誓い
ーあらすじー
窮地に陥ったケイジを救ったのは、他でもない守ろうとした卑弥呼本人だった。
彼女に向けて声を上げるも、その声は無情にも泡となって消えてしまった。
卑弥呼に向けて伸ばした腕。
俺の目に移るのは、先程までのゴツゴツとした手ではなく、よく見覚えのある、か弱い現代人の手だった。
すぐに、絵に触れようとして気づいた。
「絵が……変わってる?」
俺の記憶にあったのは、暗い色合いの雁字搦めに縛られた少女の、胸糞の悪い一枚絵だ。
タイトルは『断絶』だったはず。
それが今は、一本の光る糸を大切そうに胸元に抱き寄せる絵になっている。
タイトルは……『一縷』?
「どういうことだ……?」
もう一度絵に手を伸ばすが、光が差すことはなかった。
――『チリーン』。
音に振り返ると、そこには壁に飛び込み姿を消した三本尾の銀狐の姿があった。
「お前……一体、俺に、何を求めてるんだ。」
俺の言葉に、答える代わりにそいつは俺に飛びついてきた。
瞬間、そいつは女性へと姿を変える。
その姿がどこか卑弥呼に重なって見えた。
「ひみっ……いや、違う。お前は……、なんなんだ!何が目的なんだよ!」
その女性は、俺の耳元で囁く。
「……ありがとう。彼女を助けてくれて。」
彼女の溶けるほど甘い声が、脳内に反響する。
言ってる意味が、理解できなかった。
「……何……言ってんだよ、俺は……助けられなかった。」
卑弥呼が、結局、どうなったのかわからない。
下手すれば、俺が介入したことであの場で命を落としてしまった可能性すらある。
そんな状態で『助けた』なんて……傲慢にも程がある。
思わず膝を落とし、座り込んでしまう。
僅かに視界が滲んでいることに気付いて、慌てて袖でそれを拭う。
情けない。本当に、情けなかった。
女性は離れると、そのまま目の前に佇む。
「いえ。貴方は救ってくださいました。彼女は納得して自分の道を選んだのです。だからこそ、道が閉ざされた。」
俺の背後にある絵を指差し、柔らかく微笑んだ。
そこには慈愛が浮かんでいる。
道が閉ざされた……。
卑弥呼は……あの結末に、満足したってのか。
「出来ることなら、望む通りにしてやりたかった。」
『普通の女の子』に焦がれた少女の絵を見つめながら、後悔が漏れ出してしまう。
「貴方が――それを望むなら――いずれは。」
女性の周りに光が満ちていく。
徐々に、光に溶けるように姿が見えなくなっていく。
「待ってくれ!俺はっ、――俺は、これからどうすればいいんだよ!」
挫けそうな心から出た、情けない一言だったと思う。
だけど、目的がないと、今にもぽっきりと折れてしまいそうだった。
「――神の子の心を救ってください。きっと貴方には、それが出来る。」
回廊に、どこまでも響き渡る声。
彼女の居た足元に目を向けると、銀狐が愛らしく座り込んでいた。
「心を救うってなんだよ……抽象的すぎんだろ。」
愕然としたまま、銀狐を見ていると、ちまちま歩いてきて俺の足元に擦り寄った。
「結局なんなんだよ、お前も。何もかも全くわかんねぇ。」
もふもふの塊を抱き上げ、そのまま後ろにドサッと倒れ込む。
「勝手に助けて、勝手に満足しやがって……。」
卑弥呼のふにゃっとした笑顔が思考の縁まで浮かんでくる。
天真爛漫な彼女のことを思い出して、それが段々と熱に変わるのを感じる。
「俺は歴史オタクだけど、歴史全部に納得してるわけじゃねぇ。」
身体を起こして、狐を下ろしてやる。
頭を数度撫でると、卑弥呼の絵の方に向き直る。
「今度は、俺が守るって、言えるようになるから。」
誰に聞かせる為でもなく、自分への誓いとして口にする。
俺の言葉の意味を知ってか知らずか、銀狐もそれに呼応した。
一体何が起きてるのか、なぜ俺じゃなきゃいけないのか、何もわからないけど。
俺にしか出来ないことがあるなら、やり遂げたい。
静かな決意の火種は、小さく、けれど確かに――。
――燃え上がり始めたのだった。
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