↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢、悪役令息を飼う  作者: 朝比奈侑生


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
36/40

第36話 僕は特別じゃなかったんだ

 僕は自分の胸に手を当て、驚愕する。

 血は出ているが傷が塞がっていた。

 これはもう天才の域を超えているぞ!?


「う、うわあああああ」

「落ち着きなさいリングレット、死に至るほどの傷ではないわ」

「で、でも血が……血……が?」


 あれ、気絶しない?

 僕はか弱いのではなかったか?


「……何故、何故リングレット様が……」


 ユリエールは血の付いた短剣を落とし、わなわなと震える。

 何故?じゃないだろ!お前のせいでこの僕が汚れてしまったじゃないか!

 ああ僕の血は貴重だというのに……もはや国家の損害だ。ああそういえばお前は反王政派だったな、なら仕方ない……

 仕方なくないだろ!?なんてことをしてくれるんだ!


「何故?じゃないわよ。この男は私の犬。私が危険に晒されたら自然と体が動くのよ」

「リングレット様に傷などつけたら私が怒られてしまうじゃない」

「誰に?」


 ご主人様の深い追及に、ユリエールはたじろぐ。

 床の絨毯にしみた血が蒸発し、純白の気泡となって上へあがっていった。

 僕は血さえも高貴なのか……。


「アルザンド……」


 僕が小さく呟くと、二人は一斉に僕を見る。

 傷が浅くて百合の魔女の力ですぐ塞がったとはいえ、僕は超痛かったんだからな!?

 そんなか弱い僕が瀕死の状態で話しているんだからしっかり聞き給え!


「アルザンドだろう、僕を傷のないよう捕らえるように言ったのは」

「そ、そんなことは……」


 僕が流し目でユリエールを捕らえると、彼女は言葉を失った。


「けど、僕を襲ったのはおそらくお前の単独行動だ。アルザンドの指示じゃない。お前が僕を捕らえると言った時にアルザンドは止めたはずだ、そして最終的に反王政派にもたらす利益と折衝した結果、僕を捕らえることを承諾した。ただし、無傷でとらえるように、と」

「な、何故そんな見知ったことを……」


 何を言う、そんなもの、僕が天才だからに決まっているだろう。

 僕が天才的な頭脳を持っているのは百合の魔女の子供だからだろうか。そういえば父親のアレクサンドルとかいう王子も頭がよく美貌の持ち主だったと言っていたな。

 まぁ生みの両親などどうでもいい。僕が天才なことには関係のないことだ。


「僕はお前を捕らえる。こんな気持ちの悪い生き物、僕の知らない場所で野放しにしておきたくない!気持ち悪いんだお前は!」


 強く宣言すると、ユリエールは強く震え、瞳を揺らした。

 そうだろうそうだろう。僕のように美しい者にこれだけ拒絶されれば震えてしまうだろう。

 僕は腰元の剣に手を伸ばし、柄を握った。


「私が気持ち悪い?そんなわけないわ、クラディウス様は私を美しいと、清らかだと言ってくれた。この薔薇の魔女などより清廉だと……」

「あら、いつの間に女の趣味が悪くなったのかしら。きっと教会で魔力を吸い取られた時に、目まで悪くなってしまわれたのねクラディウス様は」


 僕は剣を音もなく抜くと、ユリエールの喉元に切先を突き付ける。


「大人しく掴まれ。お前のその気味の悪い魔力を調べるのはそれからだ」


 剣から放たれる清浄なる光がユリエールの邪悪な魔力を打ち消し、顔の周辺だけ魔力が薄くなる。

 ユリエールの病的に白い肌、赤い目が、健康な肌色、赤茶けた瞳の色に変わっていく。

 なんだ、魔力で顔さえも変えていたのか。

 こうしてみると平凡な庶民顔だな。別に悪くはないぞ。

 僕の顔が異常に美しいだけだからな、卑下することはない。


「……そこまでです、ユリエール嬢」


 キィン……!突然僕の剣は全く魔力を持たない野太い大剣に打ち払われた。

 しかし柄を離すことはなく、ただ、力によって後退させられる。

 衝撃で一瞬目を閉じたが、この匂い、くんくん……わかる、わかるぞ。臭いっ!


「アルザン、ド……」

「わずかぶりではございますが、失礼いたしますリングレット様」


 アルザンドはユリエールの体を抱き寄せると僕に頭を下げる。


「どういうこと?アルザンド様。説明して下さる?」

「………申し訳ございません、としか言うほかございません」

「あなたが反王政派の主犯格なことに申し開きはないようね」

「……申し訳、ございません」

  

 アルザンドは何度も謝るが、その言葉は口先ばかりで、視線はずっと僕の方を向き、血まみれになった僕の胸を見ては、苦痛に顔を歪ませた。

 そんな顔をするなら最初からこの女を鎖でつないでおけ!

 お前のせいだぞアルザンド、お前がこの女を自由にさせたからこの僕が痛い思いをしたんだ!

 全く反省して欲しい。

 この僕をお守りするとか言っていなかったか、あれ……そういえばあの走馬灯はいつの記憶なのだろう?

 確か魔女と王子が火で焼かれたのは約二十年前、僕は今年で二十歳になる。

 とすると、僕は生まれた瞬間から記憶があるのか……頭が良すぎるな!?


「アルザンド、その女を渡せ」

「……申し訳ございません」

「お前は申し訳ございませんしか言えないのか」


 全く、国家に反逆しているくせに謝るのが好きな男だ。

 そんなに低姿勢なら最初から反逆しないで欲しい。


「僕のことはお前の命に替えても必ずお守りするんじゃなかったのか」


 僕がそう言うと、アルザンドは信じられないと言わんばかりに目を見開き、瞳を震わせる。


「何故、それを……リングレット様が」

「たった今思い出した。僕の魂が記憶していたんだ。生まれたばかりの僕を抱くお前の姿と、滅多刺しにされて殺された僕の実の両親のことをな」


 今までのうっ憤を晴らすように吐き捨てると、アルザンドは崩れ落ち、泣き出した。

 なぜお前が泣くんだ、泣きたいのは僕の方だろう!?

 可哀そうな悲劇の美男子はこの僕だろう!?


「……そうです、リリーデル様とアレクサンドル様の処刑現場からあなた様を奪い、この国へ亡命し、あなた様を国王陛下に預けたのは私でございます」


 やはり僕は……養子だったか。

 小さい頃から薄々感じていた。

 弟のユリアンは凡才で小さい頃から鍛錬することを強いられた。まぁこれは本人がそういう性格だったのだけれども。

 一方僕は何でもできるから放置された。

 つまり……期待されてなかったってことだ。

 普通、侯爵家の長男で天才の僕のことを聖信者にしてみたり、王女の婚約者にしたりと、やたら外へ出したがるだろうか。

 実際は、まぁ、本物の嫡男であるユリアンに継がせるための茶番だったわけで。

 ……ちょっとだけ虚しくなるな。


「あなたが侯爵家などと分不相応の爵位を、よそ者なのに持っているのはそのせいだったのね」

「マリーノワーズ様は、ご存じなかったのですね」

「ええ、私は何も知らされていないので。自分で探っておりましたが、ようやく確証が持てましたわ」


 お前の経緯なんてどうでもいい。僕は今珍しく神妙になっているんだ。大人しくしろ。

 

「で、そんなあなたがユリエールなどと言う偽りの聖女を使ってまで、リングレットを奪還しようとしているのは何故?反王政派などに捕まってしまったら、酷い目にあわされるのは目に見えているでしょう」

「……それは……」


 アルザンドが下を向いた瞬間だった。

 暑苦しい胸板に抱かれていたユリエールの目が急に見開き、手のひらをご主人様に向ける。

 まずい、この僕でも流石に間に合わない。


「くたばれマリーノワーズ……!」


 怨念を込めた魔力の球が手のひらから放たれようとすると、突然、その球は勢いを失い、宙で消えた。


「なん……で」

「ユリエール、あなたの魔力はこの方々と違って無尽蔵ではありません。帰りましょう」

「嫌よ、この女に好き勝手言われて、リングレット様だって、あんな女のことをかばって……!」


 ユリエールはアルザンドの暑苦しい胸板を何度もたたき暴れる。

 無駄だ、そんな叩き方ではこの男はびくともしないぞ。筋肉馬鹿だからな。

 白けた顔で二人を見ていると、アルザンドが僕の方を寂し気な、愛おしそうな表情で見てくる。気色悪いな……。


「アルザンド様、あなたの大切なリングレットは負傷しているの。もう血は大分消えかかっているけれど、胸の所の服が切れているでしょう。この女はあなたの命令を無視した。つまり、反王政派に牙をむいたのよ、このこと、よーく、クラディウス様にご報告なさって?あなたの婚約者の犬を傷つけた女です、と」


 ご主人様は僕の胸に指先で触れ、アルザンドを挑発する。

 アルザンドは生唾を飲んだ。

 ……まさかお前、僕のことをそういう目で見ているのではないだろうな。気色が悪い。


「……かしこまりました」


 それだけ言うと、アルザンドはユリエールの鳩尾を軽く殴り、気絶させ、窓から飛び降りる。

 僕が慌てて追いかけ、窓の外を見ると、そこには人の姿形も見当たらなかった。


「……とりあえず、今日のところは一時休戦、というところね」


 僕は窓の淵を握ったまま、動けない。


「……リングレット?」


 動揺で急回転していた頭が、急激に動きを緩め、事実の理解を深めようとする。


「リング……レット」


 僕は百合の魔女リリーデルと隣国の王子アレクサンドの息子で、アレクサンドルの護衛騎士だったアルザンドに助け出された。

 僕は国王陛下に捧げられ、ガルシアン侯爵家へ預けられた。

 だから僕は両親に期待されず、ただ甘やかされるだけの日日を送ってきた。

 僕の美しい顔と賢さや身体能力は父親のアレクサンドルに、異常な魔力は母親の百合の魔女リリーデルから受け継がれた。

 ……なんだ僕、大したことないじゃないか。

 僕はただ受け継いだものの遺産で生きてきただけなんだ。

 僕が努力して得た物でもなく、僕が特別変異だったわけでもない。

 必然、だったんだ……。


「リングレット……!」


 ご主人様は僕を後ろから抱きしめる。

 いつの間にか僕は嗚咽を吐き、大粒の涙を窓の外へ落としていた。

 涙は夜露のように月に輝き、青白く輝く。

 嗚咽で震える僕の腹に腕を回すと、ご主人様は「あなたはあなたよ」と呟いた。

 

今のところストックが日曜で切れてしまいます。

なんとか頑張りますが、もしかしたら少しお休みをいただくかもしれません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。