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追想列車2

通常、クラストとは密室だ。

動かない大きな箱だ。


電車も箱状ではあるけど、止まらずに走り続ける箱でもある。

移動している以上、「外」という別の大きな密室が必要だ。


「そもそもこれ、走ってるんですかね」

「さあね」


電車特有の揺れや加速度は体に感じる。

けど、それも含めてクラストがやっているのかもしれない。

車窓の向こうなど存在しない可能性はある。


「クラストに常識を求めてはいけない」

「なら、何を求めるんですか?」


そんなのは当然――


「ここのマスターの意図」

「意図……」

「どれだけ無茶苦茶なことが起きても、根底には欲求がある、何を求めて作り出されたクラストなのか、それを知ればある程度のことは分かる」

「さすがです」


真面目な顔で拍手された。


「不思議だ」

「何がです?」

「文坂さんの行動って、どうしてこんなに胡散臭いんだろう」

「失礼じゃないですか!?」

「さすがに言い過ぎか」

「臭くないです!」

「慣用句って言葉知らない?」

「ほら、嗅いでみてくださいよ、ほら!」

「文坂さん、その差し出したハンカチから妙な薬品臭がする気がするのは気のせい?」

「無味無臭のはずです」

「何を染み込ませた」

「睡眠薬を少々」

「眠らせてどうする」

「もう少しこの景色を楽しみたいな、って」


寝ている間、外の車窓では景色が流れる。

僕についての情報を得られる。

寝ていてもそれが映されるかわからないものの――


「文坂さん、ちょっと離れてくれる?」

「なぜです?」

「そこで疑問を持つ理由が分からない」


せめて睡眠薬を染み込ませたそのハンカチから手を離してから言って欲しい。

襲いかかる気まんまんじゃないか。


「むぅ、意外です」

「なにが?」

「センパイは、睡眠薬が嫌なタイプの人なんですね」

「それを好む人類って少数派だからね?」

「マイノリティへの配慮が必要です」

「そのマイノリティさんが、僕に犯罪をしようとしてるんだけど?」


足早に離れて、次の車両のドアを開けた。

横開きのそれを二枚開けて行けば――


「うっわ……」

「あー」


修羅場があった。



  +  +  +



修羅場、と言っても男女のそれじゃなくてガチな方だ。

仏教用語の修羅場しゅらじょう、帝釈天と阿修羅が戦ったかのような光景。


抗争を連想させる戦闘が車窓に映っていた。


左右の流れて行く景色すべてに、戦う人たちの様子がある。

銃を使い、ナイフを使い、日本刀を使い、あるいは素手で。


それらの多くは、二人の人物によるもののようだ。

その顔は、モザイクあるいは編集でも入ったかのように認識できない。だが、背格好や衣服などで同じ二人だとは分かる。


個人情報保護がされていた。

ただし、頭部をガンガンに踏みつける様子などに規制はない。


「センパイ……」

「なに?」

「あれ」


後輩にしてクラスメイトの文坂さんが指さす先には二人の人影があった。

車窓ではなく、電車内の座席にいた。

ぼやけて見えず、けれどどうにか「人の形をしている」と分かる暗がりが、隣り合うように座ってた。


仲が良いようにも、非常に悪いようにも見える距離感で、外の景色を眺め、何かを喋っていた。

その声の意味はわからず、動作だけしか分からない。


「この人たちのかな……」

「たぶん、そうですよ」


この車窓は、記憶を映し出す。

僕らのものでない以上、先住の人たちのものだった。


僕たちの存在が意外だったのか、その二つの分の影は固まった。

こちらに向けて何かを喋ったようだが、ただのノイズにしか聞こえない。


「失礼します、通らせていただきます」

「センパイ、たぶん通じてません」

「知ってるよ」


それでも、一声と一礼くらいはやった方がいいと思う。


窓の外では、顔が分からないというのに全身で歓喜を表現し、銃を突きつけ合っている様子があった。

これを無断で見ていいとは思えない。


「お二人の過去、ですかね……?」

「たぶんね」


ぎこちなく歩く僕の服の裾を、文坂さんがつかんでた。


「不安?」

「興味深いですけどね……」

「文坂さん」

「なんです」

「僕よりこの人たちの方が面白い人生を送ってるとは思わない? きっとストーキングのしがいがあるよ」


どう見ても僕よりドラマチックだ。


「大丈夫ですよ、センパイ」

「なにが」

「私、一途です」

「そこは浮気性であって欲しかった」


影姿の二人に見守られながら、僕らは通った。

黙った様子には、どこかしら照れのようなものがあった。


ドアを開けた瞬間は和気あいあいとした雰囲気だったのに、今はコホンと咳をしてそっぽを向いている。


次の車両の扉を開ける前、少し気になり後ろを向くと、さっさと行けというジェスチャーを取った。

それは、これ以上見るなというだけではなかった。


窓外に、どこかで見た憶えのある密室が――僕が遭遇したクラストの様子があった。


「ほうほう」

「行くよ、文坂さん」


きっとしばらくの間、僕と文坂さんの記憶が、影法師状態のあの二人に見られることになる。



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