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「役立たずの記録係はいらない」と婚約破棄されましたが、王国を救ったのは私の帳簿でした  作者: 北野風人


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八台目が通る日

 三日後、ベルク商会北方支店の取引記録が王都へ届いた。


 七年前、王宮から買い取った保存穀物は、北方の三つの村へ運ばれていた。


 そのうち一つが、セラだった。


 販売価格は王宮からの仕入れ値の二倍を超えている。


 運搬費を加えても説明できない額だった。


 オスカーが保管していた村の共同支出記録とも一致した。


 救済の穀物が届かなかったあと、セラの人々は家畜と道具を売った。


 その金で、ベルク商会から穀物を買っている。


 本来なら、無償で届くはずだったものを。


「商会関係者を拘束する」


 取引記録を読み終えたギルベルトが言った。


「証拠を移される前に、倉庫と会計帳簿を押さえる」


「お願いします」


 私は反対しなかった。


「ですが、それだけでは足りません」


「何をする」


「届かなかった分を、先に届けます」


「事件の責任者は、まだ確定していない」


「誰が奪ったかは、確定していません」


 私は七年前の出発記録と北門通過記録を机へ置いた。


「ですが、八台分が出発し、七台しか北門を通らなかったことは確認されています」


 セラには、三十日間の暫定救済が認められている。


 王宮、地方代表、倉庫管理者による事後確認を条件に、緊急配給も可能だった。


 新しい制度を作る必要はない。


 すでに認められた救済を、実際に動かせばいい。


「八台を出します」


 ギルベルトが顔を上げた。


「セラだけへ八台ではありません。現在の人口と備蓄量を確認し、北方の三地域へ分けます。セラへ一台。残りは不足量に応じて配分します」


「七年前と同じ八台か」


「同じなのは、台数だけです」


 今度は一台ごとに、出発地、通過門、到着地、受取責任者を記す。


 途中で経路を変える場合は、輸送責任者だけで決めない。


 同行する記録官と地方側の案内人、双方の確認を必要とする。


 ただし、手続きのために荷車を止めてはならない。


 確認は、人を守るためにある。


 人を待たせるためではない。


 輸送責任者には、アルベルトが名乗り出た。


「私に行かせてほしい」


「あなたは、七年前の輸送について調査を受けている立場です」


「だからだ」


 彼は私を見た。


「前は、出発させた数だけを確認した。今度は、届くところまで見る」


 私とギルベルトは条件を示した。


 一人では経路を変更しないこと。


 事故や遅延があれば、理由と判断者の名をその場で記すこと。


 アルベルトはすべて受け入れ、責任者欄へ署名した。


 翌朝。


 王宮北倉庫の前に、八台の荷車が並んだ。


 荷袋には、一から八までの番号札がつけられている。


 ノラが重量を読み上げ、倉庫管理者が照合する。


 私は送り先と受取責任者を記した。


 出発前、ギルベルトは八枚の通過票へ署名した。


「一枚にまとめないのですか」


 若い職員が尋ねる。


「一台が遅れたとき、残り七台まで止めないためだ」


 ギルベルトが答えた。


「行き先が同じでも、荷車は一台ずつ動く」


 七年前なら、一枚の命令書で済ませたかもしれない。


 今は一台ずつ、自分の手で確かめていた。


 北門には、ハートがいた。


 まだ長く立てる身体ではない。


 門番用の椅子を外へ出し、毛布を膝にかけて座っている。


「休んでいるように言われたのでは?」


 私が尋ねると、彼は鼻を鳴らした。


「七年前も、ここで見ていた」


「今日は記録官がいます」


「それでも、俺も数える」


 最初の荷車が門を通る。


「一台」


 二台目。


 三台目。


 車輪が石の継ぎ目を越えるたび、乾いた音がした。


 アルベルトは隊列の先頭ではなく、横を歩いている。


 すべての車を見渡せる位置だった。


 七台目が門を抜ける。


 その後ろから、最後の荷車が近づいてきた。


 車軸には、新しく刻まれた八の数字。


 御者は門前で止まり、自分の名前を告げた。


 門番が通過票と荷札を照合する。


 ノラが時刻を書く。


 私が確認欄へ署名した。


 八台目が、北門を通った。


「八台」


 ハートが言った。


 大きな声ではなかった。


 誰も歓声を上げなかった。


 彼は膝の上の記録へ、ゆっくりと書いた。


 八台、通過。


 その一行が事実になるまで、七年かかった。


 ノラは商会調査を続けるため王都へ残り、私は車列とともに北へ向かった。


 セラへ到着したのは、翌日の昼過ぎだった。


 村の入口には、オスカーとエドガーが待っていた。


 その後ろに、四十七人。


 以前は帳簿の中にいなかった人々が、今日は一人ずつ名前を確認されて並んでいる。


 セラへ渡す一台分の荷を、村の広場で量り直した。


 王宮記録官。


 倉庫管理者の代理。


 村の代表であるオスカー。


 三人が同じ秤を見た。


「数量に相違なし」


 オスカーはそう言ったが、受領書へ署名する前に手を止めた。


「これは、施しとして記録されるのか」


「いいえ」


 私は答えた。


「七年前に完了しなかった救済の、追加履行です」


「なら、俺たちは何を返せばいい」


「何も。これは、最初からあなたたちへ届けるべきものでした」


 オスカーは受領書を見つめた。


 やがてペンを取り、自分の名前を書く。


 エドガーが証人として続いた。


 七年前、死亡したことにされた男の名前が、生きている村人たちの受領を証明した。


 食糧袋が一つずつ運ばれていく。


 ネラは母親のそばに立ち、その様子を見ていた。


 私が住民名簿を閉じようとすると、近くへ寄ってきた。


「そこに、私もいる?」


「います」


 名簿を開き、彼女の名前を指した。


「ネラ」


 彼女は文字を読めない。


 それでも、自分の名前がある場所をじっと見た。


「これが、私?」


「そうです」


「私も書ける?」


「練習すれば」


 私は余った木札に、彼女の名前を書いた。


 ネラ。


 彼女は人差し指で、文字の線をゆっくりとなぞる。


 途中で線から外れ、もう一度、最初からたどった。


 今は、それでよかった。


 いつか自分の名を、自分で残せるようになればいい。


 その日の夕方、残る七台は予定どおり次の地域へ向かった。


 アルベルトも同行した。


 私はセラに一晩残り、配給量と住民数を確かめた。


 夜になって、王都から早馬が着いた。


 ノラからの追加報告だった。


 ベルク商会が穀物を売った残り二村について、七年前の救済受領書が見つかったという。


 どちらにも、村人が全量を受け取ったと記されている。


 問題は、署名だった。


 二つの村は、一日以上離れている。


 それなのに受領時刻は、同じ日の正午。


 代表者として書かれた名前は違うが、署名は同じ手で書かれていた。


 同封された写しを並べる。


 文字の傾き。


 最後の線の跳ね方。


 確かに同じだった。


 一台だけではない。


 セラだけでもない。


 だが、この時点で書けるのは、そこまでだった。


 七年前、同じ救済の中で、少なくとも三つの村の記録が事実と食い違っている。


 私は、ネラのために書いた木札を見た。


 自分の名前を書けない者の代わりに、誰かが好きな名前を書いた。


 そして、その名を使って、届かなかった食糧を届いたことにした。


 記録から消された村だけではない。


 偽りの署名を与えられた村もあった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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