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故郷探索2

クラストを作成し、招いた奴がクラストのことを何も知らない。

そんなこと、ありえるのか?


落とし穴を掘った奴が工具片手に「そんなの知りません」と言ったようなものだ。

あまりにもバレバレな嘘すぎる。だが――


「……大変失礼ですが」

「なに?」

「あなたは、何歳でしょうか?」

「え、16歳」

「どうしてその年齢でクラストすら知らないんですか!」

「知らないよ、く、くらすと? あ、そうだ! それってピザの耳の名前だったよね!」

「そんなわけがないでしょう!?」


今どきであれば小学生でも知っている。

巻き込まれた際の対処法を教えている。横断歩道を渡るときには手を挙げましょうと同じレベルで、「クラストに巻き込まれたらクリア条件を確認しましょう」と言われる。


「そのレベルの無知はありえない……」

「ものすごくばかにしてる?」

「何らかの理由でその年齢まで義務教育を受けることができなかった?」

「ばかにしてるよね! 確かにあたし、テストは赤点ばっかだったけど! そこまで言われることないよ!?」

「そんな、学校に行っていて、その認識だなんて……」

「あ、違う、これスプーン持てない人みたいな扱いされてる」


実際、そのレベルだ。


「魔術扱いされていた中世ならともかく、現代で、こんな人が……」

「そんなに!? そんなにそれって知らなきゃいけないこと!? ほんと記憶にかすりもしてないんだけど……!」


その叫びに嘘があるとは思えなかった。


「まさか……」


だからこそ、ひどく突飛な考えが浮かんだ。


「なによ、なにさ」

「……ひどく馬鹿らしいことを、今から聞きます」

「え、うん」

「基本的な事項の確認のためであり、他意はないことをご理解ください」

「念押すね」

「それくらい馬鹿らしい質問です」


唾を飲み込み、訊いた。


「年号、って言えますか?」

「年号……? あ、知ってる知ってる、翔和とか弊政とか礼和とかってやつだ」


何一つ聞き覚えがなかった。


「スマホの最新機種はわかりますか」

「えっとね、たしか……」


同様に、聞き覚えがなかった。

クラストに関連した三大事件も、大戦時に発生した空間異常も、時空間に関する発見についても紗蔵宮は知らなかった。


逆に向こうが言う大事件も知らない。

第二次世界大戦とか起きていないし、明路維新とやらも分からない、ワンロック博士って誰だ。


「あなたは、僕らとは別の世界の人間です」


だから、そう断言できた。


「おそらく、類似はしていても決定的に異なる、並行世界と呼ばれる場所から来たと思われます」

「……うっそだぁ」

「あなたからすれば信じがたいでしょうね」


僕としては納得できた。

そもそもクラストがない世界の人間であれば、この無知も仕方ない。


「ですが現状、あなたがこのクラストの支配者だ」

「お、おおー……?」

「大抵の場合、クラストマスターはゲームを仕掛け、内部に捉えた人間を消耗させます」

「なんかえっちだ」

「帰りますよ?」

「待って、待って!? だからその、本当にここ、異世界ってやつなの?」

「あなたからすれば、そうなるんでしょうね」


僕にとってはただの世界だ。


「どうやれば、元に戻れるの?」

「……参加者は、条件をクリアすれば戻れます」

「マスターってやつだと?」

「……いつでも好きに出ることができるはずです」

「どうやって?」


頭が痛くなってきた。

通常、僕の方が四苦八苦して脱出を目指す。なのにどうして参加者がマスターに脱出方法を教えてるんだ。


「あなたはキーとなるものに触れ、このクラストを作成したはずだ、それに接触すれば脳裏にやり方が浮かぶはずです」

「きー……」

「まさか覚えがないとか言いませんよね」

「へ、へへへ……?」

「マジですか」

「というかね、なんか、視界? 感覚? 今それが変な感じ」

「おそらくマスターとしての視座でしょう。通常、そこから参加者が自滅するのを高笑いして眺めるものなんですが」

「なにそれひどくない?」


それを「酷い」と表現できることは、きっと幸せなことだ。


「あるいは僕が脱出すれば、このクラストは解放され、あなたもまた元に戻れる可能性があります」

「かのーせい?」

「一度限りの、使い切りタイプのクラストならそうなりますが、繰り返し使用タイプであれば変わりません」

「それって、どうなるの?」

「おそらく現状のままでしょうね、僕がいなくなるだけで」


デフォルト状態のクラストに、マスターだけが囚われる。

下手をすれば永遠に。


「出ないで、お願い。お願いだからマジで」

「あなたは、僕を攫って閉じ込めた側だってことを忘れないでください」

「本当に、本当に、覚えがないんだよぉ……!」

「憶えがありませんと言えばすべてが許されるわけではありません」


実は何もかもを分かった上で騙している、ということも考えられた。

異世界人のフリをして、腹の底では僕の様子を嘲笑っている、そんな可能性だ。


「い、いやいやでもね、あたしだってこれどうすればいいのか分かんないんだよ? ほ、ほら、ここは協力して、一緒にがんばってカマしてやろぉ、って気分で、ね、ね!」


けど、これが演技なら、巧すぎる。


「そんな気分になれないんですが……」

「なってみよ、たまには!」


あまりにも必死すぎた。


「……状況を、整理しましょうか」


だから僕は、仕方なしにそう言った。


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