91.イグルの父親
国王の護衛であるらしい青年の後を静かに追いながら、言いようもない胸騒ぎを感じていた。
星人のポストに届くぐらいの願い。それが"休んでほしい"だけとは到底考えられない。だから、確かめる必要があると思った。そうしないといけないし、前に進めない。それは僕自身と、イグルにとっても。
目の前の青年が厳かな扉の前で同じ制服の近衛だと思われる人物と引き継ぎのような会話をしている。
聞こえてくるのは特に変わりなし、ということ。
この扉をどう開けるか。ここにいる彼らは願いが強い。それは国王を守ることを任務にしているからだ。ただそれは自分自身の欲のような願いというよりかは使命感や責任感といった仕事と紐付いている願いだろう。そういった願いは相棒の力によって意識を一時的に反らせることができるのでお願いしておく。
あとは扉の開閉が目立ってしまうので、そこをどうするかだ。
タイミングが掴めずしばらくは扉が見える範囲で離れて息を殺して伺っていた。
しばらくすると、老齢な男性がワゴンで食事を運んでいる姿が見えた。
風貌からすると、国王に会える数少ない人物、専属の医者だと思われる。
この機会を逃せば扉の向こう側にいつ行けるか分からないので、そっと男性の少し後ろで一緒に入らせていただく。
扉を守っていた2人の護衛は、きっといつものようにサッと扉を開いて食事を運ぶ医者を主人の元へ招き入れた。自分たちが決して入ってはならない扉へと。
扉の向こう側は応接室のようで、国王はそこにいなかった。
侍医は少しも迷いを見せずに更に奥の扉へと向かう。きっとそこに国王がいるのだろう。
侍医は扉の前で五回叩いた。それが合図のように、滑らかに扉が開かれた。その滑らかさはあまりにも不自然で、まるで自動、勝手に動いたといっていいだろう。
「陛下、お食事の時間ですぞ」
「……もう、そんな、時間か……」
国王のいた場所はやはり寝室だった。
部屋に入ったと同時に僕は端に寄り、2人のやりとりを観察する。
国王は……想像していたよりも遥かに体調が思わしくない風貌だった。頬はこけ、腕も細く弱々しい。きっと脚も同様だろう。ただ、目だけはギラギラと生気を感じさせられた。
一瞬目があったかと思ってビクリと反応してしまったけれど、そのまま侍医と話しているので僕の勘違いかもしれない。
ただ感じるのは、只者ではない……為政者の覇気のようなものを感じる。
侍医は食事を国王の口元へと一口づつ運んでは、咀嚼するのを確認してまた一口、そうして何度も繰り返す。
自分で食べられない、ということではないのだろう。国王の手には常に書類が握られている。
仕事?をしているのだろうか。
この状態で?
食事を半分ほど終えたところで、もう食べられないと判断した侍医が部屋から下がるように片付け始めた。
ここから出られなくなると困るのは僕自身で、扉の開閉も見られずに行うのは難しい。ここは一度、侍医と一緒に退散することを考えていた時、鋭い視線をベッドから感じた。
……その方向には一人しかいない。やはり先ほどの目があったのは勘違いじゃなかったということだ。
見つめられて立ちすくんでいる間に侍医はいつのまにか部屋から下がっていた。
静かになった部屋に、国王と星人と妖精。
誰も話さない……そんな静かな空間がざわついた。
「そなたが、星人……か」
僕が見える。
驚きもしない。
これが国王という人物か。
「驚かないなんて、さすが国王陛下ですね」
「いや、正直驚いているよ……」
「……ただ、見ての通り、驚く体力もないのだ」
そうベッドから力なく笑う国王は、イグルの父親なんだと分かる、そんな似た笑い方をしていた。




