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無能勇者の烙印  作者: 汐倉ナツキ
第二章

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水島夏羽④/絶望と希望


 アレクサンドリアに召喚されてから数週間が経過した。

 村崎と浅利には秘密裏に元の世界に戻る為に色々探ってるのは当然、秘密にしている。

 それはこの二人が元の世界にあまり未練が無いように見えたからだ。

 だったら綾香さんには伝えてるのかと言うと、そういう訳でもない。

 綾香さんは嘘をつけない性格だから、もし伝えたら村崎と浅利にも伝わる可能性の方が高い。だから誰にも伝えていない。


 ちなみにあたし達はかなりレベルを上げた。

 アレクサンドリアとリスバイルにある迷宮(ダンジョン)を認定ランクの段階順にクリアしていったからだ。

 そこら辺で衝撃の事実が判明した。


「ねえ村崎」

「ん? どうしたよ浅利」

「ずっと気になってたんだけど『れいわ』って、なに?」

「はあ? お前本当に日本人か?」


 質問した浅利を訝しげに見る村崎。

 眉を八の字にしたあたしは綾香さんを見る。

 綾香さんはふるふると首を横に振る。


「あたし達も『れいわ』なんて知らないんだけど、何なのそれ」

「自己紹介の時、たしか放課後と並べてましたよね……?」

「はあ!?」


 村崎はあたし達三人を信じられないものを見る目で見る。


「お前らウソだろ!? 令和は年号だよ年号! 平成の次の年号だって! ふざけてんのか!?」


 必死な形相の村崎。

 その表情はとても嘘をついている人間には見えない。


「年号?」

「二〇一六年七月ではまだ天皇死んでないけど……」

「それに、病気という話もニュースに出てませんよね……?」

「二〇一六年!? いやいやいや、えーっと、つまり……何から言えばいいんだ? とりあえず平成天皇は生きたまま天皇辞めたんだよ! 平成は三十一年で終わったの!」


 ボソリ。浅利は呟くように問いかける。


「……村崎、今の西暦は?」

「ああ? 二〇二八年だけど……じゃあ、そういう浅利は?」

「二〇〇四年。世界的に有名になった海賊映画が上映してから一年経ったくらい。水島と綾香は二〇一六年でしょ」

「もしかして……あたし達、違う年代から召喚されたって事!?」

「今の話からして、その可能性が高いかもね」

「はあ!? なんだよそれ!?」


 そう、あたし達は同世代だけど生まれてきた時代が違ったのだ。

 だから何だという話だけど、あたしは漠然と元の世界に戻る為のヒントがあると睨んでる。

 それと剣道部の皆もあの光に巻き込まれていた。

 だったらあたしと同じようにどこかに召喚されてるはず。

 でも、最悪のパターンを考えると大昔に召喚された。とか、今より未来に召喚された。とか、そういう可能性が浮かび上がる。

 召喚される時代が狂ってると、部員の一人と再開する事すら現実的じゃないかもしれない。




 ▼




 あたし達は冒険者の等級で最も高いランクSまで上がった。

 その間、わずか二ヶ月。

 成長速度はこの世界の人間を見てるとあたし達が特別異常だという事がよく分かる。

 まだまだ能力値は成長するから迷宮(ダンジョン)巡りは終わらないみたいだ。

 あたし達の存在はカルメロルツへのカウンターの為、秘匿扱いされているらしい。

 知ってるのは上層部と教育係くらい。

 こんな色々と経験してるとふと似た感じのが頭に思い浮かぶ。


「これ、ひょっとして『救世主(メシア)』の世界……?」

「ん? メシアの世界? 何かのアニメの話?」


 好みの話題かと思い食いつく浅利。


「あ、そっか。浅利は平成初期の高校生だったもんね。えーっと、なんて説明したもんかな……。あたしと綾香さんの時代ではスマートフォンっていういっぱいあった物理ボタンが消えたタッチスクリーンの携帯が主流でね」

「おお、あの二画面ゲーム機の下画面みたいな感じなのが携帯電話になるのか。凄い未来的だ……アンテナはもう伸ばさないの? ビョーンって」

「伸ばさないわね。で、その携帯はアプリを……えっと、ネットにあるソフトのデータを入れる事ができて、そこにはゲームのデータもあるのよ」

「はぁー、携帯で出来るネットゲームか。そのゲームの一つがメシアってやつなのか」


 顎に手を当て納得する浅利。


「そう。あー、よかった……伝わったぁ」

「わたしも聞いてて分かりやすかったです!」

「そ、そう? ありがと、綾香さん」

「で、そのメシアってゲームとこの世界がリンクしてるように感じてるんだっけ?」


 そう、地形とか、魔物とか、国の設定とか気になるところが多かった。

 だからこの世界を『救世主(メシア)』ってゲームと重ねてしまったのだ。

 汐倉を思い出してた時に連想して『救世主(メシア)』を思い浮かべてたとは言えない。

 …………じゃなくて、別に四六時中汐倉の事を考えてる訳じゃ……無いんだからねっ!?(唐突なツンデレ)


「懐いっていうか、ずいぶん古いゲームの話してて草。『救世主(メシア)』ってソシャゲは数年前にサ終したぞ?」

「あんたの時代ではそうでしょうね!」


 ていうか、前から思ってたけど語尾に付けてる草って何!?


「あはは、未来人が目の前にいるって不思議な感覚ですね」

「いやいや、俺からすると三人とも未来人なんだけど」


 そんな何気ない話をしてたら、そばに控えていたあたし達の教育係が話しかけてきた。


「メシア? メシアの話をしていたのか?」

「え? は、はい。『救世主(メシア)』だと何かあるんですか?」

「いや、最近メシアという奴がカルメロルツの属国を暴れ回ってるって噂があってだな」

「その暴れ回ってる存在が──メシア?」

「ああ、そうだ」


 それって、ほとんど答え合わせみたいなものじゃない?

 この世界に救世主メシアが存在してるって事は、そういう事よね?


「しかしメシアには妙な噂がある」

「妙な噂?」


 相槌を打つ浅利。


「ああ、半年前カルメロルツに召喚された三人の勇者の内の一人が死んでからメシアが現れた。カルメロルツの国土を暴れ回ってるのはその勇者の呪いなんじゃないか、そういう噂だな」

「カルメロルツに勇者!?」

「あ、ああ……突然どうしたミズシマ。そういえば言ってなかったが、敵国にも勇者がいて不安か?」


 教育係の心配は多少はあるが、頭の中を占めてる心配としては検討外れの為、首を横に振る。

 他国の状況なんてずっと教えてもらえなかったのに、ここで軽く教えられるなんて。

 それも勇者が召喚されてたなら、部員達の情報が手に入るかも。


「あの、その勇者達の名前は……分かりますか?」

「確か……セイト・クギミヤ、ナデシコ・ミコシバ──」

「その名前、もしかして……」


 誰にも聞こえないくらい小さく呟く浅利。


「あとは、マヒル・シオクラだな」

「───っ!?」


 汐倉が半年前にこの世界に来てた!

 やっぱり召喚には時差があるんだ!

 でも、数ヶ月程度のズレなら……汐倉と会える!

 ネックなのは敵国に召喚されてるってところだけど、あたしらか汐倉の勇者グループがどっちかの国に亡命すればワンチャン問題ないはず!

 あはは、あいつがいるって分かっただけで安心しちゃうなんて……あたしってばやっぱり現金っ!


「で、マヒル・シオクラがカルメロルツに殺された(・・・・)勇者だな」

「殺され、た?」


 は? なにそれ……。

 え、死んだ? 殺された?

 え、え、え?


「どうやら冤罪を掛けられたらしいんだが、まあ魔術を使えないらしかったからな。せっかく召喚した勇者がそんな不良品だったら殺されても仕方がないだろう。ああ、お前達は違うぞ? 魔力ゼロの冗談みたいな勇者じゃなかったからな。はっはっは」


 教育係の言葉が頭に入ってこない。

 頭が真っ白になってる。

 血の気が引いてるのが分かる。

 目の前が段々と真っ暗に………………あっ──。


「水島さんっ!? 大丈夫ですか!?」

「おい水島! しっかりしろ!」


 真っ黒に、あたしの意識が落ちた。




 ▼



 

 夢を見ていた。

 この世界に召喚される前の、汐倉と関わった時の記憶。

 今思えば、汐倉とは少し話せただけでも幸せな気分になれた。

 顔を見れるだけで幸せだったんだ。

 それだけで、あたしは幸せだったんだ……。




 ▼




「……ここは?」

「え? あっ、おい! 水島、気分はどうだ!? 気持ち悪くないか!?」

「大丈夫ですか!? 念の為、またわたしの白の治癒魔術掛けますね!?」


 村崎と綾香さんが凄く心配してくれてる。

 奥にいる浅利もソワソワしてるから、きっと心配してくれてたんだろう。


「皆、心配してくれて、ありがとう」

「んだよ水臭ぇな! オレ達は仲間だろ!?」

「そうです! 水島さんが倒れたら心配するのは当たり前なんです!」


 なんか、くすぐったいな。


「そういえば、倒れた原因なんだけどよ……」


 言いにくそうに口ごもる村崎。


「あ、あうぅ……」


 気まずそうに顔を逸らす綾香さん。


「倒れた原因って、カルメロルツの勇者の話だよね」

「っ!? ……違う。違う違う! 教育係の話は嘘なんだよ。そうじゃなきゃおかしいでしょ? 今まで教えてくれなかったのに何でいきなり他の国の話をしたって話じゃない……ねぇ!?」


 切り込んだ浅利も、三人も痛ましいものを見る目であたしを見る。


「何なの、その目は……ねぇ、何が言いたいの?」

「三人で少し話してたんだ。教育係が言ってたシオクラマヒルって奴、ひょっとして水島の知ってる奴なんじゃないかって。だから──」

「だから、何? 何を言うつもりなの? 汐倉は死んでない! 死なない! 殺されてない!」

「水島さん……」

「だって! だってだってだって! 最後に別れた時だって……あの光に包まれるまでは、あんなに……あんなに元気だったのにっ!!」

「落ち着けって水島!」

「──っ」


 ガシッ。村崎に肩を掴まれた。


「落ち着け……って、そんなの……っ」

「だから聞けって!」

「そうです! シオクラさんが水島さんの知り合いだと仮定して、わたし達も考えたんです!」

「か、考えた? ……何を?」

「その、シオクラマヒルが生きてる可能性についてだよ」


 真っ直ぐとあたしの目を見て言う浅利。


「あ、え……? 生きて、る? 汐倉が? あ、は……ははは……」

「だから聞けって水島! カルメロルツの属国でメシアが暴れてるって話してただろ!? もしかしたらそのシオクラマヒルがメシアなんじゃないかって!」

「汐倉が、メシア……?」

「それに、そもそも同姓同名の可能性だってある訳だし」

「あの、希望は捨てちゃダメです! シオクラさんはきっと生きてます!」


 そう、よね。

 まだ死体を見た訳でもないのに、悲観ばかりしてても……意味、無いわよね。


「……ごめん。取り乱したわ」

「仕方ないです。わたしも知ってる人の名前を言われたら、きっと同じようになるかもしれないですから」

「オレは……まあ、親しい人がお前らしかいないから……まあ、うん」

「俺も親とか、そう言われたらパニックになるよ。でもそれは、当たり前の事だから」




 ▼




 あたしが起きてから四人で教育係を問い質した。

 そろそろ決戦の時が近いから情報は徐々に解禁してもいいとアレクサンドリア国王が許可したらしい。

 足りない情報は他で集めた。

 それで、メシアの軌跡についてだけど。


「他の属国に潜り込ませた間者(スパイ)が手に入れた情報、ね」

「始まりはカルディッシュ・カルメロルツ領。メシア発祥の地か」

「メシアはメシア教という己を頂点、つまりは神に見立てた宗教を創設した。人智を超えた奇跡を起こして。そして、その信者はカルディッシュ人のみならず、今やアレクサンドリア人とリスバイル人の中にも増えつつあるって言ってたわね」

「そしてメシアは大陸を南下して、信者を次々と増やして、カルディッシュと同じように属国を順繰りに解放していっている……ですよね」

「最近カルメロルツも事態を把握し始めたらしいけど、戦力を分散し過ぎて対応が後手後手になってる……だよな?」


 手に入れた情報を再確認したあたし達。


「情報を箇条書きしなくてもこのメシアって奴が本当に水島の知ってる奴だったらヤベェな。かなり強過ぎるだろ……」

「ちょっと違いますけど、なんだかリンカーンさんみたいですね」

「奴隷解放の人……だっけ?」

「大まかにはそうです。メシアさんはまるで英雄みたいですね」


 あたしはポケットから情報収集の際に手に入れた小物を出す。


「それに、これ」

「何ですか、それは?」


 村崎、浅利、綾香さんが興味深そうに覗き込んだ。


「メシア教の神具……だって、言ってたわ」

「シンプルなデザイン。赤い丸かぁ」

「……何かこれ、日の丸みたいだね」

「「あっ」」


 浅利の指摘に「たしかに!」と頷く村崎と綾香さん。


「そう、日本の国旗みたいよね。単純だけど、メシアは日本人の可能性が高いかもしれない!」

「ふっ、だったらシオクラって奴かもしれねぇな!」


 あたしはそう信じるしかない。

 それが現実であると祈るしかない。

 だからあたしは、答え合わせをしなきゃならない。

 あたしはメシアと会う為に──アレクサンドリアを抜ける!






 無能勇者の烙印 第二章 完


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