第424話 破壊された大都市で群がる鬼
核戦争でも起きたような、前世の都市の光景に皆が目を丸くしている。もちろん、この光景は誰も見た事がないだろう。東京から来た俺以外は。
「これは……どういう場所なのでしょうか?」
「まあ……破壊された街だね」
「街……塔が沢山立っていますわ」
大賢者のシーファーレンですら、この光景は見たことが無いようだった。
そりゃそうだ。
「まるで、この世の終わりの様な光景です」
ソフィアが、言い当てる。きっと感覚的に、分かっているのだろう。
「さて、この階層は、どうしたらいいかね」
「まるで人の精神を蝕むような、嫌な試練ばかりです。無限に続く砂や、虫に食いつくされる墓標など」
ウェステートの、言う通りだった。これは、わざと絶望を感じさせようとしているようにすら感じる。まあ地獄の入り口なのだから、ある程度は覚悟していたが、想像以上に厳しい。
「何より……ルイプイとアグマリナが……」
マロエの言う通り。試練うんぬんよりも、仲間達の記憶が失われていくのが、何よりも辛い事だった。
「この階層を攻略したら、また誰かの……」
そのスティーリアの言葉に、皆が顔を青くする。確かに、また次に誰かの記憶が消えるかもしれない。だが、その空気の中でソフィアが力強く言う。
「いえ。やらねばなりません。世界が、黄泉にのまれてしまえば、全てネメシスの思うつぼ」
アンナも頷いた。
「言う通りだ。もう、引く事は出来ない」
厳しいが、その通りだった。引き返し方も分からず、突破するしか方法がない。
そこで、ヴァイオレットが言う。
「何かいます!」
指さした崩れかけたビルの上に、何かいた。だが、間違いなく人間じゃない。
「ツノ……生えてる。裸? 人?」
まるで……鬼だ。
「こっちを見てますね」
「気色悪い……」
「品定めでもしているのでしょうか?」
「あ、見えなくなりました」
鬼が見えなくなり、俺達はビルの端に寄ってみる。
「どこに行った?」
「あっち!」
今度はマグノリアが指をさし、違う方角のビルに鬼が見える。だがそれも、また見えなくなる。
「あそこにもいます!」
ミリィの声に目を向ければ、やはりそこに鬼が居て、また見えなくなった。
確かに品定めでもされてるかのようで、不気味だった。
「なんでしょう?」
「倒すべき相手なのかもね。まあ、危険な感じはする」
すると今度は、アデルナが叫ぶ。
「下を見てください!!」
俺達が屋上の端によって、下を見ると……。
なんと、鬼の大群がこのビルに押し寄せているところだった。その光景に、思わず寒気が襲って来る。
「あんなにいっぱい」
「どうすれば……」
「なんで、私達のところに来るんだろう?」
そこで、シーファーレンが言う。
「恐らくは……私達が生者だからです」
「生者だから?」
「この世界では異物なのでしょう。各階層ごとに、必ずといって良いほどに、私達の元へとやって来る。それは、私たちの存在が、あってはならないからです」
「そういうことか……」
そして、アンナが言う。
「悠長にもしてられんぞ。見ろ」
鬼たちはこのビルの下まで到達して……よじ登って来た。
「来た……」
「ヴァイオレットさん。あれの、弱点が分かりますか?」
「鑑定」
そしてヴァイオレットが見た事を言う。
「あれは……弱点らしいものはなく、魔獣と似てます。通常攻撃なら効くと思われます」
「やってみるか」
俺がよじ登ってきている一群に向けて、マギアの杖を構えて唱える。
「ライトニングボルト!」
ビッシャアアアア!
鋭い雷がその集団に堕ちて、剥がれ落ちるようにボロボロと落ちて行った。
「効いた」
それを聞いて、皆も一斉に魔法を行使していく。
「フロストレイン!」
「ファイヤボール!」
「サイクロン!」
「ライトニングボルト!」
攻撃魔法が使えるのは、現状、マロエ、シーファーレン、ウェステート、と俺だった。
攻撃をし続けていたが、マロエとウェステートがフラフラと座り込む。
シーファーレンが叫ぶ。
「魔力切れですわ! 攻撃の手数が足りないです」
「ちっ!」
俺は、使用魔法を変える。少し時間を溜めて、魔石に魔力を放り込む。
「レールガン!!」
ズドッ! その一閃で、上から下まで貫通し、鬼が堕ちて行った。また、魔力をチャージする。
「だめだ、時間がかかりすぎる」
すると、ヒッポが言う。
「我の背に! 退却しましょう!」
「わかった!」
皆が乗り込んだとき、ビルの端から鬼がよじ登るのが見えた。ヒッポが上昇して、ビルから離れると、まるで蟻のように鬼がいる。あっという間に、屋上が埋め尽くされて、俺達を恨めしそうに見ている。
「多すぎる」
「何か方法があるのでしょうか」
「まさかとは思うが、あれとずっと戦う?」
「わかりません」
「魔力切れの、マロエと、ウェステートは休んで」
「「はい……」」
ヒッポが、さっきのビルから遠く離れたところに飛ぶと、今度は東京タワーの様な鉄塔が見えて来る。かなりの高さがあるが、これならあの鬼もすぐには登って来れないだろう。
「あの塔への上へ!」
「はい」
「目が眩むほど高いですね」
「とにかく、打開策を見つけないと」
「ですわね」
「ここまで飛んだのも、きっと見られてるだろうから、いずれ鬼はやって来る」
「はい」
そこで、俺が思いつく。
「この鉄塔……使えるかも」
「どうなさいますか?」
「敵をおびき寄せよう。それまでは、ヒッポ。ここで、皆と一緒に休んでいいよ」
「我は疲れなど」
「いいんだ。皆の土台になっていて」
「はい」
そして、俺はすぐに、ヒッポがいるすぐ下にもくもくと雲を作り始める。
「聖女様は、魔力は大丈夫ですか?」
「それが……このマギアの杖を持ってから、枯れる事が無いみたい」
「そうなのですね……不思議です」
「まるで……全く消耗してないみたいな感覚だよ」
シーファーレンが、目を丸くして言った。
「それでは、まるで神様のようです」
「それは、大袈裟な話だけど」
「しかし、そうとしか思えません」
「私は私。みんなと一緒だよ」
そこで、ソフィアも言う。
「荒唐無稽化もしれないのですが、シーファーレン様のおっしゃる通りかもしれません」
「えっ?」
「なぜか、私の信仰は……聖女様に向けられている気がします」
「ソフィア……」
俺は雲を浮かべながら、二人の言葉を否定できなかった。肖像画といい、マギアの杖との相性といい、条件がそろいすぎているような気がする。だが、何故か認めたくない自分がいるのだった。




