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少尉ですが何か?  作者: 背徳の魔王 人と話すうちに性格から行動パターンを読み取り。隠された本性を暴き。時に未来を予言することからリアル魔王と呼ばれ。材料と調味料の分量で味がわかるので、絶対味覚と本人が詐称する一般人
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白の女王乱心ですか?

プロローグ




西大陸南西の上空。中央大陸と同じ。神々の技術を元に作られた。島が浮かんでいた……、


別名゛独立研究島゛(ラボ)と白の民が呼ぶ。秘密の島があるという……。




研究室の一つに入る。闇色のローブに身を包む青年は、歪な歪んだ感情を顕にしながら、薄く笑う。

『クッククク。人間の癖に。我を100年の長き時。封じていたが……、所詮は人間よな~。ようやく自由を手に出来た。邪魔な存在である古代の民も今や力を失い。我を封じた赤の民は人間に屈したか。クッククク……あの女。憐れでならぬな~、すでに自分が壊れてることも気付かぬとは……』

大賢者オール・セラは、愚かにも白の女王シルフィールが隠れていた島を見つけていた。



妻を解放したことで、残りの時間を知るからこそ。『闇に沈みし魂を喰らう者』、『闇』と呼ばれし魔神王ベセルバブルは。闇に隠れ。白の女王シルフィールを滅ぼしに来たが……、女王の杖によって、逆に魔神が王を解放されてしまい。自我ごとベセルバブルに喰われていた。




魔神王の魂を押さえていたオール・セラの死によって、ようやく解放されたが。それと同時に身体を失い。消滅してしまう運命であった……。しかし女王の杖の力『錬成』によりオール・セラの肉体を新たに造り出して。消滅を待つ魂だけの存在だった。ベセルバブルの魂を再び封じ込めたのだ。自分の手足となる者として……。

『クックククまあよいわ。今は飼い犬で構わぬ。力を取り戻した暁には……』

欲望に歪む眼に。一滴の涙が堕ちていた……。微かな優しさを残していたが、今の魔神王に分かる筈もない。

『さあ~現れよ我が闇に住まう。化身共よ!?』

シルフィールに代わり……、闇の軍勢を造り出すには、今しばらく時間を必要としていた━━。




━━西大陸・新帝都。(別名)不夜城。



広大な領地を統べる帝国には、連日連夜。昼夜問わず。様々な案件の書状が、各地の領主、町の有力者、村長らから届くことがあった。その多くが、魔神の脅威に晒されていたからだが……。ついに最後の魔神が倒され。憂慮から解放されていた。



━━城の一室では、連日厳しい話し合いが、繰り広げられていた━━。


出席を命じられた元領主、並びに領民の代表者である。魔神の民を名乗った。町長や村長達であった━━。

「陛下失礼ながら申し上げます!。この者達はあろうことか、魔神の民だと申して、我が領地に来ること拒みました。魔神がいない今。もはや赦すことは出来ません!。我に一軍をお預け下さい」

元領主の主張に。顔色を無くす村長達だが、そのなかでも町を破壊されてなお。魔神の領地に新たな町を築いた長は、悠然と佇み。鋭い眼差しで元領主を睨み付けていた。

「何を言われるかと思えば、レデル様はお忘れですかな?」実に理知的な声音で、口を開いていた。「何?」

苛々した面持ちだが、裏切り者からの問いに答えた。

「やれやれ本当にお忘れのようですな。全く度がしがたい馬鹿ぷりです」

「なっ、なんと言う口の聞き方だ!。我を愚弄する気かサンゼル」

何かが始まる予感を覚えて。このまま話させるか、主導を握るか魔王ピアンザは迷う。

「陛下。どうか発言することお許し下さい」

レデル相手とは違い。敬意を持って一礼していた。迷いも一瞬。

「許す。話せサンゼルよ」

「なっ!?」

何やらいい足りない様子だが、ピアンザの命は絶対である。怒りに震えながら。控えた。

「そもそもレデル様。貴方が言い出したことお忘れではありませんよね?」



そもそも西大陸に魔神が溢れたのは、今から18年近く前。中央大陸事件の時である。魔王軍は危険な力を持った魔神と戦い。多大な犠牲を払い四体の魔神を残して、ほぼ魔神を殲滅させていた、しかし……強大な力を持った四体の魔神が、降臨していた。



当時の領主レデルは、私兵を引き連れ。夜逃げ同然に城から逃げ出す時。助けを求めたサンゼルや村長達にこう命じたと言う。

『いいかお前たちは、命を賭けて、我を救うのだ良いな!』 『しかしレデル様……』

『ええーい黙れ!。魔神供に。貴様達も住民を生け贄に差し出せば良かろう、1人くらいは助かるはずだ!。良いな』

こんな自分勝手な領主の下にいたとは……、サンゼル達はさぞ絶望したことだろう……、会議室に同席した。ゼノン宰相他幕僚達は、呆れ果てていた。

「なっなっな……」 「成る程……」

顔面蒼白になりながら。慌てて何か言い訳しようとしたが、 ピアンザが口を開きその機会を永遠に失っていた。

「へっ、陛下」

笑みすら浮かべるピアンザを前に。この場にいた誰もが、冷や汗をかいていた。魔王様が怒られていると……、

「レデルよ。貴様……、我が配下になるとき誓ったこと。忘れては、いないな?」

いっそ優しさすら感じる笑みに。

「へっ、陛下……、私はただ…」

「黙れ」凄まじい魔力が吹き上がり。レデルは永遠に口を閉ざすことになった。

「…………」

パクパク更に言い訳をしようと口を開くが、言葉を発することは無かった。だらだら冷や汗で床を濡らし。恐怖のあまり失禁していた。

「さて……レデルよ。貴様が我が配下になるとき、誓いをたてたな?」

恐怖した顔を震わせ。慌てて首を振るう。

「ゼノン今一度、誓いを述べよ」

「はっ、我が魔王陛下より領地を預かる者に命じる。

1、民の願いを遮るなかれ。

2、民の命捨てることなかれ。

3、民を守るため命を惜しむなかれ。

4、戦いに怖じけつくことなかれ。

5、嘘をつくことなかれ。

この五条を守る限り。貴殿に領主としての権限を与える物なり」

ゼノン宰相に厳かに告げられ。その内容にサンゼルは驚いていた。まさか領主に、そのような誓いがあったとはと……、「ご苦労ゼノン、さて……レデルよ。そなたは、第1条を破った。よって領主の権限を剥奪する。

さらに第2条を破った。領地を没収する。次に第3条を破った。よって屋敷、財産を没収する。次に第4条を破った。よって貴様を死刑と処す。なお第5条を破った以上。生きたまま焼かれること覚悟するがよい!」

厳然とした沙汰に。驚きを隠せずにいた。

「サンゼルよ。我が至らぬばかりにあいすまぬ!」魔王ピアンザ陛下は、立ち上がり。深々とサンゼル達に頭を下げられていた。もはや驚いたと口にする次元では無かった……。



━━あの魔王陛下が……。戸惑うサンゼルを同情的に見たゼノンは、これから始まる。外交第二章の結末を予見していた。




━━数日後……、魔王陛下から発表があった。



魔神の領地は、クライム皇子の統治に任せること。新しい領主にサンゼル・パウロスが就任したことである。サンゼル・パウロスは商人の国セロン生まれで、今年四十五になる元学者であった。人柄。知識は申し分なく。ミューアによる内定で、ローレイ商会と揉めたため。小さな町の町長に押し込められていたことまで分かっていた。その日、緊張を隠せないサンゼルは、正式にクライム皇子の家臣として。挨拶に訪れていた。



━━すると……。しばらくまたされた挙げ句。何故か案内に現れた自動人形。白騎士ロノバリエに度肝を抜かれていた……。



『クライム様……サンゼル殿が、シュウニンの挨拶に参りましタ』

扉をノックして、人間の言葉をしゃべるから。二度びっくりである。

「は~い。いま手が離せないから薔薇の騎士。開けて~」

『はいは~いクライム様♪』

可愛らしい女の子の声が聞こえてきて、━━扉が開くと。深紅の自動人形がちょこんと顔を出して、

『いらっしゃい~、入って、入って~』 手招きされたが……、戸惑っていた。

「えっ、いやその……」

戸惑うサンゼルに構わず。

『いいからいいから♪』

強引に手を引かれて、ずるずる引きずられて行く。



何だかその部屋は、甘い香りが漂っていた。流石に気になって、辺りを見回して、大きな厨房のような部屋だと気付いた。

「あっご苦労様ベル、サンゼルはそこに座って」

声がして小柄な白銀の綺麗な髪。神経質そうな風貌、クリクリッとライムグリーンの優しい瞳が、キラキラ輝き厨房で一生懸命働いて……、訝しげに首を傾げていた。少年の隣には、青いカラーリングの自動人形が、クライム皇子の手伝いをしていた。さらにもう一機。竈の火加減を見てる金ぴかの自動人形がいて、さすがに唖然とした。

『間もなく焼ける』

「ん、焼けたらみんなで食べようか♪」 まるでこの場にいる自動人形も……、そう言ってるようだ。そんこと考えてると。

「ベルは、サンゼルと顔見知りなんだよね?」

『ええそうよ~』

作業を終えたのか、薔薇色の自動人形にクライム皇子がそう声を掛けていた。流石に可笑しいと感じ始めた。

『彼は、自分はどうなってもいいから。住民は助けて欲しい!、って言ってきたから。さすがに驚いたわウフフ♪』

今の口振りには、覚えがあった。

「まっ、まさか……」

茫然と立ち竦み。眼を剥いて座るサンゼルの前に。焼きたてのマフィン。作りたてのバターが添えられて出された。


何処から話て、何処まで伝えるか、そこが難しいところである。見るからに動揺するサンゼルのため。四人の正体と。何故を話していた。

「まずお前に彼等の正体を教えたこと。いくつか理由がある。それだけは理解してほしい」

まだ少年でしかないクライム皇子だが、笑みを浮かべた瞬間。その存在感は、見た目幼い少年とは思えないほど……。強烈なインパクトを与えてい。流石次代の魔王陛下である。蒼白になりながら。サンゼルは気丈にも頷いていた。

「一つは世界を混乱に陥れる存在が、この世界を破壊しようと暗躍していたから。魔神にされた四人と同盟を結んでいた……」「お待ち下さい  皇子いまなんと仰られましたか?、魔神にされた四人と申されましたか……」

四体の自動人形は、落ち着きなくそわそわしていた。確かに魔神にしては、人間臭いと思っていたが……、

「うん彼等は元人間でね、元は聖人アレクの弟子達で、12使徒に名を連ねる。ベテルローズ、ブルワーズ、ロノバリエ、スタンレイ」

サンゼルは再び衝撃を受けていた。事があまりにも大きる話を前に。所詮庶民上がりの身には、なすすべなかった。

「相手は、中央大陸事件を起こした首謀者だったんだけどね~。この大陸に隠れ住んでたんだ。だからそいつから世界を守る必要があった」何やら随分と大それた話に。も~う何がなんやら……、信じられないと首をふる。

「おっ皇子様……、私にそのような大事を…」

慌てて遮るサンゼルに。クライム皇子はま~ま~、優しい笑みを浮かべていた。

「やっぱりミューアの言ってた通りになったね♪」

「当たり前です。クライム様♪」

他に誰もいないとたかをくくっていた。しかし声はサンゼルの背後で。女の声が響く。

ぎょっとしたサンゼルの目と鼻の先。ロリータファッションに身を包む。美しい少女が立っていた。 「わっ、ひっ!」

驚きのあまり後ろに仰け反る。些か憮然とした顔をしたが、まあ~いいわと肩を竦める。

「彼女は六将の1人ミューア・サリアン。ぼくのお菓子作りの先生だよ♪」

にこやかに皇子様の紹介に預かり。クスクス笑うミューアは、ヒラヒラ手を降って、

「取りあえずよろしくね~。貴方がクライムを裏切らない限り。……会うことはないわ」

冷然とした呟きに、顔を青ざめさせたサンゼルを残し。現われたと同時に。部屋に紛れるように消えていた━━。

「今のが噂の……ゴクリ」

「うん♪。ミューアの報告から。サンゼルは政治家ではなく、民意を心得た、家庭教師だとか」

ズバリその性格を。言い当てられ眼を白黒させる。

「まずサンゼルには、領主としてお願いすることはただ一つ。ローレイ商会とは関係のない独自の商会を国内に作り。物流の一部を担ってもらいたい」「しかしそのようなことローレイ商会が……、まさか!?。いやそのようなことが…」

あえて名言を避けていたが、皇子様の言い方はまるで……、件の敵が商会にいると。告げていた。

「しかしそれは……」

「うん。簡単な話ではないね。でも流通の基礎は既に出来上がっていてね。君に頼みたいのは土竜ギルド、ギル・ジータの海中船で輸入される品を。全て君たちに扱って欲しいんだ」

皇子様から詳しい話を聞けば、決して不可能な話では無かった。さらにいつの間にサンゼルの前にあった書類に目を通して、眼を見張る。

「なるほど……」

何せ輸入される品は、帝国でも大人気。カフェ・ブルー。M&B店が、全て買い取ると言うのだ。「確かぼくの領地は、主に牧場や畜産を扱っていたね?」

「はっ確かに……」「何れは輸入ではなく自国の生産で、補えればと考えている」

「確かにそうなれば、領民の暮らしはよくなりますが…」

渋い顔をしていた。言いたいことはわかっている。

「そこでまず行いたいのが、ぼくが農場、畜産農家の土地を全て買い上げ。民には全員。国営の仕事として働いて貰うことだ」

ハッと息を飲んでいた。今まで禁忌の領域では、足りない物が沢山あった。その最たる物が、物流の要貨幣である。

「そうなれば皆給金を貰えます。喜んで働きましょう!」

そこまで考えられてるとは、皇子様の慧眼に異論は挟めない。

「うんそこでサンゼル君が必要なんだ」悪戯ぽく微笑みながら。手を広げていた。

「ぼくが命じて、皇子だが、子供の命令に。よしとしない民が必ず出てくる筈だ。そこで事実を知り。尚且つぼくの言う利点に気付き、しこりの残る民との間を受け持てくれる。領主が必要なのさ」

そこまで言われれば、皇子の深い考えと。魔王様が自分を登用なされた理由が分かる。背筋にゾクリ寒気が走った。クライムの狙いに彼は気が付いてくれた。どうやら信用に足りる人物だと認識を改めた。

「……本当言うと。貴方には真実を語るが、実はこの案を提案した者は、父や幕僚ではない、彼女はぼくの姉が、ライバル視する。婚約者の1人だと言ったらどうする?」

「まさか……」

ご冗談をと……、口にしようとして、二年前の冬。最初の魔神を倒した……、

「理解したようだね。彼女は全てを知った上で、今日までの出来事を予測していたのさ」

「………」

『本当にあの子怖いんだから!。私達じゃ勝てないわよ~』思い出したかのように。薔薇の騎士は身震いしていた。魔神をも恐れさせる存在…。

「クライム皇子……。私は政治家として役に立てませんが、領民のためであれば、お役に立てましょう」真摯な面持ちで、まだ子供でありながら、やがて魔王となられるお方が、私を必要だと言われた。今はそれだけで十分である。

「うん!。お願いします。ぼくは所詮子供だ。さかしいことは言えても。皆に助けて貰えなくば、なにもできない存在だ。だからサンゼル、貴方を頼らせて欲しい」

立ち上がり深く頭を下げた姿に。ピアンザ様とは違う魅力があった。それに……この就任の挨拶の場でこそ。話せることで、子供の甘えとは違う。皇子様ならではの気遣いのだと気付き。不覚にも胸が熱くなっていた。

「お任せをクライム様」

部屋に入った時の不安は消えていた。

毅然とした面持ちのサンゼルが退席して、再びミューアが現れた。

「クライム様。私にも頂けるかしら?」「うん♪待っててね」

素直に頷き、甲斐甲斐しく。ミューアをもてなしてくれる可愛らしい。私だけの皇子様である。

「それでミューア、シン兄さんはなんて?」

一息着いたところで、密書の返事を急かした。今は父や叔父上の予想より悪い結果になっていると感じていた。ただ1人シン兄さんだけが、その可能性を報せてきた。クライムの腕にある腕輪は、念のためと二年前……、姉に持たせてくれたものである。まるで姉達が何かすることを見越していたような品であった。

「口頭で、クライム様だけに伝えるよう言われました。『間もなく君は、大賢者の影に拐われるだろう。だから例のダミーと入れ替わり。隠れて貰う』いかがなさいますか?」

さすがに呆れてる口振りである。しばし考えにっこり笑っていた。

「さすがはシン兄さん。ぼくの考えをお見通しだねクフフ♪」「……まったく嫌になること。わたしの事まで言われました……」

ふくれ面をしていたのは、相手を侮っていたからだろう。ミューアの悪い癖である。

「ベル。準備の方は?」

『バッチリだよ~、リマに頼んでいた。動かない五体目を、秘密の庭園で、壊されたように偽装しといた。でもクライム~、魔王に言わなくて良かったの?』

「ああ~父さんは過保護なところがあるから。相手に余計に意固地にさせる手しか使えない。そこはオーラル叔父上も同じさ。二人は守る物が多すぎるからね♪」

クスクス楽しそうに笑い出す少年に。そんなものかと、深紅の自動人形は肩を竦めていた。

「では、本当に皇子は南大陸に……」「うん、ブルーの右腕と呼ばれる職人の子として、しばらく隠れるさ」

とんでもないことをさらりと言って退けれる。未来の魔王は、奇策を平気で使う人物のようだ。

「……しかたないですわ……、ただし…」

「分かってるよ、危険な時はミューアが守ってくれるんだよね?」

さも当たり前なように。甘えた口調で、ミューアの膝に抱き付いた。暗殺者とは思えぬ柔らかな笑みを称え。

「もちろんです。貴方はわたしの皇子様なのですから♪」

まるで本当の姉弟のように寄り添い、ミューアに膝枕されて、幸せそうなクライムの頭を。愛しそうに撫でていた。




━━東大陸、聖アレイク王国。ターミナルの街。




━━ガイロン重騎士団・駐屯所。



執務室にて、三人の男達が、気難しい顔を隠さず。座り込んでいた。元ガイロン重騎士団長ギルバート・ガイロン准将。元アレイク王国将軍ヴァレ・オーダイ。 元第1師団ユウト・アルビス大尉であっる。

「ユウト……、オーラルはまだ危険があると言うのか?」

長髪がすっかり真っ白くなったオーダイだが、老いてますます弓の腕が上がっている。と言われるほど。様々な逸話を残す老将である。

「理由は分かりませんが……、お二人には中央事件以上の事が、進行中と伝えるようにと……」

本当にそんなことが起こるのか?。ユウトは半信半疑な様子だが……、

「ほほ~、ついに動き出したか」納得した顔でオーダイだけが。髭をしごいていた。何か知ってる口振りである。

「子細承知した。こっちのことは気にするなと伝えよ。あやつのことだ。既に動いておろう」

「さてわしらは、地下に降りるかの~オーダイ?」

「うむそうじゃな」ようやく出番かと笑みすら浮かべて、二人の老将は、強敵を出迎えんとする。



━━アレイク王国、王都カウレーン。



━━アレイ学園。学園長室、ミレーヌ王妃様。フレナ王女。ロアード王子様に来ていただいていた。 「シンクお久しぶりですの♪」

黒髪の少年を。可愛らしい笑顔で出迎えていた。

「急なお願いでしたが、叶えてくださり感謝致しますミレーヌ様」「大丈夫ですの~。それにシンクにお願いされたら。必ず避難するよう。オーラルから言われてましたしね」

やっぱり父さんは……、にこやかに微笑みながら。父やピアンザさんの思惑を悟っていた。今回ばかりは僕達が動かないよう……、最悪の事態のことを考えるシンクの性格を、逆手にとられたようだ。「王妃様いかがでしょうか、このような機会ですし、フレナ様には是非とも『特待生』と供に学ばれては」

「まことですかシンク様!」


幼い王女様は、たいそう本がお好きであると聞く。

「はいフレナ様。僕のクラスには鎖国していた和の国、呉の国から留学生がおります」

「まあ~キヌエさんですわね♪」まさかミレーヌ様から、キヌエの名前が出るとは思わず。驚いてると。

「ウフフ♪、先日ミリアさんとお茶をしていたとき。たまたまセリーヌに来られていたの」

なるほどと頷いた。 シンクのクラスの生徒達ならば、失礼を働くことはあるまい。

「お母様!。フレナお勉強したいです♪」

チラリシンクを伺っていたが、ニッコリ優しい柔和な笑みを深めて、

「シンク、お願い致します」

「はい喜んで」

「やった~」

無邪気にはしゃぐ娘に。クスクス優しい微笑みを浮かべながら、懐かしそうに目を細めていた。




━━中央大陸、輝きの都プロキシス。



━━白銀の城━。王座の間。先日旧き盟約に縛られた。赤の対の書に封じられた。聖アレイと呼ばれし最初の4人の英雄が1人アレクは、妹レシアが解放された影響か、赤の書の封印の一部が、解除されて。言葉を発することが可能となっていた。

『オーラル王……、真にこれしか方法はないのか?』

不安気に明滅する赤の書に。労る眼差しを向けていた。

「アレク殿。いかなる結果になろうと。大賢者殿は助かるまい……」

『それは……』

赤の民が守りし禁術 。そのなかでも魔神の王を身に宿す術は、自らの魂を媒体にする。すなわち生きながら喰われて行く。苦痛の中にいたことになるのだ。

「そこは賢者殿も理解しているだろう……、だから最後の契約を発動したのさ」魔神王とはその存在自体が異質。意思を持った闇である。



しかし過去一度だけ、魔神王自身と契約を結び。欲望を果たした者がいた。それを使うことは、自身の存在を無に帰すると。そこが魔神を取り込んだ四天。ベル達と違う点である。そもそもオール・セラは死斑病しはんびょうに犯されていた。

死斑病とは、皮膚が徐々に変色してゆき、肉体が生きながら腐る病である。死の淵にいたセラに、時間が無かった。ただ一つの選択が存在していただけである。制約はあるが人間の器。存在を魔神王と人間の中間に置くことで。契約を発動せず。昼間は人間の姿。夜は闇となることで、今まで生きてこれた。


百年もの長き時。それでも魂を喰われ続けながら生きることが……、どれ程の苦痛であったか、しかし大賢者殿は耐えきった。ならば少しでも早く。彼を殺すことこそ。苦痛を無くし。彼を救うことになる。

『セラ……』

赤の書は、辛そうに明滅を繰り返していた。





━━旧き研究施設。神々の力を研究するため。初代白の女王セルローザが、自らの為に造り出した。飛行する島に。異形のモンスター達が、ただひたすら命を待っていた……、

「クフフ♪、クフフ……、これが魔神王の力か……、この力があれば、今度こそ……私は自由になれる。お母様だって、姉様ばかりじゃなくわた、わたしを……、わた、わたしを……」困惑気味の顔をしたのも束の間。シルフィールはうっとり恍惚の笑みを浮かべていた。側に控える魔神王ベセルバブル=オール・セラは、空虚な眼差しを女王に向けていた。唇だけ緩やかに動き゛もうすぐ……゛呟いていた。



空は青く清み渡り。広大な荒れ地を耕す農夫は、気持ちのよい汗を拭い。腰に溜まった痛みを伸ばす。

「おとう!、お昼持ってきただよ」

そう父を呼び。手を振る娘に、

「おう、ありがとうな!」

手を振り替えした時だ。何か変なものを見た気がして、訝しげに振り返り。目を凝らしていると。

「ありゃいったいなんだ?」




その日━━元禁忌の領土から南西にある村。町から。巨大な島が浮遊してると目撃情報が、不夜城=魔王ピアンザの元に届いた。

「直ちに各国に伝えよ。大賢者殿が動いたとな」

「はっ」

兵が四人。宮廷魔導師三人。退出していく。再び世界は脅威にさらされるだろう……、だが……、

「ようやく終わるなオーラル……」

しめやかに表情を改め。静かに呟いていた。



後の世に……、魔神王と1人の狂信者が起こした事件のことを。人々は魔神大戦と呼ぶ。




━━元禁忌の領域近く。



元商人の国セロン。現セロンの街。郊外の屋敷。豪奢な屋敷は閑散としていて、多くの使用人がいたが……、人の気配は消えていた……。

「我が、手足達よ……、存分に喰らうがよい」むあっとする血の臭い。まるで部屋中に血を塗りたぐったような有り様。濃縮したような狂気を。女のような相貌の分身体でるハーミュアは。恍惚と笑みを浮かべ。魔神王の化身達を眺めていた。

「今頃……クフフ。フハハハハハハハハ。喰らえ。喰らえ。喰らえ!?。人間を食い付くし。わらわの母の夢を叶えよ!」

母である創造主シルフィール様の為に。その手で作り上げた商会すらも━━餌にする。ニタリ……闇が人間の手を掴み。逃げようとした使用人の少年は、侵食される様を。艶然と見ていた。ホムンクルスは夢を見ない。所詮は分身体。魂亡き存在である。


屋敷の外では……、 「やっやめてください……、いっいや!」

街の上空。島が留まり。空から無数の闇が堕ちていた。そう闇の魔物が来襲していた。



その数1000体あまり……。魔物に侵食された人間は、同じような魔物となり。次々と増殖していく。新たに生まれた闇の魔物の姿はまるで……、人間の骨格を無理やり外し。マリオネットのようにぎこちなく。されど動きは早い。矛盾しているため避けるのが非常に難しく。魔王軍の駐屯一個大隊が、なすすべなく全滅させられてしまう。ことが性急なだけに。瞬く間に街に魔物が溢れた……、民に対抗出来る力はなく。セロンの街は人が生存しない。闇の魔物が徘徊する地獄絵図と化していた。



━━しかし……白の女王が考えるよりも。魔王軍の動きは素早く。半日とせずにセロンの街は包囲されていた。

「トロン団長!」

青ざめた伝令兵を連れて、足早に幕舎に入って来た副官の報告を聞いて、流石に眉を潜めた。

「何だと!、ターミナルが陥落したと言うのか……」

「ハッ、陛下の命で、ターミナルの民は避難していたので、被害はございませんが……」

相手は白の女王だけではなかったか……。それが悔やまれる。

「地下の民は?」

「ハッそちらはすでに中央大陸に……」 伝令兵の報告に流石に違和感を覚えた。

「オーラル王は、既に予期なされていたのか?、まさか陛下も……」

その答えを知るすべは無いが、トロンに兵を出させたのは一昨日である。そのわりにセロンの民を見捨てた、その真意がわからず戸惑いを見せていた。



西ターミナルを襲った闇の魔物達は、蟻に似た風貌、まるで疑似神に似ていた……。その性質は疑似神をモデルに造られていたが、子を生み出す女王は存在しない。『侵食』を行うことで、増殖能力があるからだ。近い物としては、植物の魔神だろうか……、当初数百の闇の魔物達は、避難せず人間の言葉を聞かない。亜人の村。集落。生存する魔物を『侵食』し増殖していった……、

━━僅か1日で、西大陸側にあった集落、村、魔物達を喰い散らかして、その数1万に迫る勢いとなっていた……、



━━中央ターミナルの街。斥候が闇の魔物と遭遇。一報を知らせて間もなく。音信不通になっていた。

「クッ!」つるり頭を剃り上げたスキンヘッドの柔和な顔に。厳しい形相が浮かぶ。

「ジン!」

鋭い激に。今にも飛び出しそうとしていたジン・ゲルマン右将は、ハッと息を飲んで、同僚のロート・ハーレスを見て、唇を噛み締めた。同席したボルト・ホウリ、中央アレイ教団司教ナギ・グレンが、顔を見合せ厳しい表情を隠さない。輝きの都重鎮四人が顔を合わせていた。場所はターミナルの地下。土竜ギルドの酒場兼窓口である。

「ジン気持ちは分かるが、今は民のため。陛下のため堪えろ」

普段寡黙な男だけに。その言葉は労るように優しく。また強い力に満ちていた。グッと顔を歪めたが、自分が先走り。皆を危険に曝したとあれば……、お前の妻にも。子にも哀しまれてしまうではないか?。そう語るような眼差しに。唇を引き結び。乱暴に座り直す。

「ナギ、済まないが、陛下に報告を頼んだ」「承知しております。先ほど陛下から。此方に飛行部隊のガルシア殿。ケンタウルス戦士長ダノ・バルタス殿が、一個大隊を派遣すると報告がありました」

三人はナギの報告を聞くために。集まっていた。急使からの伝令を受けて、ジン右将が衝撃を受けて、中座したようだ……。

「すると陛下は、敵の個体の中に、飛行する個体が出る可能性を示唆してるのだな…」

「はいそのようです……、ケンタウルスの戦士は優秀な狩人ばかり。弓兵を中心に間もなく到着とのこと」

「そうか……、してナギ、例の聖別の武器はいかに?」

そこが大切なことと、ロートは切り出した。

「はい急いでおりますが、剣、盾、弓、槍の基本装備だけで。しかも数は300程度に」

申し訳なさそうな顔であるが、ボルトはホッと息を漏らす。 「では、各自精鋭に持たせ。それぞれ待機。陣形は翼竜で行う」

ボルトの言葉に。二人も力強く頷く、

「ナギ殿、敵個体が拾えれば」

「承知しております」

中央大陸事件では、ケイタ・イナバ他。優秀な魔導師。聖職者によって、魔人。魔物の弱点を調べ。対抗出来たのだ……。




━━同時刻。各国は海上、地下の渡航。交易を直ちに停止し、英雄王、魔王両雄の動向を見守る。何時でも力を貸すために……。




アレイ学園。

情報の多くは、民や学生達に、秘匿されていた。そう『特待生』には知らされていた。普段と変わらぬ日々が用意されていたが……、留学生の二人。フタバ、キヌエにとって。なにもできない現実が、実に不甲斐なく感じていた。そこでシンク先生に相談をしたら。

「でしらた君たちにお願いがあります。フレナ様」

先ほどから子供がどうしているのか、気になっていた。柔らかな可愛らしい笑顔で、

「は~い♪」

元気に答えて、とてとてやって来て、二人を興味津々に見上げていた。

「こちらはフレナ姫様」

驚いた二人が慌てて立ち上がろうとすると。

「お待ち下さいフタバさん、キヌエさん!。今の私はシンク先生の生徒として、来ております。ですから……その…」もじもじ上目遣いで、二人を見てきた。何となく察していた。

「二人も世界情勢は聞いてるね?」

訪ねると惚けていた二人は、慌てて頷いた。

「姫様と王妃様には、学園に止まって頂いていてね。この機にフレナ様にも学生として、みんなと過ごしていただきたいと考えてる。そこで━━」

「シンク先生分かりました!。僕たちシンククラスにですね」

兄弟の多いフタバが察した。彼の実家は食堂を経営していて、6人兄弟の末っ子である。要領は良いようだ。

「はい、詳しい話はこれからするつもりですが、出来れば君たちにフレナ様を頼みたいのです」

「了解です!。コウ達に伝えます」

「あっあの~」恥ずかしそうにしてるフレナに。フタバが首を傾げてると。

「二人のこと。お兄ちゃん、お姉ちゃんと呼んでいいかな?」

勇気を出して、申し出た可愛らしい願いに。驚き顔を見合せた二人だが、すぐに屈託ない微笑みが浮かんでいた。

「構わないよフレナ~」

「ちゃんと、キヌエお姉ちゃんの言うこと聞いてくれるならね♪」

優しい気遣いに。フレナの頬が、薔薇色に染まり。非常に興奮した顔で、

「はいキヌエお姉ちゃん!。よろしくお願いしますフタバお兄ちゃん♪」

素直で、可愛らしいフレナ様に。そう呼ばれると。なにやらこそばゆい気持ちになった二人でした。



留学生の二人と、教室に向かったフレナ様を見送って、姿が見えなくなった瞬間。シンクの優しい笑みは、厳しい物に変わる。

「父さん……、信じてるからね」

今すぐ父の元に行きたい……、それはシンクをアレイク王国に残す意味が無くなってしまう。それにこの地は、父と母が生まれた大切な国だ。最悪の場合。僕を生かすつもりなのだ。だから未来の右腕セナさんを北大陸に行かせてあったのかと。今さらながら気付いた。それだけに父の無事を祈った。




━━北大陸。総督府━━。



魔王ピアンザの急使を受けて、16部族長。長老が一堂会し。白熱した会議が開かれていた。現在レオール連合のトップは、レイナ・ホルト宰相である。しかし現在のレオールは、最早修復不可能なほど亀裂が入って。後継者権争いが、激化していたからだ。それぞれのグループ代表が、

ラノバ族長プライゼン率いる裕福になった部族、

アブスト族長サザノーラ率いる戦士の部族、

アソート族長レダ率いる竜騎士団。部族間の垣根を越えた繋がりを背景に。最近は仲間が増えていた。この三人が、お互いを牽制するよう。舌戦が繰り広げられていた。

「馬鹿を言うな!、何故動かぬ、今こそ我等の力を示すときだ」

獰猛に、猛々しく、あくまでも自分の覇道に従順である。

「さすがに誇張し過ぎだサザノーラさんよ~。それに今の僕たちに。軍を派遣する船も。土竜すら数が足りない。いくら君たちの特殊能力を使っても。派遣出来る兵は僅だ。あのオーラル王が、既に動かれてると聞く。意味がない」

プライゼンの正論に、サザノーラの訴えは、一刀両断にされてしまい。怒りを露に鼻白む。

「まあ~お前さんの気持ちも分からないでもないが、ここはプライゼン族長の言う通りだぜきひ」


皆の注目を集める竜騎士団長レダは。第三勢力リブラ将軍を旗印に。代表を勤めていた。意外な事に思慮深い人物で、あのサザノーラ他。戦士の一族からも。一目置かれていた。レダの言う通りである……。サザノーラも押し黙った。

「それでは決まったようね~。我々レオール連合は、此度の戦……、静観いたします。ただし竜騎士の大隊は、何時でも出撃する準備だけ。しときましょう」

無難な代案を示して、話し合いは終わりを迎えた。



「レダ……」

相眼を厳しく歪め。退席に立ち上がった竜騎士団長を呼び止めた。やや意外そうな顔はしたが、悠然と戦士の一族の四人と相対した。

「如何なされたサザノーラ族長殿」

「わかってるはずだ。このままじゃレオール連合は瓦解するとな」ピクリ眉を潜めるレダに対して、にやりふてぶてしく豪放に笑いながら。右手を出して、

「俺達の元に来い!、お前の力を引き出し使えるのは、俺様だけだ。理解してるだろ?」

恐ろしく魅力的な誘い文句ではある。しかしながらレダは、彼以上の魅力的な少年と出会っていた。

「無駄だぜきひ~。あんたも思い知った筈だ。あの英雄様が認めた男が、将軍の側にいる。それがどういう意味か、分からないあんたではないはずだが……」

そう……レダは、セナ・ホウリと呼ばれる若き竜騎士に惚れ込んでいた。何れ竜騎士団長の後任を任せたいと思わせた逸材。その力は今やリブラ将軍と遜色ないレベルである。しかもレイナ宰相の姻戚ミネラと婚約していて、他の大陸出身者でありながら。勇者の義において……。サザノーラの記録を軽く塗り替えたこと記憶に新しい。大陸制覇を望むサザノーラにとって、目の上のたんこぶであった。

「フフフ確かにな。しかし所詮は中央に戻る者だぞ。なんの障害があるのだ?」 豪胆に言って退けた、やはり理解してないのかとレダは苦笑していた。

「まだ理解していないのは、お前たちの方だぜきひ、レイナさんの姻戚はミネラさんだけじゃなく。もう1人いること忘れてるな?、彼女はレイナ様の後任になることが決まったそうだぜ」

「何……」それは初耳だったのか、驚き目を見張る。

「しかも彼女の夫ダレークが、ファルバスの族長になるそうだ」

これには言葉を無くしていた。



戦士の一族……最大の派閥ファルバス族。初代レオール王の血族である。

「しかしダレークは、他の大陸から……」

「確かにな。それを差し引いてもダレークさんの力は、リブラ将軍以上。しかも奥方はレイナさんの妹に当たる」

アンナ・ホルトである。しかも彼女は竜騎士であると同時に。世界に三頭しかいない白銀竜の契約者である。まだレダが言わんとする意味が、まるで分からない……、

「確かなことは、レオールはあまりに大きく。16の部族が一つにまとまることが異例だった。だから綻び。分裂が始まるのだ。そうは思わないかサザノーラ殿」

「まさかお前達は!?」

ようやく理解してきた。やや呆然としたが、

「クフ……、クハハハハハハハハハヒ!、そいつは面白い。なるほどな~流石は宰相殿だ。実に面白い解釈だよ。しかしよいのか?。それは戦乱の始まりなのだぞ」

サザノーラが不敵な笑みを讃えて、レダを睨み付けたが、既に覚悟が決まった顔を見て、最早そんな話し合いなどとうに終わっていたことを悟る。

「ふっ善かろう!、それこそ我々が望む道である」

獰猛にサザノーラが笑う。




━━3年後……、北大陸は、7つの王権国家が乱立する。戦乱へと足を踏み入れることになるが、それはまだ先の物語。




闇に沈んだ地下迷宮。万を越える闇の魔物は、中央大陸を越えて、半数が東大陸のアレイク王国を目指し。進軍を始めていた。



━━東ターミナルの街。地下街。



駅舎のある大洞窟の前。整然と並ぶガイロン重騎士団。フローゼ私団。そして……土竜騎士団総勢4000が、防御を固めていた。

「報告致します!。オーラル陛下から。中央大陸を素通りし。敵勢力がこちらに向かったと、その数およそ5000」

どよめきが上がった、まさか本当に来るとは、半分疑ってた兵は、実は多いのだ。

「直ちに王宮に知らせ。各師団関係各所に準備を促せ、どんな事態になるか予想が付かんでな」

直ちに伝令兵を走らせた。

「やはり必要になったか……、鷲はまた疑似神に備えてだと思ってたが」

まさか建国の立役者が1人。大賢者オール・セラを迎え撃つ為とは、考えもしなかった。

「ギルバートよ、クエナや子息。ましてやフィアに。その責務を与えずに済んだこと。神に感謝するんじゃな」

お互い老けた。このような大戦に。武人として立てるのは、これで最後であろう……。それを二人は理解していた。

「違いない!、これで死んだとしても。妻に胸を張って報告が出来るって物だ~」

すっかり髪は白くなったが、まだまだ老ける気にはならなかった。二人の老将は、かかと高らかに笑っていた。




ついに白の女王が姿を現した。魔王ピアンザの元に。待ちに待った一報が入ったのは夕刻である。伝令の話に耳を傾け。ゆるりピアンザは玉座より立ち上がるや。

「総攻撃を開始する!」

「「「ハッ!」」」

勅命が下され。控えていた伝令兵が走り出した。




新帝都から、商人の街セロンに続く。街道近く。万の魔導兵が、急ピッチで準備される様を。ランバスタ・ラロバイン将軍。リーロン・カレス副将、ロドラ・アグレド親衛隊長、六将の面々が見守っていた。

「失礼します。ランバスタ将軍!。陛下より勅命下りました」

「来たか…、リーロン、アグレド」

「承知してます」

「心得た」

「「「全軍進撃!」」」

「はっ!」三人の将の命に。三方に陣を敷いていた。各軍団は、地響きを立てながら。白の女王が傀儡が支配する街に向かって、進軍を開始する。



商人の街セロンを徘徊する闇の魔物。その数およそ25000。住民の全てが、侵食され、魔神王ベセルバブルの軍団として、動き出そうとしていた……。そこにただ1人残った。白の女王が分身体ローレイ商会の創設者ハーレス・ローレイは、女王であり母を出迎えるため。恭しく頭を下げていた。

「ご苦労でしたハーレス」

慇懃な言葉を賜り。数百年……、母の為にその身を粉にして、戦働きした息子である。

「はい……お母様」恍惚と。無垢な笑みを浮かべていた。

「立ちなさいハーレス」

慈愛の笑みを讃えて、我が分身体を立たせ。そして……抱き締めていた。

「あっ……」

歓喜の涙する我がホムンクルスに。女王はいきなり杖を胸に突き刺していた。

「ガハッ……、えっ?」

信じられないと眼を見開き、血溜まりに沈んでいた。

『善いのか白の女王よ?』

流石に驚いた魔神王に。にこやかな優しい笑みを浮かべていた。

「ええ~こんな使えない玩具は、要らないわクフフ……、アヒャヒャヒヒハ!。何て面白いのかしら。最初から自分でやれば良かったわ♪」

壊れた笑みで、実に晴れ晴れとした顔で、気持ちを打ち明けた少女は……、酷く美しいとさえ思えた。それが滅びの美とよばれる。狂人の危うさであろうか……、

『どうやら……、魔王が動いたようだ』チラリ動かなくなったハーレスを見てから、空を見上げて、白の女王に告げる。

「フフ♪、あらそうなの?、では早速で悪いけど……」

『好きに使え。貴女の思うがままに』 恭しく一礼していた。

「ありがとう、もっと早く貴方がいてくれたら。こんなに待たなくても良かったのにクスクス♪」

無垢な好意に似た笑みを。魔神王ベセルバブルに向けていた。その笑みに……、チクリ胸が痛んだ。




エピローグ



艶やかな真っ白いドレス。闇の魔物はまるでシルフィールと言う供物を待ち望む群衆のように滑稽である。やがて広場を悠然と歩みを進めて。その中心にて歩を止めていた。実際は違う……、彼等こそが、シルフィールの供物であり、材料に過ぎない。




魔神王の分身体の力は、人間を侵食することにより。人間に闇の属性を付与。さらに理性を失わせる一種の呪いである。そうすることで、人間の魂を露出させ。喰らうことが出来るのだ。

「開け。錬金の釜よ」シルフィールは女王の杖を呼び出して、その力を解放する。



広場に集まった闇の魔物達は、ほんの一部でしかない。しかし数百は下らない数であった。突然杖から魔力が放たれ。ドーム状の空間にを形成する。




ガツン、ガツン二度大地を杖で叩くと。大地がひび割れ。天を仰ぐほど巨大な。釜が現れた。

「業火よ燃えろ、魂を炉にくべて、回れ回れ輪廻の扉」

杖を掲げるや、恍惚と呪文を唱える。何もない釜の下から。天を焦がすほどの巨大な炎柱が立ち上ぼり。空間を閉鎖してるにも関わらず。凄まじい熱気を発していた。

「錬成開始!」

宣言するや突然。巨大な釜に、集められた魔物達は吸い込められて行った。



「物質分離!」

ガツンガツン、再び杖で大地を叩くと、巨大な釜がゆっくり回転し始めた。ドゴンと蓋がされて、回転はどんどん早くなっていく。

「浄水!」

再び杖を二度叩く。するとなにやら巨大な管が、釜に突き刺さり。ぼこぼこ何か煮えられる音が辺りに響いた。不気味な鳴動が始まり。ズッズズ~と中身が吸われていった。上を見ると。吸い込まれた何かは、遥か雲の上空まで続き。巨大なガラス官が幾つも複雑に重なり合っていた。おそらく不純物を取り除き、純粋な素材だけが、釜の隣にある一抱えある。ビーカに吐き出される仕組みだろう。どうやら巨大な浄水器のような物のようだ……、



ぽちゃん……、ぽちゃん……、人間と闇の魔物から抽出した物質が。ゆっくり、ほんの少しづつ落ちていた。それは闇の半物質ダークマターと呼ばれるものである。あの一滴で、山一つ消滅させる力がある。危険な物質と言われていた。果たして……、シルフィールは何をしようとしているのか……、



うっとり微笑むシルフィールにしか、分からないことである。

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