7,思い出
とある日、俺はまだ35歳の時。
近所で仲が良かったナリタに、わがままを言われた。
それに押し負けてしまい、まんまと連れて来られたのだ。向かうと既に3人は崖の日差しを見て座っており、その景色に見とれていた。
初めて見たそいつらは、種族も違って、性格も見るからに違いそうだというのが第一印象だった。
しかしその場に行くと、皆一斉に元気になって、こちらに手を振ってきた。
「連れてきたぞ!」
「お、おっせーな!」
もうすっかり子供にも見えないそいつらは、動きは子供のように飛び上がって嬉しそうにしていた。俺はそれを見て、成長したもんだな、と感慨深くなり、うれしくなった。
「すまんすまん、俺がこけたもんで」
「おっさん不器用だね!」
そう指を刺してマイチがバカにしてきた。
「んな失礼な!たまたま転んだだけだ!」
と俺はわざとそれに乗る。たぶん口角は上がっている。
「まぁまぁ喧嘩するなって。」
ナリタが落ち着いておれらをなだめる。
思えばこの時からマイチ、ナリタの性格はものすごく出ていたのではないかと思う。今でもかわらないまま、そのままの性格が。
その後のことは思い出すのをやめた。
雨が降ってきたからだ。
「いい景色だろ?」
「あぁ。とってもいい。」
その声は震えてしまっていた。
おっちゃんが肩を掴んで、俺と顔を無理やり合わさせる。
「というわけで、ギルドカードここに捨てろ」
「……え?」
え?と心の中でも思う。
あまりにも突然すぎて、目を見開いてしまった。
さすがに嘘だと思ったが、それ以降何も言わないので、おそらく本気のようであると俺は解釈した。
少しの沈黙の後、深呼吸をしておっちゃんは言う。
「すべてをやり直した方が、お前にはいいんじゃないかと思ってね」
「やり直すって……でもギルドカードをわざわざ捨てなくても……」
おっちゃんはその戸惑いを断ち切るかのように、話を割って入ってきた。
「できる。だが、汚名は残って、カードの履歴にも残っちゃうだろ?元生命の息吹メンバーって」
たしかにおっちゃんの言っている通りだ。
その肩書は一生残るであろう。
ギルドカードにはある程度の経歴が登録されていて、そこに元生命の息吹メンバーって書いてあるのだ。それは消すこともできない履歴となってこれからも残る。
しかし、カードを捨ててしまうと、その肩書きは無くなってしまう。
ただし冒険者から除名ということにはならない。
冒険者という仕事の特性上仕方ないこともあるが、あまりにも無くす、または壊す人が多いために再発行を防ぐため、ギルドが「カードを無くしたら再発行手続きとともにパーティーに再加入しなくてはいけない」と仕組みを変えたのだ。
そのほかにも面倒くさいことがいろいろとあるが、要はすべて、1から始めることになるのだ。
俺がそれをするということは、つまりは生命の息吹との関係を切るということになる。関係を断ち切り、1からスタートすることになる。
そう「1から」だ。
俺は察してしまった。
「それって」
「あぁ。元の名前を棄てろ。」
あっさりと言われて、俺は唖然とした。
おっちゃんの表情は変わらなかった。
正直、俺もそうしたかった。
全て辞めたかった。ギルドカードを捨てて。
「将来その思い出はお前の足かせになると思ってるんだ」
「足枷って……でも再発行の手数料高いんだよ」
俺はただ、それだけが心配だった。
そこで、3回ちっちっちっと舌打ちをしながら指を振られた。
「心配するな、俺が出す。俺が提案したことだからな。」
「おっちゃん……」
俺はおっちゃんの提案に素晴らしくなって涙が出てきた。
だが、俺はそれに乗ることはなかった。
やはりいろいろな人に迷惑をかけてしまうことが嫌であったのだ。
「気持ちはありがたい。でも、できないよ。そんなこと」
「……だろうな。子供について行くほどお人好しだもんな!」
そういって肩を掴まれ、ぐりぐりと両肩から拳で押された。肩がずれそうになり、痛い痛いとわめいてしまう。少し続いて、止んだ。
「痛いよ、おっちゃん」
「ちょっとは目が覚めたか?」
眉毛をぴくぴくと上げる動作が鼻につく。
俺のことをほんとに心配しているのかわからなかった。
「目はとっくに覚めて」
「ちゃうわ!病みは少しくらい回復したか?っつーの!」
「あぁ、そっちか」
俺はそう言われ、改めて考えてみた。
夕日の方を向き、鼻からたくさんの息を吸う。
すると、いつもよりも少しだけ多く息を吸うことができるようになっていった。体が風船のように膨らみ、明るい気持ちが芽生えてくる。
もう大丈夫そうだ。
おっちゃんはその様子をみて、腰に手を当てて微笑んでいた。
あの頃と変わらないな、とでも思ったのだろう。
パーティー結成時にも、こんな風にみんなで太陽からの恵みを貰うような感覚、かはわからないが、横並びになって深呼吸をしていたのを思い出した。
「……うん。大丈夫そうだ」
改めて一人になったことを実感したが、その時に俺の鎖が取れたような気がした。
おっちゃんはニカッと笑った。
「よかった。じゃあ泊まるか。と思ったが、やっぱそろそろ戻らないとやばいな」
「えっ?どうしたの」
「ちょっと腰を痛めてしまって。」
「まじかよ、回復魔法ならできるぞ」
「本当か。じゃあお願いしたい」
そういって腰を見せてきたおっちゃんに、手を向けてギリギリ当たらないくらいまで近づける。
「〈リカバリー〉」
回復魔法の簡単なものだ。これはマイラに教わったものである。
彼女が言っていたように、俺はゆっくりと確実に魔力を全体になじませていく。魔力は緑色に微かに輝いて、体の中にしみ込んでいく。
複数の平筆で面を塗りつぶすような感覚。するとものの数秒で腰痛を直すことができた。
いつもよりだいぶ早くできたことに少し自信が出てきた。
「おっ、すごいな!こりゃ」
腰を伸ばして、痛まないか確認すると、おっちゃんは想像以上に喜んでくれた。
「やっぱおまえ魔法やったほうがいいよ!ってか今更だが抵抗あるんじゃなかったのか?」
「抵抗あるのは付与魔法と遠距離魔法だ、だから戦闘にはあまり向かないよ。」
「もったいねぇなぁ!」
おっちゃんは森に向かってそう叫んだ。俺の頭に響かないような配慮であろうか。
「仕方ないんだ。しばらくは治らない」
「そのうち治ることを祈る。さ、戻ろう。夜も更けてきた」
太陽が沈み、空にはオレンジ色の光が大きく光る。その風景もきれいで、心が浄化されるようであった。
森の中からおっちゃんの声が聞こえたので、ついつい、と謝りながら急いで向かっていった。
結局泊まることはなくなった。
病みも回復したので、もういいかなと思ったのだ。
そして俺は、また野宿スペースを確保し、そこで寝た。いつもなかなか寝付けないのだが、今日はいつもよりも早く寝付けることができた。
匂いもきつかったが、なんというか、これが今日で最後のような気がして、安心したのたのだ。
明日は大型の依頼を受けに行くとするか。
それと、再鑑定もついでにしてもらおうかな。




