黒電話通信3
メトゥスの集い、あるいはメトゥス会。
ネット上に開設されたこれはノリとしては怪談収集サイトに近い、本当か嘘か頓着せず「クラストが原因で起きた出来事」を収集する。
大半は面白おかしいホラ話でしかないけど、中には参考になる知見もあった。
返礼として僕も情報提供したけれど、たいてい空想嘘話として扱われた。非常に不本意だ。
信じてくれた数少ない一人が受話器向こうのサイト主で、よく相談に乗ってもらった。
「……仮にそうだとすると、問題が巻き戻りませんか」
「ふむ」
そのメトゥス会の誰かがマスターだ、ということまではいい。
けどそれは、僕が言った問題を復活させる。
「僕らが嘘を言っても、クラストマスターには判別がつきません」
ちなみに、メトゥス会ではいままでオフ会が行われたことはない。
「実際、わかっていないんじゃないか」
「何ですって?」
「わたしたちについて知らないままでも、このクラストの作成そのものは可能だ」
たしかに――受話器二つ、部屋二つを準備すれば済む話ではある。
「我々は対戦相手であり、壁に阻まれ互いの情報の確認ができない、ハズレを正解扱いされていたとしても、わからない」
「さすがに無茶では」
「どこがだい?」
「だとすると、このクラストマスターは、当てずっぽうで判定したことになります」
そんなことをすれば流石にわかる。
僕は確かに言い当てられたし、正解の音も聞いた。
「半分はそうだと考えている」
「いやいや、そんな」
「実際、答えを述べてから判定に、若干の間があった」
「それは——」
「また、わたしたちは会話の途中で突然それらの答えを言った、ただの会話であるか指摘の発話であるかを、機械的に判定できるだろうか? AI導入でも精度は不確かなものとなるだろう。クラストマスターが直接判定をしていると考えるのが妥当だ」
「ですから、根本をスルーしすぎです、判定の根拠は何ですか? 完全な直感頼りとでも言うつもりですか」
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
いきなり前置きもなく叫ばれた。
僕自身が発したような「ヒゅっ」という吸音がした。
「ちょ! は!?」
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーー…………」
「何を突然!?」
癇癪を起こした、というわけではなかった。
徐々にその叫び声が消えて行く。遠ざかったというよりも、ボリュームキーを低くしたかのようだった。
音そのものが絞られて行く。
「……ぁぁああああああーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
「ですから! なに声量復活させてるんですか!」
しばらくの沈黙の後で、声のボリュームが復活してた。
「む、ああ、やはりか」
「突然冷静にならないでくれません?」
「この会話は、受話器を保持している状況でなければ、声が伝わらないようになっている」
「は? え?」
「今現在、君はきちんと受話器を握って話をしている、そうだな」
「そ、そりゃそうですが」
「わたしは先ほど、叫びながら徐々に受話器から手を離し、最終的に爪先で持つようにした」
マジマジと電話を見る。
非常に古臭い、その黒電話を。
「受話器を握った状態でなければ会話ができないようにされている、手を離せば通話が途切れる」
このクラストのマスターは、僕らについての情報を知りたがっている奴だ。
「なぜ、このような条件を入れた?」
「測定のため……?」
「そうのようにわたしは考える」
しっかり受話器を握らなければ、会話ができない。
しっかりと――僕らの脈拍を測定できる状況でなければ、通話を許可していない。
「受話器と接触している部分から心拍数を計測、正誤の判定をしている」
回答の、どれが本当でどれが嘘か分からない。
だから、「言われた当人の心拍数」から判別した、そういうこと?
クラストマスターがその数値を見て、正解かどうかを決める。
仮に間違っていたとしても、部屋が完全に区切られている以上、確認の取りようがない。
対戦相手なんだから、どの程度合っているか確認するようなこともない。
「……いつから気づいていました」
「疑いの基点という意味では最初から」
クック、という笑い声が向こうからしていた。
「わたしは最初、非常に慎重に、指先だけで受話器を持った。その際に聞こえた君の声は非常に小さく、ほぼ聞き取れなかった。その後、しっかりと握ることで音量は上がった。いったいなぜそのような仕組みとなっているかを考えた」
「なるほど——」
続けて何を言うべきかを迷った。
だってその推理が正しいなら、今この会話は聞かれている。
今までのも、これからのも。
「犯人の、このマスターの目星はついていますか?」
「あったとしても無かったとしても答えられないとも」
その推理を、犯人に聞かせることになる。
「……狙いは、僕ではないでしょうね」
「それはわからないだろう」
「あなたはご自身の人気を自覚すべきです」
僕はこの人とネット上で相談をしてた。
何度かのやり取りの後で指摘メールをもらった。「そうした相談は迷惑だから止めるように」という文句とポエミーな文章を、改行のない長文でびっしりと。
「ああ、そっか——」
「どうした」
モニターは、個人情報を暴けと言っている。
身長、体重、氏名、服装、そして住所までも。
なぜこうした項目があるのか?
簡単だ。
知りたいからだ。
クラストマスターにとって――ここを造った者にとって、喉から手が出るほど欲しいのは、このリストに書かれていることだ。
「このマスターは、僕を利用してあなたのことを知ろうとしているんですね」
「そのようだね」
認めやがった。




