101.窓からの脱出
すーはーと大きく胸を膨らませて深呼吸するララナ。
いつもは無機物の軽いものにしか守護の魔法をかけていないということから緊張しているんだろう。
「大丈夫。守護系の魔法はかけても苦しくなったりしないから」
そう安心させるように伝える。正直に言うと魔法のかけすぎで具合が悪くなったり、いろいろ使い方はあるけれどララナは知る必要がないだろう。
「ど、どれぐらいかけますか?」
「……いつもどうやってかけてる?」
「わたくしは……えと、お恥ずかしながら独学ですので目的地や宛先の人物まで開くな~と念じる感じで……」
うん。思ったよりも力ずくだった。
本来であれば魔法は専門の人から習うのが暗黙の習わしである。今回に限っては時間もないことから、少しだけ助言をする。
「じゃあまずは、ぼくたち三人。初めてだからまず手を繋ごう」
「は、はい」
「自分の手から魔法を隣の人に伝わせる感じ。分かるかな?」
ララナを挟むように僕と相棒が彼女の手を握る。
「ううん……」
「じゃあ次は手を見て。自分の両手と、そこに繋がっている僕とシェリィラの手を」
僕と相棒は分かりやすいように少し手を上にあげる。
「そこから……そうだなぁ、薄い膜みたいなものを張る感じでどうだろう?」
「…………できた、と思います……」
不安気に見つめてきたララナからそっと手を放し、手を開いたりと感覚を確かめる。
「うん、しっかりできてるよ。初めてなのにすごく丁寧で上手い」
きっと普段の仕事も丁寧なんだろう。繊細な魔力操作ができるのも細かい作業の賜物だろう。
あとは扉への守護の魔法。しっかり閉めるのではなく数時間後に解けてもいいぐらいの弱さでかければいい。ララナがいないことに少しの間気づかれなければいいだけだからだ。
魔法をかける前にララナはメイドへと、今日は考え事に集中したいから部屋を開けないように注意を促してからかけてもらう。
最後の窓は僕たちが出てからかける。
「ララナ、行くよ?」
突然のことだった為、再度確認のために声をかけると彼女からはしっかりとした返事が聞こえた。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
「よし、行こう。シェリィラ、お願いしていいかな?」
こくりと頷くシェリィラは、ララナに手を伸ばす。僕と繋がりの深いシェリィラは僕に触れなくても存在感を薄くすることはできるけれど、会って間もないララナには身体接触が必要だ。
ララナとシェリィラ、お互いが優しく手を握り合う。
シェリィラからは大丈夫と伝わってきたので、僕はララナに注意事項を伝えていく。
「あくまで存在感を薄くしているだけだから、大きな声で話したり、ぶつかったりすると気づかれると思うから」
「……分かりました」
まだ小声じゃなくてもよかったけど気合は十分なようなのでそのまま僕も小さな声で話していく。
木製の格子窓は部屋から見ると丁度いい位置にあるけれど、外から見ると少し高い位置にあった。だからこそ守護の魔法を身体にかけ、少し落ちても大丈夫のように念を入れた。これが二階の部屋だったりするともう少し強い魔法をかける必要がある。そういった使い方はあまり一般的でもなければ本来自分で気づくか師から教えてもらうことが多いので僕もあくまで思うだけに留める。
まずは一人目は自分が降り、そのあとシェリィラとララナ二人一緒に降りてもらう。
トサっと乾いた植物の上に靴を踏みしめた音がした。
「き、緊張しました……」
青い顔をさせながらもしっかりと窓から降りることができたララナ小刻みに震えていた。今は閉じ込められているから……だけではなく、日ごろから机仕事だからこそあまり体力がないんだろう。自然と声が小さくなっていた。
「あ、窓は……どうしましょう。開いたままですが……」
そこはシェリィラが素早く動き、重力が感じられないような身のこなしで窓の場所まで飛び上がりきちんと閉めてくれた。
「わあ……」
「シェリィラは人間じゃなくて妖精だから……ね」
こくこくと頷くララナはキラキラとした瞳でシェリィラを見つめていた。シェリィラも照れながらも少し得意気だ。
「じゃあ、あの窓はさっきの扉と僕たちにかけた時の応用編。壁に手をついて魔法を窓に伝わらせる感じで」
魔法に関する飲み込みは早く、すぐさまかけることができたし自分でもかかったことが分かったみたいだった。
「ここからはさっき話した通り、なるべく小さな声でぶつからないように注意して移動しよう」




