↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能勇者の烙印  作者: 汐倉ナツキ
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/73

カルメロルツ王都決戦③/一筋の光

 ───カルメロルツ王国・南方戦線。

 植民地にした国からの反逆。

 謀反者を断罪する総大将に、父上の一存で私が抜擢された。


「キリューゼル殿下! リンドル卿の部隊が謀反を起こしました!」

「殿下! ハリス卿が謀反を!」

「殿下! 数々の貴族からの謀反で兵達が疑心暗鬼に! カルディッシュから正体不明の死なない魔物の襲撃も! これでは戦線の維持が──」


 耳を塞ぎたくなるほど最悪な報告の嵐。

 何時間も前から、ずっとだ。

 ずっと聞かされている。

 有力騎士の謀反、謀反、謀反!

 忠誠心の欠片も持っていないのか、我が国の貴族は!

 挙句の果てには死なない魔物だと!?


「父上の騎士ルイード卿に任せると言ったはずだ! 全て──そう、全てだ!」


 カルディッシュ領の頭に置いていたのは私の騎士。

 しばらく音沙汰が無かったと聞いていたが、まさか殺られてたのか?

 奴は文官だが、戦いの腕は磨き上げられている。

 腑抜けた植民地の猿如きがどうこうできる存在ではないのだ。

 カルディッシュ領に配置されていた騎士達も無能では無い。

 事実、これまで多少の小競り合いを起こされても即座に鎮圧してきた。

 ……だと、いうのに!


「まさか、また貴様なのか……ッ! ノーランド!!」




 ▼




 ここの所、この国はずっと騒がしい。

 今も私のいる部屋の外で慌ただしい足音がする。

 ───カルメロルツ王国・王城。


「この部屋に隔離された女もクギミヤ殿と同じ勇者だろう! なのになぜ、国家存続の事態に何もさせないのだ!」

「仕方ないだろう。キリューゼル殿下の悪い癖だ。気になった女は片っ端から壊していく。それが例え勇者であろうともな。王族批判を恐れるなら止めなかった殿下の騎士を恨め」

「この……ッ、無能共が! バラトス殿下がいれば、こんな事態にすら……ッ!」


 扉の外から似たようなやり取りが何度も聞こえてくる。

 勇者? クギミヤ? キリューゼル? バラトス?

 分からない。分かりたくない。


「………………」


 世界と私を透明なフィルターが阻んでる。

 現実の出来事は、まるで現実味が無く。

 すべて、すべてがフィルターの向こう側の出来事のようで。

 まるでテレビを観ているかのように他人事に感じる。

 そう、今この時、この先、何が起きようとも、私には一切──関係が無い。




 ▼




「報告します! リカンテア共和国軍の艦隊が進路をズラし、カルディッシュに侵攻しました!」

「何だと!? この有利な戦況を自ら手放すのは……メシアよ!」

「アリス、少し待て。考えてる」


 なぜこの状況でカルディッシュに攻め入った。

 本国を攻めないと戦勝後の取り分分与で発言権が弱くなるのは分かり切ってるはずだ。

 リカンテア共和国の真意は……。

 いや待て、もし前提条件が間違えてるとしたら……。


「マズイ……今まで静観していたリスバイルとアレクサンドリアはこの流れを読んで……っ」


 リスバイルとアレクサンドリアが本国への進撃に随行しなかったのは打算。

 それは分かっていた。けど理由が曖昧だった。

 だが、リカンテア共和国軍のカルディッシュ侵攻が答えだった。

 カルメロルツが勝利した場合に備えて言い訳を用意していたのだ。

 他国の植民地侵略を防いだ立役者として立場を上げる為に。


「ちぃ! まさか狙っていたのか! 属国が反逆し、大陸全体が混乱するこの瞬間を!」


 リカンテア共和国は横槍を入れただけだ。

 しかし、確実に狙った領土を手に入れる為に進路を変えた。

 俺は立場上戻らなければ神の贈物(ギフト)を掛け損なった者からの信用が下がる。

 戦争後の大陸の分割なんて好きにすればいいが……クソッ、余計な事を!




 ▼




 誰が見ても高級に見える紺色のスーツを汚しながら街を駆け回ってる男がいた。

 顔を左右に動かし、必死に何かを探している。


「ロボティクス! ロボティクス・アルマトゥーラ! どこにいるんだ! 僕の声が聞こえるなら返事をしてくれ!」


 ───サンブルックス・カルメロルツ領・王都の外周。


「確かにこの国の、この街に来たというの!? ロボティクスは!」


 男を後ろから追いかける女が息も絶え絶えで問いかける。

 女は着込んでいる男と違い、へそや足、肌を見せる扇情的な格好をしていた。

 それは強制されてるとかそういうのではなく、ただの女の趣味だった。


「分からない……でも可能性は高い! イリオスと海を挟んで一番近い国は、ここだ!」

「あの時は運悪く海賊に襲われて、船が大破したから海賊船を乗っ取ったけど……まさかその後、高波がスペランツァを攫って、ロボティクスが助ける為に飛び込むなんて!」

「そんなの当たり前だろう! ロボティクスはスペランツァの守護者だ! だが、ロボティクスなら船に戻ってくるなんて楽観してたのは僕! 判断ミスを犯したのは僕なんだ!」


 後悔先に立たず。

 男、ノーツ・フェデルタは悔しさに顔を歪め、拳を握りしめた。


「港町から順繰りに探してきたけど、機械の体を持つ男の噂すら聞かないなんてね!」

「僕は、ロボティクスをサポートする為に冒険者ギルド職員を辞めてまでついてきたんだ! だから絶対に、ロボティクスを見つけ出す!」




 ▼




 ここは、どこ……?

 ぼくは何をして……。

 意識が覚醒し、周りを見ようとしてもまぶたが開かない。

 眠いとか、怠いとか、そういうのじゃない。

 何かで固定されてるから開かない。


「あ、んえ……?」


 何で? そんな簡単な言葉すら満足に喋れない。

 口は拘束されてないのに、呂律が回らない。

 ぼくは、何で……スペランツァ……。

 そうだ! スペランツァは!?


「すへはんはは?」


 呂律が回らないだけじゃない。

 発声もまともにできない。

 物心がついてからこれまで病気すらした事なかったのに。


「あら、目覚めましたか?」


 暗闇のその先から女の声がした。

 多分、俺を拘束したやつだ。

 その証拠に、優しげな声はえらく弾んでいる。

 楽しんでいる者の声だ。


「ロボティクス君の身体検査は順調ですよ。そのまま楽にしてて下さいね?」

「へ……?」


 身体、検査?

 この人は、お医者さん……?


「でもさ〜、彼の製作者も飛んだパッパラパーだよ。技術力は認めるけどさぁ?」

「まさか自爆機能が付けられてるとは思いませんでしたね。こんなに資金と労力を費やしただろう傑作に」


 自爆機能……?


「僕達はこうしてバラせてるし、技術漏洩を防ぐ為って訳でもないみたいだけど……何か目的があるんだろうねぇ、それが何なのかは想像に固くないけど」

「あ、ロボティクス君、安心して下さいね。貴方に付けられた強力な爆弾はすでに取り除いてありますから」

「広範囲殲滅型の特殊高濃度爆弾。都程度なら難無く更地にして滅ぼせる戦略兵器。取り外し作業中はずっと冷や汗かいてたよ! ラベッタ君! もう二度とゴメンだからね、身の危険を感じる、こんなヒヤヒヤした作業は!」


 男のウンザリしたような声。

 体に爆弾が、付けられていた?

 俺を助けて、くれてるって事か?


「そういえば、安心して下さいね。スペランツァさんは安静にしてます。意識はまだ取り戻していませんが、体調は安定しています」

「あい、あ」

「正常な思考は出来てるみたいですが、まともな発声が出来てないみたいですね。体が痺れてるんでしょうか? 初めて着手する分野なので探り探りですが……」

「ていうか、やっぱり彼に使われてる素材、どれも魔大陸産のものばかりだね」

「魔大陸……まさかロボティクス君は超科学大国と名高い、ギルナクス帝国で造られた?」

「確定は出さないけど、その可能性は高いね」


 ……ギルナクス帝国。

 やはりそこに、俺の生みの親が……。




 ▽




 ───カルメロルツ王国・王城。

 その地下深くでは、紫髪の少女が厳重に閉じられた薄暗い部屋に閉じ込められていた。

 虚ろな瞳、痩せこけた頬。

 食事は時折開かれる小さな扉から差し出される。

 しかし、一日に一度パン一枚と水一杯では腹の足しにもならない。


 満足に食事にありつく事も、地下監禁部屋から出る事も。

 とうの昔にそれら全てを諦めた王女シャルロッテは、その胸の内に虚無を抱きながら虚空を眺めていた。

 ふと、天井の溝から埃が降ってきた。


「…………?」


 部屋が揺れた。

 数秒後、今度は激しく部屋が揺れた。

 遥か上、地上の方で何かがぶつかった音がする。

 シャルロッテはカラカラに乾燥した唇をわずかに開く。


「おにい、さま……?」


 幼い声。しかし口の中まで乾燥してたのか、漏れ出たのは嗄れた声。

 幼子の凄惨な姿。

 ただ、先程と違うのはシャルロッテの目に微かな光が宿ったという事だろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。