盗賊(2)
「この辺りか」
空達は目星を付けた草原へと来ていた。
一通り見回してみても、盗賊らしき姿は無い。
空の加護である《心眼》でも、声が聞こえることは無かった。
しかし、空は違和感に気付いた。それは、ずば抜けた観察力を持つ空だからこそ気付けた些細な変化であった。
草原の一部の草が不自然に一瞬だけ揺れたのだ。
それを空は見逃さなかった。
「フィーレさん、用意してもらったものを貸してください」
「どうぞ」
そう言ってフィーレが空に手渡したのは油の入った瓶であった。
空は戦争に臨むにあたって、兵器もいくつか開発していた。その一つがこの『なんちゃって火炎瓶』である。もちろん、命名は空である。
本来、火炎瓶はガソリンなどの燃料を必要とするが、この世界ではそれらしきものは発見できなかった。
そこで、中身を燃えやすい油にして火力を補うために、爆発する魔道具を使用することにした。
こうして改良を重ねて出来上がったのが、この『なんちゃって火炎瓶』である。
実はこの『なんちゃって火炎瓶』、ネーミングの腑抜け感とは裏腹に、とてつもない火力を叩き出す。
元々組み込んだ魔道具自体でも、採掘場などでダイナマイトのような役割を担っていた。そこに油の中でも燃えやすい魔獣の油を加えたのだ。威力が出ないはずがない。
しかし、問題点もある。一本当たりのコストが馬鹿にならないのだ。魔道具自体もそれなりの値段がするのだが、一番は貴重な魔獣の油を使用している点である。
とは言うものの命には代えられないと、先の戦争の為にそれなりの数を用意していた。
しかし、戦争があっけなく終わってしまったため、出番がなくなってしまい、倉庫で埃を被っていたのだ。
それを空は有効利用しようと考え、フィーレに持ってきてもらうように頼んだ。
空は受け取った『なんちゃって火炎瓶』を振りかぶって、違和感を感じた場所とは違う場所に放り投げた。
投げられた『なんちゃって火炎瓶』は綺麗な放物線を描き、着地と同時に大爆発を引き起こした。
その衝撃は凄まじいもので、それなりに離れていた悟達も思わず身を固くするほどであった。
空は二本目の『なんちゃって火炎瓶』をフィーレから受け取り、わざとらしい声音で喋り出した。
「あれれ~、僕ってこんなに投げるの下手くそだったんだ~。次はあそこの茂みが良いかな~。でも、どこ飛んでくか分かんないな~」
近くにいたフィーレは思った。えげつないと。
先程の威力を見せられたら、否応なく恐怖を植え付けられる。その火炎瓶というより爆弾に近いものが、ノーコンらしき人物が投げるのだ。怖いに決まってる。
しかも、それを分かっててやっているから質が悪い。
実は試作の段階で、空は第三部隊の誰よりも火炎瓶を投げるのが上手かった。
つまり、先程の投擲は意図的に目標から外したのだ。
だから、それを分かっているフィーレは、どこに居るか分からない盗賊に憐憫の情を抱いた。
「次は二本いっぺんに投げちゃおうかな~?でも、どこ飛んでくか分かんないな~」
それは流石に堪らないと思ったのだろう。不自然な動きをした辺りの草が再び動き出したのだ。
目には見えないが、そこに何かいるのは確かであると思い、第三部隊の面々が動き出そうとしたが、空が止めた。
「このまま放置で。動き出してしまえば跡は追える」
動かないことでアドバンテージを得ていた者が、わざわざそれを捨ててくれたのだ。その好意に甘えて、空はその者の行く先を知ろうと考えた。
その考え通り、姿の見えない何者かはどこかへと向かっているようである。
空達は火炎瓶の試投を演じながら、その者の行方を探った。
しばらく目で草の動きを追っていくと、何者かは草原に隣接する森へと入っていった。
後は簡単であった。足跡を辿っていけばいいので、追跡の訓練をこなしている第三部隊の面々に空は任せた。
専門外の空と悟は、第三部隊の後ろを並んで歩いていた。
「この感じだと、日が落ちる前に盗賊さんを見つけられそうだね」
「そうだと良いんだけどね。僕は疑問が増えて困惑してるよ」
「何で?」
「何故姿が見えないのか、何故一人だったのか、あそこで何をしていたのか、とまだまだ疑問はあるけど、一番は僕らへの対応がお粗末過ぎる事。何でこの森に逃げ込んだのか、僕にはさっぱり分からないんだよね」
「あの火炎瓶が怖かったんじゃないの?凄い威力だったんだし」
「怖いのは勿論分かるんだけど、この森まで逃げる必要はないよね?姿は見えないのだし、少し離れて身を潜めていればいいじゃないか」
「自分の存在がばれたと思ったとか?空君、わざとらしかったし」
「そう思ったなら、やっぱり僕らが気付いているという確信を得るまで草原で待機するべきだ。仲間と合流するにしても情報は重要だからね」
「じゃあ何で、この森に逃げ込んだんだろう?」
「何か別の目的があるのか、それともただの馬鹿なのか...どちらにせよ逃げた奴を見つけないと始まらない」
そんな会話をしていると、追跡をしていたフィーレ達の足が止まり、岩壁に空いた洞穴を見つめていた。
「この中?」
「はい、足跡はここで途切れていますので、十中八九間違いないかと」
「それじゃ、陣形を組んで慎重に進もうか」
一行は、非戦闘員の空や悟を守るように陣形を組み、洞穴の中へと歩を進めた。
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