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無能勇者の烙印  作者: 汐倉ナツキ
第三章

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決戦前①/女神降臨


 ───新生サンブルックス王国。

 メシア教が国内のレジスタンスを吸収して属国からの脱却。

 すなわちレジスタンスがメシアと手を組み、国家解放を果たして(表向きはそうなっている)からしばらくの時が経っていた。


 メシア教と旧サンブルックス王国の残存戦力に敗北したカルメロルツの騎士。

 彼らは暴れるでもなく、本国に戻るでもなく、ただひたすらに王都や点在する街の護衛に勤しんでいた。

 初めは訝しんでいた住民達だったが、野盗や盗賊が現れれば即座に無力化する姿を何度も見せられて、追い出そうという動きは無くなった。(そもそも実力差的に追い出す事はできないのだが、それはそれ)

 住民達の疑念は時間を経ると共に、次第に無関心へと変わっていったのだった。


 国家運営は真昼に神の贈物(ギフト)を掛けられたカルメロルツの文官を利用している。真昼に政治は分からぬ。

 サンブルックスにいたカルメロルツ人は皆ゾンビ化したが、生きた状態の方が有効に活用できる人材はレアーレの神の贈物(ギフト)『蘇生させる神掌(レスレツィオーネ)』で蘇らせた。

 蘇らせた上で意思を奪い、従わせている。




 ▽




「号外〜っ!! 号外だよ〜っ!!」


 買い出しで大通りを歩いていると新聞屋が道のど真ん中で無料配布を行っていた。


「すみません! 一部ください!」

「はいよ嬢ちゃんっ!」

「ありがとうございます!」

「あいよっ! 号外〜っ!! 号外だよ〜っ!!」


 新聞屋は声を張り上げ、道行く人に無料配布を続ける。

 素早く買い出しを終わらせ、ルンルンと足取りを軽くしたままルーシアはアジトに戻った。


「ただいま帰りましたー!」


 シーン。返ってきたのは静寂。

 期待していた『おかえり』の返事は無い。


「うーん、まだ根を詰めてるみたいですね!」


 だが、それはよくある事だった。

 ルーシアは慣れた様子で奥の部屋に向かい、バン! と強引に扉を開けた。


「買い出し終わりましたー!」


 このアジトの中でも特に大きな部屋。

 ここに入るとしばらくの間、奇妙な感覚に襲われる。

 グラリと頭の中が揺らぐ。

 そして自分が生きてきた世界と遮断されたような、世界から自分が切り離されたような、そんな不思議な感覚を覚えるのだ。


「スマルドさん! 彼のデータ解析は二割ほど終わりました! しかし二割と言っても、その中に隠しデータがあるのは否めません……ふ、ふふふふ! 凄いですよ! 彼を作った人は優秀です!」

「あっそぉ! 勇者召喚の魔法陣の方は実用化したサンプルが無いから後回しにしていいって言われたけど、こっちもこっちで忙し過ぎるよ〜!」

「このまま作るとほぼコピー品になってしまいますが、改良するとなればあらかじめ立ててた予定を大幅に前倒しできます!」

「それはそれで大変だというのに楽しそうでいいね君はさあ!?」


 賑やかな雰囲気の中、ラベッタは神の贈物(ギフト)で指定した空間に異物が侵入した事に気が付いた。


「あ、ルーシアさん。帰ってきたんですね」

「はい! リストにあった物は全部買い揃えました!」

「もう昼ですか……。この中で作業してると時間感覚が曖昧になるのがネックですね」


 ラベッタは作業を中断し、ルーシアの持ってきた買い物袋を確認する。


「ええ、食材は揃ってるみたいね…………あら?」


 買い物袋の外側のポケットに差し込まれていた紙。

 その紙を不思議そうな顔で手に取るラベッタ。


「号外……どうやら、カルディッシュが声明を出したようですね。それとカルメロルツの……」

「ん〜? なになに……」


 いつの間にかラベッタの横に移動し、内容を覗き見るスマルド。


「これってぇ……」


 丸メガネの奥にある瞳を見開く。

 メガネのツルの下から冷や汗が流れ、頬から顎へと伝い、ポタッと床へと落ちていった。


 これは、少し先の出来事である。




 ▼




「たった数ヶ月で、ずいぶんと懐かしく感じるな」

「う、うむむ……」


 カルディッシュ・カルメロルツ領。改め───カルディッシュ王国。

 その北の都に置いていた拠点、メシア教会を見て物思いにふける。

 空には星空が広がってる。

 何だかこの教会には明るい時間に戻って来れた試しが無い気がする。

 外は常に暗いし、アリスはおねむだ。


「メシア様、お待ちしていました」

「貴方は……」

「サナトス・アペストルです。北の都の最北で反抗勢力の一つを纏めていました」


 あー、そんなのもいたかな。

 …………いや、段々思い出してきたぞ。

 カルディッシュに入って早々牢屋にぶち込まれて、ブチ切れた俺がこいつの部下達に命じてアジトに案内させて、支配した。

 それ以来ずっと俺の忠実な下僕だった男だ。多分。


「カルメロルツに攻め入るのですよね? 反抗勢力のリーダーの一人、シラウス・スタードルタスも武具や物資、兵力を集めて北の都で待機しています」


 ………………………………誰だっけ?

 いや、割と真面目に思い出せない。

 関わりがあんまない人だったら日本人の名前ですら覚えられない俺だぞ。

 横文字の名前とか覚えられる訳が無いだろう。

 そんなの胸を張って言える事だ。

 つまり? 自信ありって事。(胸を張れる事じゃない)


「ありがとう。では、指示があるまで再び待機を」

「はい。メシア様の御心のままに」


 パチ。一つ瞬きしたら目の前にはすでにサナトス・アペストルの姿は無かった。

 流石はランクA。まだ肉眼では追えない速さだ。

 やっぱり『鑑定眼』無いとカルメロルツの騎士と正面からやり合おうとは思えないな。


「うむむ、む……」

「眠そうだね、アリス」

「マヒルの部屋で、先に寝てるぞ……」

「はいはい。じゃ、後でね」

「うむうむ……」


 フラフラと一足先に教会に入るアリス。

 しばらく教会の外観を堪能してから俺も中に入った。

 入ってすぐに現れた聖堂。


「サンブルックス、ビルポタス、ロアルナの戦力も徐々にカルディッシュに集まりつつある。リスバイルとアレクサンドリアは相変わらず静観の姿勢のままだが、フランクールとアカルバーデルクは各地で暴動が起きている。メシアに触発されたらしいが、良い傾向だ」


 ゆっくりと講壇まで歩く。


「ノーランドには使者を送っておいた。あいつはあいつで勝手に動くだろう」


 講壇前で立ち止まる。


「俺のレベルはランクB底辺相当まで上がっている。レアーレのゾンビを殺し続けたおかげで安全にレベルアップできた。経験値がたんまり貯まった今の状態なら、職業『勇者』の特性をフルに活用できる。準備は万ぜ──何だっ!?」


 講壇に光が差した。神々しい光が。

 未知の現象を警戒し、即座にバックステップで後退。

 それと同時に腰に差した剣を引き抜く。


「教会にこんなギミックは搭載してない……この光は何だ? 何なんだこれは……っ!?」


 光に剣を向けつつジリジリと後退する。

 途中、光が強くなる。

 明る過ぎる聖堂内を視認できるように鑑定眼を調整し、不意の襲撃に備える。




『───異界の者、貴方はまだ、種を芽吹かせ願いを成就させる最中に……』




 突如として光の中に女が姿を現れた。

 思わずこうべを垂れて蹲ってしまいたくなるほど厳かで、本能的に畏れを感じる美しい女が目の前の光の中、宙にいる。

 言葉が聞こえるが、声は無い。

 テレパシーのように頭の中に流れてくる。

 敵なのか味方なのか、それすら分からない。

 ビーッ、ビーッ、ビーッ!

 鑑定眼が警告音と共に絶え間無く『ERROR』を吐き出してるからだ。

 目の前の未知から情報が抜き取れない。なら──。


「──《死ね》ッ!!」


 温い命令を選んでる暇は無い。

 故に初手一撃。

 絶体絶命の命令を叩き込む。

 あの女が生きているなら、俺の神の贈物(ギフト)は有効。

 生命である以上、俺の命令には誰も逆らう事はできない。

 女が何者かは死んだ後にゆっくり検分すればいい。




 ▼




『無駄はお止めなさい。私に神の贈物(ギフト)は効きません』


「なにっ!?」


『私を探ろうとするその瞳も極めて不愉快です。故に使用を制限させて頂きます』


「なっ!?」


 目の前が眩く、目を開く事ができなくなった。

 視界を奪われた俺はパニックに陥る。

 今まで当たり前のように使っていた技能『鑑定眼』が使えなくなったからだ。

 それも、あの女の言葉で。

 女は言った。使用を制限させる、と。

 つまり、他者の技能に易々と干渉する力。

 これまでの傾向からも神の贈物(ギフト)ですら有り得ない無法っぷりだ。


「突然現れて、何なんだお前はッ!?」


『私はこの世界の管理者。その代理。しかし、そうですね。貴方方の言い方を借りるならば──神、と。そう呼ばれる存在です』


「神、だと……っ!?」


『……私を認知していない? おかしいですね。私の端末が貴方に神の贈物(ギフト)の種を仕込ませた時に出逢ったはずですが……』


 頭に何かが触れる感覚。

 物理的な何かが触れる感覚だが、霞的な──霊的な何かが触れてる感覚にも感じる。

 何かが頭に触れている。頭の中に触れている。頭の中に入り込んでくる。

 何とも気持ちの悪い感触に身が震える。


「くっ、俺に触れるな!」


 握った剣ごと腕を振り、頭に触れる何かを振り払──えなかった。

 かすりもしなかった。

 剣はただ空を切るだけに終わった。


『無駄です。貴方が私に干渉する事は不可能です』


「…………っ」


 神の贈物(ギフト)が効かない。

 鑑定眼は封じられた。

 俺からの物理的接触も不可能。

 ……勝てない。為す術が無い。だが……。


『あの子に、アリスに助けを乞おうと無駄です。今この瞬間だけ、この空間は世界の理から切り離されています』


「……万事休す、か」


 この超常の存在が俺を殺すつもりならとっくに殺してるだろう。

 しかし、抗う手段すら奪われた現状、俺の命はこいつに指を掛けられている。

 ──ふざけるな!

 そんなのは死んでるも同然だ。

 俺はそんな理不尽に抗う為に力を手に入れた。

 だと、言うのに……っ! なのにッ!!


『確かにメレルド村の一人に、貴方に神の贈物(ギフト)を……』


 神を名乗った超常の存在は真昼の頭の中を読み込む。


「がっ、やめ……ろっ」


 今現在から遡り、各植民地を解放してる所、種を植えた所、カルメロルツで召喚される所まで。

 そして、未知なる情報を抜き取る為、元の世界を読み込もうとしたその時──。






『お前、俺達の世界に干渉するつもりか?』






 ガシッ。強く腕を掴まれる感覚が女を困惑させる。


『──なっ!? 貴方は一体……いえ、なぜ私に干渉が……っ!?』


『それを知る権利は、お前には無い』


『くっ、人間風情がこの私に舐めた口を……っ!』


『俺の後輩から離れろ──今すぐに!』


『きゃあああああっ!?』


 バチッ! 電気が走ったような音が鳴り、真昼の頭に乗せていた手が弾かれた。


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