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無能勇者の烙印  作者: 汐倉ナツキ
第二章

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水島夏羽③/異世界転移

 ▼




「うっ、うう……っ」


 いつの間にか空気の振動が収まって、床から放たれていた光は徐々に弱まっていく。

 あたしは恐る恐る、ゆっくりと目を開く。


「な、なんでっ!?」


 目の前に広がる光景はいつもの部室、更衣室では無く──煌びやかで厳かな見覚えの無い広い空間だった。

 さっきまでそこにいた汐倉も、部活仲間も皆……姿も形も無い。

 この変な空間に、あたしだけ。

 突然今までいた場所と違う場所にいる。

 ブルッ。そんな非現実的な現象に恐怖を感じ、体が震えた。


「いってぇええええ!? くっそが! カンカン鳴ってる踏切から押し出すとかあの野郎ぜってぇぶっ殺してやる! …………あーいや、死んだのはオレなんだっけ?」


 とっさに声の方に視線を向けた。

 あたしより身長の低い男子が叫んだり落ち着いたり情緒不安定な様子を晒している。


「あれ、俺……学校の屋上で寝てたはずなんだけど……どこ、ここ」


 さっきまで横たわってたてあろうぼんやりした男子は顔に乗せてた二次元のキャラクターがポーズを決めてるアニメか何かの雑誌をどかす。

 それから上半身だけを起こした状態のままきょろきょろと辺りを見渡す。


「な、何ですか? さっきの光は何だったんですか!?」


 わたわたと慌ててるのはぽわぽわした空気を纏っているあたしより背の低い可愛らしい女子だ。

 多分、あの三人もあたしと同じ状況……あたしも混乱したままだから三人の醜態には何も言えない。


「ほぅおぉおおっ!? はぁっ!? どこだここ!?」


 暴言を飛ばしまくってた背の低い男はようやくここがおかしい事に気付いたらしい。かなり情けない顔で。


「あ、あの……」

「あたし?」


 ぽわぽわした空気の女子が話しかけてきた。


「は、はい……わたし、綾香(あやか)聖(ひじり)といいます」

「これはどうも……あたしは水島夏羽です」

「水島さん、今何が起きてるのか分かりますか?」


 不安そうに聞いてくる綾香さん。

 だけどその疑問はあたしも抱いている。


「残念だけど、あたしも綾香さんと同じ事しか分かんないんだ」

「そう、ですよね……。すみません、わたしったら……」


 今の状況なら仕方ない。そう伝えようとしたその時──。


「「これって、もしかして……」」


 二人の男子の声が重なった。

 口振りからして心当たりがあるらしい。


「ふぉおおおおおおおっ!! 異世界召喚キタァアアアアアアアアアッ!!」

「ヒロインが未来とか別世界から来る……の逆バージョン的な展開? いや、それはちょっと違うか?」

「なんだお前、イケメンの癖してオタクか? しかもちょっと古いタイプの作品設定っぽいし」

「オタク? あー、まあそうかもね。でも、古いっていうのは聞き捨てならないな」

「お、こだわりのあるタイプのオタクか? イケメンは嫌いだが、お前とは仲良くなれそうだぜ!」


 静と動と言い表せるくらいテンションの違う二人。


「あいつら、何か知ってそうね」

「は、はい……」

「あたし達が今どうなってるのか聞きに行こうか」

「そう、ですね」




 ▼




「あのさ、あんた達、今何が起こってるのか分かってるのよね」

「わたし達に……教えて下さいませんか?」


 男子二人が話を止め、あたしらの方に顔を向けた。


「うおぉおおお!? タイプの違う美少女!!」

「これも、異世界ものの定番?」

「癒し系の可愛いタイプとクールで綺麗なタイプ! これから絆を深めて、どっちかがオレのヒロインになるのか……くっくっく、燃えてきたぁあああああ!!」


 再び盛り上がる男子二人。


「あのさ、教えてくれるなら早く教えてほしいんだけど」


 話を聞かない男子二人に語彙が強くなる。


「ああ、悪い悪い!」


 悪びれもせず言う男子とぼんやりした男子はようやく説明してくれた。


「ここはオレ達がいた世界とは異なる世界! んで、オレ達はこの世界に召喚されたって訳だ!」

「はぁ?」


 訳が分からない情報の羅列に思わず否定から入りかけた。

 でも今は少しでも情報を集めるのが先。

 汐倉に倣って、相手に気持ちよく喋らせる為にあたしなりに発言を軌道修正する。


「…………いや、召喚って……何で?」

「何でわたし達なんですかぁ……?」


 うるさい方の男子は頼られてるのが嬉しいのか鼻の下を伸ばして説明する。


「それは……きっとオレ達が選ばれたからだな!」

「選ばれた……?」

「偶然か、才能を掬い上げたのかは分からないけどね」

「あー、偶然パターンだと無能キャラが出てくるけど……まさかオレか!? いや、オレはチート全開で無双できるはずだ! なんたってオレだし!」


 えーっと、こんな事なら松尾の話にもっと耳を傾けるべきだったかな。

 異世界がどうとか、召喚がどうとか、そんな話を部活男子連中に話してたのを思い返す。

 内容は興味無かったからまったく思い出せないけど。


「まとめると、あたし達は異なる地域から異なる世界に移動させられた」

「それで……」


 綾香さんの言葉に被せるように、嗄れた声が割り込んできた。


「貴方方は──勇者として召喚されたのです」


 声に振り向くと、そこには白いローブを纏った長身のお爺さんがいた。

 お爺さんは西洋人っぽい面立ちだ。

 その後ろからゾロゾロと現れた白いローブの人達もアジア人の面影が欠片も無かった。


「やっと来たか! 異世界人!」

「ようやく説明パートだね」


 男子二人をなだめ、お爺さんは語る。


「私の名はアガルマガル。我々はこの大陸を支配する超大国カルメロルツを打倒する為に勇者召喚を決行しました」

「なるほど、そのカルメロルツって国に魔王がいるんだな!」

「いえ、魔王は別大陸に国を構えています」

「あるぇ?」


 あやふやな知識でドヤッてんじゃないわよ。


「我々は旧リスバイル王国と手を組み、カルメロルツを打倒する事こそが宿願。植民エリアに堕とされた祖国を独立させる為に、全力を尽くしています」

「なるほど、それで俺達はただ召喚されたって訳じゃないんだよね?」

「あっ、そうそう! チートだよチート!」

「ええ、貴方方は勇者召喚の儀によって召喚されました。このシステムは戦いの素人でもすぐさま成長し、屈強な人間に打ち勝つ事ができる画期的なもの。能力値は通常の何倍も高く、初期ステータスから技能がより多く取得した状態になっています」


 え、何? ゲームの話?


「こちらは冒険者ギルドから譲り受けたステータスプレートです。こちらに登録するとステータスなどを閲覧する事が可能です」

「冒険者ギルドキタァアアアアアアアアッ!!」

「まあ、異世界の定番だよね」


 アガルマガルさんはあたし達四人にステータスプレートを配った。

 抜き身のナイフと共に。


「己の血液をステータスプレートに垂らせば登録は完了です」


 自傷して血を流せと言われたあたし達は身を固くする。

 テンションが上がってた男子二人も少し躊躇している。

 アガルマガルさんに一滴で構わないと急かされてから、男子二人は指を切って登録した。

 あたし達もやらなきゃいけない雰囲気だったから、あたし達も戸惑いながら指を切って登録した。

 切った指はジクジクして痛い。

 そもそも何でこんな事に……。少し後悔した。


「それでは、これより我らがアレクサンドリアの王に謁見して頂きます」


 そして、この指の痛みが嫌でも今の非現実な状況をリアルなのだと自覚させてくる。




 ▼




「いやー、あの王様おっかなかったなー!」

「あのタイプの王様も定番だね」

「ていうか、王様の近くにいた人……カルメロルツから派遣されたアレクサンドリアの総督だったんでしょ? もしかして、買収?」

「とりあえず何事も無くてよかったです……」


 謁見の後、あたし達は広い部屋に待機を命じられた。


「そういや自己紹介がまだだったな! オレの名前は村崎紫楼(しろう)! 令和と放課後を駆け抜ける帰宅部で普通の男子高校生だ!」

「れいわ……? 俺は浅利夕。成桐高校。漫研のただのアニメオタク」

「ただのアニメオタクはそんなイケメンじゃねぇんだよ! つーか成桐ってクソエリート校じゃねぇか! 天は二物を与えずってのはウソっぱちじゃねぇかよぉ!!」

「そうらしい。俺は二物持ちイケメンのアニメオタク」

「くっそ、ナルシストって言ってやりたいが浅利がテキトーに喋ってるのが分かってるから何とも言えねぇ!」


 悔しそうに拳をプルプルさせる村崎。


「あたしは水島夏羽。緑ヶ丘高等学校生。剣道部所属よ」

「わたしは綾香聖、です……。松浦北高校に通ってます。一応、茶道部に所属してます……」


 松浦北。松浦、か。

 たしか赤坂先輩が進学した早川大学がある市の隣の市……だったかな。


「入ってる部活動すっごくイメージ通り! いいねいいねぇ!」


 村崎の奴、何だかキモい。というかウザイ。

 あたしの学校にはいないタイプの人間ね。


「え? はぁ……そうですか」

「綾香さん、こういうのには返事しなくていいのよ」

「は、はい!」


 返事しながらあたしの後ろにわたわたと隠れる綾香さん。

 ひょっとしてこの子、ちょっとどんくさい?


「そういや、皆はどんなステータスだったんだ?」

「言い出しっぺの法則」

「浅利、お前なぁ……まあいいけど。能力値の普通が分からねぇから技能とか魔術だけ共有するか。オレは黒の魔術以外の魔術適性がべらぼうに高いらしい……けど、これ凄いのか? 技能はいっぱい並んでて、多分共通してるのが『多言語理解』だと思うんだけど」

「俺は魔術適性そこそこ? 技能は『経験値大幅促進』と『超速再生』と『多言語理解』の三つだった」

「うおぉおお! 『超速再生』!? すげぇチート能力じゃん! いいなぁ〜!」


 村崎はテンションを上げるが、あたしには何が凄いのかまったく分からない。

 隣を見ると、綾香さんも何が何だかって感じだし。


「あたしは緑と青の魔術に適性があるみたい。技能は剣術系が何個かあるのと他何個かあるのと、あたしも『多言語理解』があったわ」

「わ、わたしは白の魔術適性がありました。技能は色々書いてあって……あ、あとわたしも『多言語理解』がありました」

「なるほど、やっぱりオレ達は『多言語理解』のおかげで異世界人の言葉が分かるらしいな! あと『経験値大幅促進』の二個は勇者の必須技能らしいな!」


 異世界人とのコミュニケーションとレベリング……とにかく強くなるのは問題無いみたいだ。

 突然別の世界に呼び出されて、戦争に参加しろなんて……すっごく嫌だけど、やらなきゃいけない。やるしかないからやる。

 家族と部活仲間……汐倉とまた逢いたいから。だから──。


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