104.友の助け
昨日リノに伝えた兄上には話してあるから、は嘘ではない。嘘ではないけれど昨日の今日で計画がこんなに早く実行に移せるとも思っていなかった。
「もちろん、駄目ではない。昨日も、近いうちにという話だったからね」
「急なのは重々承知です」
「王族を動かすほどの案件なのかい?私兵の誰かに命じてもいいと思うけど」
自ら私兵とともにグロッチの拠点へ行きたいと伝えたところ昨日も同様に渋られた。ゼイノーアの考えはもちろん、イグルニアに危険なことをさせたくないの一点だ。
「もちろん身分を明かすことはしませんし、きちんと顔を見せないようフードもマントも被ります」
「そうではなくてね」
「兄上」
イグルニアはじっとゼイノーアの瞳を見つめる。同じ小麦色の肌に錫色の髪。髪の長さは極端に違い、イグルニアは短く切っているがゼイノーアは腰に届くほど伸ばし、先で軽く結んでいる。成長して髪を伸ばしたら兄のようになるだろうかと頭の片隅で思いながらも、星人とその手紙について全て言うことは憚られる。自分自身もリノに手紙を出した手前、詮索されたくない事柄でもあるからだ。
「私は、友の助けに自らなりたいのです」
「……友、ね」
確実に疑われている。イグルニアには親しいと言える友人はほとんどいない。むしろ王族の自分に身分差が確固としてある世界で友と呼んでいいのか分からない者がほとんどだった。そのイグルニアが自分から"友"と言ったからにはゼイノーアが訝しげにすることもイグルニアには分かっていた。
すっと立ち上がり書斎の扉の方へと進むゼイノーアは自ら扉を開き護衛の任についていたギャランを呼んだ。
「ギャラン、イグルニアの友という人物を知っている?」
「……は?友、ですか」
突如書斎に引き込まれたギャランは急に問われた言葉に上手く反応ができなかった。友という言葉を反芻してから、そっとイグルニアの顔を見る。
「……」
「殿下の友とは、……あの?」
ギャランは姿を見ることができない幻の存在、星人のことが頭によぎった。先日の帰り道に友になったと嬉しそうに話していたのを確かにこの耳で聞いたからだ。ただ、それをゼイノーアに言うには躊躇われた。自分が見えない人物を信じていいかも分からなかったからだ。
「……確かに、ご友人の話は……聞いております……」
イグルニアのまっすぐな眼力にひるんだわけではないが、嘘を言う人物でないことも、イグルニアが自分の目の前で突然消え、突然現れていることを経験している身であれば、星人がいることは嫌が応にも信じることしかできない。
ゼイノーアの弟ということも、これまで自分が仮の護衛として従ってきた姿からも、イグルニアの誠実さは分かっていた。だからこそ、ここで友など見ていないなど傷つける言葉も言えなかった。
「そう……」
ゼイノーアは微笑みながらイグルニアを見つめる。
「友人ができたんだ。おめでとう。……今度紹介してほしいな」
「……はい。また……」
心の中では機会があれば、と付け足していた。まず兄が星人が見えるのか分からなかったため安請け合いすることもできない。正直に言えばとても自慢したかった。自分と同じぐらいの背丈をし、美しい女神が如く女性を相棒と呼び、自然にこの世界をあるがままに生き歩んでいる彼を。
「ギャラン、戻っていいよ」
「はっ」
素早く敬礼し、書斎から出て元の位置で護衛に戻るギャランを見ながらゼイノーアは言った。
「疑って悪かったね。ギャランも人が悪いよね。そんな報告聞いてなかったから」
「いえ、……ギャランは悪くないです。あと恥ずかしいですから……」
ギャランが報告しなかったことも頷ける。星人が友人です、だなんて信じられるわけがない。むしろギャランがどこまでゼイノーアに報告しているかをあとで問いただそうとイグルニアは思い留める。
「つまり、イグルニアの友がグロッチ関係で困っているということか」
「……はい」
実際にはララナだが、ララナとその姉の処遇に関してイグルニアには既に考えがあった。わざわざ兄の目の前で話すと、女の子?と話がややこしくなるため、全て終わった後に報告することにする。
「昨日の話だと、いままで集めた資料から拠点を絞ったまではいいけど……一部を捉えるだけでいいのかい?」
「今日は一部だけで。後ほど早急に残りも捕らえます」
「逃げられないようにだけはしないといけないよ」
「はい」
確かに、複数ある拠点の中で一か所だけを潰してしまえば情報が拡散され逃げられる確率も上がる。しかし拠点が分かり、動くことが具体的になった時点で炎都の魔法師団に協力要請済みだ。逃げられないよう既に包囲網はできている。
「それで、今日捕らえなければいけない拠点は決まっているのかい?」
「それは……合図を待っているところです」
「?そう……そこまで考えているなら、いいよ。私兵を動かすことを許可する」
「ありがとうございます」
ゼイノーアはきっと魔法師団や私兵からの合図だと思っているだろう。六箇所ある拠点ではどこにララナの姉が囚われているか分からない。そこはリノが分かり次第合図を送ると言っていたから信じるしかない。きっと彼ならどうにか分かるんだろう。合図もどうくるか分からない……なんとも不思議なものだったが疑う気持ちも持てなかった。
ゼイノーアがその他にも複数の権限を与えてくれたため、身分を隠すにしても動きやすいように配慮してくれた。
「イグルニアの話はこれぐらいかな?」
「はい。ありがとうございます。兄上」
ひとまず、計画通りに動くことができそうで張りつめていた息をイグルニアはそっと吐いた。
「では次はわたしからの用を話そう」




