93.病名
あなたの願いを叶えるために来たわけじゃない、そう言ってから自分がどこにいるかを考えるとあまり説得力がない言葉だった。
「……では、そなたはなぜ、ここに?」
……どこまで話をするべきか、イグルのことを言ったとしてこの親子関係がいまいち分からない。イグル本人は嫌われていると思っているみたいだったけれど、その状況も含めて本人の口からちゃんと聞きたい。
叶うなら、そんな不仲説が噂だけでありますように。
「あなたの体調を心配している人がいるからです」
「私の心配というと、……ゼイノーアか?」
ゼイノーアという名前は炎都のそこかしこで囁かれていたので聞き覚えがあった。第一王子の名前だ。
民からの支持も厚く唯一の欠点といわれる魔法が使えないところも、頭の良さで補っているため後継者として期待が高いようだった。
一番初めに第一王子の名前が出るということは、第一王子と侍医だけが交流しているということからも容易に考え付くことだったけれど、少しはイグルからだと思わなかったんだろうか。いや、そんな交流もないのか。
このまま話しても、長引くだけで国王の体調を考えると僕が彼を害しては本末店頭だ。率直に聞くべきことを聞いて相棒と相談するしかない。相棒にはそっと目配せだけして本題に入る。
「あなたの……病名はなんですか?」
「違ったか?侍医……ではないな。彼はこの状態を一番知っているからな。……そたなには話しても問題はないだろう。見えぬのだからな」
そんな前置きを並べられたとしても、軽々しく国王の病名を僕が口にしたりするわけがない。それこそ機密情報を知ったとかで国から追われたくないけれど、そもそも見えることが少ない僕を見つけ出すのは困難だ。国王も星人を探し出せなんて無茶難題を言わないだろう。
星人も万能ではないのだな。見ただけで分かるかと思ったが、とそんな軽口を挟みながら彼は病名を告げた。
"魔力道欠損症"
その病名を。
「…………いつ、いつ発症したんですか」
「いつだったか。…………10年は前か」
僕は、自分の顔が青ざめて鼓動が速く脈打つのが分かった。国王が僕を見えるということもこれではっきりと納得した。いや、納得できてしまった。
魔力動欠損症は、魔力があるものでも滅多にかからない珍しい病気だ。
魔力を扱うための器官が突如として消え、体内に留まっていた魔力を操ることができなくなり、溢れ、魔力中毒症状を起こして死んでしまう。魔力がある医者にかかった場合、気づくことができたとしても余命宣告をされると聞く重い病気だ。
国王はなんらかの方法で寿命を延ばしている。
そして、それは生への執着なのかは分からないけれど、僕をはっきりと認識できるほどの強い願いという意思があるから。
だから今、こうして話せて
生きている。




