シンクのドキドキ冬休みですね
季節は巡る。秋が終わり。冬休みの季節。ローザ・リナイゼフは、クルミから、北大陸まで土竜馬車での旅行に誘われて、戸惑いはあったが、素直に嬉しく思い快諾した。
プロローグ
━━中央大陸。輝きの都プロキシス。
土竜ギルドの一階。受け付けカウンターで、ラシカ・ゲンジは、自分の土竜を。中央大陸から。東、中央、北大陸を巡る。旅行プランの提出と。ギルドの受付を済ませていた。
「ラシカさん……、帰郷と仕事込みですか?」
土竜ギルドの受付女をしてる。アオイ・フレイメン係長。ラシカと同じく。東大陸ターミナル出身である。
「アオイちゃん、違う違う。うちの大切な王子様を。私の土竜で、北大陸まで♪。送ることになってね~」
終始ご機嫌なラシカの頬が、緩むのが止められない。
「へえ~、じゃあ~ミネラさんも行くのね」「そうそう、シンクの女友達も~、一緒らしいのが、微妙なとこだけどね~」
ラシカが、やや不満気な顔をしたから。
「プッ……なにそれ、その言い方だと、シンク皇子のお姑さんみたいよ~、クスクス」
からかうように笑われて。昨日ミネラにも同じこと言われたから、思わず赤くなっていた。
「しょ、しょうがないじゃない、だってシンクの事だもん」
不貞腐れたように言うが、シンク皇子の事になると。ラシカは意固地になる。それも仕方ないのかな~。あの事件以来。シンク皇子の事になると。すぐ取り乱すから……、
「皇子様の連れてくる。女友達に同情するわ」
ラシカに聞こえない小声で、嘆息していた。
━━アレイク王国、西の職人通り。
小さな通りに。沢山の店が、ひしめきあい。活気ある。気っ風の良い声が、聞こえている。そんな通りで、長年小間物屋を営む。オリバー・シタイルは、白くなり始めた髪を。丹念に後ろに撫で付け、くすんだ色の前掛けをしている。この前掛けは、特別にあしらえた物で、研磨用のなめし革が、前掛けの端に使われており、今も金属破片を磨いたり。銀等のくすみをとったり。そうした簡単な。磨き作業に使えるから。店を開店するときから。身に付ける習慣があった。
オリバーは、元盗賊で、腕利きトレジャハンターをしていた。温厚な風貌。優しい語り口。堅実な人柄から。近所でも大陸有数の職人として、名を知られていた。まるで正反対なシンクの祖父リブラと。孤児院以来の悪友であり、祖母ララとは、幼なじみであった。
まだ若かった三人は、冒険と称して。古い炭鉱。怪しい遺跡を巡る生活を数年した。
懐かしげに、目を細め。先日リブラから譲り受けた、土竜笛を磨き、あの日を思い出す━━。
━━あれは……リブラが、正式な土竜騎士になった年のこと。
ターミナルの近くの村が、突然モンスタービートに、襲われた。当時まだ予測不可能な自然現象で。襲われた村は、草木も残らないと言われる。危険な現象に遭遇したのが、たまたま夫を見送りに出た。新婚のララと、見送りに出たオリバー達三人は、決死の想いで、モンスターの群れを退治した。助けられた村人の通報により。リブラ達の行為が正しく知らされ。国王自ら出向き。リブラを褒賞した。
……改めて、アレイク国王の名で、リブラには、受勲を与えると宣言され。大いに話題となった。
━━それは快挙だったからだ。当時のリブラは、新任の土竜騎士になったばかり、土竜ギルドの歴史を紐解いても。土竜騎士を国が初めて。受勲を与えたのだ。今でこそ珍しいことでは無いが……、
当時としては、快挙であった。
「お父さんおはよう♪」
「リナおはよう。今日は、一人で起きれたかな?」優しい柔和な目をさらに細めて、愛しく愛娘を見ると。照れくさそうにモジモジ。
「サノビアさんに。起こしてもらちゃつた」
恥ずかしそうに答えた。素直に答えた娘の頭を撫でると、くすぐったそうに笑っていた。
リナの言うサノビアと言う女性は、夏シンクを通じて、中央大陸で出会った。翼人の女性で、我が家に住み込みで働いてもらっている、もう家族と呼んで差し支えないだろう……、リナはすっかり。サノビアさんになつき。またサノビアさんもまるで、実の妹のように可愛がるから、近所でも仲睦まじいと評判である。
「そうか、今日はサノビアさんと、バザーの手伝いに行くのかい?」
「うん!、シン兄が冬休みいないから。みんな寂しがってるけど、タイチと頑張って売るんだよ」
元気に答えた。
「そうか……、シンクは今頃。ターミナルに着いた頃かな……」
まるで自分の本当の息子のように思ってた。オーラルの実子。彼が来てから。我が家はますます明るくなった。しみじみ思う。今やリナは実の兄のようにシンクを慕っているし。シンクはシンクで、実の妹に対するように可愛がっていた。二人がいると本当に微笑ましいのだが……、しばらく留守にするだけで、我が家の火が消えたように寂しく感じていた。
━━ターミナルの街。今朝から、沢山の住人が、街の入り口に集まっていて、上の下への大騒ぎである。
その原因は、普段地下に住む。土竜関係者まで、シンク皇子が、街にやってくると噂を聞いて、皇子の姿を。一目見ようと。集まって来たのだ。
ターミナルに住まう人々は━━、
今か今かとソワソワしながら。英雄の凱旋を待ちわびていた。
彼はターミナルの未来と夢を叶えてくれた。大恩ある英雄王の実子であり。自身もまた若き英雄と。呼ぶに相応しい少年である。彼がアレイク王国の学園に通うようになってから、ターミナルの住人は、街に訪れないかと……、密かに願っていた。そんな矢先のこと。土竜ギルドからシンク皇子が、冬休み土竜馬車を使うと、噂が流れ、あれよあれよと広まって、今日の住人総出ではないか?、そう思わせる沢山の出迎え。ただただ唖然と驚いていた。
「シンク様~お帰りなさい♪」
人垣を縫うように。ピョンピョン跳ねながら。乗り合い馬車にやって来たのは、ターミナルで、一番人気の宿と有名な。可愛しいお目めをキラキラさせ働く。トリトン族がわらわら集まって来たから。人々はあの少年が、本物のシンク皇子様だと気が付いて。大歓声を上げた。訳は分からないが、何となくニッコリ微笑み。シンクは歓待を受け入れていた。
突然の事なのに。笑顔で応える気さくな一面に。人々はいたく感激したと言う。━━他国では考えられないが、自国では時折。こうして民と直接ふれあうのを望む。父オーラルの影響で、シンクも直に。人々とふれあう大切さを。身を持って知っていた。それだけなのだが……、人々からしたら。突然の歓待を皇子様は……、度量の深さで受け入れてくれたと。深く感激したのだ。
「シンク様!、先日は、子共達が、大変お世話になりました」
見るからに威厳ありそうな。トリトン族がやってくると、他のトリトン族が場所を譲る。族長のカメベーさんだろうか?。
「いえその節は、ありがとうございました。皆はご健勝ですか?」
「はい!、うちの子達が、この度ご一緒させていただけるとオーラル様に伺い、大変感謝致します」
ピョンピョン跳ねながら。頭を下げる様は、ターミナルの名物となりつつある。
「いえ此方こそ。よろしくお願いします」シンクの後ろで、一度見慣れてるクルミもトリトン族。さらにターミナルの住人が、こんなに沢山集まってたから、驚きを隠せなかったが……、それ以上に。目を真ん丸くして、トリトン族に見入ってたのが、ローザ・リナイゼフ、友人のクルミに誘われ。ただ場違いじゃないかな?と。朝から不安だったのだが、『特別教室』の生徒に選ばれ。朝練を通じて、気さくなシンクの性格を理解していたし。またリナイゼフ家の剣豪の技。全て使っても。敵わないと初めて思えた男に出会い。ローザの意識が変わったのは、言うまでもない。
またローザから見て、シンクは、非常にマメな男で、そこも好感が持てた。
「二人共。カメベーさんが知らせてくれたんですが、出迎えの到着は明日の朝だそうで。先程土竜ギルドから、連絡があったそうです。それで━━今夜は、カメベーさんの宿に一泊します。もしも二人が疲れて無かったら。荷物置いて、三人で、街を見に行きませんか?」
柔らかく。それでいて、二人を優しく誘う気遣い。街の中を見て回りたいと考えてた、ローザは嬉しいが……、
こんなに沢山の人がいて、大丈夫なのだろうか……?。不安を覚えた。そこら辺は、民も理解していた。ただターミナルの住人は、一目シンク皇子を見て、感謝を伝えたかっただけなのである。そんな空気を、何となく察していた。だからシンクは心配をしていなかった。
程なく━━。
騒ぎを聞きつけた。今季より。ターミナルに在住している。ガイロン重騎士団と、フローゼの私兵団が、警護に当たったので。騒ぎは直ぐに御開きとなった。
フローゼの私兵団長ユウト・アルピスは、夏休みにフローゼの町に来た。二人のことよく覚えていた。隣の女性は、部下達を手玉にとったあのローザで、すると……、
「ユウト団長!、騒ぎは収まりました。あちらさんが……、シンク皇子様の護衛はどうするか……、話し合いをとのことです」
「うむ。まあシンク皇子が、噂通りの方ならば、必要ないと思うがな……」
微苦笑滲ませるが、素早く頭を切り替えた。仮にも相手は王族だと……、複雑な胸中だが、自分に言い聞かせ。仕事に戻ることにした。
「どうしたのローザ?」
「クルミ。あの人は確か……」
気まずそうな顔で、一人の中年男性を見ていた。
「ああ、あの人はフローゼの私兵団長ユウトさんだったわね」
二人のひそひそ話を聞き、シンクは目を細めた。
「あれが……」
小さく口元を引き締めて、目を細め笑みを向けた。
間もなくシンク達の元に。ガイロン重騎士二名が、ターミナルに滞在する間の護衛に付く事が告げられた。だから二人には、宿はトリトン族の申し出を受け入れて。トリトン族が営む宿で、今日一泊することを知らせた。
シンクとローザは、トリトン族の宿に来たのが……、今回初めてだったが、クルミは夏休み。一度お邪魔していて。楽しい時間を過ごしたと説明。
「この間は。生まれたばかりの赤ちゃんがいたの♪」
「へえ~それはぜひ。私も見たいな!」ローザと早速会いに行ったら。早くも甲羅を使って、クルクル遊びを覚えていたと。二人は楽し気に笑った。
「シンク様~」
「シンク様!」
二匹のトリトン族のまだ子供だろう。小柄な二匹は、ピョンピョン跳ねながら。シンクに抱き付いて来て、しがみついた。驚いたシンクだが、優しく受け止め。
「もしかして君達は?」
「はいカメローです」
「うん~カメザだよ~」
二匹の顔に見覚えがあった。
「そうか!、もしかして……、コンテスタの時の?」
『そうです~』
二匹は、シンクの腕から飛び降り。交互にピョンピョン跳ねながらニッコリ。
「私達を選んでくれて、ありがとうです♪」
「きっとシンク様のお役に経ちますね~」
キョトンとしたが、父から言われていたこと思い出した。トリトン族を召喚した。意味と契約について……、
「では君達が、僕の冬休みに同行してくれるんだね?」
『は~い♪』
二匹は、背中の甲羅を器用に使い。クルクルって回転。円らな瞳をキラキラさせながら。元気に返事をしていた。
━━トリトン族の掟。
トリトン族は元々。海に住む。亜人だった。地下迷宮の住人となり数百年━━。人間と交流を持つようになった、
━━大変だが、毎日が新鮮で、好奇心旺盛な種族だったトリトン族は、東大陸側の中継の町で、宿屋を始めた。
だが数年と経たず。異変が起こった……、トリトン族は、雌雄同体と言う変わった種族であり。生涯ただ一人のパートナーを選ぶ。パートナー同士は、どちから雌雄になって、二匹の玉子を産み。育てるのだが……、自分の意思で、雌雄を変えられず。また突然雌雄が変わることもあり。トリトン族は、僅かな繁殖時期になると。その期間の間。雌雄の固定をしなくては、繁殖が出来なかった……、
当初は、塩で誤魔化していたのだが……、今から15年以上前から少しずつ……、トリトン族は。絶滅の危機にあった……。
失意の底にいたトリトン族を救ったのは、なんと人間だった。彼は今や英雄王と呼ばれる。特別な人間で、また自分達と交流深い。土竜騎士であった……、トリトン族は決めた。自分達を救いし。かのハウチューデン家の血を受け継ぎし人間に。一族が死滅するまで、支えると誓ったのだ。
そんなある日のこと……、ハウチューデン家のシンク様が、我が、一族の子供と契約を結ばれた。これは素晴らしいことだ!。
一族の存亡を救った。オーラル様のこと。聞いて育った二匹は、格別な思いを抱いた。きっとシンク様のお役にたって見せる!。二匹の子供達は、密かに思っていた。また二匹の親達も、大恩を返せると喜んでくれて。素直に二匹は嬉しかったのだ。
……以前クルミは、フィアから聞いた。トリトン族は、義理堅い種族だと。それを深く知るのは、まだ先の話である。
三人は、カメロー、カメザの案内と、二人のガイロン重騎士の護衛を連れて。ターミナル交易の街を見て回り。そして沢山のお土産を買って、夕方━━宿屋に戻る頃には、街の住人も落ち着きを取り戻し。何時もの日常になっていた。
それは、シンクの人柄も一因にあった……。シンク・ハウチューデンと言う。英雄王の少年が、街にいても。まるでそれが当たり前のように思わせる。不思議な安心感を与えたのだ。
「護衛ご苦労様。今日はもう出ないから、二人もゆっくり休んで」
にこやかに労を労われ。護衛の二人は恐縮する。明日のこと。簡単に打ち合わせして、その日はゆっくり休んだ。
━━翌朝。騒がしい物音と。護衛をしていた。二人の慌てる声で、シンクは目覚めた。
「あんた達邪魔よ!。私たちの王子様に会うのに、何で断りいれなきゃならない?」
ムッとした聞き覚えある声音で。ハッした。慌てて扉を開けて、廊下に出ると。向かえの部屋に泊まった二人が、眠そうに目を擦りながら。顔を出していた。
「おはようクルミ。ローザ」
「おはようシンク。朝から騒がしいわね~」
「おっ、おはよう」自分の格好が可笑しくないか、慌てて見るローザとは違い。朝はおっとりなクルミは、コックリコックリ船を漕いでいた。
「多分、僕の出迎えだよ。見てくる」
二人に断りを入れて。下の居酒屋兼食堂に降りてくと。やっぱり旅装のままだが、二人がいると目立つ。日の光を浴びると。赤く燃えるような赤髪のラシカと。ミネラは遠目からも目鼻立ちがしっかりしてるから分かる。あの普段冷静なミネラ、ラシカには珍しく。二人の顔に険しい色を浮かべ。護衛の二人を睨み付けていた。
「ラシカ姉、ミネラさん。おはようございます。随分早いですね」
何やら……、不穏なムードが漂い始めたので、幕ひきのため。声を掛けた。すると……、劇的に変化したのが、二人の女性で、見るからに安堵した顔をするから。護衛二人は、顔を見合わせる。
「二人は、僕の姉ラシカと竜騎士の師匠ミネラさんです。安心して、通して構いません」
そうシンク皇子に言われ。二人を渋々通した。するとラシカとミネラが護衛に、ザマ~見ろと上から目線をしたから、苦笑しながら。ラシカ姉とミネラさんに釘を刺した。
「ラシカ姉。ミネラさん。彼等は忠実に。仕事をしてたんですよ。無理を言ってはだめです」
「うっ……、わっ、わかってるよ」
ばつが悪そうに。顔を赤らめていた。ラシカらしくない失態、ミネラらしくない対応で、今更ながら気付いた。土竜ギルドから知らせてもらえば……、こんな苦労しなくて済んだのだ。二人は、大事な皇子様に。一刻も早く会いたくて、騒ぎを起こした。それは誉められたことでは無いが、自分を思ってのこと。嬉しいに決まっていた。
「わっ、悪かったな、私はラシカ、シンク王子の護衛を長年勤めていたから……」
国を守る仕事に在るもの。また大切な者を守る仕事にいたからこそ。国は違えどお互いのこと。僅かなやり取りで理解していた。ラシカもミネラも素直に頭を下げた。女性二人に下手に出られては、いつまでも矛を出してはいられない。
「いえ……、此方もわかってはいました、が……仮に一国の王族を護衛しており。厳しく対応し。申し訳ありません」素直に頭を下げる若い騎士を。意外そうに見てた。だが自分の仕事を。真面目に取り組む人間を。ラシカ、ミネラは嫌いにはならない。お互い様だと水に流せた。
「ラシカ姉。もしかして……、地下迷宮から直接上がって来たばかりじゃないの?。ドレアノの世話は」
相次いで質問する。シンクの聞いた。ドレアノと言うのは、ラシカの相棒の土竜で、右前足と右の目の周りだけ白い。ぶち柄と呼ばれるハイブリッドの珍しい土竜で、見た目がキュートだから。女性土竜騎士に。人気の土竜である。
「ああ~大丈夫、大丈夫、うちの爺の奴が、朝から駅舎で待ってて。私には何も言わず。とっととドレアノ連れていったよ~。今頃は爺が、世話してるはずさ」豊かな胸をプルルンって張り、ニヤニヤ笑みを張り付けた。
「確かオリベさんは……」
ドレアノを大変可愛がってたと聞いていた。それで孫のラシカよりも……、なるほどと苦笑したら。
「ああ~こいつ!、今の顔は、何の意味かな~シンク?」
プ~っと頬を膨らませ。不満を露にした。
「ねっ姉さん、そんな深い意味は無いから」
慌てて。言い繕うシンクの様子に。護衛してた。二人の若い騎士は、笑いを堪えたが、ミネラなど遠慮なく吹き出していた。
「ちょ、ミネラ。そこは笑わない!」
自分だって、鼻をピクピクさせ。笑いを我慢してるくせに。無茶を言うんだから。半分呆れを通り越して、ラシカらしいと益々笑いを深めたミネラだった。すっかり和やかなムードになったから、心配して、こっそり見に来たローザは安堵した。
「彼女達は、シンク殿の知り合いのようだな……」
傍らのクルミに言えば、急にそわそわし出したから。訝しげにそちらを見れば、緊張した面立ちをしていたので、深く考えず。訝しげに首を傾げた。
今まで……、ローザに恋愛とは、無縁の話だと。勝手に思い込んでいた。だが最近は違う。シンクやミルと言う。尊敬出来る男も居るのだと、思えるようになって。少しずつ意識が変わった。
今なら少し……、クルミ、またライバルのレイラ、ヒナエ、フレイミ彼女達の恋の鞘当ては、何時しかローザの頑なな、こうあるべきだと言う。固定観念を覆し。理解出来た。今は恋愛に対して、強い憧れを抱くようにもなっていた。例えばシンク皇子が……、
何て考え。慌ててそれは、駄目だと頭を振った。でも……、本当に駄目なのだろうか?、ローザを慕うアオイは言ってくれた。
『ローザさんの魅力なら。シンク皇子だって落とせますよ!』
衝撃的だった。そんなこと……、そう思い一蹴しようとしたが、出来ない自分に気がついて……、戸惑っていた。
ローザには、年の離れた姉がいる。姉も南大陸を離れ。ローザとは違い。遠縁を頼り。移動国クラウベリアで暮らしていた。ローザも来ないかと。誘われたが、リナイゼフの御家再興のため。アレイ学園で学ぶ道を選んだのだ。自分では御家再興は悲願だと思い込み。盲信していた。夏休みにしでかした事件で。自分の甘さ、愚かさに気付き、敢えなく粉砕した……。
だが……あれから自分は変わった実感がある。ライバル視していたレイラは、自分よりはるかな高みに登るために。壮大な夢をローザに語ってくれた。それを聞いた時から。いや……彼女達と出会った瞬間から……。変わり始めたのだろう。目も眩む輝きを持った。才能豊かな彼女達は……、シンクに恋していた。
夏休み明けから、レイラに誘われ。朝練に参加した。そして産まれて初めて味合う。不思議な高揚感。自分の才能を高めてくれる。ライバル達がいる幸せ。自分も。強くまた変わろうと思える充実。ローザに今までなかった感覚は少しずつ。自分の技を試行錯誤し。またそれを実践で試して、皆と楽しむ自分がいたのに驚いた。まだ自信はないが……、願わくば、シンクの側で、自分を磨きたいと。密かに思うようになっていた。
「クルミ、ローザさん」
シンクが二人を手招きして、改めてラシカ、ミネラに紹介する。
「僕の姉ラシカと、竜騎士の師で、ミネラさん」
二人が降りてきた所で紹介する。
「お姉さん……」
ビックリする護衛とクルミ達に、ラシカは、慌ててパタパタ手を振りながら。
「実の姉じゃないわよ。ただシンクを育てたってだけさ」
「クスクス素直じゃないんだから、本当はオーラル陛下。リーラ様にも打診されたんでしょ?。正式に陛下の養女にならないかってさ」
「うっ……何故それを」
動揺しまくる。ラシカの脇を。肘でつつきながら、小声で囁く。
「シンク、そちらで不安そうな顔のお二人を。紹介してくれるかしら?」
シンクもミネラの話に驚き。ラシカを伺っていたため。二人の様子に気付くのが遅れた。
「あっはい、栗色の可愛らしい彼女は、クルミ・アルタイルさんで……」
クルミを紹介した途端。まともに顔色を変えた護衛の二人。しかしラシカ、ミネラは、父の仕事に同席することもあり。驚きはあったが、
「噂は、予々聞いてました。なるほどジンベイ陛下にお髪が、似ておられますね」
「よっ、よろしくお願いします」可愛らしい風貌のクルミは……、カーっと赤くなり。シンクの紹介を思わず。何度も口内でリフレインしてしまっていた。
「此方の魅力的な女性は、ローザ・リナイゼフさん」
「はっ、初めましてローザです」
今度は家名が琴線にかかり。眉を寄せ何か思い出すような顔をしたミネラは、
「リナイゼフ?、確か……。マサユキさんの遠縁に。レンカ・リナイゼフって、女性がいましたね?」
記憶を辿るように。眉根を寄せながら呟き。ローザを伺と。驚いたように。
「あっ、姉です!」ローザが答えたら。やっぱりと1人納得して、頷いていた。
「へえ~ローザさんって、マサユキさんの遠縁なんだ。さすが完全記憶能力ですね。ミネラさん凄いや!」シンクの飾らない賛辞に。何てことない。些末な才能を誉められて。何だか照れ臭くなり。赤くなっていた。
「完全記憶能力?」 聞いたことのない才能だと、クルミは首を傾げた。そこでフッとクルミを斜めから見下ろしてたラシカが、ハッとした。
「そうか!どおりで、クルミ様を見てると、懐かしい気持ちになるのか」
ポンと手を打ち合わせ。妙に納得してるから、皆の視線が集まる。
「シンク覚えてるだろ。あたしはさ~数年前。うちのロート右将を送って、ファレイナ公国に。半年ほど逗留してたことがあってさ……」
クルミが、アッって顔をして、目をパチクリして驚きの顔を浮かべた、そしてまじまじラシカを見上げ、
「もしかして……、土竜騎士のお姉ちゃん?」
クルミが呟いた瞬間だった。パッと喜びを露に。クルミを抱き締めていた。
「ええ~と、ラシカ姉……、クルミと知り合いだったとか?」
にっかり照れ臭そうに笑いながら。
「その当時。ジンベイ陛下が、良くターミナルに女の子を連れられて来てさ~、何度かね~。ねっ!」
懐かしそうに、クルミも目を細めながら、ハッとして、
「もしかして、プチプチも一緒ですか!!」
「ああ~、今回の旅は、わたしのドレアノで行くからね」
「そうですか!」
急に目をキラキラさせ、懐かしい昔話を始めた二人に、ミネラは半分呆れながら。
「良かったわねシン。お姑さんが認めてくれて」クスクスからかうように。小声で言われて、ちらりラシカを伺い。
「……そうですね~」
微妙な、ほろ苦い顔をしたシンク。その頬をつつきつつ。愉しげにミネラは笑っていた。
━━━ターミナルの地下街は、上の交易の街とは違う。独特な空気を纏う。不思議な感覚に。クルミ、ローザは、大洞窟の前に広がる。巨大な駅舎。沢山の土竜馬車が、準備されてく様子を、息をするのも忘れて、見入っていた。
「ローザさん、土竜見るの初めてだよね?」
ラシカに声を掛けられ。嬉しそうに。
「はっはい!、国を出たときは、船で来たので……」
顔をキラキラ輝かせ。楽しそうに円らな瞳の土竜達に。恐々触れたり、荷下ろしの現場を楽しげに見ていた。
「5大陸にある。ターミナルの中でも。東と南のターミナルは、すっごく発展してるからね~。あたしも久しぶりに見るよ~」
頬を緩ませるラシカを。何人かが気付き、顔を強張らせ。顔色を変えて。逃げて行った男達がいて。ミネラ、シンクは気付いたが、問うことはせずに見なかったことにした。
「良かったらだけどさ~。二人は子供の土竜と。ふれあいとかしてみるかい?」
「えっ?、そんなこと出来るんですか」真っ先に食い付いたのがローザだった。クルミもパッと顔を輝かせ頷いていた。そんな可愛いらしい二人の素の顔が見れて、ラシカはとても嬉しそうで。豊かな胸を張り。たゆんって胸を叩き、
「大丈夫任せときな!」
気安く請け合っていた。
一行は、ラシカの実家である。駅舎から、オリベファームがある。大洞窟の東側。広大な敷地に。沢山の土竜を育成、訓練を請け負う。東ターミナル最大のファームにやって来た。柵の中は、それぞれ訓練度合いにより。5匹~7匹毎に区枠された子土竜達に。順番に調教。世話をする訳だが、シンク達が連れて来られたのは、見習いが土竜の世話を習う。実地訓練の真っ只中だったらしい。突然の怒号。
「そこ!。もっと考えてやらんか」
叱りつける声に。首を竦めた生徒達。
「お前は、何回言えば分かる!」
叱られ。怒鳴られ。女の子の見習いは、べそをかきながら。今にも泣き出してしまうのでは?。そう思っていた時だ。
「ジジイ!、シンク達を連れてきたわよ」
グルリ敷地を囲む柵越しに、突然声を張り上げ、ラシカは睨むように。見習い達を怒鳴った。ずんぐりむっくりした老人を。一瞥した。一瞬ドワーフかと怪訝に思ったのだが……。どうも違ったようだ。
「ちっ、ようやく来やがったかラシカめ!」
盛大に舌打ちが聞こえ。ラシカに負けないがなり声を張り上げたから。周囲にいた見習い達が、自分が怒鳴られたと首を竦めた。
「フン……」
見習い達を睨み付け。すたすたこちらにやって来たから、ようやく老人の表情が見えてきた。
いかにも気難しい顔に、額にはミミズを飼ってるかのごとく、ムッスリ皺をよせ。苦い顔をしていた老人が、ラシカの祖父オリベ・ゲンジ老らしいが……、柵越しに。孫娘とシンクを見比べ。何か思案するように。ジッとシンクを見てたかと思ったら。
「坊主!、ぼーっと見てないで、手伝え」
なんていきなりシンクをねめつけ。命じるのだ。慌てたのはラシカで、ミネラは愉しげにニンマリ笑っていた。
「はい!」
にこやかに笑い。リックをラシカに渡して、手早く準備して、ラシカが何か言う間を与えず。柵を身軽に飛び越え。老人の隣に降り立ち、
「お前が、土竜の子供の世話をやって、見せろ」
なんて無茶を言われて、ラシカには珍しいことに。おろおろし出したから、安心させるよう肩に手を置いて、
「もう少し。様子を見てましょ」
「だっ、だけど……」
どうしてもシンクに対しては、過保護なところがある。それは仕方ないのだけど……。ラシカにはそろそろ子離れが、必要だろう。小さく苦笑していた。
━━見たことない少年シンクを連れて戻った老人に。皆不安そうな顔をしていた。シンクは、見習い達と、苦虫を噛み締めてる老人を見比べ。さらに注意深く。半べそかいてる見習いの手元を見て、ある程度推測を立てた。どうやら……、土竜の爪の手入れをしていたようだ。
なるほど……、周りの見習いは、土竜騎士の訓練生か、調教助手になるための勉強会。そんなところか、
「君、僕が代わるよ」
いきなり声を掛けられて、半べそかいてた見習いは驚き。老人を見たら頷かれたので。爪の手入れセットをシンクに渡した。迷ってたが場所も代わってくれた。子土竜達は、遠巻きにしてたのだが、
「キュイ?」
人懐っこい一匹が、興味深そうにシンクを見てきた。だから子土竜を。まっすぐ見つめ。ニッコリ優しい笑みを浮かべ。
「君、おいで」
優しい声音を出して、子土竜に呼び掛けた瞬間。
「キュイ♪」
もう一匹まで返事したかと思えば、シンクの前に。チョコンと二匹が大人しく従ったの見て。見習い騎士達が、驚きの声を上げた。
「右の君。爪の手入れするからね」
優しく声を掛けると、嬉しそうに鳴いて返事をした。まるでシンクの言葉を理解してるようで。クルミ、ローザが目を丸くした。だからラシカの脇をつつき。二人に説明をするよう促すと。渋い顔をしたが、しょうがないかと溜め息を吐きながら。
「二人は……、多分土竜のことあまり知らないよね~、簡単に教えるけどさ……、土竜は、子供の頃から。人間の言ってること。ある程度理解していてね。また子供だからか、自分のこと。優しく世話してくれるかを。声音で判断しているのさ。シンクが優しく語り掛けてくれたから。二匹がシンクに興味を持ったんだよ」仕方なさそうな顔はするが、土竜の扱いは、ラシカにとって身体の一部である。素直に耳を傾ける人に話すのは、少し楽しい。声が大きいから、得てせず見習い達にも聞こえ。成る程と。頷いていた。
「今日ね~、柵のところにいるみんなと。地下迷宮に降りて、旅をするんだよ」
「キュイ?」
「北大陸って知ってる?」
円らな瞳の子土竜は、首を傾げた。
「クスクスとっても遠い道のりを。大人の土竜は、迷わず走るんだって、君達も迷わず走れるんだってね?」
「キュイ~、キュイ~!」
まるでそうだよ凄いでしょ。とでも言うように。胸を張った。
「あっ、あの~少し質問いいかな?」見習いの1人が、興味深そうな顔をして、シンクに声を掛けた。
「はい、何ですか?」
年齢は、見習い達と変わらないシンクが、やたら土竜の扱いに慣れてる様子から、見習い達は、ジジイに聞くより聞きやすい……。
「あっ……、ジジイの奴まさか……」
ラシカだから気付いた。見習い達は、さっきまで不安そうだったのに……。シンクが来てから。すっかり落ち着きを取り戻していた。また同年代の気安さもあったか、シンクに色々質問するようになったの見て、
何でいきなり。シンクに土竜の世話なんてさせたのかと思ったが、見習い達はシンクの優しい対応に。嬉しそうに何度も頷いていた。
「あのさっきから、君が世話をしてるとき、まるで土竜と会話してるように見えたんだけどさあ……」
また違う見習いが質問すれば、
「そうですよ~。君も土竜が人間の言葉を理解してるのは、知ってるよね?」
「ええ~先輩や、お母さんがそう言うから……」
いまいち実感してないようだ。
「この子達。土竜は、子供の時から、ある程度人間の言葉を理解してる。だけど子供だから人間の声音で、どんな人間かを判断するそうです。だから人間の子供に。話しをしてるように。優しく語りかけ世話をしてあげると、子供の土竜は、安心する。君達も経験ないかな?」
逆に質問を受けて、アッて顔をした見習いがいて。他の見習い達もそれぞれ経験談を話す。普段ならオリベ老が、『そんなことも知らないのか!』怒鳴られる所だが、わざと自分たちで話させ。見習い達は納得したように小さく頷きあう。
「わっ私に。やらせて貰えるかな?」
もう一匹に声を掛けると。
「キュイ~♪」
女性の見習いの前に。チョコンと座り、子土竜は、爪を出していた。それを見て、見習い達は、早速真似を始める。子供を相手するように。優しく語りかけると。子土竜は応えた。それが嬉しかったのか、見習い達の強張った顔に。愉しげな笑みを浮かべて、土竜の世話を始めた。
「これありがとう。続きは、君がやってあげて」「わっ、わかった」シンクの隣にいた。手入れセットを借りた少年に、バトンタッチして、
「あっあのさ、俺がお前の爪。手入れするからな」
少し緊張してるようだが、子土竜は可愛らしく返事をしてくれて、少年は見るからに安堵していた。
「チッ……、彼奴の子供だけある。教えるのが上手い」
仏頂面の老人は、精一杯の賛辞を送る。
「はい!。ありがとうございます。残念ながら。土竜には選ばれませんでしたが、父の暴君Jr.、娘のレビーの世話は、やってましたから」
成る程なと、一つ頷き。ごほんごほん、わざとらしく空咳をして。非常に言いにくそうな顔で、
「その……なんだ、彼奴は……」直ぐにぴーんと来た。
「ラシカ姉は、僕にとって、大切な姉ですよオリベお爺ちゃん」
一瞬虚を突かれ。泣きそうな顔をしたオリベ老だが、
「そうか……」
嬉しそうな。安堵の言葉を押し出した。なんだかんだ言うが、孫娘のラシカのこと。心配してたのが分かる。
「……お前は、オーラルに似て、吉備にさといな……、彼奴のこと……、信じてくれたお前たち家族に。感謝している……」
不器用に。それだけ告げると。ラシカをちらり見て、見習い達の様子を満足気に。少しだけ相貌を崩した。
「たく。爺は……」
嫌そうにラシカは呟いたが、ミネラが見たところ。シンクが祖父の狙いをあっさり見抜き。手伝ってくれたことが、嬉しくて堪らないと。声音に滲んでいた……、似た者同士な祖父と孫娘である。ミネラはクスリ小さく微笑んでいた。
━━ラシカの案内でファームを見て回り、今年生まれたばかりの子土竜と触れ合えて。終始御満悦のローザ、頬が緩みっぱなしのクルミは、トリトン族の同行者がいると聞いて、さらに手放しに喜んでいた。
「手続きするから。シンク。ミネラ荷物運んどいてね」
「は~いよ」
ミネラがお気楽に返事をすれば、仕方なさそうに。嘆息しながら、ラシカは土竜ギルドの駅舎に入って行った。
━━ラシカがギルドに渡航の書類を提出してる間。カメロー、カメザが。小さなリュック背負い。ぴょんぴょん跳ねながら合流。シンクに抱き付いて。
「シンク様~お待たせしたです~」
二匹がシンクに抱き付いて来たから。
「うん二匹ともよろしくね♪」
『は~い♪』
仲良くお返事をした。改めて土竜に向き直り。
「ドレアノ久しぶり、元気そうだね」
ぶち柄の土竜は、ふてぶてしく。
「キュ~イ♪」
と、ご挨拶。カメザがぴょんぴょんシンクの腕から。跳ね。
「お世話になります♪」
ペコリンコ頭を下げた。クルミに抱っこされたカメローも。
「よろしく~♪」
パタパタ手を振っていた。
━━荷物を運び込んで、土竜馬車に乗り込んだクルミ、ローザのために。土竜馬車の連結車両について説明をする。今回の旅。車両三両あって。最後の車両は、お風呂とトイレ。キッチン車両になっていた。ラシカが東大陸に来る途中。温泉の村に寄って、温泉を分けて貰ったと聞いた。真ん中二両目は、個室が4つあって、ミネラ、ラシカは二人で一部屋を交代で使う。シンク、クルミ、ローザはそれぞれ個室を使うように言われた。
「簡単な調理も。三両目で出来るけど……」
クルミ、ローザを伺う、
「二人とも。料理は得意だよラシカ姉。ミネラさん」
それを聞いて、二人は見るから。安堵していた。残念ながらラシカとミネラの二人は、料理が苦手である。
「その辺りは、三人に任せるわ♪」
「シンク様~。僕達も料理のお手伝いできます!」健気に二匹は、うんうん鼻息荒く言うから。ラシカも思わず。笑みを深めた。
「じゃ~、二人にも願いするね~カメロー、カメザ」
『はい!』
二匹は嬉しそうに返事した。
「さあ~て♪、行くわよドレアノ!」
ラシカは、右腕の赤い手甲を軽く撫で。命じた。
『キュ~イ!』
外から野太く。ふてぶてしい返事を返して、土竜馬車は緩やかに出発した。
━━地下迷宮を走る土竜馬車は、15年以上前まで、東と南大陸間を。つなぐだけだったため。二両程度で、地下迷宮を駆け巡っていた。しかし五大陸を結ぶ。広大な迷宮となって以来。ほとんどの土竜馬車は、三両編成になった。
それは、女性客が増えた為で。旅行客増加に伴い。馬車で生活する期間も長く。お風呂を常備したことで、快適な旅が可能となった。だが迷宮があまりにも広がったことは……、良いことばかりではなかった。
人間。土竜を嫌う種族との再び邂逅したのだ。そんな彼等と出会えば、必ず争いとなった……、
それは……今まで、モンスターに注意してれば良いと。まるで意味が違い。土竜でも通れぬ。危険な地域が存在していた。
最近では……、地域別に中立地帯を設け。そうした種族と和平を結んでいた。
右前足と右の目の回りだけがぶち柄と、可愛らしい風貌のドレアノは、一気にスピードに乗ると、大洞窟の中に。下って行った。
━━見る見る。流れる。窓の外は、凄まじい勢いで、景色が変わって行く。
土竜馬車の先頭車両は、前面が、コの字になっていて、すっぽり土竜の上と左右の一部、特に後ろ足を。守るような造りになっていた。それは希に。地中から、体温を感じる肉食の地中虫が、飛び出して、襲い掛かって来ることがあり。土竜に怪我をさせない工夫である。またシンク達の乗ってる車両は、中央大陸独自に工夫された。振動をほとんど感じさせないよう。車輪に樹脂で作られた新素材。ゴムが使われていて。長時間乗っても疲労が少ない。また車両の軽量。強化等。暴君Jr.用に造られた、特別車両のプロトタイプを。ラシカに与えられ。ドレアノ用に改装して貰った。一級品の特別車両である。
「間もなく大洞窟から、地下迷宮の入り口だわ。鍾乳洞に出たら。ドレアノわかってるわね?」
『キュ~イ♪』
騎士と契約を結んだ。土竜とは、手甲を通じて、簡単な意思の疎通が出来た。
だから豊かな胸を張って、負けん気の強い顔に、悪戯ぽい目をしたラシカは、クルミ、ローザ、何よりシンクを、意味ありげに見て笑っていた。
━━ドレアノは、地下迷宮と街に繋がる。大洞窟の出口近くで、ゆっくり止まる。
何故ドレアノを止めたのか、シンクは目をしばたき、実の姉のように慕う。ラシカを見る。
「あんたは、見るの初めてね。あたしは、うちの爺からの受け売りなんだけどさ。オーラル様が、土竜騎士の悲願を達成してくれたって話は、知ってるかい?」
こんなときに父の話が出て、驚きはあるが……、ラシカがわざわざ今話す理由があると感じて、素直に首を振った。
「さ~てみんな。私たちのいる場所を見に行こうか♪」
ラシカに促され。みんなを見張り台のある。先頭車両の二階部分に上がらせて。洞窟を見上げ、誰もが絶句する。
「うわ~……、こっこれは……」
「どうだい~美しいだろ?」
驚き、感嘆に吐息を吐いた一同に。満足そうに笑い。まるで自分の手柄のように。手を広げ。鍾乳洞になってる。光を含む幻想的な美しさをみんなで堪能した。
「この辺りは……、もしかして?」鍾乳洞の明かりが、魔法によるものだと気付いた。
「ああ~そうさ。地下迷宮に。初めて足を踏み入れる者には、必ず。この場所を見せるんだよ。あのオーラル様も。私達の悲願を叶えてくれた時。当時姫様だった。ミレーヌ様に、同じ光景を見せたんだ……」
ラシカはゆっくり語り出す。建国王バレンシア王と。土竜騎士達の始まりの交流と、そして……。初代国王クラウベリア様と、一介の土竜騎士の約束について……、
初代国王クラウベリアは、一度だけ。地下迷宮から。土竜馬車を使って、南大陸に渡った事があった。残念ながら病に倒れ。帰りは船旅となったが……、クラウベリアは最後の時。再び土竜馬車に乗れなかったこと悔やみ。崩御なされた。
土竜ギルド。アレイク王家との関係は、それからも良好だったが……、土竜騎士になった者には、ある夢を持った━━。
再び。アレイク王家の方を。土竜馬車で。無事……目的の地に送り届けたい。それには理由があった。クラウベリア王と。一介の土竜騎士は密かに友情を育み。死ぬ間際。クラウベラアは友人である土竜騎士に宛て、
『再び、地下迷宮を旅したかった……』
そう書き残していた。それからだ一介の土竜騎士は、奮起して晩年……。ギルドマスターとなり。新たに土竜騎士となった。若者に口伝として伝えていた。
「そんな土竜騎士の長年の夢を。オーラル様が叶えてくれたのさ」
僅か数分で語られた物語だが、そんな想いが……、ミレーヌ姫様が、当時ファレイナ公国訪問の裏にあったのかと、素直に驚いていた。
「ラシカ姉!、貴重なお話。ありがとうございました」
柔らかく笑い。ラシカの気持ちを察して、素直に口に出来るシンク。ラシカは照れくさそうに笑いながら。
「ありがとう……、お前ならそう言ってくれると思ったよ」
ラシカらしくない反応に。ミネラとシンクは、訝しげに首を傾げた。いつものラシカなら。豪快に笑い。シンクの背を叩いて。チクりと一言言って、照れくさそうに笑うのだが……、
さて……この時。ラシカが、ある決意を決めたのだが……、それが分かるのは、もう少し先の話である。
旅を。再開したシンク達一行は、まず中央大陸にある。中継の街を目指し、そこから北上して。北大陸到着は、9日後予定である。
━━東側の中継の街に。到着したのが、ターミナルの街を出た翌日の昼。トリトン族が経営する。地下迷宮宿屋1号店で泊まり。翌日出発した。
━━シンクは知らなかったが、トリトン族の宿屋は、中継の街全てにあると聞いて、
「そうだったんだ……」
「そうなんです~。オーラル様が、土竜ギルドに働きかけてくれて。みんな大喜びでした♪」
カメローが、クルミの膝に座らされ。可愛らしく言えば、カメザは、トテトテシンクの膝に乗っかって。頭を撫でて貰うと。嬉しそうにニッコリ笑っていた。ローザも何だかんだカメローとカメザを構い。楽しそうだし。またカメローは話好きで、客商売の現場に出てるとかで、常連の商人から、様々な話を聞いていたから。みんなの知らない噂なんかも詳しいし。カメザは調理担当だったらしく。クルミ、ローザ、シンクのお手伝いを、進んでてきぱき何でもこなせるが、甘えん坊で、特にシンクに頭を撫でて貰うと。安心するのかニコニコしていた。旅の同行者として、トリトン族は、みんなの気持ちを和ませてくれる。マスコットのようだとみんな喜んだ。
東側の中継の街から。中央大陸の真下にある。中継の街に着いたのが、それから5日後のこと。足りなくなった分の食材、水の補給と。保存食の買い出しをシンク、ローザが担当することになった。
中央側の中継の町に。降りた事がなかったシンクは、見るもの全てが、新鮮で。つい興味深くキョロキョロ。無論初めて訪れたローザも楽しそうに、頬を弛ませていた。理由はそれだけではいのだが……。東大陸でもわりと珍しいドワーフ、コボルトが、普通に通りを歩いて、ゴブリン、リザードマン等湿地にいるはずの亜人の姿まであった。この町に住む人々にとって、それが日常なのだろう……、見たことない亜人同士が、普通に語らい。談笑してる姿に。シンクは衝撃を覚えた。
「この通りは、保存食を扱ってるようだね」
「ええ、それにしてもここは地上と逆ね」
「確かに。でも新鮮で楽しいよ」
人間が珍しいのか、チラチラ見られたが、悪い意味ではなく。好意的な視線が多く。この辺りは比較的安全と安堵した。
早速二人は、沢山の露店で賑わってる。市場のような造りの商店街を見て回ていると。
「おや?、人間の旅人とは、珍しいな」
突然声が掛かる。だから声の主。出店の品に目を向けていのを。ハタリ店主の存在そのものにシンクは、驚きを隠せなかった。黒い鉱物の肌。岩肌のようなゴツゴツした皮膚とは違う、鍛えられた合金のような光沢。別名岩男。鉱物生命体と呼ばれる珍しい種族が、不思議な光沢ある。レアメタルの目を細めて笑っていた。シンクは改めて、店舗に置かれた品々を見て、呆れたように嘆息していた。興味持ったシンクは、ペンダントの一つを手にして、唸っていた。
「もしかして……エネミイ鉱ですか?」
試しに魔力を流しながらシンクが問えば。岩男は、驚きに目を見張り。嬉しそうに笑っていた。
「ほ~う。人間の少年。かなりの使い手だな~、お目が高い」
「エネミイ鉱?」
ローザが、興味深そうに。シンクの手にある。白銀に輝いたペンダントを見た。
「はい。これは魔法銀と特殊合金を組み合わせ。錬金術師か、エルフの鍜治師匠が、作り出せる。伝説の金属と言われています。確かローザのリナイゼフ家伝来の業も。その一つだと言われてるそうですね?」
ローザは驚いていた。まさかシンクが自分のこと。詳しく知ってた事が、表情を見て、言葉が足りないことに気付いて、
「レイラから。貴女のこと。少し聞いたんですよ」
と付け足さされ、考えたら……。今回の旅行のこと。レイラに言ってある。なるほど彼女には自分の話をしていた。シンクにある程度自分のこと、話していた可能性に今さら気付いた。
「おやおや人間のお嬢ちゃんは、リナイゼフの一族かい?」
意外そうな声音を出したのは岩男だった。二人が目を向けると。真っ直ぐ岩男はローザを見ていた。戸惑ったが、隠す話ではないから素直に。
「そうだが……」
岩男は、何やら懐かしそうに。目を細めながら、ローザを見詰め。望郷の念を抱かせるように。
「そうか……、あれから数百年経ったのだな、リナイゼフの一族が、私の鍜治場で、しばらく供に。暮らしていたのは……」
驚きの話をされ。ローザはいたく驚いた。
「何でも。将軍に献上する。一振りの刀を、鍛えるための技術を探し。地下迷宮に迷い込んだと言っていた……」
ハッと息をのんで、慌てたようにいい募る。
「もしや……、貴方は名鍛冶職人様ではありませんか?」
ゴクリ唾を飲み込み。やや呆然としながら問うと。
「ほほ~う。私の名前を知っているのかね?」岩男ガルダンは、楽しげに呟いていた。
「そんな……、まさか、初代リナイゼフ当主の師が、未だに生きていたとは……」
信じられないと頭を振るが、シンクは聞いたことがある。岩男に寿命は無いと……。彼等に死は存在しない。崩れ去るのみ。それが岩男だと言われていた。現在岩男は、僅か三体だけ。存在が確認されている。滅多に町に現れることもないから。とても珍しい存在であるのだ。
「人間の少年。君は博識だね。まるで赤の王の子息。ナタクに似ている」
「ナタク……まさか、あのナタクと……」
最早驚きすら生ぬるい。凄まじく衝撃を受けてるシンクに。ローザが怪訝な目を向けた。そんな目を見て、小さく苦笑しながら、簡単な説明が必要だと感じて、
「ローザは聞いたこと無いかな?、聖騎士ナタクの名を」
言われてあっ、口を手で隠しながら。思い出していた。
━━学園で教える歴史の授業で、学んだことがあった━━。
━━アレイク王国で。15年前に起こった。ある重大な事件のことを……、多大なる混乱と死をもたらせた。魔王の六将の1人であり。一国を滅ぼした人物でありながら、数多のモンスターから。東大陸を守った。狂勇併せ持つ武人の名を━━。
「ローザ、最近知ったのは、ナタクと僕は、遠縁にあたるそうです」
素直に答えられローザは戸惑い。岩男は成る程と頷いていた。
「なんと懐かしいのか、ありがとう少年よ。楽しい話が聞けたありがとうリナイゼフの少女よ。礼だ。そのペンダントはお嬢ちゃん。君にプレゼントするよ」
意外な申し出に。ローザは戸惑った、だからシンクは破格のプレゼントに。
「ローザさん良かったですね♪、エネミイ鉱のペンダントなら。抗魔力の護符となります」
にっこり笑みで言われて、そうだなと呟き。有り難く。頂く事にした。
「ガルダンさん。もしや僕の祖父リブラか、父オーラルと面識ありませんか?」
気になったので訪ねると。目をぱちくりしながら。
「中央大陸のオーラルかい?」
「はい!」「おやおや成る程君が、シンク皇子だったのか!」
からから楽しげに笑い出したガルダンに。二人が驚いていたら。
「先日かな~。中継の街まで、視察に来られていたよ」
なんて教えられ。シンクの方が、目を丸くする。
「中継の街に?」
多忙な父が、まさか地下迷宮に降りてきてるとは……、素直に驚いていた。
「シンク皇子様?」
隣で干し肉、干し果物等、乾物の出店を出してた。赤い肌色のシンクの腰ほどしかない。グランナースのおばさんが、嬉しそうな声を上げた。
するとおばさんの声を聞いて、沢山の亜人が、わらわら集まって来て。
みんなが優しい笑顔を浮かべ。歓迎してくれた。沢山のお土産までもらい。何だか悪い気がしたので、代金を払おうとしたら。
「何をおっしゃるのですか!」
「それはなりませんシンク様」
「俺達の心尽くし受け取って下さい」
「シンク様!、私達はオーラル陛下のお陰で、豊かになりました……。感謝こそすれ受け取って下さい我等が皇子よ」
「大した物ではありませんが、どうかお受け取りください!」
真摯な皆の言葉に打たれて。頭を下げた。
「はい!ありがとうございます。喜んで頂きます」
人の好意は、素直に受けること。父の教えに。忠実な行動をしただけなのだが……、何故か市場の人々はみんな嬉しそうな笑顔だった。
みんなに見送られ。予定外の戦利品を抱えた二人が、戻ると、沢山の品々を前に。ラシカが苦笑を浮かべていた。
「あんた……、知らなかったのかい~、オーラル陛下と土竜ギルドは、地下迷宮の街、加盟の集落町に。沢山の援助をしているの。だから陛下が顔を出されると。今日のシンクのようになるのさ」
それは知らなかった……、さすがは父さんだと。頻りに感心していた。自分も見習わなくてはな、小さく意気込み。改めて決意した。そのシンクの影に隠れるように。ガルダンさんからプレゼントされた。エネミイ鉱のペンダント手にして、ローザが不思議な面持ちで、シンクの背を見詰めていたが、とても困ったような。それでいて戸惑ったような顔をしていた。
多少の混乱はあったが……、中継の街を無事に出発して。危険地域の隣接する。失われた古い赤の町……、全ての始まりの町に寄ることになった。
それは出発少し前のこと━━。シンクが突然ラシカに、お願いしたからで━━。
ラシカは無論難色を示した。頑として珍しく譲らないシンクを説得するべく。ラシカは知る限り。赤の町について教え。思い留まらせようと。言葉を重ねた。
「現在あの町は、引退した土竜騎士が、新しい町の建設に当たってるから、昔の面影は無いわよ?」
それは女の子を連れて行くには不向きだと、遠回しに伝えた。
「はい。父も赤の町に。一度訪れたと聞き。その時現状は聞いてます」
「なら……どうして、赤の町に?」
怪訝な眼差しをシンクにむけていた。そんなことシンクも十分理解してると言うのに……。
「それは……、僕が今回を逃すと。赤の町を見れない可能性が高いからです」
「なっ……」
シンクらしくない物言いに、ラシカが慌て。どう言う意味か問いただす前に。鋭く真剣な顔を、ラシカに見せ。開きかけた口を閉ざした。
「ラシカ姉……、我が儘は承知してます。でも……どうしても行かねばなりません」
あのシンクが……。頼みごと言うとは、何だか頼られて嬉しい……、
「仕方ないわね~♪、あんたがそこまで言うんだ。姉さんに任せなさい」
豊かな胸を叩き。嬉しそうに顔を綻ばせていた。あんな男の子の顔をして頼まれたら……。
「まだまだシンクには、私達がいないと♪」
鼻歌混じりに、御者台に向かっていた。
━━当初の予定にない。赤の町に行くには、中央中継の街から、東に半日行くと。遥か昔の古い炭鉱があって、最近まで銀が取れたらしい。
━━遥か昔……、赤の町に向かう通路は、一度失われていた……、
中央大陸が、冥界から現れた影響により。大地震が起こったため道が失われた、町に残っていた。古い文献でわかった。なぜラシカが古い炭鉱に。今向かってたかと言えば……。坑道奥が赤の町まで抜けていたから、その新たな道を見付けたのが、祖父リブラで、秘密の抜け道として。土竜ギルド、オーラル陛下、リブラ将軍だけしか知らない。
━━オーラルは、リブラに頼まれ。土竜ギルドね公共事業として。炭鉱の奥に。小さな駅舎を作った。それには幾つか理由もあるのだが……、
ドレアノが駅舎に到着して、シンク達は、ラシカの案内で、駅舎の奥に作られた。通路を抜けた先には、町全体が見渡せる小高い丘になっていて。町を見渡すと……、建設中の町並みが、少しずつ新しく作り直されている。そんな風景が広がっていた。中継の街の半分もない大きさだが。ドーム状になっていた。小さな町である。
一行は、なだらかな丘を階段で降りて、舗装された石畳の道を、シンクの後に付いて歩いていた。
「何処に行くつもりだいシンク?」
人も建設にあたる。ドワーフと引退した土竜騎士位で、人通りは少ない。見て楽しい町でもないのだが……、迷いなく歩くから、ラシカは疑問ぶつけた。それはミネラも興味があり。皆の視線を受け立ち止まったシンクは、はいのうから、鈍い赤色のペンダントを取り出した。
「それは?」
ミネラが初めて見た品だ。問うように聞いた。
「……魔人王の遺品です」
ハッと青ざめたラシカ、ミネラとは違い。クルミ、ローザの二人はピンと来ないから。首を傾げる。
「シンク……」自分でも分かるほど。声が固くなる。
「ラシカ姉は……、知ってましたか?」
赤の町を見渡し。問いかける。
「それは……」
咄嗟のことで、言葉に詰まる。シンクを想ってくれる優しい姉に感謝しつつ。
「確かに。魔人王は、僕の右腕、左足を奪いました……」
ハッと理由を聞いていた。クルミの顔色が変わる。だがローザは訝しげな顔をした。そうか……、ローザには教えて無かったな。
「ローザさん。実は僕の右腕、左足は義手、義足なんです」
衝撃の事実を聞いて、唖然とポカーン口を開けていた。
「シンク!、それを埋葬するつもりか?」
クルミの怒りの声音に、ローザはハッと息を飲んだ。
「クルミありがとう。僕の代わりに怒ってくれて、でもね彼は、僕の先祖でもあるから」
ガツンと、後頭部を鈍器で殴られたような。衝撃的な告白に。クルミは言葉を失う。
「ラシカ姉は知ってたよね?、土竜騎士に選ばれる理由をさ……」
シンクの告白に青ざめたが、しっかりと頷いた。ミネラさんは何も言わないから……、恐らく聞いていたのだ。
「シンク……」
戸惑いを隠せないクルミ。呆然としたままのローザ。皆を優しい笑みで見比べ。決意を述べる。
「父は……、遺恨のあったナタクの墓を。中央大陸にも作りました。また魔人王の墓も……」
「だが……」切に。いい募ろうとしたラシカを。真っ直ぐ優しい瞳は揺るがず。ラシカの言葉を封じる。シンクと言う少年の真の強い本質を前に。皆は言葉を失い魅了されていた━━。
「魔人王は最後……。晴れた大空のような。清み渡った優しい目をしていたんだよ。ラシカ姉さん……、そして真っ直ぐ僕の目を見て、『済まなかった、わが兄の血族よ……』と、そう言い残しました……」
はっきり顔を強張らせたラシカ、やはりかと確信していた。ミネラも驚いた。あの時の事は、シンクからオーラル陛下のみ知らされた、秘密である。まさかこの場で口にするとは……、よっぽどの決意なのだろうと。
「この地こそ……、僕や父、また祖父の根源です……」
シンクは気が付いていた……。父オーラルが秘密にしていたことに……、
「姉さん、ミネラさん、大丈夫……、僕は薄々気付いてたんだ。翼人の民が、僕と父を特別扱いしてる。それで不思議に思って、祖父に聞いたんだ」
「うっ……リブラ様に?」
狼狽えたラシカを安心させるために。ラシカの手を握った。強張った顔。困ったような眼差しを緩め。
「そうか……、シンクならいつか気が付くと、オーラル様は言ってた」
シンクの手にまるで、すがるようなラシカ。普段からは考えられない気弱な印象を与える。本当に不安そうな顔……。
「父は姉さんに。外交官になって欲しいと。申し出たのは、僕の為だよね……」
「シンク……」息が止まったように。惚けた顔をして、やや茫然としていた。
「ミネラさんは、どうするつもりですか?」
視線を我関せずと。他人事のような顔をしていたミネラは、キョトンとしていた。
「あっ、あたし?」
「だって、父さんがわざわざミネラさんまで、なぜ僕の冬休みに同行させたか、本当に分かりませんか?」
意味ありげに言われて、段々不安が頭をもたげ。ハッとした。 徐々に顔を赤くして、一気に血の気を失っていた。
「まっまさか、母さんが……」
気が付いたようで、急に慌て出した。
「どっ、どうしようラシカ!、あっあたしお見合いさせられる」いつも沈着冷静なミネラが、おろおろし出した。これには面食らったラシカも。思い出したように苦い顔をして、眉根を寄せていた。とても困った顔をした。だがシンクは……、
「ミネラさんここまで来たら。戻ることは出来ないよ。ミネラさんが居なくなると、僕も寂しくなるけど……、結婚するんじゃ仕方ないよね~、ラシカ姉」
わざとラシカに難しい返答を振った。
「あっ、あう……」
返答に窮して、友人のミネラの顔を見てしまい。目を白黒させ遂に……。
「嫌だ!、わたしミネラとお別れなんて……」
ぼろぼろ泣き出した。これにはミネラも驚きを隠せないが、クスリ優しい笑みを浮かべた。
「ありがとうラシカ……あたし。母さんと、ちゃんと話してみるわ」
友人の心優しい。素直な気持ちを聞いて、一つの決意を決めた。
「シンクあんたにも。手伝ってもらうから、そのつもりでね」
「分かったよ。ミネラさん」
意味ありげな眼差しに、笑みを持って、了承していた。
一連の出来事に。クルミとローザは、ただ戸惑っていたが、何だかまとまったようで、二人は安堵していた。
━━シンクは改めて、新しく作られた聖堂の奥に、魔人王の遺品。赤の神官を示す。メダリオンを、厳重に安置するよう願い出た。それから新しく建設されてく町を見て回り。奇妙な懐かしさを覚えながら。赤の町を後にした。
━━その後旅は順調に進み。予定通り。北大陸側の中継の街を出発して半日。北ターミナルの街まで、順調に旅をしたシンク一行は、予定通り。9日後に到着した。
━━中央大陸、輝きの都プロキシス。
白銀の城の前にある。土竜ギルドの建物……一階受付。中央中継の街から急使がもたらされた。
書類の中身を確認したアオイは、シンク皇子が、無事通過されたと知り。ひとまず安堵していた。「最近は北の情勢も不安定だし……」
人間と和解はしたが、オーク、ゴブリン、オーガ等地下迷宮で新たに発見された亜人達。一部は中継の街に住み。中立を保ててはいたが……、それ意外となると危険な場所が沢山あるのだ。嘆息したアオイは、直ぐオーラル陛下に知らせるべく。報告書を仕上げ。
「陛下に。至急お願いね」
「はっ、はい」
見習い土竜騎士の1人に。お願いした。
「う~ん、まさか赤の町まで……、寄るなんてね~。ラシカには後で、書類提出してもらわなきゃ。まったく困った子ね~」
新しい書類に、赤の町に渡航と記入して、了承の印鑑を押して、ただし日付は、7日前にしてあった。やれやれと苦笑して。アオイがわざわざこんなことする必要は、本当はないのだが、オーラル陛下から内々に。ラシカには特別な配慮するよう言われていた。
「あの子がお姫様だなんて、似合わないわよラシカ、クスクス」
からかうように呟き、アオイは書類を終う。
「くちゅん」
可愛らしいくしゃみをしたラシカに。
「風邪か?、まあ~お前には。有り得ないが」
なんて失礼な軽口を。言えるまで、ようやく落ち着きを取り戻したミネラが、からかうように呟く。シンク、クルミ、ローザの三人は、仮眠中である。もう少ししたら。ラシカも仮眠する予定だが、二人になって改め。様々なこと話してる内に。すっかり遅くなってしまった。
「まさかシンクが、彼処まで考えてたなんてね~、私達の皇子様には、本当に……。何時も驚かされるわ」
嬉しそうに、それでいて、眩しそうに目を細めた。
「わたし決めたよミネラ、あんたもそのつもりなんでしょ?」
「そうね。貴女に。また泣かれたら嫌だし。仕方ないわクスクス」優しい笑みを浮かべるミネラに。呻くラシカ。二人は顔を見合せ。同時に吹き出していた。
「まさか貴女が、お姫様になるなんてね」
「バッ違うよ。わたしは、陛下の養女になるけど、その……外交官を。頼まれて……」
羞恥で真っ赤になり。言い訳がましく言うのだが、ラシカの決意は変わらなかった。私達の皇子様を守る。形は変わるが、二人の想いは同じだ。
「あたしは、シンクの盾。竜騎士となるため。お見合いを何とかしなきゃね~」
クスリ愉しげに微笑み。ラシカに水を向けたら、
「きっと大丈夫さ、私達の皇子様が、約束してくれたんだしね♪」
ニヤニヤ悪戯ぽく。笑いが止められない。まったくラシカはと半分呆れたが、
「ええそうね。あの子は、出来ないことは言わないから……」
二人は優しい笑みを浮かべ、大切な皇子様を守る。そう新たに。お互いの気持ちを確かめあった。
━━明日には、北の中継の町に到着すると。仮眠前に聞いていたローザは、浅い微睡ろみから、軽い空腹と。喉の渇きを覚え、目を覚ました。
「そうだ……ついでに」ある思い付きに。パチリと柏手を打つと。豊かな胸が弾む。
部屋を出たローザは、後ろの車両。食堂車も兼ねた三両目に向かった。お茶を入れるついでに。夜食作って……、軽く自分も何かつまもう。それはあくまでも建前で。最初から。サンドイッチを作ることに決めていた。
「これこれ~♪、食べてみたかったんだよね~♪」
保存用の紙に包まれたある品を取りだし。笑みを深めた。
地下迷宮の旅で、ローザは様々な経験をした。中でも驚いたのが、食料事実で、地上に負けない程。様々な家畜が、食用に飼われていた、中でも地上で、わりとポピュラーな猪豚がいて、地上とは格段に違う巨大さに。驚きを隠せなかった。さらに地下故。保存方法が多岐に富んでいた。
シンクが、中央の中継の街で、もらった品々の中に、干した製品を扱う店が多く、ローザは知らなかったが、塩漬けが一般的だが、地下では湿気があるため。乾燥製品が高価だ。中でも、スモークと呼ばれる。珍しい製法があり。クルミと包装を開き。えもいわれぬ香しい香り。我慢出来ず。味見して、絶句した。スモークハムと呼ばれるハムを。一切れ食べた瞬間、絶対サンドイッチに合うと思った。自分の家で作って来た。酸味のある糠漬けを持ち出し。布巾で丹念に拭いて、細かく刻みボールに入れた。
用意した油。卵。塩。お酢を入れ、お茶を立てる。茶筅を道具にして、泡立てるように混ぜ。作り出したソース。
「よく姉に叱られたな……」
武家の娘が、茶筅を料理に使うなど、言語道断!、この調味料が偶然出来たとき。料理人になろうか、本気で考えたこともあった。
「産みたての玉子が、まさか地下で手に入るなんてね~」
クスクス嬉しそうに笑いながら、卵を卵黄と卵白に分けて、別に用意したソースのボールに。卵黄だけ加えた。卵白はサンドイッチの材料にしよう。楽しみながら。自由な時間を満喫していると。
「あれ~ローザ。もしかしてきみも小腹好いたのかい?」
聞き覚えのある。優しいアルトの声音。 ドキン心臓が跳ねた。
「しっ。シシシシンク……」
狼狽したローザに。御構い無く。ローザの作った。白乳色のソースを見て、目をパチクリ。
「ローザ、それは何のソース?」
「こっこれは……、マヨネーゼだ」
泡を喰ったが、白ワイン、胡椒を一つまみ入れて、さらに茶筅で混ぜてくと。段々トロミが出て、出来上がりの頃には、柔らかいチーズのようになる。
「あのさローザ、そのソース、味見してもいいかな♪」
シンクの眠気など。何処かに消えて、見たことない道具と、ソースに興味津々である。
「かっ構わない。パンか野菜に付けて試してみてよ」
目を白黒させながら、マヨネーゼの食べ方を。簡単にレクチャする。
ローザが、パンを用意してたので、パンの端を適当に切って、早速味見した。
「これ……」
ハッとするほど鮮烈な酸味。白ワインとお酢が混ざり。爽やかな旨味に変わる。
「…………不味かった?」
慌てて、プルプル首を振って、目をキラキラさせながら、
「美味しいよ!、何これ。初めての味わい。そうか、だからサンドイッチに?」
ローザの肩に何気無く。手が置かれ。殿方に肩を掴まれてる。そう意識してしまうと。カーッと赤くなった。
「えっ、ええ……」
「良かったら、僕にも一つ作ってくれないかな?」
「ええ。みんなの分も用意しようと思ってたの……、これなら日持ちしますし。時間置いても。美味しく食べれるから……」
なるほど頷き。改めてボールの中のソースを見て、小さく唸る。離れてくシンクの手が、何だか残念な気持ちになって、自分の変化に戸惑っていた。
ローザが、夜食を持って、先頭車両に行くと。ミネラだけがいて、
「あらローザさん……、それ私の夜食かしら?」
「はい。ラシカさんは、お部屋で、食べられてから。仮眠されるそうです。私はちょっと目が覚めたので……」
「クスクスありがとう、ちょうど小腹が空いてから。ありがたいわ♪」
ローザが、温かい飲み物の準備してるのを。嬉しく思いながら。
「頂きます♪」
早速一口。驚いていた。ありふれたサンドイッチで、感動したの初めての経験だった。
「美味しい!、こんな濃厚で、後をひく。味わい。初めてよ」
絶賛を含めた。素直な謝辞に。ローザは照れて赤くなる。ミネラは食欲を満足するまで、サンドイッチを堪能して、お茶を頂いた。
「ご馳走さま♪、これはまた作って欲しいわね」そう満足げに言ったミネラ、だけど何故かローザの顔が、曇っていた、視線に気付き。ハッと顔を強張らせたかと思えば、急にもじもじし出して、何故か顔が真っ赤になっていた。その様子で、シンクと何かあったのねと。鋭く気が付いた。
「貴女もしかして、シンクのこと?」
誰もいない、今だから聞けることもある。
一瞬━━。
虚を突かれて。ローザは、迷いは見せたが、コクリ素直に頷いていた。ミネラは小さく嘆息して。
「クルミさんは……、知ってるの?」
慌てて首を振る。最近芽生えた。拙い気持ちなのだろうか?。
「あの子。スッゴくモテルし大変よ~」
聞きたくないこと。ズバリ斬り込む。
「はい……、みんなのこと見てるから、知ってます……」
なるほど……、それでも。好きになったのか……、だから戸惑い迷う。それはもう……、あたしに何か言うことは出来ない。
「ならあたしが言えるのは、友達のクルミさんには、きちんと話し合うことね。彼女は貴女を信じて、旅行に誘ったのだから」
一瞬。あって顔をして、赤くなったり。青くなったり……、それでもしばらく迷い、何かを吹っ切ったような、凛とした引き締めた顔をして、真っ直ぐミネラの目を見て。
「はい!」
きっぱりと返事をしていた。
━━控えめなノックの音。クルミはゆっくり。夢の世界から目を覚まして、現実と夢の狭間に。こっくりしながら。
「はい……、開いてます」
返事を返したら。かちゃり扉が開いて、ローザがプレートを手に入って来た。
「おはようクルミ。朝食には早いけど……。サンドイッチ作ったんだけど。食べるかしら?」
おや?。違和感を覚えて、目をパチクリしながら、何か話があるのだろうか?、当たりを付ける。何時もは……、食堂で一緒に食べていたからだ。しかし……、少し空腹も感じていて、
「頂きますわ♪」
口元を綻ばす。クルミは、アレイク王国で暮らすようになり。貴族の令嬢が多く住まう。寮に住んでいた。そのため寝起きのクルミは、丁寧な言葉使いになってしまう。二年足らずだが、最早習慣だ。
━━この旅に、ローザを誘ったこと。お互いの知らない部分を知る。良いきっかけになったと。思うようになった。
自然と王族としての気品が、普段の生活で醸し出るクルミの場合に。当初戸惑ったローザだが……、演舞場では、見られない。素のクルミの可愛らしい仕草が、好ましく思えた。
「飲み物は、温かい紅茶でいいかな?」
「はい♪」
素直にローザの好意に甘えた。嬉しそうに桜色の頬を綻ばせた。そうした姿と対戦した時の怖さ。改めて自分には無い。可愛らしい普段の魅力に。同性とて、どぎまぎしてしまう。
━━時間を掛けて、上品に。ローザのマヨネーゼを使った。絶品サンドイッチと。豊かな香りのローズティを堪能して、ほっと一息吐いて。
「ローザ、私に話があるのね?」
食べ終わるまで待ってくれた。優しい友人の顔を真っ直ぐ見て、おやって首を傾げた。普段のローザにはない。目に強い光が宿っていたからだ。
「……うん……」
少しいい淀み。まだ迷いを見せた。だから敢えて聞き出そうとはせず。彼女から言い出すのを待つことにした。
━━新しい紅茶を頂き。漸く気持ちが固まったのか、重い口を開いた。
「そっその……、これはまだ……、私の問題なんだけど……
重い緊張を孕んだ様子に。何かを抱えていたねだろうか?、首を傾げていた。ゴクリ唾を飲み込んで、
「クルミは……、私の友達だから、クルミには最初に。聞いて欲しくて……」
━━そしてローザは、素直に全てを話した……。自分が、シンクを好きになったようだと。
━━様々な気持ちを。赤裸々に語るローザ。
━━最初こそ戸惑っていたクルミだったが、ローザの気持ちは、痛いほど伝わって来て……。仲間の中でも自分に。それも最初に打ち明けてくれたこと……、それが本当に嬉しかった。
「その事……シンクは?」
慌てて頭を振る。優しい笑みを浮かべ。自分の隣に。腰かけるよう勧め。隣に座ったローザを。優しく抱き締めていた。
「ローザ……、全て隠さず。私に話してくれて、ありがとう……、貴女は、本当の生涯の友達だと。思いました……、シンクのこと好きになってしまうのは……、仕方ないですわ。だから私のライバルとして、これからはお互い。シンクを振り向かせましょうね♪」
気品に満ちた慈愛の顔。瞳には、無論不安に揺れていた。だから分かる。クルミだって不安を抱えてるのだと……。シンクの周りには、今まで見たこともない、素敵な女性達が、彼に惹かれ。望んで添っていた。自分が、いや自分達が敵うのか……、無論不安はある。
「クルミさん……、いやクルミ!、二人が組めば、あの氷雪の女神にも、レイラにも。勝って見せるさ」親友とまで言ってくれたクルミを、励ますつもりで、自分にも強く言い放つ。
「そうね。二人なら当たり前よ~♪」
二人は顔を見合せ。笑っていた。
「おはようシン♪」
「おっ、おはようシン……ク……」
ドキリとした。二人があまりに輝く笑みで、おはようを言ってくれたから「おはようクルミ、おはようローザ」
ニッコリ晴れやかな可愛らしく笑うクルミ。照れ臭そうで、それでも嬉しそうな。笑顔が素敵なローザ。何だか今までより、仲が良くなったと感じた。そうした突然の二人の変化に。戸惑いを覚え。首を傾げるシンク。
━━シンク達の様子を観察していた、ミネラはクスクス笑みを持って。楽しげにしてると、
「シンクまたか……」
ローザの様子で、恋心を見抜いたラシカは、仕方無さそうに頭を掻いた。二人の育てた王子様は、素直で、ミネラにとって、大切な弟子で。夢。ラシカにとっては命よりも大切な弟。そんな彼を真っ直ぐ見て、仕方なく、
「彼女達を泣かしたら、赦さないわよ~」
トンと軽くシンクの胸に拳を当て。目を白黒させる様を。二人は楽しげに見て、頬をつついてから。仮眠を取りにミネラが部屋に向かった。考えても仕方ないと諦めた。
「昨日作ったサンドイッチ貴女が、作ったんだってね?」
「あっ、はい」
寝起き、機嫌の悪かったラシカだったが、さっきの姿を見たら。何も言えない。だから当たり障りなく聞いた。
「ふ~ん貴女達は、リルムと違って、料理も上手よね~。わたしはさ~。こんなお嫁さんなら。貴女達を応援するわ♪」
なんて突然宣言したもんだから。二人は驚いたが、直ぐに嬉しそうに。笑っていた。
「ラッ、ラシカ姉さん」慌てたシンクをキッと睨み付け。狼狽えさせてから。優しい笑みを二人に向けて、手招きする。
シンクには聞かせられない。女の子だけで大切な。内緒話をするためだ。
「さて……、貴女達には話すけど。この旅行が終わったら。私は正式にシンクの義姉になるの。将来二人がシンクと一緒になるんなら。また料理をお願いしたいわね♪」なんてことラシカが言い出すから。二人は顔を見合せ。可愛らしく嬉しそうに『はい!』きっぱり返事をした。
ラシカはニンマリ人の悪い笑みを浮かべ。それからシンクを取り巻く現状を聞きながら。やれやれ呆れていた。
「大変だと思うけど、何かあればわたしに言いなさい。相談に乗るからね」
「あっ、ありがとうございますお義姉さん♪」
素直なローザは、裏表なく本当に嬉しそうに笑う。
「はい。その時はお願いします。ラシカお義姉様」
愛らしい風貌のクルミが、桜色の頬を綻ばせれば、つい頭を撫でたくなる。そう呟くと。二人は顔を見合せ。困ったようにでも嬉しそうに。
「その……、シンクは毎朝……、私の頭を撫でるんです……」恥ずかしそうに告白すれば、二人だけの日課である朝練の話を聞いて、ローザが羨ましそうな顔をしたのに気付き。
「最近は、ローザさんもご一緒して、朝練してるんです♪」
「へえ~、そうなんだ」
水を向けられ。気恥ずかしそうにしたが、ローザが小さく頷き。
「最初は、レイラに誘われて……」
また知らない女の子の名前が……、これはきちんと二人から、話を聞くべきだわね。それからラシカに請われ。三人は、シンクを取り巻く。女の子達の話を聞いて、唖然とした。
「あのリルムが認めた女の子が要るの……。驚いたわ……」
驚く話ばかりだが、この二人は、シンクに足りなかった。日常を与えてくれる。そう確信した。
━━程なく戻ったラシカは、つかつかシンクの肩を掴むと。
「二人を泣かしせたら。赦さないわよ~」
ミネラに言われたことと同じようなことを。ラシカにまで言われたら。もう苦笑するしかない。
ちらり戻ったクルミ、ローザを見れば、二人は真っ直ぐ。シンクの視線を受け止めていた。だから……二人の気持ちを。真っ正面から。受け止める決意をしたのだ。
「さてさて、後は若い三人に任せて、お邪魔虫は、仕事に戻るわよ♪」
お茶目に片目を瞑り。御者台に向かうラシカ。残されたシンクは、真剣実を帯びて、不安を隠しきれない二人を前に。小さく嘆息していた。
迷いが無いとは言えない。それを願えば、二人に多くの苦労を掛けることになるのだから、だけど……、揺るがぬ二人は、静かに。シンクの答えを待っていた。
「クルミ、ローザ……、二人は……、本当に、僕で良いのかな?」
迷い無く二人は、頷いていた。
「……ありがとうクルミ」
クルミを突然引き寄せ。優しく抱擁していた。戸惑うクルミの唇に。小鳥が啄むような優しいキスをした。突然のことにクルミは熟れたトマトみたいに。真っ赤になった。でも嬉しそうに恥ずかしそうに微笑む。
「あっ……」
一瞬泣きそうになったローザを、クルミが、シンクが招いた。少し躊躇うが、シンクの胸に飛び込み。クルミと恥ずかしそうに笑い会う。期待するローザの顔に掛かる髪を透いて、唇を奪う。ローザは自分から唇を開き、シンクの舌を絡めた。自分でも思いもしなかった大胆な行動に。クルミが不安そうな顔をしたから、チュッとシンクの唇から放し。今度はシンクがクルミの唇を奪う。甘やかな吐息。満たされた気持ちが溢れ。クルミの目から涙がこぼれた、そっとローザがクルミの涙を舐めとり。二人は共犯めいた笑みを浮かべていた。
「……僕は、必ず二人を幸せにする。だから学園を卒業したら。僕の妻になって欲しい」
突然の宣言に。二人はどぎまぎしたが、もう迷いはなかった。
「はい……、私はシンクの絶対なる剣に!」
「嬉しい……、私はシンク、親友のクルミを守る。武器を作る!」
二人の決意を耳にして、この場にいない四人を思う。決して彼女達を泣かせない男になろうと。強く決意した。なんとなく。中の様子を聞いてたラシカは、上手くまとまったようで、安堵していた。
「ドレアノ~うちの皇子様は、モテモテね~」
クスクス楽しげに。相棒に語りかけると。
『キュイキュ~イ♪』
野太い返事を返した。
「そうだね~、私達の皇子様は、きっと伝説を作り出す。大王様になるの♪」
ラシカとミネラには、夢があった。二人が出会った日から。何時も語り合った。自分達が育てた皇子様が、この世界を統一してくれると……、
━━数日後……、シンク一行は、予定通り。北側の中継の街に着いた、翌日の朝。北のターミナルに向け。出発した。
━━その日の夕方……、
ターミナルの街地下駅舎に。右前足、右の目の周りだけ白い。ぶち柄の土竜が到着したと。街ではちょっとした話題になった。
見覚えのある土竜が到着するや。日焼けで、すっかり黒くなった。セナ・ホウリは、相貌を綻ばせた。
エピローグ
車両から、ラシカ達が、降りて来た瞬間。精悍な顔立ちの青年と目があって、訝しげな顔をした。次々降りて来るクルミ、ミネラ、ローザ、そして……、シンク皇子が降りて来た瞬間。青年は膝を着いて、礼を尽くした。「シンク皇子!、お久しぶりでございます」突然のことに戸惑うラシカ、ミネラとは違い。
「セナさん!」
シンクはすぐに気が付いて、嬉しそうに青年を呼ぶ声で。青年ことセナは、白い歯を見せ。懐かし気に微笑んだ。
一方━━、ラシカ、ミネラが、ポカーンと惚け。唖然とした。
「お前!セナなのか……、成長したな」
しみじみラシカが言えば。
「本当……、見違えたわね!」
師である。ラシカにまで言われたから。苦笑を滲ませる。
「クルミ、ローザ紹介するよ。彼はセナ・ホウリ、我が国の重鎮ボルトの子息で、ラシカ姉の弟子なんだよ」
「はっ、初めまして、クルミ・アルタイルです」
「ローザ・リナイゼフだ……」
それぞれ挨拶を交わした。今度驚くのらセナの方で、
「まさか!?。ファレイナ公国の?」
クルミに驚き、ローザの魅力的な胸に赤くなる。
「二人は、将来僕の妻になるから、セナもそのつもりで接して欲しい」
なんて言われて、目を白黒させたが、ラシカ、ミネラは当たり前のように頷く。
「……なんだか、僕が知らない間に、色々あったんだねシンク皇子」
しみじみ呟きながら、苦笑を露にしていた。
「そうだ!。セナは竜騎士になる修行中だと。祖父からきいてたんだけど?」
「何、セナそうなのか?」
初耳だったラシカ、驚きを浮かべるミネラに見られ、真っ赤になりながら。
「はい。なんとか竜に選ばれたから。竜騎士になれました」
セナは長袖で隠していた左腕を晒し。銀製の竜をあしらったブレスレットを見せた。
「凄いじゃないかセナ!」
愛弟子の成功を聞いて、ラシカはセナを抱き締めていた。これには真っ赤になったセナだが、嬉しそうに頬を緩めた。
「セナもしかして、祖父に頼まれて?」
疑問を口にすると、ようやく豊かな胸から解放され、ミネラには手荒く頭を撫でられ、照れまくってたセナは、コホン取り繕うように空咳をしてから。
「はい、僕は北の地上を走る。土竜の扱いにも慣れてるので、皇子のお出迎えに。参りました」
セナの柔和な顔に、自信に満ちた笑みを浮かべていた。
「セナありがとう。君が来てくれて、心強いよ」素直な礼に。セナは直ぐにぼろがでて、照れて顔が赤くなる。
━━余談だが……、セナは子供の頃から。感激屋の優しい少年で、シンクの兄のような存在で、人間好きなシンクレアだが、本当になついたのは、シンク以外では、セナだけだった。
セナの案内で、北ターミナルの地下を歩いて驚いたのは、
南、東ほど、土竜馬車が頻繁に。訪れる事が少なく。使われることも珍しいから。土竜ギルドも小さく。設備合わせて、駅舎は大きな村程度の大きさである。元々リブラの相棒暴君が使っていた。大きな洞窟を。ドワーフ達の手で拡張。土竜ギルドの村が造られた。
何故土竜ギルドが北大陸では、扱いが小さいのか、それは北大陸の土竜が特殊だからだ。それは北大陸の土竜が、地上を走る変わった種であり。馬よりも丈夫な土竜は、主な交通手段である。その為ターミナルの街は。地上部分が主で、街を取り巻くように。土竜ファームがあった。
「凄い活気ね~」
地下との違いに唖然とした。近年北大陸は、リゾート地として発展していた。
それは危険な中央平原に入らなければ、一年中温暖な気候。北大陸の西側は、豊かな自然。海岸線は美しい珊瑚礁の小島が、隣接しており。穏やかな気候から、別荘地が建設されていた。船が、五大陸を繋ぎ。裕福な富裕層は、北大陸に渡るとき、最近の流行りとして、移動国ダナイの、豪華客船を使うことが、ステータスとなっている。だから北大陸を訪れる旅人は、土竜馬車で来ることが、とても珍しい。
また異国から来た人間が、竜騎士となったことも二人のみ。そう言った経緯もありセナは、北では有名であり。彼が敬語で少年や同行してる女性達に。話してるのを聞いた。地上の土竜馬車ギルドの人は、きっと大切な客を出迎えに来たのだろうと噂した。噂は瞬く間に広がり。シンク達は、思いもしない事件に。巻き込まれることになるのだが……。
シンクの冬休みは、後に七人の妻の1人となる。大王の武器職人と呼ばれる。ローザ・リナイゼフとの馴れ初めでもあった。
そして……、シンクは生涯の……、また同じ物語か、別の物語で、背徳の魔王でした。




