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星人の旅路  作者: 華世
炎都ソルヤ

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96.後悔の果てⅡ

 僕はゼノのことを思い浮かべながらも、国王の話に再度耳を傾ける。


 「だが、私の浅はかな考えを見通したかのように妻は身籠り……そして子を産み、死んだ」


 国王はじっと自分の手を見ながら話していた顔を上げ、僕を見据えた。


 「私は、また、同じ過ちを犯したのだ。私は、妻に産んでくれた感謝を伝えるべきだったのだ。それなのに、私は……」


 僕は、次の国王が言おうとしている言葉が分かりぞっとした。きっと彼は……


 「また、魔力がない子か」と。


 国王はどれだけ王妃を傷つけたのだろうか。僕には分からないほどの重責を持った女性が、命を懸けて産んだ子を……一度目の失望から二度目の失望を目にした彼女はどれほどの想いを抱えたのか。

 「私は、無意識だったのだ。むしろそう言ったことさえ覚えては…、いや言い訳だな」


 そして彼女は壊れたのだ。

 そう呟かれた言葉に僕は、嫌な予感しかしなかった。

 イグルから聞いた話では、母の命を奪って生まれてきた……確かそう言っていたはず。でも、国王の話では自らの言葉で傷つけた…?


 国王はそっと息を整えて、真実を語り始めた。

 「……私が無意識に言った言葉に、発狂した彼女は……産んだ子を殺そうとしたのだ。泣きながら、懇願しながら」


 『ごめんなさい、わたしが悪いの、だからわたしが産んだこの子は生まれてこなかったことにするの。あなた、また、またわたしがんばるからごめんなさいごめんなさいもういちどわたしにだって………だって……こんな子アイせないでしょう?』

 

 「いまでも目を閉じれば、彼女の悲痛な声が聞こえ、そして、私は……彼女を手にかけるのだ」


 ……王妃が壊れたのは国王のせいで、イグルを助けたのは国王だった。つまり、国王はイグルを産んで亡くなったとされる王妃を、イグルの為に手を汚したということだった。気づけば僕の手を握っていたシェリィラが、国王を静かに見ていた。

 

 「私は、彼女の言葉を聞いて、初めて自分が子供たちを愛していなかったと理解した。いや、させられたと言うべきか」

 まるで王妃の声を思い出しているようだった。


 「いつの間にか、私は魔力がないと愛さない男と思われていたようだ。それも、視野が狭くなっていた私にはなにも言えぬ。孤児を連れてきて楽しそうに過ごしている姿を見ていた彼女はきっと気が気ではなかったのだろう」


 城の中で見えてしまう国王とゼノの姿に彼女は何を感じたのだろうか。

 

 「私はどこか彼女に甘えていたんだろう。ずっと隣にいてくれる存在として。何をしても許してくれる存在なんているはずもないのに」


 国王は彼女を、きっと愛していたんだろう。今の表情を見れば分かるけれど、きっと彼女にはそれが伝わっていなかった可能性もある……と思ってしまった。

 

 「彼女のことや、生まれた子のことで慌ただしくしているうちに、城に連れてきた少年もいなくなっていたのだ。ただ、私はしばらくそのことにも気づかないぐらいでな。 ようやく落ち着いた頃にいなくなったことに気づき、あぁ、いないのか。そう思っただけだった」

 

 どこか遠くを見つめながらも病に侵されているとは思えないほどの意思を感じさせられた。


 「彼女を追い詰めてしまい、私は心を改めるべくして子どもたちと関わろうとした。……関わろうとした矢先に、この病を宣告されたのだよ。分かるか?星人よ」

 

 分かるわけがない。僕は国王と違う、一人の人生を同じように体感しようなんて無理で、理解できることではない。

 分かっているはずなのに、そう聞く国王は意地が悪いんだろう……。


「魔力を有する者には有名な病だった為、私は、絶望しかけた。けれど、まだ幼子であった子供たちにこの荷を任せるのは重すぎたのだ。そうして私は、禁術に手を出したのだ」


 分かっていながらな。そう自嘲気味に笑う国王に、僕はなにも言えなかった。

 禁術は、禁術たる理由がある。限りある命を大切にすることこそが人間の生きる道だ。

 そう星人の僕が考えるのも、ある意味皮肉じみているのかもしれない。

 

「そうして、私はすぐさま赤子ではない第一王子に後継者を決め、病の件も話し少しずつ引継ぎをし、やりきれなかった治世を後世に残らないように尽力しはじめ——」


 突然ぐっと国王の襟首が締まる様子が見えて、青ざめた。

 

 さっきまで隣にいた相棒がいつの間にか国王に迫っていた。

 

 「あ、ちょっ、シェリィラ!……見えて、見えてないからっ!」


 こんなにも感情を露わにしている相棒も珍しいと思いながらも、焦って手を離させる。

 国王陛下の襟首を掴むなんて、さすが僕の相棒だとしか言えない。いや、僕もすごく憤っているけれども……!


 「これはいったい……?」

 急に身体が動いて困惑している国王に必死に言い募る。

 

 「ぼ、僕の相棒の妖精がちょっと言いたいことが、あるみたいで、突然……落ち着いて、伝える、伝えるから!」

 どうやらシェリィラは国王の前に姿は現したくないようで、まぁ気持ちは分からなくもない。たぶん、自分の姿を見せる価値もないと思っているんだろう。


 「なんと……」

 ぽかんと目を丸くした国王に伝えるべく、そしてシェリィラが暴走しないように彼女の手を握る。

 

 「えー、えーとですね、僕も相棒も思っていたんですが、あの、王子たちに圧倒的に言葉が足りませんよね?きちんと会話すべきでは?」

 親子なんだから。そう伝えたかった。僕も相棒も。ずっと。

 

 「少ない……?しかし、もう私は長くない。長くなければやることは限られてくる。急いでしなければいけない政務に引継ぎだらけだ」

 「それです」

 「む?」

 僕はその引継ぎという言葉に反応して思わず前のめりになる。


 「あなたは、……後継者とする第一王子を要にして引継ぎをしているようですが、」


 国王の話を聞いていて、ずっと思っていたことを聞く。だって一度も彼の名前が出てこなかったから。いつか、いつかと思っていたのに。


 「第二王子には、何か伝えていますか?」


 

 あなたの、父親の心配をしている息子を、あなたは覚えているのか?

 それは、僕が一番聞きたかったこと。

 

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