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隠匿密室1

スマホは時間泥棒だ。

ちょっと見るだけのつもりでも、気づけば数時間経っている。そんなに大したものを見るわけでもなく、ただふわふわと楽しい気持ちだけが過ぎ去る。


けど、気分転換としてはちょうどいい。


そう自己弁護して、背筋を伸ばしてスマホにも手を伸ばした。

待ってましたとばかり起動する。


知り合った友達のお見舞いに行ったため勉強時間が削られた僕は、取り戻そうと奮闘していた。

けど、ちょっとさすがに集中しすぎた。


変な角度で座る僕が悪いのだけれど、体が痛かった。

悪い座り方が僕の体にダメージを与えた。


「何だろう、これ」


その回復のためという言い訳で、ぼーっと指先を動かしていると、妙なものに突き当たった。

適当な会話の応答ばかりのクラスラインの流れに、ポツリと浮き出た。

前置きもなしに、URLだけが貼られていた。


何これという疑問と、無視しようという呼びかけが画面を流れた。


怪しい。それも死ぬほど。


「……」


数秒だけ迷った。

こんなものは無視するに限る。

危険に自ら首を突っ込むのは馬鹿すぎる。罠とわかって踏みに行くのは愚か者。どんな危険な目に遭おうが自業自得の極み。


「うん、そうだ、そうなんだよ……」


URLは、文字すら見慣れないものだった。

アルファベットではなく、ひらがなやアラビア文字でもなさそうだ。まるで子供のいたずら書きのような代物なのに、URLが機能していることを示す青色のリンクが灯っていた。


「こんなものを踏んではいけない……」


言葉とは裏腹に、僕の人差し指は進んだ。

震える指がそれに触れ――当然のように視界が変わり、転移する。


「わかってた!」


叫び声は負け惜しみにすらならなかった。



  +  +  +



クラストと呼ばれる特殊空間がある。

マスターが作成し、人を引きずり込んで閉じ込める。


人に行動を強制する迷惑なものだが、僕はこれによく巻き込まれた。


「けど今回は、自分から突っ込んでしまった……」


頭からずっぽりと。

非常ボタンやインターフォンを押して喜ぶ小学生を笑えない。

危険を承知で危険なことをやった。


入れられたそこは、1DKの間取りだった。

一人暮らしの部屋の形。

僕以外には誰もいない。


扉は当然のように開かない。内側のサムターンは固定され、ドアノブも同様に固着されている。

まるで壁に直接取り付けたようだ、鍵があっても開くかどうか。


ドアの直ぐ側にはIH口コンロに流し台。

奥側にはリビングには、ソファや本棚が見えた。


部屋全体としては細長い長方形。

入口からすべて一望できる。


生活に必要な最低限のセットをギュッと詰め込んだような形だ。


「それなりに綺麗な部屋――いや……」


見覚えがあった。

これらの物品ではなく、この部屋そのものに。


「ここ、うちの学校の寮の部屋では?」


似たような部屋の形はあるだろうけど、IH等の備品も含めた全てが似る可能性は低すぎた。


「このクラストのマスターは、宇執摩うとま高校の生徒……?」


先生であれば寮の個室を選ばない。


「だとすると……」


クラストは、いくつかの種類分けができる。


特定の特徴を持つ人間を狙ったものか、それとも不特定多数を招き寄せたのか。

あるいは、一回限りの特殊なものか、それとも繰り返し使用を続けるものか。


「……狙う相手を、絞っている……?」


このクラストマスターは、クラスの誰かを特殊空間に入れたかった。

だからあそこにリンクを貼った。


「おそらく一回限りではなく、繰り返し使うパターン」


特殊型は様々なことができる変わりに強力な縛りを設けることができる。

一方これは、「よく見知っている場所」を参考に作られている。それほど特殊なことをしているとは思えない。


まあ、そう見せかけて、実はエグいトラップがあることも考えられるけど……


「なんか、こう、やる気が感じられない――」


殺る気や殺意がある場所には、ある種のおぞましさがある。

人を罠に嵌め、無惨に殺傷したいという欲望がこびりつく。


だがここは、ゆるすぎた。


「どう見ても、誰かの個室だ……」


本来あるはずのベッドこそ無いが、それ以外は寮そのまま。

机もあれば冷蔵庫まである、中を開ければお茶といろはすが並んでいた。キャベツや白菜などの食材もある。


「本当に、ただ閉じ込められただけだ、これ……」


壁に手をつきながら移動してみるが、窓は外が見えず、分厚いコンクリートに阻まれた。

おそらく玄関ドアも同様だ。


出口はきっとどこにもない。

閉所恐怖症なら発狂しそうな密閉具合。

まるで缶詰に入れられた気分。みかんのシロップ漬けは好物だけれど、みかんになりたいわけじゃない。


うろうろモタモタと探すけど、何も無いし見つからない。トラップですら、存在しない。


「まったく……」


ソファに深く座り、頬杖をついた。

お手上げという気分だった。尻の座りもどこか悪い。上手く足も伸ばせない。


小さなテーブルには白紙のノートがあった。

開いてみても真っ白で何も書き込まれていない。


「んー……」


ぱらぱらとめくった手を止め、天井を見上げる。

いつまで経っても、何も起きない。

完全に放置されていた。


デストラップ満載のクラストは困るけど、ただ閉じ込めただけで終わるクラストも同じくらい困る。


「……こういう意図や作為がない部屋は、欠落こそを疑うべきだ」


目をつむり、意識を切り替える。


わかりやすい手がかりはない。

なら、相手の意図を探るべきだ。


「特殊密室であるクラストには、制作者の人格が現れる」


同じように作ったつもりでも、意外なくらい差は出る。


「ここは一般的な寮の個室を模して作成されたものだ、なら、ここのマスターは僕に一般的なことをやらせようとしている……?」


誰かに話しかけるようなつもりで続ける。


「たぶん方向性としてはそれ。僕が苦しみもがく姿を見たいとかではなさそう。ガスの類を注入しているって可能性もあるけれど……」


完全ノーヒントの、止める手段が皆無の罠の作成はできない。

それは製作コストが馬鹿みたいに跳ね上がる。

実際にやって出来なかった僕だからこそ、それは知っている。


「ただ人を閉じ込める、やりたいことはたぶんそれ。現時点でもう目的は達成されていると考えるべきだ」


密室は、当たり前だけど外部から人を入れず、人を外に出さない。


「別の言い方をすると、クラストとは制作者の欲望がカタチになったものだ、現状でそれが叶っているとすると――」


それは、つまり。


「これは、ストーカーが作り出したクラストだ」


僕は今、観察されている。



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