102.地図と叶え石
ララナを連れているので僕たち三人は慎重に行動する。
ひとまず、下見しておいた人通りが少ない路地まで行き細かく説明できていない部分をララナに話すことにする。
「ここは人通りが少ないから、いったん休憩。お疲れ様」
「はい……すごく緊張しました」
ララナと小声で話しながら、相棒にはこの路地周辺を気づかれにくくしてもらうよう願いする。
少し息を整えているララナを待って、この路地に来た目的を伝える。
「計画の要点だけは話したけど、これがグロッチの拠点」
二つ折りにしていた紙を広げて見せる。
「六箇所……そして位置もかなりバラバラですね」
六箇所に丸がつけてある手書きの地図は、イグルが長年グロッチを追ってきた努力の成果だった。拠点自体はもっとさくさんあるらしいけど、基本的には倉庫だったりで使用頻度が低いらしい。主に最近使用されているところを重点的に調べて六箇所まで絞ったものだ。
「そう。最近使われている拠点はこの六箇所が中心らしい」
「東西南北に分かれているので、全部回ってどう確認するのか……ですね」
その間にいなくなったことがばれないか心配だと呟くララナに僕はしっかり安心させる。
「前に話したときは、明日の夜儀式を行おうって話したよね」
「あ、そうでしたね?でも今は朝ですし、約束の日でもないから……?」
「うん、ここまで情報が出そろっているから、今回は明るいところでも大丈夫だと思うんだ」
だから人の少ない路地まで来たと言ってもいい。
「儀式?をするのですか?」
「大々的にしなくても大丈夫。むしろ今回は小さい方がいいかなと思ってもう書いてきたんだ」
いつもは儀式の模様を物理的に地面に書いたり、紙に書いたり。そしてその上に乗ってもらうのが僕の基本的な儀式のやり方だった。ただ今回、星の力を借りるのは小さくてもいいと判断した。それよりも早く行えること……だから手のひらぐらいの大きさにした。刻んだ文言は行方、導、の二つの刻印。ララナの姉の居場所を教えてほしいだけの簡易的な模様だ。
「なんだか不思議な模様です……」
「基本はもっと大きく書くんだけど、そんなに力があっても過剰になる時とかはね。これぐらいでいいんだ」
ララナには手を下向きに、上を向いている手の甲に模様の紙を置き、もう片方の手をその上から覆うようにして重ねさせる。
「じゃあ手を僕からも握るから目を瞑って」
「は、はい」
ララナの重なった両手を手のひらで上下から挟むようにして握る。視覚情報がないため、ララナが緊張しているのが見て取れる。
「ララナ、目を瞑ったまま……強く思って。お姉さんのことを。その気持ちを。……そしてララナが今後どんな選択をしていくか。未来の自分の行動を考えて。君はいままで何を思い、どう感じて、これからどうしたいか。その想いを全部」
じわじわと手に願いが凝縮されていくのが感じる。ララナとお姉さんにとって、幸せな未来が来るように。僕たちもその願いを星へと届ける。
相棒と頷きあいいつもよりも小さく言葉を発する。
『エティリオス』
晴れた朝空には分からないぐらいの光が、僕たちの手から上空へ向かって細く伸びていく。
少し経ってからララナには目を開けていいと伝えゆっくりと僕は握っていた手を放す。
「……終わったんですか?」
「うん。上の右手をゆっくり外してみて」
「?」
そろりと左手の上に重ねてあった右手を持ち上げるようにすると、そこには小さな石が、なかったはずの物がある。
「わ……」
その意思を親指と人差し指でつまみながらもきょろきょろとあたりを見渡しているララナを相棒と僕、二人で微笑んでしまう。
「それは叶え石という石だよ」
「かなえいし……」
「そう、ララナの願いを星が聞き届けた証拠」
「じゃあっ、これがあれば姉を救えるんですか?」
「これはね、こう使うんだ。叶え石を地図の上に持って」
ララナは言われた通りに先ほどの指でつまめる大きさの叶え石を地図の上にかざした。
「……なんだか、温かい?」
「そう、この六箇所の上を順にかざして」
今回は温かいのか……と思った。星の力は様々で、たまに熱かったり冷たかったり、変わった色になったりする。今回は無色透明で温かくなる叶え石のようだった。
「この辺りが……特に温かい気がします」
「西の奥側だね。ここには六箇所の場所のうち二つの拠点がある」
地図で見ると今いる路地よりもララナの家の方向のもっと奥だった。少し戻ることになるけど方向が掴めただけ動きやすい。
「じゃあララナ、もう一度ゆっくり叶え石が指した方向に行くから、シェリィラと手を繋ぎながら、片方には叶え石を握っていて」
「わ、分かりました」
「叶え石になにか変化を感じたら教えてほしい」
「はい」
静かに、朝の雑踏に紛れるかのように路地から出た。後ろからはしっかりとシェリィラとララナがついてきていることを確認し、西の方向へと足を運んでいく。




