雑話【イヌメ姐さんのミニ講座】
今日は、薔薇ノ國について学んでいくよ。
まずは、薔薇ノ國にある里についてだね。里の勢力で言えば、上から順に『苹果(りんご)』『梨』『梅』『桜桃(さくらんぼ)』『花梨』『桃』『杏』『枇杷』『木苺』『李』ってな感じになる。
だが、あくまでこれは市場価値や、里の賑わいなどを物差しにした場合だ。だから、純粋に土地の大きさで言やぁ、『花梨』や『桃』は『梅』よりデカかったりするよ。ここではこんな果物を生む彩果姫がいるってことや、そうやって姫が生んだ種をもとに育ててく里があるんだ、くらいに思ってくれりゃあ良いだろう。
え、あたいの好きな果物は何かって? そうさね、酒を呑むからねぇ。杏は酒にいい味を出してくれる。そういう意味じゃあ、杏だね。杏って言やぁ、飴があるねぇ。水飴と一緒に夏場に出てくるのは名物だ。
そいや、ヤマトだよ……あいつは、ああ見えて甘いものが好きなんだ。だから蜜入り苹果なんかにはとんと目がない。
ただ、金銭感覚だけは身に付かないやつでねえ。いつか、仕入れの八倍の値段で売ってやったことがあんだ。欲しいものがあると、あいつは金に糸目をつけないのさ。だからすぐに無くなっちまうんだよ、バカだよねぇ。お前らは金の使い所、ちゃんとしときなよ。
さて、次は薔薇ノ國の宗主里として、天下平定を成し遂げた苹果についてだ。
知っての通り、苺の里とは大規模な戦があった。それを鎮めて、各里のまとめ役として治めるようになったのが苹果の里だ。
里自体は、北方にある馬鹿でかい土地でね。
三人の姫、フジ・オウリン・コウギョクがそれぞれの里を治めている。三つの里は隣接して固まっているんだが、実はどこもそうってことじゃあないのさ。
例えば……そうだね。梅の里なんかは、里ごとにわりと離れてんだよ。ナンコウ・シロカガ・リュウキョウの里は、それぞれ馬で何時間かかけないといけないくらいさ。
だから、一括りに何々の里っつっても、必ずしも固まってるわけじゃあないってことさね。
ただ、各里で共通していることもある。
天守閣は果物の種類ごとに一つまで。だから、苹果や梅は三つの里があるが、一つしか天守閣は持てない。ただし、姫たちが日常を過ごす彩果御殿は、それぞれ構えることができるよ。
天守閣の大きさ——これは、いわば権威の象徴だ。もちろん苹果がとりわけデカい。ちなみに、フジの里にそれはあるよ。
基本的に、目上の里より大きな天守閣を建ててはならない決まりがあるんだ。だから、苹果の天守閣より大きなものが建てられることは無いって話さね。あればそりゃあ、謀反と思われちまうことだろ。
じゃあ、苹果姫についても話していこうか。苹果姫は三人。覚えてるかい?
フジ、オウリン、コウギョクだね。
ちなみに姫ごとの里を表すなら、オウリンの里なんて呼び方をするよ。苹果の里は総称、みたいなもんだね。
姫には、だいたい二つ名があるんだが、これは果物の特徴や姫の性格に由来しているんだ。
動かざる人気と圧倒的な風格を持つ『不動姫』——フジ。
温和で民思い、何事にも直向きな『そばかす姫』——オウリン。
御簾の向こう、顔を見た者が少ない秘境の『簾姫』——コウギョク。
果物は加工品になると、木菓子や水菓子なんて呼ばれ方をするんだが、苹果の中でもとりわけフジは甘く、しっかりした食べ応えがある。そのうえ、すこぶる日持ちが良く、いろんな加工にも適してるのさ。別の土地で加工する時も輸送が便利だから、全土的に人気が高く強い支持を得ているよ。
オウリンは、その見た目がとてもユニークなんだ。赤じゃなくて黄緑なんだよ。凄いだろ? 苹果は赤——そんな概念を打ち壊してくるよねぇ。こっちも甘いし保存もわりと効く。香りが芳醇で、やや軽い食感って感じだが、フジと違ってこれは生で食べるのが一番だ。そんで、姫もそうなんだけれどね、苹果にそばかすみたいなポツポツしたもんが出てくるんだよ。その見た目、あの元気な姫を思わせるから、そういう意味でもこれは人気があるね。
苹果の中でも、とりわけ酸味が強いのがコウギョクだ。やや小ぶりで色が濃い赤をしてるから、見かけたら一目瞭然さ。こっちは生で食べるより……いやぁ酸っぱいからね? 木菓子として愉しんだ方がお勧めさ。煮詰めたり、砂糖で焼いたりとか。水飴にくぐらすのも、水菓子として人気だよ。
また機会があれば、講座を開いてやるよ。




