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走灯密室・内2

クラストには、さまざまな形があるけど、その根本は「制作者の欲求を叶えるための構築物」だ。


狭い場所に入り込んだ子供は、その素材に恐る恐る触れた。

複雑な形をした、その骨を。


「……これ、本物じゃないよな?」

「たぶんね」

「仮にこれが本物であるとすれば、我々は巨人の骨格の中に閉じ込められたことになる。今君が触れているそれも本物の死骸であり、頭蓋底だということになるな」

「む、ぬ……っ! オマエ、それ嘘だよな!! この……なんだぁ!!!???」

「管理人さん、煽るのは止めましょう」


実際は偽物だ。

クラストは、精神的な影響こそ大きいものの、参加者の肉体を直接操ることは少ない。


……少ないだけで、いくらかあるのが問題だけど。


「ここのマスターは、知恵と答えが欲しいからこそ、我々を攫った」

「三人も集めるだけの、大変な問題がこれから出されるんですかね?」

「どうだかな」


軽くつま先で蹴られた。

振り向くと不満そうな顔をした子供がいた。


「下僕」

「なんでしょう」

「ここの時間は、どうなっている」

「というと?」

「止まっているのか、それとも進んでいるのかだ」

「その辺、脱出するまでわかんないんですよね」

「そうか……」


少し残念そうだった。


「……君」

「なんでしょう」

「以前のときも思ったが、君は本当にわたしが知っているコリンか?」

「間違いなく」


コリンというのは、僕のハンドルネームだ。

そして、その疑念は当然だ。


僕は数多くのクラストに巻き込まれた。

それだけの経験を積んできた。


だけどつい最近、その蓄積してきたクラスト関連の情報が吹き飛ぶような目にあった。

関連した記憶は消え去り、レベルダウンしたような状態だ。


残された僕の日記、あるいはサイトに書き込んだ情報などを元にサルベージはしたけど、すべてというわけにはいかない。

特に「クラスト被害に遭うことの実感」なんてものについては、まだ経験が少ない。


「コリン?」

「この者の正式な名前だ」

「違います」

「そうだ、下僕は下僕だ」

「それも違いますよ?」

「そんなのぼくは知らない」

「知らないって……」

「そんなことは、どうでもいい」


座る子供は苛立っていた。


「できるだけ早く出る、そのために協力しろ、下僕」

「何か約束が?」

「……友達と、会う予定がある……」

「おぉ」


これだけ扱いにくいというか付き合いにくい人間に、友人が……!

車椅子の管理人は、眉を寄せた。


「なぜ、そのような嘘を?」

「は? なんだ嘘って」

「君のような人間に友人ができるはずがないだろう。仮に存在するとすれば聖人の類だ。そんな者がそうそういるはずもない。隠匿を望むこと自体は否定しないが、もう少しマシな嘘をついてくれないか」

「……おい、下僕、コイツ性格ひん曲がってるぞ」

「ノーコメント」

「君?」


クラスト内部、頭蓋骨を模したその壁面に画像が映ったのは、ある意味助かった。


しばし僕らは顔を見合わせ、そちらに視線を向けた。

横の車椅子から平坦な声がした。


「先ほどの発言、追求させてもらう」

「脱出のための努力をしましょう」


そうして現れた映像は――


「なにこれ……?」


意味不明だった。


色はなく、白黒だった。

非常にぼやけてもいた。


近くに、人の顔が映った。そこにも色はついていなかった。

顔が、近づいたり遠ざかったりしている。


「顔、でか」

「これは……?」

「――」


ざ、と音を立てて画像が変わる。

どうやら、時間が過ぎた。


色がつき、ぼやけが薄くなった。

人の様子がどうにか見える。


病院にいるようだ。

わずかに揺れて、天井の様子が見えた。


「ぬ?」

「ええと……」

「なるほど」


たまに視界が動く、誰かに抱えられているようだ。


「なにこれ」

「赤ん坊の視点ですね、これ」

「そのようだ」

「は?」


生後一ヶ月くらいまでは色を認識できない。見える範囲も非常に狭い。

三ヶ月ごろからようやく色や認識できる距離が伸びる。


再び、ざ、と光景が変わった。

幼稚園のようだった。


「ん?」

「視野が狭いですね」

「だが視界そのものは良好だ」


幼稚園児は大人に比べて視野が狭い。思考ではなく物理的に。

六割程度の、制限された映像だった。


何人かの大人が子供たちと遊んでいる。

むっつりとした子の顔が、大きく映った。


「え」

「これはどう見ても……」

「そこの愚かな子供だな」


幼い佐木元麗がそこにいた。


「ぼく? え……?」

「このとき会った人に、心当たりはありませんか?」

「……みっちゃん?」


思わず立ち上がってしまうくらい、意外だったらしい。

画像の中の佐木元麗は、クマのぬいぐるみを受け取っていた。


どうやらプレゼントの交換だった。

音声はなく、けれど、やり取りそのものは予想できた。

こんな自然な笑顔を浮かべる佐木元麗を、僕は初めて見た。


「なるほど――」


管理人が車椅子の上で、非常に不本意そうに言った。

画像の中では、いくつかの車が映り、小学校の様子が登場した。


「どうやらこのクラストは、助けを求めてのものだ」

「なんだよ、オマエそれどういう……」

「わからないのか? 先ほどと違い、ここでの理解の無さは許しがたいものがあるぞ」

「そりゃ無茶ですよ」


普通は気づかない。

というか、今でも半信半疑だ。


「この視点の人物が誰かは知らない。だが、お前の友人だな? その友人が、我々にこの映像を見せている」


映し出されるものは、様々に移り変わる。

時系列が進んで行く。


「なぜか? 簡単だ、危機下にあるからだ」

「もっと言うと命の危機ですね、どうにか助かろうとあがいている、だから僕らはこれを見せられている、すべての情報を与えるから、どうにか助かる方法をよこせ、ってことでしょうね――」

「だ、だから、なんだよ……」


僕は映像を指し示しながら端的に言った。

ここはクラスト、その中でもこれは、記憶映像を見せる類のものだ。


「つまり、これ、走馬灯です」




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