90.イグルの思いつき
投稿して一年が経ちました。
連載が止まっていて申し訳ございません。
今後ゆっくりとですが再開していきます。またどうぞよろしくお願いいたします。
護衛のギャランは自分の仕事をする場所に着いたのか、立ち止まってもう一人へと話しかける。
「お前も休憩は終わりだろう?しっかりやれよ」
「無事なお姿を見たいんだがな」
苦々しげな表情で彼は小さく呟いていた。
「まだお姿を見せてはくださらないのか?」
「あぁ。……最近は侍医だけだ。食事もなにもかも侍医が持っていくという徹底ぶりだ」
小声でのやり取りは続く。
イグルの話も嚙合わせると、どう考えても彼の父親、国王のことだと分かる。
確か付き添いされている姿を見たとイグルは言っていたけれど、そこから事情が変わったのかもしれない。
国王が部屋から出ない。そんなことが起こる何かが。
「殿下も心配されている」
「あぁ。誰しもそうだろう。何もできずただ扉を守るだけなのがこんなにももどかしいとはな」
意気消沈している青年にギャランは肩を叩いた。
「それでも、分かっているだろう」
「お守りすることの誇りを、だろ」
「頑張れよ」
「そちらもな」
彼らの話が終わり、ギャランと別れた青年は国王の守りへと戻るようだった。
僕は、イグルの願い事を考え、そっと青年のあとを追うことにした。
◆
「……終わらない」
窓から入る太陽の光が徐々に弱くなりつつあり、そっとランプへと火をつけていく。
その動作が書類仕事の息抜きになるぐらいには疲弊しているイグルだった。
星人に手紙を書き、ポストに入れてからというもののイグルは毎日のように水管へと出向いていた。
もうすがるものがそれしかないというかのように焦りが先行していた。
そうして夜中に出歩いていた皺寄せがここ数日の執務を圧迫しているのは歴然だった。
積みあがる書類の山。長兄の仕事の手伝いを申し出てからその書類の山は増える一方だった。
「兄上のほうが大変なんだ。私が弱音を吐くわけにはいかない」
そう自ら言い聞かせながら、一枚、また一枚と紙の山を減らそうとペンを走らせる。
黙々と目と手を走らせるイグルが頭の片隅で思うのはリノが言ったグロッチという組織のことだった。
その組織は、炎都に蔓延る膿のようなものだと誰しも認識していた。
主に聞くのは詐欺に恐喝、それらを警備兵の目をかいくぐりどんどん大きくしていった組織だった。
国王、長兄ともに、イグルはグロッチをどうにかしなければ炎都としての機能が正常にならないと提言していた。
しかし、国王と第一王子には優先しなければいけない国政がたくさんある。
グロッチの件は議会にもあげていたが、常に後回し案件だった。
そして、ここにきて星人のリノからの言葉である。どう考えても、星人への願い事がイグル以外にもありそれがグロッチと関わっているのは明白だった。
(グロッチは私がずっと解決したいと思っていた事案だ)
ずっと第二王子殿下はまだ幼いのでそのようなことは考えるなと言われ続けていた。
星人に届くほどの願いがある、国民の緊急事態だ。
それを知るのはイグルしかいない。期日もあるという話だった。
やることは一つだろう。
そしてちょうど目に留まった書類はグロッチへの警備強化の為に派遣した警備兵からのいくつかの報告書だった。
治安維持のためと嘘ではないが、報告書も必須で指令を出したのが功を奏したのだろう。
書類に目を通しながら、この内容であればリノに早めに知らせるべきだと目算する。
執務机の書類の上にはまだまだ山のような未処理案件の書類がある。
今夜は気合を入れよう、そう考えながらイグルは今から警備やギャランに見つからないように仮宿へと向かう道筋を考えるのだった。




