第5話:冒険者ギルドでの規格外登録
巨大な城壁をくぐり抜けると、そこは活気あふれる城塞都市・ファルガスだった。
石畳の通りには露店が立ち並び、様々な種族の人々が行き交っている。オサムはカインたちに案内され、街の中央にあるひと際大きな建物――「冒険者ギルド」の扉をくぐった。
ギルドの1階は酒場を兼ねており、昼間から屈強な冒険者たちがジョッキを傾けて騒いでいる。オサムはその熱気と喧騒にワクワクしながら、受付カウンターへと向かった。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
制服をビシッと着こなした、犬耳を持つ獣人の受付嬢が笑顔で応対する。
「新規登録をお願いしたいんですが」
「かしこまりました。では、こちらの用紙に必要事項をご記入ください。お名前、希望する職業、それから……『必須睡眠時間』と『活動希望時間帯』ですね」
「必須睡眠時間?」
聞き慣れない項目にオサムが首を傾げると、横からルミアが説明してくれた。
「冒険者にとって、睡眠不足はダンジョンでの全滅に直結するの。だからギルドでは、パーティを組む時のミスマッチや過労死を防ぐために、それぞれの睡眠サイクルを厳格に管理しているのよ。一般的には『1日10時間睡眠、昼間活動』って書く人が多いわね」
「なるほど、ホワイトな職場環境だな。素晴らしい労務管理だ」
オサムは感心しながら羽ペンを受け取り、迷うことなくサラサラと用紙を埋めていった。そして受付嬢に提出する。
「はい、これでお願いします」
「ありがとうございます。確認いたしますね。ええと、お名前はミネ・オサム様。職業は……えっ?」
受付嬢の笑顔が引きつり、犬耳がピーンと直立した。
「あの、オサム様。こちらの記入欄ですが……」
「はい、何か不備がありましたか?」
「『必須睡眠時間:45分』『活動希望時間帯:24時間いつでも』……あの、冗談はおやめください。ギルドの登録は公式な記録ですので」
受付嬢が困ったように眉をひそめる。無理もない。1日45分しか寝ない人間など、この世界には存在しないのだから。
「冗談じゃありませんよ。俺は1日45分寝れば完全に回復します。だから、深夜でも早朝でも、いつでも依頼を受けられます」
「ですが、そのような無茶な活動はギルドとして推奨できません! 過労で倒れられては困ります!」
「おいおい、受付で何の騒ぎだ」
受付嬢の声が大きくなったことで、奥の部屋からドスドスと足音を立てて大男が現れた。顔に大きな傷がある、筋骨隆々の壮年男性だ。
「ギルドマスター……! いえ、こちらの新人さんが、無茶な登録内容を提出されまして」
ギルドマスターと呼ばれる男は、オサムの登録用紙をひったくるように見ると、鼻で笑った。
「45分睡眠だぁ? おい坊主、冒険者を舐めてんのか。睡眠を削って虚勢を張るような奴は、いざって時に集中力が切れて死ぬんだよ。大人しく『10時間』って書き直せ」
威圧的なギルドマスターの態度に、カインやドンも息を呑む。
しかし、オサムは全く動じなかった。むしろ、自信に満ちた笑みを浮かべて、腰の革袋をカウンターにドンッと置いた。
「舐めてなんかいませんよ。俺にとって睡眠は削るものではなく、効率よく消化するものなんです。……ちなみに、これは昨日の深夜から明け方にかけて、森で『起きていたついで』に狩った魔物の素材です」
革袋の口を開けると、中から大量の魔石と、ヒュプノウルフの牙、そして巨大なナイトボア(夜行性の猪)の毛皮がドサドサとカウンターに溢れ出した。
「なっ……!?」
ギルドマスターの目の色が変わった。
「ヒュプノウルフに、ナイトボアだと!? こいつらは真夜中のもっとも暗い時間にしか活動しない凶悪な魔物だぞ! お前、これを一晩で……しかもソロで狩ったっていうのか!?」
「ええ。皆さんがぐっすり夢の中にいる時間帯は、ライバルがいなくて快適でしたよ」
ギルドマスターはオサムの顔をまじまじと見つめた。
徹夜でこれほどの魔物を狩ったというのに、目の下にはクマ一つなく、肌のツヤもいい。何より、その瞳には疲労の欠片もなく、ギラギラとした活力が満ち溢れている。
長年、数え切れないほどの冒険者を見てきたギルドマスターの直感が告げていた。こいつは、嘘をついていない。
「……ハッ、ハハハハハッ!」
突然、ギルドマスターは腹を抱えて大笑いし始めた。
「面白い! 世の中にはとんでもない突然変異がいるもんだ! いいだろう、そのイカれた睡眠時間、そのまま登録してやる! ただし、本当に24時間こき使ってやるから覚悟しろよ!」
「望むところです。あ、でも1日のうち45分だけは、趣味の時間としてきっちり休ませてもらいますからね」
こうして、オサムは冒険者ギルドの長い歴史の中で初めて、「24時間対応可能の超・深夜型冒険者」として規格外の登録を果たしたのである。




