盗賊(1)
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ご愛読ありがとうございます。
記念として、近日中に閑話を書きたいと思っています。希望の登場人物などがありましたら、感想欄にご記入ください。
あの会談から、約一か月が経った。
セルキア王国の方針の決定権は国王が持っていることとなっているが、実質のところ、ザイラルキの姫である海が握っている。このことを知っているのは、行政に携わっている者のごく一部であり、国民のほとんどは支配者が変わったことを知らない。国民は支配者が変わろうが、自分達の生活が保障されれば、気にするとは思わないが...
海はあの会談の後、自国のザイラルキに戻っていった。帰り際に「お土産持ってくるから楽しみにしててね」と言っていたが、俺には悪い予感しかしなかった。こういう予感だけはよく当たる。
俺は加護の制御をメインに、クラスメート達が滞在しているキロディスで過ごしていた。
魔王の一件は海の悪戯で、セルキア王国首脳陣にのみ送信されていて、王国民には送信していなかったそうだ。「そんなに広範囲に出来たら、洗脳とかも出来るわよ。待てよ、そういう手段も...」とか危ないことを言っていたので止めておいた。
とにかく、クラスメートに焼きそばパンを買いに行かなくて済んで良かった。まあ、恥ずかしかったことに変わりなかったのだが...
また、フレーゼは俺の身の周りの世話を続けている。
しかし、心ここにあらずといった様子であった。
海にあれだけ言われたのが原因であるのは明らかである。
俺と海の意図していることに気付いてくれるとありがたいんだが...
そんな事を考えていると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
応対すると、フィーレさんと悟の姿があった。
「空君、相談したいことがあるんだけどいいかな?」
「フィーレさんも同じ案件ですか?」
空は、フィーレも同じ用件で尋ねてきたと推測したので確認した。
「ええ、ここ最近、キロディスの発展が著しいのはご存知ですよね?」
「はい、『迷い人』である僕達の持つ発想や技術が大きく影響しているのでしょう」
「その発展に伴い、この近辺で盗賊が出現したとの報告がありまして、どうすべきか助言をいただきたいのです」
空は顎に手を当て考え始めた。
「クラスの皆も、せっかく作った物が盗られて困ってるみたいなの。何とかならないかな?」
「フィーレさん、第三部隊の警備はどうなってますか?」
空はまず、現在の警備状況を尋ねた。
これは盗賊の実力がどのくらいか推し量るためである。
「ソラ殿に言われた通り、4交代制の24時間巡回を行っています」
「その警備を潜り抜けるだけの力量は持っているってことか...フィーレさん、この近辺の地図はありますか?」
「手元に今は無いので少々お待ちください」
フィーレは駆け足でその場を離れた。
「空君、どうするつもりなの?」
「このまま放置しておくと『キロディスはいいカモだ』と舐められるからね。調子に乗る前に排除する」
「危なくない?」
「そんなこと言ってたら何も出来ないよ。ただ腑に落ちない点が...」
そんな事を話していると、息を切らしたフィーレが戻ってきた。
「はぁ、はぁ、お、お待たせしました」
「ありがとうございます、そんなに急がなくても大丈夫でしたのに」
「い、いえ、早いことに越したことはないと思いましたので」
フィーレに、犬の耳と尻尾が幻視されたように感じた空であった。
早速、テーブルに地図を広げ、キロディス周辺の地理を確認し始めた。
一通り眺めた空は口を開いた。
「うん、ここかな」
「何がですか?」
「僕が隠れるとしたら、ここに隠れる」
そう言って空が指で示したのは、見通しの良さそうな草原であった。
「ここですか?ここは些か見通しがよさそうだと思うのですが...」
「そうだね、だからこそ都合が良い」
「どういうことですか?」
「見通しが良いということは遮蔽物が無いということだ。森なんかと違い目標の発見が容易い。獲物である馬車や巡回とかね」
「しかし、こちらからも発見しやすいということにはなりませんか?」
「普通ならね。しかし、こちらは広大な面積を探すのに対し、向こうは草や土を体にコーティングして息を潜めて待機していればいい。仮に見つかったとしても追い付かれない距離で逃げられる。何て言ったって見通しが良いから」
「なるほど...」
「取り敢えず、そこに行ってみよう。この紙に書いてあるものと10人くらい第三部隊の人を連れてきてもらえますか?」
「分かりました」
フィーレは再び退出した。
これからどうするのか決まったはずなのに、空が浮かない顔をしているのを見た悟は尋ねた。
「気になることでもあるの?」
「うん、一つだけ。でも、確証はないから混乱させないために言わないでおくよ。それより、悟はどうするの?」
「え、私も行くよ?」
何、当たり前のことを言ってるの?と言いたげな顔で悟は首をコテンと傾けた。
「見たくないものを見ることになるかもしれないけど大丈夫?」
「私が空君に頼んだ事だもの。最後まで私が責任を取るべきじゃない?」
「いや、僕は全然気にしないけど...」
「私が気にするからいいの!ほら、早く支度して」
仕事へ向かう夫の面倒を見るように、甲斐甲斐しく空の世話を焼く悟であった。
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