98.仕事が早い
「あ、おかえり」
「……!!」
いや、驚くどころではない。仮宿の扉を開いたら第二王子。
どんな顔すればよかったんだろう。たぶんイグルからしたら直立不動になっていたと思う。
「あ……ちょっと来るのが早かったか?」
「いえ……」
昨日の今日でという気持ちと、さっきまでイグルの実家にいた手前少し気まずくて言いよどんでしまった。気兼ねなく来てもらってもいいように力を渡したんだ。僕がこんな顔してちゃだめだ。
「歓迎します。……この場合は、ただいま?かな……」
「! そうだな。改めて、おかえり。お邪魔してます」
お互い笑いあいながら、きっとお互いむずむずしている。
おかえり、ただいま……こんなやり取り、自分がすると思っていなかったからどこか新鮮だった。シェリィラがいつも隣にいてくれるから寂しく思ったことはないけれど、直接話せないのは僕が慣れただけだったのかもしれない。
「あとこれは、よかったら食べてくれ。先日の食事の礼だ」
ぽんとテーブルに置かれた籠を覗くと、そこには果物の干物のようなものがたくさん入っていた。
「わぁ……こんなにたくさんいいんですか?」
「あぁ。私がこういう甘味を欲しがるのがまれで、料理長がたっぷり入れてくれた」
舐めても美味しいし、齧っても美味しいと聞くととても気になってきた。
一粒……食べてみようと手を伸ばそうとしたら、シェリィラの手が素早く伸びてぱくっと口に入れた。
どうやらお気に召したらしく、またイグルの頭を撫でていた。前回も怒られなかったし、シェリィラがここまで好意的なのも珍しいのでそのままにしておく。
「ん、美味しい。じゅわっと甘い……」
「だろう?この地域の名産品なんだ」
名産品と教えてくれたイグルはシェリィラに撫でられるのも気にしないようになったみたいで、いや少し耳が赤い気もするけど見なかったことにしよう。
保存にも適しているということで、ありがたくいただくことにする。
でも、正直イグルがここにいてくれて良かった。僕の考えたことと、協力してほしいことはどちらも早い方がよかったから。
「えーと、イグルがもし休憩で来たならちょっと話したいことがあって」
「なにも息抜きにだけ来たわけじゃないぞ。ほら」
畳まれた数枚の紙を手渡される。元の形に紙を戻していくと、そこには欲しかった情報が羅列していた。
ばっと頭を上げてイグルの方に顔を向けるとニヤリと返される。
「急ぎで欲しいのは、きっとこれだろう」
「さすが……!」
そこには求めていたグロッチの各拠点や、巡回ルートなどが事細かに書かれていた。お願いして一日の情報量とは思えず、きっとこれまでの情報も精査してまとめてくれたんだ。
さっき第二王子は幼すぎるからみたいな話をしていたけれど、いったいどこの誰が幼いんだ。
脳内で国王にまたきつく当たってしまった。でもこれはしょうがない。あまりにも有能な息子に気づけない父親が悪いんだから。
「……見て分かる通り、リノに言われてだけじゃない。いままでずっとグロッチを追っていたのは私の方で、今回リノから話を聞けたときは渡りに船だと思ったんだ」
眉間を狭めながら、ゆっくりとソファに腰をおろしたイグルは今日この仮宿に来た本題を話し始めた。
「星人に頼るほどの願いを持っている者がこの炎都にいる。そして、それを知っているのは星人と相棒の妖精と私だけ。私が持っている権力は一体いつ使う……と言いたいところだが、きちんと兄上には話してあるから勝手にやったことではないよ」
第一王子にちゃんと報告や相談もしていることから、イグルはしっかりと先を見据えて動いていた。
有能な第二王子を前に、僕はララナの相談と国王に会ったことの報告を含めて改めて行おうと決めた。




