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隠匿密室2

やっていることはかなり奇妙だ。

わざわざ密室を作ってやることが「人の観察」でしかない。


他のノイズが一切ない環境で、ただ精緻に人の行動を見たい奴の行動だ。


……本当に?

そんなことのためにクラストを作成?


「……クラストは体力を使う」


いや、正確に言えば。


「体力、って言ってるけど、これ正確には魔力とかマナとかそういうものだと思う。現代では言い表すことのできないものが消費されている、普段は使っていない部分が疲れる」


ソファー上からぐるりと周囲を見渡した。

どっからどう見ても寮の一室だけど、これらはわざわざ模して作られた。


「一回限りではなく何度も繰り返すクラストなら、その魔力やらマナを僕から徴収する必要がある、そうしないと次ができない」


大抵の場合、罠に嵌める形でそれは行われる。

だけど、今のところその予兆はない。


「徴収しないタイプのクラスト? いや、違う……」


そうじゃないと思えた。


「そもそも、ストーカーだとすると妙だ。わざわざ僕を狙うような奴がいるとは思えない。なにより、URLはクラス内のそれに貼られた、僕以外の誰が入ってもおかしくなかった」


ストーカーが無差別なのは矛盾している。

とにかくストーキングしたい変態? ストーキングすることに意義があるとか……


いや、ちょっとレベルが高すぎる。


「ダメだな、頭が混乱してる」


ポケットに常備しているゼリー飲料を取り出し、少し飲んだ。

クラストに巻き込まれがちな人間としては当然の常備品だ。


「あー」


そうしていると、少し落ち着いた。


「うん、やっぱりストーカーはないな……」


ストーカー心理には詳しくないものの、たぶんそれって、「普段のその人の姿を見たい」という欲望だ。

執着する相手の、外面ではない日常の姿を見たがる。


クラストに――見慣れぬ場所に放り込んで、「普段の姿」が見れるわけが無い。


「そもそも僕は、そういうストーキングの予兆とか感じたことがない」


URLを踏んだのだって、たまたまだ。


「本当に、やっていることがチグハグだ……」


意図が分からない。

なんなんだ、このクラスト。


BGMも何もなく、無音のままの時間が過ぎた。

時計の音すらないから、本当に何も聞こえない。いつもは意識せずに聞いている車の走行音すら皆無だ。


「もう……」


仕方ないなという気分で立ち上がった。

壁に手をつきながら移動、飲み終わったゼリー飲料をゴミ箱に入れる。


やることは決まってる。

もう一度調査だ。


「あ、この鶏肉、賞味期限が過ぎてる」


小型の冷蔵庫内を漁って発見したのはその程度。

なんのヒントにもなりはしない。


「ポン酢もあるし、たぶん鍋かな、これ」


今夜作ろうとしているものは推理できた。


「ここ、女子の部屋だよなぁ……」


寮と言っても建物は男女で別れている。

部屋内の形としてはほぼ同じだが、キッチンや冷蔵庫が左側にあるか右側にあるかの違いがある。


ここは左側。

僕が知る限りは女子寮だった。


「犯人――いや、この部屋の持ち主を当てる。ひょっとしてこれ、そういうクラストか……?」


何の提示もない以上、「この部屋そのものが出題である」と考えるべきだ。


「いや……」


なんだそれ、という気分だった。

一方で、ある程度は合点が行くことも確かだった。


「誰でも良かったけど、僕らの学校の生徒じゃないとダメだった。そうじゃないと、ヒントを出してもわからない」


URLを貼る先としては妥当だ。

他校の生徒の名前なんて分からない。


「一般的な、どこにでもある部屋から、その住人が誰かを探り当てる」


それはゲームとして成り立つ。

推理できる要素は無数にある。

もっとも――


「本当にそうかはわからない。これが僕の見当違いの可能性は十分ある」


実は隠した鍵を見つけ出せ、みたいな脱出条件かもしれない。


「だから……反応してくれないと、困るんだけど?」


さすがに不親切すぎた。

誰とも分からない相手に不平を漏らしてみたが、返事は一向に来ない。


「ぬうん」


野太く言ってみても反応なし。


仕方なしに更に室内をもう一度一通り調べて見る。


ドア、変化無し、変わらず開かない。

キッチン、変化無し、もう一個持っていたゼリー飲料を冷やしておく。

窓、変化なし、全力で殴ってみたけど壊れなかった。

ソファ、変化なし、さすがにナイフの類は手持ちになかった、あれば切って内部を確かめた。


小型テーブル――変化あり。

白紙のノートの中央に、小さく「そうです」と書かれていた。


「ふぅん……?」


クラストには後から手を加えることはできない。

だがこれはきっと「伝達方法として元々想定されていた」ものだった。


よくあるデスゲームで、画面上で不気味な人形がぺちゃくちゃ喋っているのと一緒だ。

マスターが参加者にルールを提示し、嘲笑うために使用される。


問 これは部屋の持ち主が誰かを当てるものですか?

答 そうです。


「OK、なら遠慮はいらないな」


まずは小さなクローゼットを開けた。

なぜかやけに開けにくい。


「リボンの色から学年が分かる。赤色、同じ一年生だ」


ワッペン、ボタンには学校の校章がついていた。


「カバンは肩掛け式、学校指定のもの」


割と真面目なタイプなのかもしれない。

そして、制服の肩のくたびれ具合からして、それほど着ている様子がない。


下の方の引き出し型の靴箱を開く。

同じくやけに開くのが難しかった。


「靴のサイズは22.5、一般よりも小さめか? 確実とは言えないけど、身長も低そう」


靴のサイズと身長は相関関係にある。

また、ソファーが野郎が使うにしては小さ過ぎた。


「おそらく、同じクラス」


誰があのURLを踏むかは、このクラストのマスターにも分からなかったはずだ。

友達が多いか、それとも狭いコミュニティの奴なのか、実際に踏むまでは分からない。


下手な人をいれたら名前を言い当てることができなくなる。

少なくとも僕は、別クラスの特定個人は、ちょっと怪しい。


「この段階で三人くらいに絞れた」


性別女性、背は低め、寮生活をしている、同じクラス、料理はする方。


「該当するのは等野静とうのしずか地爪観理ちづめかんり文坂波等羽ふみさかはとばの三人」


それほど親しいわけじゃないけど、名前くらいは知っている。


「ただ、ここからが難しい」


どうすれば絞れる?

いや、そもそも、


「これは、なんのためのクラストだ?」


部屋から人物を当てる。

ここまではいい。

けど、なんでそんなことをわざわざやりたがる?


クラスト作成には、それなり以上に大変だ。

ちょっとしたイタズラ程度では割に合わないくらいのコストがかかる。


このマスターは、何を求めている?

本当に、名前を当てるだけでいいのか?


それが分かられなければ、本当の意味で出ることはできない――

直感的に、そう思えた。




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