Chiffons au trésor
ーあらすじー
案内の約束を取り付けたケイジは、アンドレから人脈を広げようと画策する。
ケイジの思惑は上手くいくのだろうか。
少し進むと、一軒のパン屋の前で足を止める。
今は仕込みの時間なのか、従業員達は忙しなく動き回っている。
「すいません、レコレ修道院のものですが!」
アンドレが店の中に声をかけるが、聞こえていないのか誰も出てくることはない。
暫く待っても誰も顔を出さないのでアンドレがもう一度声を上げる。
「す・い・ま・せーーーんっ!!レコレ修道院のっ!ものなんですけどっ!」
どこからそんな大声が出るのか、普段の鈴を転がしたような声からは想像もつかない一面に開いた口がふさがらない。
すると店主と思しき女性がぬっと姿を現す。
その手には汚いボロ布が抱えられている。
「はいはい反応出来なくて悪かったね!レコレさんとこね!これいつもの入ってるから!持ってってちょうだい!」
アンドレにドサリとそれを手渡すと、忙しい忙しいとボヤくように呟きながら引っ込んでいってしまう。
「ありがとうございま……もう聞こえてないかぁ。ここの店主はいつもあんな感じなんです。まぁ、どこもそれほど変わりませんが。」
ドミニクにボロ布の塊を手渡しながらアンドレはそう零した。
「あの……これは?」
俺はボロ布を指差し尋ねてみる。
パン屋から廃品回収……というわけでもないだろう。
「あぁ、大したことじゃないですよ。仕事の1つです。」
煙に巻かれるような回答だ。
まぁ、俺が知る必要のない事なのかもしれない。
深く探りを入れて拒絶されてしまう方が今後に支障をきたすと考え、俺はそれで納得することにした。
◆
その後、他愛もない話をしながら数件のパン屋を巡り、同様にボロ布を受け取った。
あまりの多さに、ドミニクが大変そうだったので、俺とアンドレも少しずつ持つことにする。
修道院のある通りから宮殿と反対方向に進み、そのままノアの下宿の通りも回って広場に戻ってきた。
「さて、じゃあ、仕上げに3つの道の特徴をお教えしますね。」
アンドレは宮殿を背にして放射状に伸びる道の左側を指差す。
その先には、ヴェルサイユ宮殿には劣るが石造りの壁面に幾つかのアーチ型の窓がついた、豪華な建物が目に入る。
「左側は大厩舎や、貴族の館、ノートルダム教会なんかがあります。性質上、警備も多いですが、何もしなければそう危険な道でもありません。」
「なるほど、あの豪華な建物は貴族様の館ってわけですか。」
その豪華さに俺が得心がいったと頷いている。
ふとアンドレの方をみると、先ほどまで見ていた建物に目をやり、「あー」と「えー」が混ざったような、なんとも言葉にしづらい声を上げる。
「あれは、大厩舎の方ですね……。」
なるほど、あれは大厩舎……大厩舎!?
「人間よりいい生活してるじゃないですか!?」
アンドレが俺の口を慌てて塞ぐ。
近くにいた衛兵の方にゆっくりと目をやってみるが、聞こえていなかったのか大あくびをしているのが見えた。
アンドレが安堵のため息を漏らす。
ドミニクも緊張していたのか、表情が緩んだように見えた。苦しくなってきてモゴモゴと抵抗していると、手を離してくれた。
「すっ、すみません。不用意な事を口走りました。」
それを聞いたアンドレは、苦笑いを浮かべる。
そこには共感が滲んでるようにも見えた。
「無理もないです。あそこを設計したのは、何でも宮殿を設計した人と同じ方だとか。見栄っ張りと言うかなんというか……王国の移動手段は権威の象徴。その権威の象徴が普通の厩舎と同じでは示しがつかない、だそうですよ、さっぱり理解できませんけど。」
アンドレはまるでお手上げだとでも言うように肩を竦める。
あれを見てしまえば思うところは同じなのだろう。
贅沢の限りを尽くしていたのは知っていたが、まさか厩舎までとは思わなかった。
「さて、説明の続きをしましょうか。と言っても残りは分かってるかもしれませんが。」
俺はその言葉を引き継ぐようにして、真ん中の道と右の道を順繰り指差しながら特徴を述べてみる。
「真ん中がレコレ修道院に続く道ですよね。大体はこの道で事足りる。右側が、倉庫のある道、馬車の通りも衛兵も多くて基本的には避けた方が無難ってところでしょうか。」
アンドレは柔らかい笑みを浮かべ、拍手を送ってくれる。
「その通りです。右側は特に今は緊張状態になってますから、くれぐれも、通らないようにしてくださいね?」
片手の指をピンと立てたまま、ウィンクをするアンドレ。
俺が見惚れていると、その手を開いて、俺の前に差し出してくる。
「ここまでありがとうございました。後は我々だけで大丈夫ですから。それをこちらに渡してください。」
マズい。
まだ何も人脈に関する情報を得ることができていない。
しかし、今ここでマリーアントワネットに繋がる人物について聞くのもどう考えても怪しい。
まだ、離れるわけにはいかない。
「いや、手伝わせてください。案内してもらったお礼になるかは分かりませんが……自分に出来ることがあるなら、お返ししたい。」
アンドレとドミニクは顔を見合わせる。
しかし、すぐに2人とも頷くとこちらに向き直った。
「ノアさん、その気持ち、ありがたく頂戴いたします。やり場のない気持ちを抱えたままにするのもあまり気持ちのよいものではありませんからね。でも、手を怪我してるんですから無茶は禁物ですからね?」
ドミニクはそれを聞いて首が飛んでいってしまうのではないかと言う程に首肯している。
ボロ布を抱え直し、3人でレコレ修道院へ向かうのだった。
次回投稿 4/18 19時〜(予約済)
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