105.父とは
ゼイノーアからの話は業務の引継ぎがどのようなものかが多い。しかし、リノから聞いたことを思うと今回はもしかしたらと期待する自分もいる。
「父上からわたしたち二人に話があるようだよ」
「……!」
やはり、という気持ちとゼイノーアから直接言われたことにより、脳がじんわりとこれが現実だと伝えてくる。
「父上が……」
「そう。……わたしからしたら今さらなんだというか、ね」
「久方ぶりにお会いできるので……それだけでも嬉しいです」
ゼイノーアは少し不服そうだったが、イグルニアは顔を見ることができるだけでも嬉しかった。半年も会っていないのだから。
「……イグルニアは父上のことをどう思っている?」
ゼイノーアから父のことを聞かれるとは思ってもみなかったので、回答に少し悩む。
炎都の治世は歴代随一と言われ、魔法の腕も誰の追従をも許さない。そんな完璧な印象だった。願うならば、もう少し家族としての時間が欲しいと思わなくもないが、母親の命を奪った自分を生かしてくれているだけでありがたいとも思っている。
「あまり個人的なお話はしていないので……難しいですが、とても国王らしい人だとは思っています」
「……そうだね。確かにあの人は国王になるべき人だったんだろう。ただ、……父親ではないよね」
「……」
ゼイノーアの言うことはもっともだった。きっと放任主義もいいところだろう。
「イグルニアは、私が父上から引継ぎを行われていてズルいとか思っては……いないと思うけど、そんな感情すらいらない。だってあの人との会話は本当に引継ぎだけだからね」
イグルニアはゼイノーアが国王ソディルアと引継ぎの場で会えるのは羨ましい気持ちが少なからずあった。しかし、ここまではっきりとゼイノーアが口にするのも珍しく本当に雑談一つもないのだろうと察せられた。
「イグルニアは、もっとわがままを言っていいんだよ」
「……それは兄上も同じでは?」
「「……」」
ついお互い同じことを考えていたようで無言で見つめあっていた。
「ふふ、お互い何を言われるか楽しみにしようか」
「はい。そうですね」
どんな話をされるのだろうか。今まで三人で会うことは公務のみで、公務ではない呼び出しなんて初めてだ。
リノからはリノと父が話した内容を直接教えてもらえるということだった。一体なにを話していたのか。リノの表情からはあまりいい話ではないようにも感じたが、リノは儀式もできるように考えてくれている。その話し合いの場にリノも居てくれたらと思うのは贅沢なことだろうか……そう考えてしまう。不安なのかもしれない。親子三人で会うことがこんなにも緊張するなんて思ってもみなかった。
「それで話し合いの日程だけど……本当に珍しいんだけど、いつでもいいらしい。その時間は調節してくださるそうだ」
「それは、なるべく早めの方がいいということですよね」
「……そうだね、今すぐという訳にもさすがにいかないから、イグルニアは今日のグロッチの件が終わり次第城に戻るだろう?それを見越して本日の夜で組んでもらおうか」
今日のララナと姉の件をリノと協力して解決するまではイグルニアも落ち着かない。ゼイノーアからの提案は願ってもないことだった。
「そこまで考えていただきありがとうございます。では、本日戻り次第ご連絡いたします」
「分かった。大丈夫、一緒に行こう」
「……ありがとうございます」
どうやら兄には弟の不安を感じ取られているようだった。
グロッチの件もだが、父のこともこんなに早く事が進むとは思っていなかったので、城に戻るまでにしっかりと心の準備をする必要がありそうだった。
そのためにも、まずは炎都の民を救いださなければ。星人に願うほどの行き場のない気持ちをもつ者同士。必ず救わなければ、自分のこの気持ちもきっと救われないだろう。
自分自身の行動に胸を張れるように。
自分はこの炎都の第二王子なのだから。




