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星人の旅路  作者: 華世
炎都ソルヤ

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95/107

95.後悔の果てⅠ

「魔力動欠損症は確か……発覚してから長くても三年ほどしか生きられなかったはずです」

「存外、知見が広いのだな」

「…………十年以上も欠損症で生きているなんて、あなたは一体なにをしたんですか」


「この炎都にいれば伝え聞いているかもしれぬが、私の一番得意なことでだよ」


 国王の才能は炎都を歩けばありありと分かる。つまり魔法だ。

 そして十年以上もこの国王は、自らの寿命を魔法で延命し続けているという事実。


「禁…術……だ……」

「そうだな。こればかりは致し方なかった」

 

 ……致し方なかった?これは、そんな言葉では片づけることができない禁忌だ。何人も、命をぞんざいに扱うことなかれ。この世界の理だ。国王は自分の生への価値を自ら歪めている。そうか、だから、だから星神がシェリィラになにも伝えなかったのか。僕は星人として、いまこの場ですべきことは、本来国王の命を奪うことなんだろう。

 こんなことなら会いたくなんて、なかった。でも、でもそうしたらイグルの、イグルの願いはどうしたら。僕はいったい……どうしたらいいんだろう。

 無意識に俯きながら手をきつく握りしめ、そして思考はぐるぐると回り続ける。

 この炎都での願いは、……僕には荷が重すぎる。

 

 誰も声を上げないこの室内で、そっと手を握られた。

「……シェリィラ…」


 声が震えた。

 

 少し離れている国王には聞こえないぐらいの声量で、僕は相棒の名前を呼んだ。彼女が、僕にだけ姿を見せて手を握ってくれる。

 僕たちは、『相棒』で、一人で抱え込むことじゃない。そんな優しい言葉が胸に染み込んだ。

 

 ゆっくりと深呼吸をし、心を落ち着かせる。

 僕は、問い、考えなければならない。

 それがきっとこの願いの先に繋がるはず。


 「あなたは、……失礼ですが、禁術を使うほど生に執着しているのですか?」

 「……私も本来であれば禁術など使いたくもない。だが、この病になるのが若すぎた。これは自分が愚か者であった罰であり、戒めでもあるのだろうな」

 

 罰と戒め……国王のことをよく理解していない僕では、彼の心のうちは読み取れない。

 政治手腕もあり、治世もよく、魔法の腕はこのあたりで負けることがないほどという欠点があまりない評判だった。

 

 僕が考えていると、国王はゆっくりと語り始めた。


 「私は……この病になってから、後悔ばかりが思い浮かぶ」


 小さく苦い痛みを抱えた声だった。

 

 「自分でいうことでもないが、若い頃はそれなりに才もあり、見目もよく、早くに亡くした父母の代わりの統治でもさして苦労はしなかった。私のこれらの自信の根源は、全て魔力の多さと魔法の多才さにあった。魔法が得意という一点だけで私は自分を形成してきたといっても過言ではない。……過言ではなかったからこそ、後継ぎが産まれた時の落胆は激しかった。何故、どうして自分の血を分け与えているはずの子が魔力を持っていないのか。頭では分かっていたのだ。魔力を宿して生まれること自体が珍しいことも、妻も悪くないということを。ただ、魂が、私のいままでの矜持が、受け入れることを……拒んだ。ゼイノーアに会うことも、あまりなかった。後継者として、次期国王としていなくてはいけない息子であったのだ。ゼイノーアも物事が分かり始める頃には周りの空気を読み、私の機嫌を伺い、話すことも必要最低限以外はほとんどなかった。そしてそれにほっとしている自分がいたのだ。最低だろう」


 僕は、黙って彼の言葉を聞くことしかできなかった。


 「そしてある日、私は出会い見つけてしまったのだ。私の、この私の、魔法の後継者を。

 その少年は孤児であったが為に、全てに貪欲だった。そして魔力のある私が見ても一目で分かるほどの魔力量であった。私は大いに神に感謝した。私のもてる全てのことを後世に伝えることができる、そう思ったのだ。少年は本を読み、知識をつけ、そして私から魔法を習った。その才能は、その少年の頃の私よりも遥かに高く、そしてまた歓喜した。教えるのが楽しくて、嬉しくて、私はいつの日かその少年を養子にしてもいいと思えるほどであった。城に連れ帰り、礼儀作法も教え、魔法の実技や論議で花を咲かせた。政を担う国王としての役目があったために魔法を使う頻度が少なくなっていた私にとって、唯一の癒しともいえる時間であった」


 僕は国王の話を聞きながら、類似点がありすぎる彼のことを思い出していた。

 

 そう、砂上図書館の彼。ゼノだ。もしかしなくても、彼の恩人であり魔法の師は目の前で語っている国王ソディルアでしか考えられない。

 ゼノから聞いた印象とは違うように見えたけど、ゼノが楽しかったと思えるほどにはいい関係を国王と築けていたんだろう……。

 そして会えないけど、生きているのは知っている……確かゼノはそう言っていたはず。つまり、自分が制約で出られない、そして国王が死んだら当然周囲の話題に上がるはずだから生きていることは知っている、と……そいういう意味だったのか。

 

 ゼノは二年ほどお世話になって独り立ちしたと言っていた。だけど国王がここまで手塩にかけた彼が消えてすごく驚いたんじゃないだろうか……


 

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