カルメロルツ王都決戦①/進軍
───アレクサンドリア・カルメロルツ領。
その王城の一室。
浅利に与えられた部屋に四人の勇者が集っていた。
「情報が入ったよ。メシアについて」
「え、マジで!?」
「「…………」」
大袈裟に驚く村崎とは対称的に水島と綾香は静かに頷くだけだった。
「え、その反応ひょっとして知らなかったの俺だけ? マ?」
「マ、ジ。二人も情報収集を欠かさなかったみたいだし、当然だね」
「うっ、いや……オレはちょっと休憩してただけで……」
少し居心地が悪くなった村崎は滝のように汗を流しながら油を差してないブリキのようにギギギと顔を逸らした。
「そんな事はどうでもいいの。あたしは汐倉を見つけ出して──」
「元の世界に戻る?」
「そう…………あっ、いや、ちがっ!?」
浅利の言葉に思わず頷いてしまったが、元の世界に戻ろうとしてる事実は秘密にしていたのを思い出し、あたしは取り乱した。
「いや、言わなくても分かるから。浅利もオレ達も今まで口に出さなかっただけで」
「すみません。わたしも……何となく」
「え? え!?」
どうやら、隠し事ができないのは綾香で無く、あたしの方だったらしい。
「元の世界に戻りたいのは俺もだし。そろそろアニメ観たいし、三人の時代まで生きて新しいゲームしたいし」
「わたしも、家族が心配してると思いますし……お友達と会えないのは辛いです」
「オレは……別に戻りたい理由はねぇけど、元の世界でも努力すれば良い人生が送れるかもって思ったからな」
「皆……っ」
あたしは罪悪感やら感激やらで目尻に涙が溢れてきた。
「で、メシアだけど……ついにカルメロルツ本国に突撃掛けるらしいね」
「あの、情勢を読んだ隣の大陸も複数国カルメロルツに攻め入るらしいです」
「カルメロルツを落とした後の国土分譲でも狙ってるのかしらね」
「それで、だけど…………動きが分かってて、かつ物理的に距離が近くなる瞬間が分かったんだから──会いに行こうよ、メシアに」
「───っ!」
浅利からの提案に息を呑んだ。
「汐倉さんは異世界生活の先輩なので、もしかしたら元の世界に帰る為の手段をわたし達より分かってるかも知れませんし」
まあ、あたし達よりって言っても元の世界に帰る為の手段なんてあたし達手掛かり無しだからね……。
「グダグダ理由だけ並べても仕方ねぇだろ! 行こうぜ、水島!」
不敵な笑みを浮かべる村崎。
そしてあたしの答えを待つ浅利と綾香。
「うん……行こう!」
明日、あたし達はアレクサンドリアから離反する。
この国にいたままの方が安全なのに村崎も、浅利も、綾香もあたしを優先して付いて来てくれる。
だから、絶対にメシアと会う! 汐倉と会うんだ!
(元の世界に戻ってもステータスがまんま受け継ぎだったら人生イージーモード……って思ったのは言わなくてよかった。言ってたら多分大顰蹙買ってたぜ)
村崎は額を拭う仕草をしながら「ふぅー」と安堵の息を吐いた。
▽
───カルディッシュ王国・最北の国境付近。
「メシア様! カルメロルツ西の領海からリカンテア共和国、ジライフル、ヘフティヒア、アランフレア、ビアンカが大艦隊を率いて海戦を仕掛けたとの報告!」
「続けて報告! カルメロルツ東の領海にドラゴンの影多数! おそらく、ギルナクス帝国の竜騎士隊です! 海からもこれまで以上の魔物が流れ込んでるとの事! 地平線に見える艦隊は前例に無いほど多数進軍中!」
伝令兵が慌てて伝えてきた。
しかし、その程度予想するまでも無い。
リンゴが重力に逆らえないのと同じだ。
別大陸でも人が人であるというのなら自然の摂理と言い換えてもいい。
「……む。メシアよ」
「アリス、動じる事は無い。他国から攻め入られるなど当たり前だ。カルメロルツに以前のような畏怖や求心力は無い。今まで煮え湯を飲まされてきた別大陸の連中も参加するに決まっている。大規模な催しなんだ。なら、皆で楽しむとしよう。暦を終わらせる──いや、一つの歴史を終わらせる祭りを」
しかし、平和主義で知られてる西洋連邦は様子見か?
これ幸いとカルメロルツを攻めるか、世界の均衡を保つ為にギルナクスを止めると思ってたんだが……。
まあ、動かないならそれでいい。
やる事は変わらない。
「さあ、進撃の大号令を始めようか」
▽
「凄い騒ぎですね〜!」
「こら、身を乗り出さないの」
窓から上半身を出し、混乱に陥っているカルメロルツ王都を見渡すレオーネ。
そしてそれを諌めるマクナ。
王都が混乱に陥ってる理由。
それは一重に国境で侵攻を受けているからだ。
今までギルナクス帝国に侵攻を受けていたカルメロルツ王国だったが、ギルナクス帝国以外の複数国に同時に攻め入られた事は無かった。
皆が抱える不安が伝播し、恐怖から混乱して大暴動のような動きに発展したのだ。
「でもこんな家、本当に大丈夫なのよな?」
「お姉様の言う通りです。この屋敷はカルメロルツでも有数の貴族の持ち物では?」
疑問を呈するミネルヴァ。
それに便乗するリンスレット。
二人の視線を受けたヴィストリスは少し考える様子を見せ、口を開いた。
「ここは俺の家でもあった。なら、どう有効活用しようと、奴らに文句を並べる権利は無い。それにセキュリティは万全だ。警戒するのは騎士が乗り込んで来る事態だけ。だが、盲点だろう? 大貴族の持ち家が賊に占拠されてるというのは」
酒を煽るガルセルドは壁際で蹲ってる貴族の人間達、使用人達を眺める。
「まさに、因果応報だな」
そう言い残すと興味を失ったように視線を逸らし、未開封の瓶を手に取る。
ポンッ! 子気味良い音でコルクを弾いた。
「あ──ぎゃっ!?」
「え、あっ!? ひっ、ひぃいいいっ!?」
「きゃあああああ!?」
凄まじい速度で弾かれたコルクは貴族の額に命中し、衝撃と激痛で目を剥き気絶した。
悪名高き盗賊団に囲まれ逃げられない貴族と使用人は身を竦ませ恐怖で悲鳴を上げる。
「俺に魔術適性は無い。だが、それを理由に虐待し、挙句の果てに追放するリュウゲンクローズ家。それを良しとするカルメロルツは存在してはいけない」
「わ、わたくし達が悪かったわ! ヴィストリス! 仲直りしましょう!?」
「あまつさえ人としての権利が失われる。そんな理不尽がまかり通って良い訳が無い」
「まさか……母親を殺す気!? 貴方を産んだわたくしを……実の母親を!?」
カルメロルツ王国にて王族の次に権力があるとされるリュウゲンクローズ公爵家。
一族は国是に従う敬虔な国民だ。
だが、実の息子を貶し、殺そうとした過去がある。事実がある。
どれだけ立派な事を成し遂げようと、過去は消えない。罪は消えない。
この胸から湧き出る恨みは、憎しみは、決して消えない。
「俺に母など──いなかった」
先程まで金切り声のような奇妙な音を出し動いていた肉塊が、物言わぬただの肉塊に成り果てた。
それには一瞥もくれず俺はタイミングを待つ。
王城が手薄になるタイミングを。
▽
「レアーレ、五億のゾンビ群でカルメロルツの街、村、都を埋め尽くせ。放棄された街、廃村もだ。補給路と成りうる全てを叩き潰せ。そして逃がすな。カルメロルツ人は一匹残らず」
「相変わらず考える事がエグいが……了解した」
レアーレは神の贈物『再生させる神掌』を発動した。
「北方面まで覆い尽くすには馬車を使っても少し日数が掛かるが?」
「いい。どうせ逃げても意味は無い。当面の目標はカルメロルツ王国の浄化。最終目標がカルメロルツ人全ての浄化だ。見下してた相手から逃げる愚か者に再起など図れるはずが無い。まあ、逃げたとしても草の根を掻き分けてでも絶滅させるつもりではいるがな」
「根深いな」
「お前もそうだろう?」
「! …………ふっ、違いないな」
神の贈物発動の負荷で汗ばみながら笑みを浮かべるレアーレ。
「さあ、先に手を出してきたのはお前達だ。ならばこそお前達は両の頬を差し出すべきだ。そうだろう?」




