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故郷探索3

クラスト、と呼ばれるものは千差万別。

人によりその個性はまるで異なる。


だが、ある程度のルールや共通項はある。


キーとなるものを経由してクラストを作成する点。

クラスト作成には体力、あるいは魔力と呼ばれるものを消費する点。

そして、ゲーム参加者がいる間はクラストの変更はできない点だ。


「そうした意味では……」

「?」

「あなたは色々と例外的です」

「どこが?」

「まず、クラスト作成のキーの心当たりがないことです」

「いつの間にかここにいたよ」


そんなことは通常ありえない。


「疲れているということもなさそうですね」

「ふっふ、元気だけがとりえですとも」


基本的なデフォルト設定であっても、最初はそれなりに疲労するはずだった。


「さすがにクラストそのものの変更はできないですよね?」

「うん、どうやるのか分かんない」

「やれたらあなたを敵認定してます」

「なんで!?」


ゲーム中にクラストを変更する――そんなことは、普通は絶対できない。

このクラストを配ったような奴でもない限り。


「なんか色々と冷たい、この人……結局名前も教えてくれないし……」

「困惑してるんですよ、これでも」


敵ならば叩き潰せばいい、味方なら協力すればいい。

だけど、弱い敵に協力を求められたらどうするか、その答えを僕は知らない。


「まるで手がかりがない状況です」

「なんか、ごめんね?」

「謝るくらいなら、少しはそちらも努力してください」

「ん、わかった!」


素直なことだけは確かだった。


「あれ」

「なんですか……」

「ちょっとだけ顔? 視界? それが動かせる、かも?」

「……なんですって?」

「あたしって今、上の方からそっち見下ろしてる感じなんだけど、それをグッ、ってやれば、グッて移動できる」


擬音が多すぎて翻訳が難しいが。


「カメラのような視点が、動かせるということですか?」

「うん、たぶんそう」

「それ自体は、それほどおかしい話でもないですが……」

「へぇ……お、んぬ?」

「どうしたんですか」

「は――?」


本当に思いがけないものを見たような、呆気に取られた声の後――


「うぎぃぁあぁぁぁああああああッ!!」


魂が消し飛んだような絶叫が続いた。


「本気でどうしたんですか!?」

「ちょ、はあ!? もど、もどりれッ!」

「落ち着いてください!」

「やば、まじやば……ッ!」

「大丈夫ですか?」

「――うぃうぅぅうぅうぅぃろっゆー……っ!」

「実は余裕ありません?」


ぜえぜえという荒い呼吸の音がしばらく聞こえた。


「み、見ちゃった……」

「一体何をですか」

「部屋の、外」

「……はい?」

「視点をグッて動かすの、どこまで出来るのかなぁ、ってやったんだけどね。ほら、あたしって天井にいるでしょ?」


見上げても、僕からは白い天井しかない。


「上というか外の景色どうなってんだろうなー、って顔を、こう、がんばって、反対側まで動かしたんよ?」


けれど、この人は「その向こう」を見たらしい。


「何がありました?」

「無かった」

「ない?」

「うん……なんだろ、無いがある? 普通の景色じゃなかった、ぐるぐるって感じ」


まったく情景が伝わらないが。


「おそらくクラスト外の、未定義領域を認識したということですか」


コンピュータゲームで言うところの裏側。何も描写されない空間を覗き見てしまった。


「そうなの、かな……?」

「おそらくそれ、見続けると発狂します」

「マジで!?」

「実際に僕が見たわけではないので断言はできませんけどね」

「怖っ」


紗蔵宮は「え、怖っ、それ怖くね?!」を繰り返した。


僕はドアを見た。

ついでに床を触り、その材質を確かめる。

案外、脆そうだった。強度を高めている様子もない。


「後で壊してみようかな……」

「なんか言った?」

「視点の移動は、できますか?」


乗りかかった船として、そう訊いた。


「だ、だからぁ、それやるの、本当あたし怖いんですけど」

「上ではなく、位置を下げてください」

「うーん……?」


当たり前だが、普通はそんなことはできない。

マスターの視界は、半ばカメラのような画角だ。


そう、多少は動かすことはできても、「何もない上」を見ることなんて普通はできない。だが――


「できた!」


声は、僕の前から聞こえた。


「そんな顔なんだ、ちょっと背、高いね!」


僕の前には、誰もいなかった。


「どしたの?」

「ああ、なるほど?」


それは裏付けのない、半ば直感による連想だった。


紗蔵宮はこの世界の人ではない。

キーとなるものを持っていない。


僕は彼女がマスターであると考えた。

そのような声の響き方だったからだ、だが今は「ごく普通の声」に聞こえる。


彼女には、本来であればマスターに課せられている制限というものがない。

あまりにも無知な、異世界から来た存在。


「紗蔵宮さん。あなたはクラストのマスターではない」

「うん、そうだと思うよ?」


透明で、その姿が見えない――これらの条件に合うものは?


「ただの幽霊だ」


異世界から来た、幽体だった。


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