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ヒモ聖女の半百合冒険譚 ~美女に転生した前世ヒモ男は、令嬢たちを囲って百合ハーレムを作りたい、ついでに世界を救う~  作者: 緑豆空
第五章 半百合冒険

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第423話 恐ろしい黒い影の正体

 巨大な骨の間を抜けて走るが、その影がこちらに来る方が早いようだった。


「主よ。我の背中に」


 ヒッポが巨大化して、俺達が、その背に飛び乗って上空に舞い上がる。後ろからは闇が近づいており、ヒッポはそれから逃げるようにして速度を上げる。


 マグノリアが指をさす。


「聖女様。あれを」


 そこにはデカいマンモスみたいな、象っぽい魔獣がいた。ゆっくりと歩いて、慌てる様子もない。


「なんだろう? 逃げないのかね」


 すると、そのマンモスが鳴いた。


 グモオオオオオオ!


 ぐらり。


 鼓膜を揺さぶられるような、爆音に俺達も眩暈に襲われ、ヒッポがぐらりと揺れる。


「凄い音!」


「影が!」


 その影は、まるで生き物のように動いている。それが、マンモスみたいな魔獣に纏わりついて行った。


「なんだ?」


 あっという間に真っ黒になっていく、光景に皆が唖然としていた。


 モオオオオオオ!


 まるで断末魔の様な叫びが上がり、真っ黒な影に包まれたマンモスがい膝をついた。


「ヒッポ。近くまで寄ってみよう」


「はい」


 ヒッポが真っ黒なマンモスに近づいた時、小さな悲鳴が上がる。


「ひっ」

「うわ」

「嘘……」


 カサカサカサカサ。


「虫だ! 虫の大群だ!」


 見ているそばから、どんどんマンモスがやせ細っていく。


「食べられてるんだ」


 ゾッとする。細かい真っ黒い虫が群がって、マンモスを食っているのだった。周りにある、骨の原因は虫の大群だった。


 ぐぉぉ……。


 ズズッーン!


 最後の断末魔を上げて、マンモスが完全に横たわる。


「行こう」


 ヒッポが静かに飛び去り、黒い影から距離をとった。しばらく進んだところで、俺がヒッポに言う。


「降りよう」


 バサバサバサ! と地表に降り立って、飛んできた方向を見るが、あの黒い影は追ってはこなかった。


「あの鳴き声に寄って来たんでしょう」


「シーファーレンの言う通りだろうね。あの虫の大群は、この空間の生態系の頂点なのかも」


「虫の……層」


「うわあ……」


 皆が肌をさすり、その気持ち悪さを、振り払うかのようにした。


「危険だね。あの巨大な魔獣が一瞬にしてやられた」


「呼び寄せないようにしなければなりません」


「その通りだ」


「その上で、この階層の攻略をせねばなりません」


「だね。きっとあの虫……関係あるよねえ」


「ですねえ……」


「あの魔獣の鳴き声につられてきた。音に関係するのだろうか?」


「かもしれません」


 そこで、ソフィアが言う。


「なにか、薄暗くなってきてません」


 周りを見ると、確かに陽が沈んだように暗くなってきている。


「あれ……夜はどうなるんでしょう?」


 真っ黒い甲虫の群れ……、暗闇の中であれに襲われたらひとたまりもない……。


「どこか、隠れるところはないかな」


 だが見渡す限りの平地と、骨の残骸だけ。建物があるわけでもなく、逃げ隠れる場所など無かった。


「これは……見えるうちに何とかしないと」


「ですが、あの大群の虫にどうやって対応しましょう」


 ソフィアの言う通り空を飛んでいる虫の雲、レールガンを打ち込んだところで、中心に穴が空くだけ。


 その時だった。


 グモオオオオオオ!


 また鳴き声がした。


「やば! どっちだ? どこから?」


 声の方向が分からなかった。皆が空をきょろきょろ見ていると、黒い影がこちらに飛んで来ていた。


「あれ!」


「魔獣は、まるで、わざと自分達の近くで鳴いてるみたい!」


 それを聞いて、シーファーレンが言う。


「その通りなのでしょう。この階層は、恐らく無限にあれとの戦いになるのではないかと」


「マズいな。せめて魔獣の位置が分かれば、逃げようもあるけど」


「巨大な魔獣が突然現れましたわ。私達の近くに出現する事が、決まっているのではないでしょうか?」


 それを聞いて、みんなが一斉に青ざめる。


「これから、暗くなって、あれと追いかけっこなんか出来るわけがない。何とかしないと」


 そこで、ヴァイオレットが言う。


「魔獣を先に見つけましょう!」


「それでどうするの?」


「その上空に聖女様の雲を、そしてマロエとアグマリナが水で満たします」


「なるほど、その上で電撃か」


「はい」


「どうしてそう思う?」


「それが一番効率が良いと思ったからです」


「シーファーレンはどう思う?」


「それが、唯一の打開策かと思われますわ。おそらくはこれを逃せば、暗闇にのまれます。そうすれば、もう黒い虫の大群を見分ける術がありません」


「その通りだね。チャンスは何度も無いか」


「行きましょう!」


「ヒッポ」


 皆がヒッポの背に乗り込んだ時、また大きな鳴き声が聞こえる。


 グモオオオオオオオオ!


「どっちだ?」


「とにかく上空へ!」


 ヒッポが飛び上がると、黒い雲がこちらに向かってきていた。


「反対に飛んで!」


 ヒッポが飛んでしばらくすると、マグノリアが指さす。


「いた!」


 また、大きなマンモスみたいなのが、歩いていた。


「急ごう!」


 歩くマンモスの上をヒッポが旋回、俺がぷかぷかと雲を浮かべていく。とにかくチャンスは一度きり、俺はその雲をマンモスの上から外れないように動かした。


「来た!」


 黒い雲が近づいてきた。すると、シーファーレンが言う。


「ミリィさん。私の魔法にブーストを」


「はい!」


 ミリィがシーファーレンに強化をかけて、シーファーレンが杖を上げる。


「絶対結界!」


 彼女も、よっぽど虫が嫌いらしい。少しすると、黒い虫の大群が、マンモスに向かって群がり始めた。俺の浮かべた雲から、ザーザーと雨が降り出す。


「足りないか」


 ソフィアが言う。


「マロエ、アグマリナ! 水を」


「「はい!」」


 ドバアアア! 水を大量放出する二人。二人も、虫は苦手なようだ。パチパチと結界に黒虫があたり、皆が体を寄せ合って真ん中に集まる。マギアの杖を振りかざして、俺は一気に魔法を開放した。


「サンダーボルト!!」


 ビッシャアアアアア! 


 強烈な稲妻が、雲間を縫って地表に渦巻く黒い闇に堕ちる。


「どうだ?」


 すると、さらさらと黒い砂のように崩れて、食いかけられたマンモスが出てきた。毛皮が剥ぎ取られ、肉がむき出しになっているようだった。


 グモオオオオオ……。


 最後の鳴き声を上げると、残った黒い虫が一斉に肉塊りに群がる。


「「ウォーターフォール!」」


 ドッ! と滝のように水が堕ちて、その水に合わせて俺が電撃を走らせる。


「サンダーボルト!」


 ビシャアアア!


 すると、ほとんどの虫が静まり返り、マンモスも死んでしまったようだった。


「やったか」


「そのようです」


「「「「「やったあああ!」」」」」


 すると次の瞬間だった、マンモスの地面に穴が空いて、虫ごとそこに落ち込んでいった。


「あれ……だよね。次の扉」


「ですね」


「仕方ない! 行こう!」


 俺の掛け声とともに、ヒッポが穴に飛び込むと、そこは今度は空の上だった。


「な……」


 だが、その下にあった階層の風景は、俺にとってはどことなく既視感があった。そこが前世のビルが立ち並んだような風景だったからだ。


 だが……それは、まるで核戦争でも起きたように荒廃し、瓦礫の山と崩れかけたビル群。


「何でしょう……ここは……」


「次の階層ッというのだけは、間違いないだろうね」


「不気味です」


「ヒッポ。どれか建物の上に降りよう!」


「はい」


 ヒッポが、崩れかけたビルの屋上に降りる。するとそこで、マロエの悲痛な叫び。


「聖女様! アグマリナが!」


「あ、あなた方! なに? こ、この風景は。いったい……」


「アグマリナ私よ」


「……」


 だが、ルイプイのように泣き叫ぶような事はせず、ただ青くなって座り込んでしまった。


「私は……お父様の……悪事で処刑されたのね」


「違うわ。私達は、世界を救うために……」


 俺は、マロエの口を制する。


「アグマリナ。私は、あなたを導くためにつかわされました。さあ、私と行ってくださいますか?」


「あ、あなたは?」


「天使。とでも言ったら分かりやすいのかも」


「ということは、こちらの皆様も死んだのですか?」


 そこでソフィアが、ニッコリと笑って言う。


「そう。私達は、より良い世界に行くためにここにいるのです」


「そう……地獄に落ちたかと思いましたわ」


「いいえ、私達はもっと良い所に行くのです」


「わかりました」


 ルイプイのようにはならなかったが、皆は悲しそうな目でアグマリナを見る。次の試練を突破したら、誰がこうなるか分からないからだ。それは、仲間達の心に影を落とすのだった。

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