カルメロルツ王都決戦②/無力の王女
───ギルナクス帝国・デルージン領。
魔大陸に上陸した僕達を待ち受けていたのは歓迎の加虐魔術。
つまりは待ち伏せだった。
空間格納から出した聖剣を横に一振して前衛の全てを薙ぎ払ったが、魔族の使う魔術に少し違和感がある。
「空気中の魔素を取り込んでいた……?」
魔術とは、自らの体内に循環してる魔力を体外に必要分出して行使する物。
地脈から溢れ出す魔力を取り込めるのは迷宮。生物なら魔物だけだ。
詳しい事は僕にも分からないが、外から魔力を取り込むというのは違う血液型を輸血されるのと同じくらい危険な行為だったはず。
一つだけ分かるのは、一〇〇年の間に随分と技術が進んでいるという事。
▽
「はぁー、あの女、俺の『鑑定眼』をオシャカにしたまま消えやがりやがって」
俺の武器は職業『勇者』の特性『知』による脳味噌強化と神の贈物『神の御言』だけになってしまった。
あとはチャンバラ殺法と約二〇億の兵隊だけだ。
護衛を付けるとはいえ、やはり良く見える便利な目が無くなったというのは不安を覚える。
「マヒル、『鑑定眼』が使えなくなってしまったのか?」
「んー、そだね」
「うーむ……作戦に影響は無さそうか?」
「一旦はね。盤面が俯瞰できなくなっただけだし、通信の魔導具は限りがあるけど各戦地の指揮官クラスに渡っている。前よりも早く命令が伝わるから人を使うだけならね。有利性は一つ失ったけど、一番の問題は──レアーレのゾンビとの接触回避」
これだけはレアーレの意思と関係なく一瞬の油断でつい当たっちゃう可能性が大いにあるから。
というかすでにバカ神経使っててかなり疲れてる。
ゾンビはどの場所にも配置してる。
理由は単にセカンドプランの為だ。
リスクを取ってリターンを得る……というよりは念の為だね。
盲耳以外で俺の神の贈物が効かない奴が二人も現れちゃったからね。怖いからね。
そもそもつい先日ランクA相当の奴の動きを目ですら追えなかった時点で『鑑定眼』無しは非常にマズイ。
「む、なるほどな……。だが安心するがよい! 私のそばにいる限りマヒルには指一本触れさせぬ!」
「いつもありがとうねぇ」
「それは言わない約束であろう、マヒル!」
「うんうん。でも今はメシアね? マヒルって呼んじゃダメよ?」
「うむ! メシアよ!」
笑顔で腰に手を当て「ふふん!」と胸を張るアリス。
はい、可愛い。
さてさて、ところで今俺がいる現在地だが、カルメロルツとカルディッシュの国境付近。
その砦だ。
砦は突貫で作ったとは思えないほどしっかりした作りで、初めに目にした時は思わず「マジ?」って声が漏れ出たほどだ。
硬そうで防衛力に自信アリって感じ。
「さて、西領海は突破したらしいな。一番手はヘフティヒアか。確かこの国は以前からアバリシアから武具やら何やらを大量に買い取ってたとか」
「むむむ……そっちの大陸の話はよく分からぬ……」
「とにかく、今参戦してる別大陸の各国は戦後のおこぼれを狙って横槍を入れてきてるんだ」
「身も蓋もないな……」
「ただ一国、ギルナクスを除いてね」
ギルナクス帝国。
カルメロルツ王国と何一〇〇年も争い続けている国だ。
この国もある程度調べは付いてるが、何と言うか……俺的にカルメロルツよりだいぶ住みやすそうな国だ。
約一〇〇年前に魔王が変わってから色々と国が変わり出したらしいが、そこら辺の詳しい事は記載が無かった。
カルメロルツが魔術国だとするなら、イリオスは軍事国。
その流れでカテゴライズするとギルナクスは科学国だ。
現魔王が即位してから文明開化やら成長スピードがエグかったらしい。
きっとギルナクスには召喚された勇者でもいるんだろう。
そいつが知識を与えたに違いない。
「ギルナクスは今回、割とガチめに攻勢に出てる。今まで以上に戦力を投入してるのは確かだ。ただ、この大陸には興味が無いらしい。資源もどうぞお好きにって。本当にカルメロルツとの因縁に決着をつける為だけに動いてるような……」
いや、でもそれだと他国に送れる総戦力より遥かに兵力が……。
「それで、私達はいつ頃攻めに行くのだ?」
「カルメロルツの騎士は有限。だから、ハイエナ達に国の防衛を削ってもらってから漁夫る」
「それだと私達がハイエナ扱いされそうだがな」
「最初に花火を上げたのは俺だ。なら、俺以降に動いた奴が全員ハイエナなのは自明だろう」
ただ、先行させたゾンビ散布部隊の進捗によってはジワジワと距離は詰めていくが。
▼
「何だ……この街並みは……!?」
僕の隣で慄くのはシンクレシオ・アレイアード。
本国の第一王女ルーシェル・リ・カルメロルツの専任騎士だ。
シンクレシオは僕のサポーターを務めてるが、実際のところはただの監視だろう。
万が一僕が離反した時に首を斬る為の。
けど、離反はありえない。
カルメロルツ本国には御子柴さんと美菜子ちゃんがいる。
それに、僕の息子だっている。
僕より年上で皺だらけだが、エリサフリスとの愛すべき子だ。
「セイト殿……一〇〇年前もこんな街だったのでしょうか……? 勉強不足ですみませんが、なにぶん魔大陸に来るのは初めてなもので……」
「いや」
後ろを振り向くと、遠征に乗り込んできた騎士達もどよめいている姿が見えた。
怪訝そうに、不安そうに汗を垂らしている。
それが──二ヶ月前の記憶。
▼
───カルメロルツ王国西海岸戦線。
アランフレア、ヘフティヒア、ジライフル、ビアンカの四カ国連合軍の大艦隊がカルメロルツ領海防衛戦線を突破。西海岸への上陸を果たした。
「一番槍はこの私、ヘフティヒア王国第一王子マルルカルド・ヘフティヒアが頂いたッ!!」
カルメロルツが新たに築いた海岸戦線を突破。
ヘフティヒア王国の兵士は雄叫びを上げる。
「ふ、ふふ……手柄を上げれば名声が手に入る。したらば権威は揺るがぬものとなり、利権も……。私の地位が磐石のものとなれば忌わしきレオナードなど恐るるに足らん。そうだろう、アグニよ」
『ええ、レオナード殿下は現在行方知れず。チャンスは待つ者が掴むのでは無い。掴みに行く者が手に入れるのです。故に貴方が絶対です。マルルカルド殿下』
「ああ、私が──絶対なのだ」
ガチャリ。通信の魔導具を停止させる。
マルルカルドは手に入れる。王位を掴むチャンスを。
今までアグニ宰相の言葉通りに動いていれば事態が好転していた。
ならばこそ今回も──。
マルルカルドと親衛隊は陣を展開し、内地に突き進む。
「ヘフティヒアにばかりいい所を取られるな! 我らビアンカの兵も武勲を立て、家名を上げよ!」
指揮官の言葉に島国ビアンカ王国の士気が上がる。
兵の雄叫びは地鳴りとなり、カルメロルツ本国へ迫り行く。
▼
───カルメロルツ王国、王城。
「なぜ、このような事態に……っ」
お父様の……陛下の勅命で私の最も信頼する専任騎士シンクレシオはギルナクス帝国へと遠征に向かわせられてしまいました。
直属の親衛隊は残っていますが、シンクレシオと比べてしまうと、その差は歴然。
そして、戦争の規模はもはや王族直属の騎士だけで判断できるレベルを超えてしまいました。
カナレアは陛下の騎士と共に東部戦線の旗印として駆り出され、キリューゼルは反逆者達が迫り来る南部戦線の指揮を。
西部戦線ではカイルマン宰相が全体の指揮を取っています。
「私は、余計な事をしないようにと自室に軟禁状態……。ふふ、王族なのに国防にすら立ち会えないなんて……」
キリューゼルとカナレアの謀略により、私ルーシェル本人の味方をする後援貴族は減らされてきましたが、まだ二人に比べても多かった。
ですが、先の襲撃で王都に住まう全ての大貴族が皆殺しに遭いました。
報告を聞いた時は膝から崩れ落ちるかと思いました。
王族間のパワーバランスは一夜にして変わってしまいました。
「シンクレシオがいなければ、私はこんなものですのね……」
自嘲は誰に聞かれるでも無く、静かに消えていった。




