第422話 十三階段の試練、偽物の記憶。
巨大生物の墓場のような場所、あちこちに骨が転がっており、バカでかいあばら骨がそそり立ってる。それが、どこまでも続いている、まさに世界の終りの様な風景。
「さてと、どう思う? シーファーレン」
「そうですね……階層が変わったということは、何らかの意味があります」
「とにかく、普通に考えていてはだめなんだろうね?」
「はい」
そんな話をしている時だった。
「知らない!!!」
突然、ルイプイが叫んだ。皆が焦って、そちらを振り向いた。ジェーバが、面食らった顔をしており、ルイプイがこちらを見て後ずさっている。
「どうしたの? ルイプイ?」
俺が聞いた。
「あなた……誰?」
「えっ……」
ジェーバが慌てて、ルイプイに言う。
「何言ってるの! 聖女様だよ!」
「聖女様?」
「そうだよ!」
「あなたは誰なの!?」
「私だよ! ジェーバだよ! 子供の頃からずっといるよ!」
ただならぬ雰囲気に、俺達は慌てて二人を囲んだ。
「頭ぶつけちゃった? どうした? ルイプイ」
「ここどこ! 帰る! お母さんが待ってる」
完全に異常だった。ルイプイは親に捨てられた孤児。奴隷に売られた先で、盗賊から救い出したのは、俺とアンナだった。記憶がとんでもなく、昔に戻っているのか?
そこで、ジェーバが言う。
「私たちに、親はいないよ!」
「な、何言ってるの! 幸せな生活をしていたの! おいしいご飯を食べて! 一緒にお風呂入って!」
「それは、聖女様に拾われてからでしょ!」
「違う! 近寄らないで! あんたなんか知らない!」
一番仲の良いジェーバに対し、真っ青な顔をして拒絶していた。次の瞬間、ルイプイが突然逃げ出す。
「危ない! ここがどういう所か分からないから!」
アンナが咄嗟に追いかけて、ルイプイを抱きしめるようにして止めた。それでも、アンナの腕の中で、恐怖におびえた顔でバタバタと暴れている。そこにシーファーレンが近づいた。
「スリープ」
ふっ。
ルイプイが眠る。
「どうしたんだろう? 頭をぶつけたのかな?」
だけど、ジェーバが言う。
「さっき言ってた思い出なんて、ないはずです。私達の親なんて、ろくでもなかった」
「困ったな」
するとヒッポが言った。
「我の背に括り付けて運びましょう」
「そうするしかないか……」
眠るルイプイをヒッポの背に乗せて、毛で縛るように固定した。その一連の騒動で、仲間達が不安そうな顔をしている。
「変だよね……」
するとシーファーレンが、低い声で呟くように言う。
「これは……試練かもしれません」
「試練?」
「地獄に通ずるこの場所で、ルイプイが突然変わってしまいました。さらに自分の持ってない記憶……。しかも、自分が欲しかったような記憶を、植え付けられたかのような感じでした」
「言うとおりだね。まるで、自分の人生を後悔しているかのような……おかしな感じだった」
「これは、ルイプイだけに留まらないかもしれません」
確かにシーファーレンの言う通り。皆がルイプイの変化に戸惑っており、すぐに答えは出なさそうだ。だがそこで、ソフィアが言う。
「皆さん。私達は聖女様に全てを預けると、そう固い決心をしてここに来ました。どんな試練が待ち受けているかは分かりませんが、最後まで聖女様を信じていくしか道はありません」
だがそこで、ミリィが悲しそうに言う。
「私は」
「はい」
「私は聖女様を忘れたくありません!」
それを聞いて、皆が動揺する。
「それは……ここにいる全員がそうだと思います。それに、これから皆が忘れてしまうとも限りません。ここまで来てしまったら後戻りは出来ないのです。なんとしても、獄門を締めねば世界は終わります」
「それは、そうですが……」
そこで、アンナも言う。
「わたしは、忘れない。いや……もし、わたしが忘れたとしても、私の剣は聖女を守るために振られる。だから、ソフィアの言う通りに進むべきだと思う」
そこで、ジェーバが言った。
「でも、どうなるか分からないですよね。私は、皆を忘れたくない! ルイプイを忘れたくない!」
「でも、進まねば」
アンナが言うが、今度はマグノリアが言った。
「命の恩人を。私達姉弟を救ってくださった聖女様を忘れるなど、死よりも重いです……。それを受け入れるというのは……難しいのです」
それを聞いて、ヴァイオレットも頷く。
「私も聖女様に救われました。忘れてしまうなど、想像を絶するような恐怖です」
それを聞いて、スティーリアが言う。
「私は、ソフィア様のおっしゃる通りかと。ここまでに覚悟は決まっていました。前に進むしかないと、私は思います」
それを聞いて、マロエとアグマリナは首を振る。
「嫌です。忘れたくなどありません」
「私もです。恩人を忘れるなど、考えられない」
だが、アデルナが優しく言う。
「みなさん。本当に忘れるのでしょうかねえ……私はそうは思いませんよ。皆は、絆で繋がっています。この紋章が、それを全て物語っているように思うのですよ。例え忘れようとも、身体に刻まれた紋章が、必ず連れ戻してくださるとは思いませんか?」
それを聞いて、リンクシルが言った。
「そう! アデルナの言う通り! 諦めたら、ルイプイは戻らないまま! もうやるしかないと思う!」
だが、ウェステートが俯き加減で言う。
「でも、忘れて戻らなかったら……どうなるのでしょう? 皆が、バラバラになってしまうのではないでしょうか?」
シーファーレンが落ち着いた声で言う。
「こうしましょう。覚えている人が忘れた人を覚えていればいい。偽の記憶が植え付けられたとしても、覚えている人が元の記憶を教えればいい。ゆっくりと時間をかけて、もう一度関係を築き直して行けば、必ず元通りになります」
皆が、複雑な顔をしていた。だが俺もどちらかというと、絶対に忘れたくない側だった。だがここで、俺がそう言ってしまえば、この先には進めそうにない。
痛い……。が。
「みんな! 私を信じて! 皆を導くから! だから、こんなバカげたことは早く終わらせてしまおう。なんかね、上手くいく気がする。今は、不安かもしれないけど、私はみんなを絶対に忘れないと分かる。なぜか、この世界は私に影響しないと、分かる。だから、私はみんなを絶対に忘れない」
無理やりな理論。だけど、その俺の言葉に皆が落ち着き始めた。
「ヒッポ! 君はどう?」
「我は神獣です。ですが、どう影響するかは分かりません。主様のお言葉は、絶対だと思っております。主様は、皆を忘れないでしょう」
それを受けて、ソフィアが言う。
「聖女様。やはり来る前の、あの言葉通りになりましたね。私達の命を預けると」
「とにかく! 私は、誰一人として置いていかない。そして、死なせない。だから! 行こう!」
すると、ようやく皆の意識がまとまった。
「「「「「「はい!」」」」」」
そしてジェーバが言う。
「聖女様……皆が忘れても、絶対に忘れないでください。そして……叶うなら、ルイプイを戻して」
「任せて!」
とは言いつつも……どうすればいいのか? 分からなかった。
「聖女様。まずは、この場所の解明ですね」
「だね。まず、あの骨があるって事は、ここは巨大生物の墓場って事でいいのかな?」
「はい。かとは思います」
その時だった。
グモオオオオオオ!
何かの鳴き声か、ホーンのような重低音の音が鳴り響く。
「なに?」
「あれを!」
ヴァイオレットが指さす先を見ると、向こうの空から何か大きな影が近づいて来るのが分かる。
「なんだろ?」
「わかりません」
この周りの骨の様子からも、ただならぬ感じはする。だが対処する方法や、あれが何かも分からない。
「反対側に移動してみるか?」
「そうですね。そうしてみましょう」
俺達は、影がやってくる方向とは、反対方向に移動し始めるのだった。




