↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢、悪役令息を飼う  作者: 朝比奈侑生


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/40

第21話 剣の師匠

「こ、こらっ、綿毛……!」

「ぐるっるるるきゃんきゃんきゃん!!!」


 薔薇が満開に咲く園庭で、僕は綿毛のリードを強く引く。

 綿毛の散歩中、白髪交じりの紳士が目の前に現れただけでこのありさまだ。

 やめろ綿毛、僕の薄い手のひらの皮がむけてしまうだろうが!

 ただ見知らぬ者というだけで警戒するな!この小心者が!


「おや、嫌われてしまいましたかね」


 紳士は帽子を外し、しゃがみ込む。

 綿毛に挨拶をした?いやまず飼い主の僕に挨拶すべきだろう。


「こんにちはお嬢さん。私はアルザンド・サルベルと申します。あなたのお友達とお話があってきました」


 お嬢さん……?僕のことを女性と見間違っているのか……?

 いや違う。こんな小汚い汗まみれの僕を女性と見間違われるわけがない。普段なら理解できるが。

 まさか……綿毛お前、女の子だったのか……!?


「こんにちは、リングレット・ガルシアン殿。アルザンド・サルベルです。お久しゅうございます」


 お久しゅう……?誰だお前は。

 それに、この僕に殿、とは。……もしや、お前、格上の貴族か?


「リングレット、その方はあなたのお師匠様となられるお方です。ご挨拶なさい」


 後からご主人様が歩いてくると、日傘から顔を覗かせた。


「マリーノワーズ様、お久しゅうございます」

「アルザンド様、お久しぶりでございます」


 なんだ、僕の師匠か。

 ……僕の、師匠……?


「あらなにリングレット、そんな幽霊を見たような顔をして」

「ぼっ、僕の……師匠、ですか!?」

「ええそうよ、この間言ったでしょう。あなたには剣の師匠をつけますよ、と」


 嫌だ!剣の師匠なんて一生つかなくていい!

 僕は努力が嫌いなんだ!汗くさいのも疲れるのも嫌だ!

 もう一生魔力に依存して生きていきたい……!


「あなた、このまま魔力に依存して生きていたら……死にますわよ」

「……ふえっ?」


 半泣きの僕に、ご主人様はあっけらかんと告げる。


「魔力は無尽蔵ではありませんし、あなた、毎回数日寝てしまうでしょう?実家で毎日遊んで暮らす、平和な日々を過ごしているのであればそれでよいでしょうが、もし働くようになれば、あなたなんてすぐに膨大な魔力に体を蝕まれて、死にますわよ」


 嘘だ……僕の恵まれた才能と能力が、無尽蔵ではないなんて……

 嫌だ、死ぬのは嫌だ。疲れるのも鍛えるのも嫌だけれど、死ぬのは一番嫌だ。


「あら、ショックでアリアンのリードを離さないようにしてくださいね」


 絶望に打ちひしがれる僕の髪を耳にかけると、ご主人様は僕の耳を軽く握った。

 

「あなたの才能に、期待していますよ」


 薔薇が揺れる。

 本当に薔薇が良く似合う女だ。

 黒髪にはやはり赤か?しかし時折年相応に幼い表情を見せる。ピンク、いや、白か。


「何を見ているの、早くお行きなさい」

「えっ」


 ご主人様は僕の手から綿毛のリードを奪うと、僕の背を押し、アルザンドの元へ行くよう仕向けた。


「リングレット殿、よろしくお願いしますね」

「……殿、は、いりませんよ……アルザンド殿……」

「リングレット、アルザンド様のことは師匠、とお呼びなさい」

「はい、ご主……マリーノワーズ様」


 僕は身を震わせ、声を絞り出した。


*****


「素振り五百回!それが終わったら腕立て伏せを始めますよ!」

「へぇぇ……」


 その日のうちにアルザンドの稽古が始まった。

 綿毛の散歩で足が震えているというのに、アルザンドは容赦なく僕の手に古い剣を握らせ、そう指示する。

 愚か者め!この僕の顔を見て、そんな扱きに耐えられると思ったのか!?

 僕は花を愛で、蝶を愛で、室内で優雅に暮らしてきた、肌に傷一つない玉のような美男だぞ!

 こんな重い剣持ったことがない……。

 僕はティーカップより重い物を持ったことがないんだ……。


「早く!」

「はいいい!」


 僕は慌てて剣をがむしゃらに振る。

 剣を握る力が弱くなり、剣が上下にぶれる。

 汗ですっぽ抜けそうだ……。


「剣先がぶれているぞ!剣をしっかり握れ!」

「ひゃいいい……!」


 腕が棒のようだ。

 肩から先の感覚がもうない。

 今の僕を動かしているのは、死にたくない、ただそれだけ……。

 そうだぞ、今この剣を振らないと僕は一生剣など振らないし魔力に体力を吸われて死ぬんだ!

 頑張れ僕!頑張りたくなんかないけど!


「よく頑張りましたね、今日のところはここで終わりましょう」

「やっと……終わった……」


 素振りと腕立て伏せを終えると、僕はその場で倒れた。

 全身が疲労と汗で包まれている。早く水を浴びたい……。

 意識が朦朧としてくる。僕の視界に映るのは……なんだ、お前か綿毛。

 白い綿毛が僕の顔の上に座ると、僕は息が出来ずにそのまま息を引き取る。

 お前、覚えていろよ。起きたら全身洗って獣臭さを消し去ってやる……!

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。