選ばれるとは思わず。疲れよりも高揚感が勝っていた。
「シンにい……、少しでも近付けたかな?」
コウ達が尊敬する青年の名を。シンク・ハウチューデンといい。彼の英雄オーラル・ハウチューデンのご子息。中央大陸の皇子様である。コウの住む聖アレイク王国に。留学生としてやって来たのだが。
「まだ二年……、もう二年か……」
この国どころか、今やシン兄は、父親があのオーラル・ハウチューデンだと。言わしめるほど。そんな凄い人とちょっとしたきっかけで出会い。自分たちの師になってくれた。それどころか今や学園の先生である。シン兄に認められたい。コウ、マイト、レンタそして……、あいつタイチはそう思っていた。
「彼奴には負けたくないな」俺達以上に。強く想いを抱いてるだろうし。だから絶対に負けてやらない。強い気持ちを抱いていた。
━━学園の西。繁華街の南に。国営のプールがあって、夏になると多くの子供達が、楽しみにしていた。それは王都に住まう子供には、国から貧富に関係なく無料の優待券が送られるからで、明るい茶系の黒髪。可愛いらしい風貌の少女リナ・シタイルは、かったつな笑みを。親友で幼なじみのソアラ・レノに向けていた。
「ソアラちゃん!、早く早く」
引っ込み思案なソアラにとって。天真爛漫なリナは、適度に引っ張り回してくれる。大好きな親友である、今日もまだ帰って来ない姉に代わり。プールに誘ってくれたから、昨日から楽しみにしていた。
「リナ様。そんなに慌てずに」
おろおろしながら、何かとリナに世話をやく美しい女性に。誰もが一度は振り返り。見惚れてしまう。彼女のあまりにも美しい姿はまるで……、天から舞い降りた天使のようである。
「はあ~いサノビアさん」
腕に抱きついたリナちゃんは、サノビアさんに甘えていた。背には純白の翼、真新しいブラウスを押し上げる豊かな胸、煌めくような白い肌、見慣れたソアラとて見惚れてしまうことがあるのだ。惚ける人が悪い訳ではない。
「タイチも来れたら良かったのにね~」 「そうだねリナちゃん。でも仕方ないよ~タイチ君。神託受けたんだから」
そうなのです。先日コウ君や姉達が野外授業に向かった翌日。なんと女神アレ様の神託を受けたと聞いたのだ。それも大好きな母エレーナ様が、大司教の任を辞されると聞いてから。鬱ぎがちだったから……。余計にソアラは驚いていた。何でも来年には、エレーナ大司教様は退位なされるため、大聖堂にある住まいを引き払い。ご子息カール様の屋敷に引っ越す事が決まっていた。タイチはそのままフロスト騎士の見習いとして、大聖堂で暮らしてく毎になるから。きっと……。リナちゃんは何も言わないけど。タイチちゃんのこと心配なんだろうな~。優しくて、天真爛漫でいて、可愛いらしいリナちゃんが、ソアラの憧れである。少しずつ変化してゆく立場に戸惑いながら。少女達は成長してゆく。サノビアにとって、まるで宝石をみるように美しく。永久に失ったことゆえ……。愛しいのだ。
そんな楽しげな一行を。ハァハァしながら追跡しているのが。見た目は可愛らしく。普段マッドな若きデザイナーとして知られる。モレン・カルメン・オードリーである、彼女はマイ女神と崇めるサノビアさんが、プールに出かけると密かに聞き付け。ついて来たのだ。その後ろには淡いブロンドの髪。モレンが服飾職人としての腕を見込み。またスタイルも良いからモデルとしてスカウトしている少女。アイリス・フレンターレがいそいそ。プールに入っていた。アイリスは髪に合った。新作ブラウスに。サーモンピンクのミニスカートを合わせ。すっきりしたサンダル姿であった。本当はモレンの作業所と言う名の部屋で、先ほどまで手伝いをしていたのだが……。
「アイリスちゃん行くわよ!」
「はいモレンさん」楽しげに微笑み。一般クラスでありながら。モレンと同じ『特待生』に選ばれた少女は、クスクス華やかに微笑んで。モレンの後をパタパタ付いていった。
多くの人出をみながら。服飾ブランドミヤマ本店の隣にある。オレンジ色の屋根が特徴的な屋敷で暮らす。カナデ・オーマは。ボーッとした顔で、読みかけの本を抱えながら。先日のことをフィードバックさせてしまい、いきなり真っ赤になったかと思えば、じたばた悶えていて、しばらくするとため息をはくを繰り返していた。
「コウくんって、どんな子好きなのかな~」
自分の呟きに『えっ』となり。自分の気持ちに気付き、再びカーっと顔が真っ赤になっていた。意識したとたんに胸がドキドキと息苦しいくらい高鳴り。身体が熱くなっていた。
「……どうしよう」自分の気持ちに今気づいたのだ。姉アオイと違い。カナデは奥手で、人見知り、話ベタな女の子である。恋なんて無縁だったから……。どうしていいか分からない。
「そうだ伯母さんに相談してみようかしら?」
アオイに言えばきっと。『私が、その男の実力見てあげる!』とか言って、大変なことになってしまう。そうなればコウくんに迷惑掛かるし~。悩みは尽きない。
王都の東大通り、アレイ教の大聖堂から先を。通称貴族街と呼ばれていて。一代限りの貴族階級の者が住まう。騎士通りがある。その一角にある家は、外見は古いが、大切に住まわれる家屋に。繊細な顔立ちの少女が、入っていた。
「ただいま~」ほどなくして、少女に似た顔立ちの女性が、穏やかな可愛らしい笑顔で、娘のシアを出迎えた。
「お帰りシア~、早かったわね」
てっきり夕方くらいまで掛かるかと思っていたので、そう聞くと。
「うん、私たち一年は。早く帰されたの」
学園側の配慮として、体力的に成長していない一年生を。同列に扱わず。二年生よりも1日少ないカリキュラムが組まれていた。だから明日学校に行けば、夏休みとなる。
「あらそうだったの?、そうそうなら丁度良かったわね♪」クスクスと微笑み。 何やら浮かれてるような……。
「シアあのね、夏休み~に~。オーラルとリーラが来るからね」
まるで近所に住む友人が、近いうちにお昼を食べにくるからと。驚く内容を、実にお気楽に口にしたのだった、
「……おっ、お母さん……、オーラルってまさか!?」
「ええそうよ。内密に来日して、2日ほど我が家に逗留するから、そのつもりでね」
あまりのことに。思わず固まっていると。
「何せ今年は、世界議会を、アレイク王国で行うでしょ~。ゆっくり休む時間なんて、リーラってば取れなかったって言うし。来年にはララ様が大司教として就任するから。リブラ様と極秘で来日なさるそうなの。家を使って久しぶりに家族とお会いになりたいそうおっしゃてたのよ~、皆には内緒だからね♪」
「もっももももちろんよ!」(そんな恐ろしいこと、口が割けても言えないわ)
「何でもブライアン様も。奥様を1人伴われるそうだし。色々準備があるから。シアが早く帰ってくれて助かったわ♪」
お気楽に言ってくれる母には悪いが、こんな小さな家に。恐れ大いと顔をひきつらせていた。
「そうだわシア。貴女達の部屋にあるベッドの下。彼処にオーラルの宝物があるから、出しといてね」
「えっそんなのが……」
口にしようとして、ハタリと思い出していた。確かに小さな収納があったのを思い出したのだ。「もしかして……、お母さんが、お守りと言ってた……」
「ええオーラルから預かってくれと頼まれた物を。しまってあったの♪」
昔、母に内緒で、こっそり見たことがあった。薄汚れていたけど。見たこともない固い物で作られた赤い手甲が、魔法の布に包まれて仕舞われていた。今にして思えば。あれを手にしてから。私たちは人の魔力を見る力を手に入れた気がする……。
「オーラルから聞いてるけど。あなた達。あれに内緒で触って、特別な力に目覚めてるんでしょ」
「……えっ」
目をまん丸にして、パクパク口を閉口していた。あらあらやっぱりねって顔をして、
「あの人も随分と苦労してたから。シアが内緒にしてた気持ちも分かるわね~、でもお母さんは騙せないわよ~」
若い母だと近所でも評判だったが、悪戯ぽい顔は、少女のように可愛らしい。
「……いっ、いつから」
「そんなの決まってるわ、あなたが産まれる前からよ♪」
当たり前でしょ~、母の口振りに。何だか笑っていた。今まで両親に心配かけたくない一心だったのだが……、全てお見通しだったようだ。
「クスクス♪、な~んてね。本当はオーラルに教えてもらわなきゃ、気が付かなかったわ。不安にさせてごめんなさいねシア」
お茶目にパチリ。ウインクなんてしながら。可愛らしいく頭を下げていた。
「お母さん……、ソアラは」こんだけ騒いでたら。部屋から顔を出す筈の妹が出てこないので、気になった。
「そうそう今頃はリナちゃんと。プールに行ってるわよ~」それで気付いた。母が私を待ってたことに。
「……お母さん、ありがとう」
素直にお礼が言えた。色々と問題もあるが、母の気持ちが聞けて、心が軽くなっていた、
「良かった、シアと話せて♪」
母が楽しそうなら。まあ~いいかな。肩の荷を下ろして、気楽に思えた。
エピローグ
夏休みに入ると。王都では、諸外国から。沢山の人々が訪れていた。アレイク王国にとって、新たな王の威光を示す場である。それゆえ国を上げて、世界議会期間内には、演劇場の無料公演。中央公園カフェ・ブルー無料ドリンクサービス。M&B期間限定アイスが無料など。様々なサービスが受けられると。話題にこと欠かさない。留学生のフタバ、キヌエの二人は、シンク先生に誘われて、演劇場で行われる。未来のスター達に混ざり。裏方のバイトをしていた。二人にとって見るもの全てが新鮮だった。元来楽天的な性格のフタバ、芸術的なことに興味津々のキヌエの二人は、瞬く間に皆に受け入れられて。楽しい夏休みを過ごせていた。
「ねえ~キヌエってば、踊れるんでしょ」
若き女優の卵。プラナ・プレイ・ミルナさんに問われて、
「はい、呉の国では舞踏が盛んですから、それなりにたしなんでます」おずおずと答えていた。なるほどね~と相づち。キヌエの全身を見ていたかと思えば、にっこり悪戯ぽく笑っていた。




