価値のない記録
王都へ戻った日、パン屋の棚は空になっていた。
店の前には、もう列もない。
並んでも買えないと、人々が知っているからだ。
王宮の門前には、食糧を求める市民が集まっていた。
「小麦を出せ」
「子どもに食べさせるものがない」
「倉庫にはあると言ったではないか」
馬車の窓越しに、その声を聞いた。
王都を出たとき、最も少ない倉庫の備蓄は九日分だった。
調査と帰路に十日以上かかった今、配給は兵士と救護院へ優先され、一般のパン屋へ回る小麦はほとんど残っていない。
「間に合うと思うか」
向かいに座るカイルが尋ねた。
右手の包帯は薄くなっていたが、まだ剣を握れる状態ではない。
「間に合わせなければなりません」
「食糧ではなく、審問のことだ」
私の膝には、封印された書類箱がある。
宿駅の飼料支給記録。
灯油の受領記録。
旧塩倉の土地台帳。
小麦と割れた封蝋の確認書。
そして、上げ底の升。
「記録は残っています」
「記録を読む人間が、最初から答えを決めていたら?」
私は答えられなかった。
婚約を破棄された夜、レオンは言った。
書類が一枚なくなったところで、王国は困らない。
今、王都ではパンがなくなり、人々が門の前に集まっている。
書類がなくなったからではない。
そこに残されていたことを、誰も見ようとしなかったからだ。
◇
臨時審問は、その日の午後に開かれた。
王宮の評議会室には、財務局、穀物管理局、王国監察院の代表が集まっている。
中央の席に座る宰相が、審問を取り仕切った。
私は被疑者として、部屋の中央に立たされた。
右側にはカイルと、北部へ同行した財務局監査官。
左側にはバルガス侯爵、その背後にレオンとセシリア様が座っている。
三か月前の大
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