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追想列車4

その後、いくつかのドアを開けた。

何両編成なのか分からないけど、けっこうな長さだ。


本来なら窓から外の様子を見ればどれくらいの長さの列車かわかるけど、ここではその「外」が僕らの記憶に直結している。


ドアを開けた先、車両にいた人も何組か見かけた。

大抵の場合は二人、多いときは四人や五人の場合もあった。


あきらかに闖入者である僕らは、その車両を足早に抜けることになった。

彼らの情報を盗み見るのはもちろん、僕らのも見られたくはない。特に文坂さんの。

いったい何が飛び出して来るか予想もつかない。


「というか、まだ手を繋いでないとダメ?」

「はい」

「走るのに邪魔だし、ちょっと気恥ずかしいんだけど」

「……センパイって、崖から落ちそうな人と手を繋いでいる時でも同じこと言う人ですか?」

「たとえとして出る状況が極端すぎない?」


なぜだか文坂さんからの執着が、強まっているような気がした。

たぶん気のせいだ。


「――」


移動中に窓外を見ずに、僕の方ばかりをじぃっと見つめてた気もするけど、たぶんそう。きっとそう。


「どうして、電車なんだろう」

「何がですか?」

「記憶を外部に映し出すだけなら、別に電車である必要はない、どうしてわざわざこういう形で電車を再現したのかなって」


この電車が本当に走っているかどうかも分からない。

そう再現しただけかもしれないし、円形のレールの上をただぐるぐると巡っているだけかもしれない。


「んー、たぶんですけど、区切って、乗せる為じゃないですか」


それは、あり得る気がした。

通常であれば一個しかない密室を複数個、無理無く連結させて一つの法則を適応させてる。


田畑の景色の次には、遊園地の光景が現れる。

バライティ豊かな、それぞれの人達の記憶が映る。


「あとは……旅がしたいとかですかね」

「それもあるのか」


旅のように人の記憶を見て回るクラストマスターは、少し納得できる気がした。


「この方法、確かに便利ですよね」

「参考にするのはやめてね?」


文坂波等羽は、未完成のクラストのマスターだ。

妙な形に発展や活用はしないで欲しかった。


「センパイが私のことをちゃんと見てくれるなら、止めます」

「ついに本格的に欲求を隠さなくなって来たな」


文坂波等羽が僕のことを常に見続けるのは、彼女自身のことを見て欲しいからだった。

僕のことを知りたいのではなく、彼女自身のことを知られたがっている。


彼女のストーキング行為は、その欲求の裏返しだ。


「……」


窓の外では僕の記憶が漏れ出ている。

その情報が流れて行く。

いくつかは文坂さんのも出ていた。


欠片も笑っていない子供の頃の文坂さんの様子や、鏡を不思議そうに覗き込んでいる姿が。


「これもクラストマスターに見られているのかと思うと嫌だなぁ」

「そうですか?」

「文坂さん、意外とそういうの平気だよね」

「センパイに対しては照れますけど、知らない人に知られてもなんとも思いません」


よくわからないストーカーだった。


「まあ、どちらにせよ――」


そろそろ着く頃合いだ――

言おうとした言葉そのままに、先頭車両へと僕らは行き着いた。



  +  +  +



そこは――平凡だった。

外は一見するとごく普通の車窓の光景。


一人の子供が膝立ちで座席に乗り、外を眺めていた。

運転室には車掌がいて、運転作業らしきことをしていた。


「……先頭車両に到着したら条件クリアってわけじゃないのか」

「そうみたいですね」


文坂さんと手を繋いだまま、前へと進む。

横の窓が、僕らの移動に沿うように景色を変えた。


窓には、それぞれ別のクラストがあった。

僕がかつて行ったことのある密室だった。


「……」


子供の横を通り過ぎる。

あからさまに横の車窓の景色が変わったけど、驚いたような様子は無かった。


「センパイ」

「なに」

「あの子、影じゃありません」

「そうみたいだ」


このクラスト内で始めて出会う、実体のある人間だった。


「運転席にいる人も、そうだ」


ここには二人の人間がいた。

彼らの内のどちらかがクラストマスターだろう。


ドアがあるタイプの運転席の中には、制服を着た運転手がいた。


「失礼」


ノックで呼びかけると、振り返りニコリと笑った。

中年くらいの男だ。


「なにかございましたか?」


車掌室越しの、くぐもった声だった。


「ここから出たい」

「ああ――巻き込まれた方々でしたか、申し訳ない」

「僕らはここまで到着した、これは解放条件か?」

「いいえ」


ドアを開け、車掌姿のその人は軽く胸に手を置き、謝罪するように言った。


「ですが、お願い致します。どうか、負けてはいただけませんか?」

「なにを言って――」

「ここで勝利すれば、お二人だけが勝者となります、他の方々は私を含めた全員が敗北者となります」

「……」

「その際、何が起きると思いますか?」


嫌な予感がした。

それは、このクラストマスターらしき人間の、言い慣れた口調によるものだ。

何度もこの口上を述べている。


「この先頭車両に着くまで、様々な人々と出会ったはずです、彼らは窓外にその風景を映し出しました。大切な思い出を彼らは共有し、お喋りをしているのです。それ以外のことはせず、どのような悪徳も行われていません」


二人が戦っていた様子、車窓に映し出されたそれを思い出す。

あるいは、それ以外の人たちの何気ない風景を。


「もし、貴方がたが勝てば、敗北した彼らの記憶は失われます。大切な思い出が消え失せます」


この敵は、僕らを閉じ込めた奴は、罠にはめるわけでも力尽くの排除もしなかった。


ただ、暗に要求した。


「貴方は、それでも勝利したいですか?」

「最悪すぎる……」


今まで通ってきた人たちの見ていた光景、あれらすべてを消し去る加害者となりたくなければ、どうすればいいか分かるな?

そう言っていた。


このクラストは、僕に自主的な敗北を求めた。




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